【ラブライブ μ's物語 Vol.1】Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~   作:スターダイヤモンド

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最高のライブ その6 ~ラブライ…ザップ(中編)~

 

 

 

 

 

「わぁっ」

「すご~い!!」 

μ'sのメンバーが部室のPCに集まり、口々に感嘆の声をあげた。

「ものすごい再生数ね! 」

絵里も驚きを隠せない様子。

「『A-LISEに協力なライバル出現!』 」

と海未が言えば、真姫も

「『最終予選は見逃せない!』だって」 

と呼応する。

普段は冷静な2人が放ったこの言葉に、メンバーの興奮具合が伺える。

「どうやら、今まで通りのスタイルで正解やったようやね」 

「ヘビメタにしなくてよかったにゃ~」

「そうやね」

「よし!このまま最終予選も突破してやるにゃ!」

「それまでに、あの2人にはしっかり調整してもらわないとね」

絵里は軽くウインクをした。

 

 

 

 

 

希が巫女のバイトをしている、例の神社…の階段。

「はぁっ…はぁっ…はぁっ…はぁっ」

息を切らせて駆け上がるのは…穂乃果と花陽。

境内に辿り着くなり、倒れこんだ。

「ぜぃ…ぜぃ…な…なにこれ… この階段…こんな…きつかったっけ…」

穂乃果は息も絶え絶え、ようやく言葉を絞り出す。 

「アンタ達は今、身体にオモリをつけて走ってるようなもんなのよ?当然でしょ? 」

にこの言葉に、思わず

「お…おもり?」

と鸚鵡返しする花陽。

「それはそうでしょ!2人とも何kg増えたと思ってるのよ」

「にこちゃん…それは言わないで…」

穂乃果が天空を見つめながら、静かに訴えた。

「はい!じゃあ、このままランニング…5km…スタート! 」

と海未が今、上がってきた階段を指差す。

「えぇ~!!」

「早く行く!」

「うぅ…」

そう、急かされても、2人は起き上がることすらしない。 

「何してるんです!さぁ早く! 」

「もう!海未ちゃんの鬼ぃ!!」

「悪魔ですぅ!」

2人はフラフラしながら立つと、ようやく歩き始めた。

「歩かない!!」

「は、はいっ!」

穂乃果と花陽は逃げるようにして、その場を立ち去った。

 

「海未、さすがにちょっと、やり過ぎじゃなくて?」

「絵里、甘いです。花陽はともかく、穂乃果にはこれくらいしないと、最終予選には間に合いません。下手したら逆もあり得ますから」

 

…かよちん、とばっちりにゃ…

 

 

 

 

 

5kmのランニングに出た穂乃果と花陽。

陸上選手なら15分くらいの道のりだが、そこは素人の女子高生。

トラックではなく、街中を走ることを考えれば、どう頑張っても30分前後は掛かる。

一般的に『会話できる速さ』で走ることを『ジョギング』と言い、2人のスピードを考えれば、こちらに近いのであるが…今の彼女たちに『それ』が出来るほどの余裕はない。

 

穂乃果も花陽も、海未たちが待つ神社の境内目指して、ひたすら走る。

 

 

 

しかし…

 

 

花陽に悪の魔の手が襲い掛かる。

巻き込んだのは高坂穂乃果(17歳)。

μ'sのリーダー…。

 

 

 

…花陽ちゃん、花陽ちゃん!…

 

…?… 

 

…走ってたら、お腹すいてきちゃった…ここ寄らない? …

 

…ここって、定食屋さん!?…あ、行きま…ううん、ダメ!ダメ!…今はダイエット中です…

 

…何言ってるのに?燃料切れになったら、動けなくなるよ!!…

 

…だ、ダメだって穂乃果ちゃん!…

 

…ちょっとだけ、ちょっとだけだから…ね?… 

 

…ダメだって!早く行かなきゃ… 

 

…走れば『±0』だよ… 

 

…あぁ…悪魔の囁きが…でも、ダメ!…私は…私は先に行きます!…

 

…花陽ちゃん待って!!…

 

…ぴゃあ!腕を引っ張らないで!誰か助けてぇ!… 

 

…ほらほら、あれ見てよう…黄金米だよぅ…

 

…なんですと!!黄金米!?…あ…あの伝説の!?… 

 

…どうする?…

 

…花陽!ご飯!行きま~す!…

 

 

 

花陽、陥落…。

 

 

 

「あぁ、やっぱり、ご飯は美味い!」

「あぁ、幸せのひととき…」

「食べて良かったでしょ?」

「もちろんです!」

「明日も来ようね?」

「もちろ…えっ?明日も?」

「だって、鬼の海未ちゃんの目から逃れるには、このチャンスしかないんだよ!花陽ちゃんはご飯食べられなくていいの?」

「嫌です」

「だったら、そうするしかないじゃん」

「はぁ…まぁ…」

「決まりだね!じゃあ、そういうことで、そろそろ戻ろうか!あ、今日はここ、私が払うよ」

「いえ、自分で食べた分は…」

「いいの、いいの。たまには『先輩らしいとこ』を見せないと…ね?」

 

…これが『ちび○る子』なら「どの口が言う…」とナレーションが入るところであろう。

 

 

 

 

 

それから1週間…。

 

 

 

 

 

「行くよ!花陽ちゃん!」

「はい!穂乃果ちゃん!」

「行ってきま~す!!」

2人が元気良く、神社の階段の前からスタートしていく。 

 

「かよちん、頑張ってるにゃ~!」

「ダイエット、順調そうね 」

「絵里の目は節穴ですか?」

「え?」

「この1週間、このランニングだけは妙に積極的な気がするのです」

「それは海未ちゃん、気のせいじゃないかな?」

「ことりは穂乃果と何年付き合っているのですか!」

「えっ?あ…」

「ちょっと見てきます… 」

「海未ちゃん…」

しばし、ボーっと走り行く海未を見つめることり。

「ことりちゃん、どうかしたん?」

希が耳元で囁く。

「えっ?何でもないですよ」

いつものことりスマイルで返答する。

「なら、いいんやけど…」

 

…そうやろか?…

…ウチには今の海未ちゃんの言葉を、えらく気にしているように見えたんやけど…

 

 

 

 

 

定食屋…。

 

「あのね、花陽ちゃん」

「はい」

「今、言う話じゃないんだけどさ」

「はい」

「μ'sに入ってくれて、本当にありがとう」

「本当にこのタイミングでする話じゃないですね」

花陽はご飯を頬張るのに必至だ。

「だってさぁ、なかなか花陽ちゃんと2人になることってないし…いつも凛ちゃんとか一緒だし…。ずっと感謝を伝えたかったんだけど…」

「早く食べないと、遅れますよ」

「うん、そうだね…」

花陽に急かされて、穂乃果もご飯を口に運ぶ。

今ここに至っては、どちらが先輩かわからない。

そして、先に食べ終わったのは花陽。

「ごちそうさまでしたぁ!」

手を合わせて、箸を置く。

あとは穂乃果待ち。

 

その時だった。

「あれ、キミ『ライス大好きのお姉ちゃん』じゃない?」

不意に声を掛けられた。

 

穂乃果と花陽が、後ろを振り向く。

声の主は、若い男だった。

 

「えっと…どちらさまでしょう?」

花陽が問いかける。

『ライス大好き』と言われたからには、花陽のことを指しているだろうことはわかるのだが、この男に見覚えがない。

「おっと、そうきたか!」

男は額に手を当て、あいたたた…と大袈裟な仕草をしてみせる。

「すみません…」

「新手なナンパ?」

穂乃果が警戒心を強める。

「ナンパ?いや、いや…してもいいなら…しちゃうけど。でも、高校生はマズイか」

「えっと…」

「ヒント!いつも『にゃ~』のお姉ちゃんと来てくれるよね…でわかる?」

「あ、もしかして…ラーメン屋さんの…店員さん?」

「正解!」

「私服だから、まったくわからなかったです…あ、こちら、凛ちゃんと良く行くラーメン屋さんの店員さん」

「うちの花陽がいつもお世話になってます」

その挨拶はどうかと思うが、それ以上適切な言葉が思い付かなかった。

「もっとも、彼女はラーメンを食べに来てるのか、ライスを食べに来てるのかわからないけどね」

と、男は笑う。

「ははは…」

穂乃果も釣られて笑った。

「でも、最近来てくれないね…。『にゃ~』の子は、友達と来てくれたけど」

 

…そっか…前に凛ちゃんに誘われた時は、衣装作りのお手伝いして、行かれなかったんだっけ…

友達?

あぁ、あの時はにこちゃんと真姫ちゃんが行ったんだっけ…

 

「お店、鞍替えした?」

「そういう訳ではありませんが…すみません」

「…っていうか、こんな時間に食事?オレは仕事の都合で、今、昼飯なんだけどさ」

「えっと…おやつと言いますか、なんといいますか…」

と穂乃果。

「へぇ…。今どきの女子高生はおやつに定食かい?」

男は、その回答に苦笑いした。

「まぁ、いいや。また食べに来てよ。キミの食べっぷりには、スタッフもお客さんもファンが多いんだぜ。良かったら、そっちのお姉ちゃんも今度おいでよ。こっそり、おまけしてあげるからさ」

「はい、ありがとうございます!」

穂乃果が頭を下げる。

「じゃあ、ごゆっくり…違う!…オレの店じゃなかった。あははは…」

男は笑いながら、2人から離れ、会計を済まして店を出て行った。

 

「花陽ちゃんて、顔広いね」

「たまたまです」

「でも、この間もミュータントガールズの人たち知ってたし…。意外と交遊関係が広いのね。ちょっと感心しちゃった」

「だから、たまたまですって…。それより、早く食べないと…」

「あ、そうだね!」

穂乃果は慌ててご飯をかきこんだ…。

 

 

 

「はぁ~、いやぁ、今日も美味しかったねぇ」 

「見て見て、穂乃果ちゃん!今日でサービススタンプ全部たまったよ!」

「本当!?」 

「これで次回はご飯大盛り無料! 」

「大盛り無料!それって天国!?」

「だよね?だよね?」

2人は顔を見合わせて笑った。

 

「あなた達!」

 

聴こえたのは、幸せの瞬間を一気に地獄へ突き落とす、非情な声。

 

穂乃果も花陽も、それが誰だかわかっている。

ゆっくり振り向くと、そこには想像通りの人物が立っていた…。

 

「さ?説明してもらえますか?」

海未の顔はにっこりと笑っていた。

 

 

 

 

 

「穂乃果!花陽!どういうつもりです!」

神社の境内で、海未の公開説教が始まった。

「ご、ごめん…」

「すみません…」

正座をして項垂れる穂乃果と花陽。

「かよちんは謝る必要はないにゃ!」

「そうよ、あなたは穂乃果にそそのかされただけでしょ!?」

凛と真姫が穂乃果を責める。

「でも、結局、誘惑に負けたのはわたしだから…」

「だいたい、海未ちゃんが定食屋さんがあるルートを選ぶから…」

「ぬわんですって!?」

般若の如く表情で睨む海未。

「う、うそです…」

「そもそも穂乃果は…」

「海未ちゃん、そのくらいにしときぃ。気持ちはわかるけど、食欲、性欲、睡眠欲は人間の三大欲求やん。それをコントロールするんは、そう簡単やないよ」

「まぁ、何事も極端は良くないわね」

「えりちの言う通り。少しずつにせんと。特に穂乃果ちゃんは、性欲がない分、食欲と睡眠欲の比率が高いんやから」

「えっ?」

「希!またそういう話ですか!」

「それだとまるで、かよちんが性欲あるみたいな言い方にゃ」

「あ、そやね。今のは聞かんかったことにしといて」

 

…あの夜の事はウチしか知らんもんね…

 

希の顔がニヤけた。

 

 

 

…なんか、良からぬことを想像している…

 

にこと絵里は静かに希から距離を取った。

 

 

 

 

 

~つづく~


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