【ラブライブ μ's物語 Vol.1】Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~ 作:スターダイヤモンド
「わぁっ」
「すご~い!!」
μ'sのメンバーが部室のPCに集まり、口々に感嘆の声をあげた。
「ものすごい再生数ね! 」
絵里も驚きを隠せない様子。
「『A-LISEに協力なライバル出現!』 」
と海未が言えば、真姫も
「『最終予選は見逃せない!』だって」
と呼応する。
普段は冷静な2人が放ったこの言葉に、メンバーの興奮具合が伺える。
「どうやら、今まで通りのスタイルで正解やったようやね」
「ヘビメタにしなくてよかったにゃ~」
「そうやね」
「よし!このまま最終予選も突破してやるにゃ!」
「それまでに、あの2人にはしっかり調整してもらわないとね」
絵里は軽くウインクをした。
希が巫女のバイトをしている、例の神社…の階段。
「はぁっ…はぁっ…はぁっ…はぁっ」
息を切らせて駆け上がるのは…穂乃果と花陽。
境内に辿り着くなり、倒れこんだ。
「ぜぃ…ぜぃ…な…なにこれ… この階段…こんな…きつかったっけ…」
穂乃果は息も絶え絶え、ようやく言葉を絞り出す。
「アンタ達は今、身体にオモリをつけて走ってるようなもんなのよ?当然でしょ? 」
にこの言葉に、思わず
「お…おもり?」
と鸚鵡返しする花陽。
「それはそうでしょ!2人とも何kg増えたと思ってるのよ」
「にこちゃん…それは言わないで…」
穂乃果が天空を見つめながら、静かに訴えた。
「はい!じゃあ、このままランニング…5km…スタート! 」
と海未が今、上がってきた階段を指差す。
「えぇ~!!」
「早く行く!」
「うぅ…」
そう、急かされても、2人は起き上がることすらしない。
「何してるんです!さぁ早く! 」
「もう!海未ちゃんの鬼ぃ!!」
「悪魔ですぅ!」
2人はフラフラしながら立つと、ようやく歩き始めた。
「歩かない!!」
「は、はいっ!」
穂乃果と花陽は逃げるようにして、その場を立ち去った。
「海未、さすがにちょっと、やり過ぎじゃなくて?」
「絵里、甘いです。花陽はともかく、穂乃果にはこれくらいしないと、最終予選には間に合いません。下手したら逆もあり得ますから」
…かよちん、とばっちりにゃ…
5kmのランニングに出た穂乃果と花陽。
陸上選手なら15分くらいの道のりだが、そこは素人の女子高生。
トラックではなく、街中を走ることを考えれば、どう頑張っても30分前後は掛かる。
一般的に『会話できる速さ』で走ることを『ジョギング』と言い、2人のスピードを考えれば、こちらに近いのであるが…今の彼女たちに『それ』が出来るほどの余裕はない。
穂乃果も花陽も、海未たちが待つ神社の境内目指して、ひたすら走る。
しかし…
花陽に悪の魔の手が襲い掛かる。
巻き込んだのは高坂穂乃果(17歳)。
μ'sのリーダー…。
…花陽ちゃん、花陽ちゃん!…
…?…
…走ってたら、お腹すいてきちゃった…ここ寄らない? …
…ここって、定食屋さん!?…あ、行きま…ううん、ダメ!ダメ!…今はダイエット中です…
…何言ってるのに?燃料切れになったら、動けなくなるよ!!…
…だ、ダメだって穂乃果ちゃん!…
…ちょっとだけ、ちょっとだけだから…ね?…
…ダメだって!早く行かなきゃ…
…走れば『±0』だよ…
…あぁ…悪魔の囁きが…でも、ダメ!…私は…私は先に行きます!…
…花陽ちゃん待って!!…
…ぴゃあ!腕を引っ張らないで!誰か助けてぇ!…
…ほらほら、あれ見てよう…黄金米だよぅ…
…なんですと!!黄金米!?…あ…あの伝説の!?…
…どうする?…
…花陽!ご飯!行きま~す!…
花陽、陥落…。
「あぁ、やっぱり、ご飯は美味い!」
「あぁ、幸せのひととき…」
「食べて良かったでしょ?」
「もちろんです!」
「明日も来ようね?」
「もちろ…えっ?明日も?」
「だって、鬼の海未ちゃんの目から逃れるには、このチャンスしかないんだよ!花陽ちゃんはご飯食べられなくていいの?」
「嫌です」
「だったら、そうするしかないじゃん」
「はぁ…まぁ…」
「決まりだね!じゃあ、そういうことで、そろそろ戻ろうか!あ、今日はここ、私が払うよ」
「いえ、自分で食べた分は…」
「いいの、いいの。たまには『先輩らしいとこ』を見せないと…ね?」
…これが『ちび○る子』なら「どの口が言う…」とナレーションが入るところであろう。
それから1週間…。
「行くよ!花陽ちゃん!」
「はい!穂乃果ちゃん!」
「行ってきま~す!!」
2人が元気良く、神社の階段の前からスタートしていく。
「かよちん、頑張ってるにゃ~!」
「ダイエット、順調そうね 」
「絵里の目は節穴ですか?」
「え?」
「この1週間、このランニングだけは妙に積極的な気がするのです」
「それは海未ちゃん、気のせいじゃないかな?」
「ことりは穂乃果と何年付き合っているのですか!」
「えっ?あ…」
「ちょっと見てきます… 」
「海未ちゃん…」
しばし、ボーっと走り行く海未を見つめることり。
「ことりちゃん、どうかしたん?」
希が耳元で囁く。
「えっ?何でもないですよ」
いつものことりスマイルで返答する。
「なら、いいんやけど…」
…そうやろか?…
…ウチには今の海未ちゃんの言葉を、えらく気にしているように見えたんやけど…
定食屋…。
「あのね、花陽ちゃん」
「はい」
「今、言う話じゃないんだけどさ」
「はい」
「μ'sに入ってくれて、本当にありがとう」
「本当にこのタイミングでする話じゃないですね」
花陽はご飯を頬張るのに必至だ。
「だってさぁ、なかなか花陽ちゃんと2人になることってないし…いつも凛ちゃんとか一緒だし…。ずっと感謝を伝えたかったんだけど…」
「早く食べないと、遅れますよ」
「うん、そうだね…」
花陽に急かされて、穂乃果もご飯を口に運ぶ。
今ここに至っては、どちらが先輩かわからない。
そして、先に食べ終わったのは花陽。
「ごちそうさまでしたぁ!」
手を合わせて、箸を置く。
あとは穂乃果待ち。
その時だった。
「あれ、キミ『ライス大好きのお姉ちゃん』じゃない?」
不意に声を掛けられた。
穂乃果と花陽が、後ろを振り向く。
声の主は、若い男だった。
「えっと…どちらさまでしょう?」
花陽が問いかける。
『ライス大好き』と言われたからには、花陽のことを指しているだろうことはわかるのだが、この男に見覚えがない。
「おっと、そうきたか!」
男は額に手を当て、あいたたた…と大袈裟な仕草をしてみせる。
「すみません…」
「新手なナンパ?」
穂乃果が警戒心を強める。
「ナンパ?いや、いや…してもいいなら…しちゃうけど。でも、高校生はマズイか」
「えっと…」
「ヒント!いつも『にゃ~』のお姉ちゃんと来てくれるよね…でわかる?」
「あ、もしかして…ラーメン屋さんの…店員さん?」
「正解!」
「私服だから、まったくわからなかったです…あ、こちら、凛ちゃんと良く行くラーメン屋さんの店員さん」
「うちの花陽がいつもお世話になってます」
その挨拶はどうかと思うが、それ以上適切な言葉が思い付かなかった。
「もっとも、彼女はラーメンを食べに来てるのか、ライスを食べに来てるのかわからないけどね」
と、男は笑う。
「ははは…」
穂乃果も釣られて笑った。
「でも、最近来てくれないね…。『にゃ~』の子は、友達と来てくれたけど」
…そっか…前に凛ちゃんに誘われた時は、衣装作りのお手伝いして、行かれなかったんだっけ…
友達?
あぁ、あの時はにこちゃんと真姫ちゃんが行ったんだっけ…
「お店、鞍替えした?」
「そういう訳ではありませんが…すみません」
「…っていうか、こんな時間に食事?オレは仕事の都合で、今、昼飯なんだけどさ」
「えっと…おやつと言いますか、なんといいますか…」
と穂乃果。
「へぇ…。今どきの女子高生はおやつに定食かい?」
男は、その回答に苦笑いした。
「まぁ、いいや。また食べに来てよ。キミの食べっぷりには、スタッフもお客さんもファンが多いんだぜ。良かったら、そっちのお姉ちゃんも今度おいでよ。こっそり、おまけしてあげるからさ」
「はい、ありがとうございます!」
穂乃果が頭を下げる。
「じゃあ、ごゆっくり…違う!…オレの店じゃなかった。あははは…」
男は笑いながら、2人から離れ、会計を済まして店を出て行った。
「花陽ちゃんて、顔広いね」
「たまたまです」
「でも、この間もミュータントガールズの人たち知ってたし…。意外と交遊関係が広いのね。ちょっと感心しちゃった」
「だから、たまたまですって…。それより、早く食べないと…」
「あ、そうだね!」
穂乃果は慌ててご飯をかきこんだ…。
「はぁ~、いやぁ、今日も美味しかったねぇ」
「見て見て、穂乃果ちゃん!今日でサービススタンプ全部たまったよ!」
「本当!?」
「これで次回はご飯大盛り無料! 」
「大盛り無料!それって天国!?」
「だよね?だよね?」
2人は顔を見合わせて笑った。
「あなた達!」
聴こえたのは、幸せの瞬間を一気に地獄へ突き落とす、非情な声。
穂乃果も花陽も、それが誰だかわかっている。
ゆっくり振り向くと、そこには想像通りの人物が立っていた…。
「さ?説明してもらえますか?」
海未の顔はにっこりと笑っていた。
「穂乃果!花陽!どういうつもりです!」
神社の境内で、海未の公開説教が始まった。
「ご、ごめん…」
「すみません…」
正座をして項垂れる穂乃果と花陽。
「かよちんは謝る必要はないにゃ!」
「そうよ、あなたは穂乃果にそそのかされただけでしょ!?」
凛と真姫が穂乃果を責める。
「でも、結局、誘惑に負けたのはわたしだから…」
「だいたい、海未ちゃんが定食屋さんがあるルートを選ぶから…」
「ぬわんですって!?」
般若の如く表情で睨む海未。
「う、うそです…」
「そもそも穂乃果は…」
「海未ちゃん、そのくらいにしときぃ。気持ちはわかるけど、食欲、性欲、睡眠欲は人間の三大欲求やん。それをコントロールするんは、そう簡単やないよ」
「まぁ、何事も極端は良くないわね」
「えりちの言う通り。少しずつにせんと。特に穂乃果ちゃんは、性欲がない分、食欲と睡眠欲の比率が高いんやから」
「えっ?」
「希!またそういう話ですか!」
「それだとまるで、かよちんが性欲あるみたいな言い方にゃ」
「あ、そやね。今のは聞かんかったことにしといて」
…あの夜の事はウチしか知らんもんね…
希の顔がニヤけた。
…なんか、良からぬことを想像している…
にこと絵里は静かに希から距離を取った。
~つづく~