【ラブライブ μ's物語 Vol.1】Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~ 作:スターダイヤモンド
フィッティングルームで、ブラジャーのストラップを適切な長さに調整してもらった花陽が、カフェスペースに戻ってくる。
希は先に座って待っていた。
「はぁ、緊張しました…」
「だから、ウチも一緒に行ってあげるって言ったやん」
「もっと恥ずかしいです」
「なんで?いつも着替えてるとこは見てるやろ?」
「でも『直(じか)』には無いですよ?」
「そやね」
「一緒に入ったら、希ちゃん、絶対観察しますよね?ジロジロ見ますよね…」
「まぁ、こんなチャンス、滅多にないからね」
「う~ん、それ、趣味…悪いです…」
「なんで?可愛い後輩の裸を見たって問題ないやん?…それとも、ウチに見られるの、そんなに嫌なん?」
「えっ!?」
希の伏し目がちな表情に、花陽は戸惑いを感じた。
…なんですか?今の希ちゃんの甘えた雰囲気は…
「ウソや~ん!花陽ちゃんは、本当にピュアやね」
「もう、からかうのはやめて下さい。花陽はどうリアクションしたらいいかわかりません」
「いや、そのままでいいんよ」
「ん?…」
「花陽ちゃん、お待たせ!」
2人がそんな会話をしていると、サリナがレジカウンターから声を掛けた。
花陽と希は席を立ち会計に向かう。
「はい、お待ちどうさま。まず、こっちが花陽ちゃんのお買い物。中を確かめてね…合ってる?うん、じゃあ、お会計…はい、5千円ね」
花陽がサイフからお札を出し、会計を済ます。
「はい、ちょうど…。レシートと…これが会員カード。あ、年会費も更新料もかからないから、気にしないで。ポイントが貯まると、割引サービスが受けられるの。…100円で1ポイント。今回は初回だからサービスで5倍にしておいたよ」
「あ、ありがとうございます」
「ここに、QRコードが載ってるでしょ?あとでアクセスしてみてね。うちのホームページに繋がるから」
「はい」
「ネットでの購入もここからできるの。あと、新商品の紹介とか、キャンペーン情報も掲載してるから」
「ネットもあるんですね」
「むしろネット販売がメインかな。でも今日みたいにサイズを計ったり、手触りを確認したりとかは、ネットじゃできないでしょ?」
「そうですね」
「だから、たまにはお店に来てね」
「はい」
花陽は丁寧に一礼した。
「そして、こっちがノゾミィの」
「えっ?希ちゃん、お買い物したの?」
「うん」
「いつの間に」
「うふふ…」
「ノゾミィは、ジャスト1万円…だけど、今日は2割引きしておくわ」
「本当に?」
「ご新規さんを連れてきてくれたお礼よ」
「ありがとう」
「また、来てね」
「はい」
サリナは店の外まで出て2人を見送った。
「ノゾミィ、花陽ちゃん。今日はありがとう。またね」
「はい。こちらこそ、ありがとうございました」
花陽と希は、振り返りながら何度も頭を下げて、店を離れた。
「ふぅ…まだ、暑いですね」
「暑いね…」
店外に出たとたんに、汗が吹き出してきた。
「本当に9月の終わりなんやろか?」
「本当に…」
相槌を打とうした瞬間…ぐぅ~…と、花陽のお腹が大きく鳴った。
「ぴゃあ!」
「お腹空いたん?」
「いや…その…」
「無理せんで、いいよ」
「…はい…お昼御飯を控え目にしたので…」
「そんなことやないかと思ってたんよ。そろそろ3時やし、お茶にする?」
「はい!」
花陽の目の中に星が2、3個キラめいた。
2人は南口に戻って、流行りのジェラート店に入った。
希はジェラートとドリンクを、花陽はそれにプラスして、クレープを頼んだ。
「はぁ…この小倉白玉クレープ、美味しいですぅ!」
「本当に美味しそうやね」
「はい、幸せです」
「見てるこっちも幸せになるわぁ」
「希ちゃんも一口食べます?」
「ウチは遠慮しとくよ。花陽ちゃんの幸せ奪ったら、可哀想やから」
「そんなぁ、花陽は平気ですよ。もうひとつ、ふたつは食べられますから。次は…ピーチクリームを頼もうかと思ってます」
…いくら育ち盛り、食べ盛り、食欲の秋とはいえ、どれだけエンゲル係数が高いんやろ?…
さすがの希も、これには驚くしかなかった…。
希は一息付き、花陽は空腹を満たすと、2人は大きな書店へと足を向けた。
「ごめんなぁ、付き合わせちゃって」
「いえ、全然」
「神田周辺は古本屋さんは多いけど、こんなに大きな本屋さんはないからね、新宿に来た時は、つい寄ってしまうんよ」
「どんな本を読むんですか?やっぱり占いの本とか?」
「それもあるけど…まずは2階に行って絵本見たり、美術とか芸術の本を見るんよ」
「え?なんか意外です」
「絵本とか美術の本とか見るのは、精神衛生上、大事なことなんよ。心の浄化やね」
「なんか、深いですね…」
「そのあと4階で新書とか文学の本とか見て、最後に6階で宗教とか心理学とかの本を探すのが、だいたいのパターンやね」
「結構、読書家なんですね」
「ずっと、ひとりやったからね…」
「えっ?」
「いや、なんでもない…。そういう花陽ちゃんは?本は読まないわん?」
「恥ずかしながら、アイドル雑誌とかグルメガイドとか、お料理の本とかしか…」
「いいやん。好きなものがあって、それに没頭出来るって、うらやましいな」
「希ちゃんはないんですか?」
「ウチ?ウチ…そうやね…」
…そういうものがあったら、精神世界に逃げたりしなかったんやろな…
「あ、着いたよ」
「うわぁ、この建物、全部本屋さんですか…」
「地下1階、地上7階…まぁ、7階は劇場やけどね。隅から隅まで見ていったら、1日あっても回りきれんかも」
「はぁ…」
「でも、ただ、ぶら~っと、流して歩くのもお薦めやけどね。タイトルに惹かれた…とか、表紙が気に入ったとか、そんなんで新たな発見があったりするもんよ」
「レコードの『ジャケ買い』みたいですね」
「そやね」
そんな会話をしながら2人は書店へと吸い込まれて言った。
~つづく~