【ラブライブ μ's物語 Vol.1】Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~ 作:スターダイヤモンド
ラブライブ最終予選のプレイベント。
会場には出場するA-RISE、EastHeart、Midnight Cats…そしてμ'sが顔を揃えた。
「それでは…最終予選に進む最後のグループを紹介しましょう。音乃木坂学院スクールアイドル『μ's』です!」
どわっ!という地鳴りのような歓声。
これまで歌ってきた会場とは、規模も熱気もまるで違う。
ステージを照らしていたライトの熱さに汗をかいていたメンバーも、この瞬間は身震いをした。
そんな中、μ'sのリーダー高坂穂乃果は…
「私達はラブライブで優勝することを目標に、ずっと頑張ってきました!…ですので…私達は絶対優勝します!! 」
と宣言。
「馬鹿…」
「言い切っちゃった…」
にこと花陽は、思わずそう呟いた。
最終予選に何を歌うか?
これが今現在、彼女たちに課せられた最大のテーマである。
「この間のハロウィーンライブの評判からすれば、大きく路線変更するのは得策ではないわね」
「そやね。えりちの言う通りμ'sはμ'sらしく…で行くべきやろね」
「でも、歌える曲は1曲なので、慎重に決めなきゃ…です。なんと言っても、あのA-RISEに勝たなきゃいけないんですから!」
花陽の言葉に熱が帯びる。
「アタシは新曲がいいと思うわ」
とにこ。
「確かに予選は新曲のみとされていましたから、そのほうが有利かもしれません」
「海未、それって本当?新曲が有利…って、どこの情報?…私は反対。残された時間とかを考えれば、これまで作ってきた曲の中から選んで、パフォーマンスのクオリティを上げていく方が現実的だと思う」
「私も真姫ちゃんの意見に賛成かな。A-RISEに勝てる…でもμ'sらしい曲なんて、そう簡単にできないと思う」
珍しく積極的に意見することり。
「例えばやけど、このメンバーでラブソングを歌ってみたらどうやろか… 」
「ラブソング!? 」
希の唐突な提案に、全員が一斉に声をあげた。
この単語に食いついたのは花陽。
「なるほど!! …アイドルにおいて、恋の歌…すなわちラブソングは 定番中の定番!マストアイテムです!…なのに…それが今までμ'sに存在していなかったのは、世界の七不思議と言っても過言ではありません!」
「花陽が暴走モードに入ったわ…」
「凛はこっちのかよちんも好きにゃ~」
「はいはい」
いつものこと…と、軽くあしらう真姫。
「でも、どうしてラブソングって今までなかったんだろう? 」
「あ、穂乃果ちゃん、それは禁句やない?言ったらあかんやろ」
「へっ?」
「わかるでしょ?μ'sの作詞をしてるのは…」
真姫の言葉のあと、8人の目が一点に集中した。
視線を独り占めしたのは…海未。
「な、なんですかその目は… 」
うろたえる。
「そっか。そうだった…」
「穂乃果!何を納得してるんですか!」
「いやいや、それは…ねぇ…」
穂乃果の顔は少しニヤけている。
そして、その言葉に誰も反論しない…。
「え?え?なんで決めつけるんですか!」
「かよちん、ラブソングは諦めた方がいいみたいにゃ」
「う、うん…そうだね」
「あぁ、花陽まで…」
「…ということで、ラブソングはひとまず置いといて…」
「穂乃果!あなたたちに言われたくないです!全員、そういう経験あるんですか!?」
涙目で訴える海未。
「…っていうか、希もそれがわかってて、なんでラブソングだなんて言い出すのよ」
「それはな、にこっち…」
ウチの花陽ちゃんに対する気持ちを、曲にして欲しかったんや!
…とは、言えへんね…
「ウチのカードがそう示したんよ!」
「あぁ、そう…カードね」
「あっさり流さんといて…」
「それはともかく、やっぱり今から新曲は無理ね」
「真姫…。でも、諦めるのはまだ早いんじゃない? 」
「絵里?」
「これまでの曲で完成度を高めるのをAプラン。新曲で攻めるのをBプラン。今はまだA、B幅を持たせておいた方がいいと思うの」
「そうやね。今までの曲でA-RISEに勝てるのは、どれ?ってこともあるやろうし…」
「あ、だったら、こういうのはダメかなぁ?ラブソングの詞は、みんなでアイデアを出し合って作るんです」
「どういう意味にゃ?」
「作詞を海未ちゃんひとりに任せるのは『酷』なので…だから、みんなで少しずつ歌になりそうなワードとかフレーズとかを出し合って、繋げて、まとめていけば…」
「『酷』って…花陽、同情なら要りませんよ」
「要は『三人寄れば文殊の知恵』ってことやろ?」
「はい。9人いれば9通りの世界があると思うので」
…さすが、花陽ちゃんやね。ウチの想いが伝わったんやろか…
希はひとり微笑む。
「フレーズとかだけなら、穂乃果でも書けるかも。ラブソングだから…『好きです』とか『愛してます』とか、そういう言葉でしょ?」
「単純過ぎにゃ。まぁ、穂乃果ちゃんならその程度だねぇ」
「ちょっと、凛ちゃん、それはないんじゃない?」
「絵里、どう思う?」
「花陽のアイデア、いいと思うわ」
「そう…。どっちにせよ、あまり時間はないんだから、結論は早めに出すわよ。取り敢えず今日のところはそれでいい?」
真姫の問い掛けにメンバー全員が頷いた。
…って真姫ちゃん、リーダーは私なんだけどなぁ…
…真姫、部長はアタシなんだけど…
休日。
穂乃果の部屋で、恋愛映画のDVDを観ているメンバー一同。
しかし部屋の主と凛は、上映開始から3分で爆睡。
海未は相変わらず「ラブシーンなんて破廉恥です!」と座蒲団を頭から被り、画面を観ようともしない。
絵里、ことり、花陽の3人はテレビの前に陣取り、前のめりで画面を見つめていた。
ヒロインへの感情移入が激しく、涙を流しながら、物語の行方を見守っている。
そして、上映終了。
「いい映画だったわね」
「最後、幸せになって良かったね」
「はい、わかってても泣いちゃいますね…」
と満足げな3人。
それに対し
「チープなラブストーリーだわ。ひねりが足りない」
と毒付く、にこ。
「とか言いながら、目が潤んでるわよ」
「うるさいわよ。あんまり退屈だったから、アクビが出ただけよ」
「素直じゃないわね…」
「そういう真姫ちゃんは、どうやった?なにかヒントになりそうなものはあった?」
「正直、どういう曲がいいのか…BGMが気になっちゃって、ストーリーに集中出来なかったわ」
「そっか…。肝心な海未ちゃんはあの調子やし、穂乃果ちゃんと凛ちゃんもアレやし…作詞の方は、えりちたちに頑張ってもらうしかないやろね」
「わかったわ」
「花陽ちゃん、頑張ろうね!」
「はい、ことりちゃん!」
盛り上がる3人に向かって
「…ねぇ…もうあきらめた方が良いんじゃない?今から曲を作って、振り付けして、歌の練習もなんて…完成度が低くなるだけよ!」
冷たい一言を述べたのは、真姫。
「実は私も思ってました。ラブソングに頼らなくても、私たちには私たちの歌がある」
「あら、海未ちゃん…正気に戻ったんやね」
「相手はA-LISEなのですよ!下手な小細工は通用しません」
「そんなこと、私もわかってるわよ。でも審査するのはネットユーザーでしょ?であれば万人受けするテーマにするべきだと思うの。そう言う意味では季節柄、ラブソングは強いと思う。みんなに負担がかかるのは申し訳ないけど、もう少しだけ頑張ってみたいの!」
μ'sに入ってから、あまり感情を表に出すことがなかった絵里だが、この日は少し様子が違った。
「…にゃ?絵里ちゃん… 」
「…どうしたの?…」
「ごめん、起こしちゃった?」
「あれ?もう終わったの?」
「いつの間にか寝てたにゃ…」
「穂乃果ちゃんも凛ちゃんも、始まってすぐに寝てたよ…」
ことりが苦笑する。
「…で、なんの話?」
「はぁ…アンタたちが熟睡してる間に、μ'sは分裂の危機だっていうのに…いい根性してるわ!」
「?」
「?」
穂乃果と凛は目をパチクリさせながら
「分裂ぅ!!」
と大声で叫んだ。
~つづく~