【ラブライブ μ's物語 Vol.1】Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~ 作:スターダイヤモンド
「おかしいと思わない?」
「おかしい?」
「絵里ちゃんが?」
結論が出ないまま、穂乃果の部屋から散会したメンバー。
1年生組も一度は帰宅の徒に就いたが、途中立ち止まり、さっきまでの出来事を振り返っている。
「だって変じゃない?絵里があそこまで率先して、ラブソングにこだわるなんて」
「絵里ちゃんはああ見えて、ロマンチストなんだにゃ」
「だとしたら、真姫ちゃんと一緒だね」
「花陽!私は…別にそんなんじゃないわよ」
「だって、天体観測が趣味だなん…」
「今は絵里の話でしょ!」
「…そうでした…」
「実際ラブソングってどうなんにゃ?」
「絵里ちゃんの言う通り、人恋しい季節だし、万人受けはすると思う。でも、普通、冬のラブソングと言えばバラードが定番だし、そうなると『ダンスで魅せる』という部分では、弱くなることは否めないかも…」
「だったら、やっぱり止めるべきよ!どう考えたって、今までの曲をやったほうが完成度は高いんだし…」
「希ちゃんのカードを信じてるんじゃないかにゃ?」
「それは一理あるかも知れないけど…」
「そう言えば絵里ちゃん、なんとなく希ちゃんを気にしていたような…」
「…なるほどねぇ…カギは希が握ってる…か…。ごめん、先に帰ってて…」
「えっ?真姫ちゃん?どこ行くの?」
「急用を思い出したの!」
「にゃ?にゃ?…行っちゃった…。あんなに素早く動く真姫ちゃん、初めてみたにゃ…」
2人は走り去る真姫の後姿を見送った。
「ふぅ…なんか、喉が乾いたにゃ。かよちん、コンビニ寄っていい?」
「うん、いいよ。花陽も喉が乾い…あれ?あれ?…あぁ!」
「にゃ?」
「穂乃果ちゃんちに、お財布忘れてきちゃった!」
「にゃにゃ~!?」
「ゴメン、凛ちゃん。取りに行ってくる…」
「ジュースくらいなら、奢るにゃ」
「でも、お財布だし…置いておかれても穂乃果ちゃん、困ると思うから…」
「まぁ、そうだね…」
「…というわけで…」
「気を付けて行くにゃ!」
「うん、ありがとう!」
…にゃ…暇にゃ…
にこちゃんでも呼んで、ラーメンでも食べに行こうかにゃ…
「えりち…」
「どうしたの?」
「いくらなんでも強引すぎやない?みんな戸惑ってるやん」
「いいの、私がそうしたいんだから…。私をμ'sに引き込んでくれたお礼…。今度は、希のずっとやりたかったことを、私が叶える番…」
「まったく…お節介やね…」
「あなたに言われたくないわ」
「ウチはもう、ラブソングにそこまで拘ってないんよ」
「嘘!ちゃんと自分の気持ちを伝えるべきよ!希が言えばみんな絶対協力してくれる」
「ウチは、今のままで充分なんやって」
「意地っ張り…」
「えりちに言われたくないな…」
そんな会話をしながらゆっくり歩く2人の背後に、音も立てずに忍び寄る怪しい人影…。
「ちょっと待って!」
呼び止められて振り返る絵里と希。
「あなたは!?」
「何かあったん!?」
そう、そこにいたのは真姫だった。
「人の話を盗み聞きするなんて、真姫ちゃんのキャラやないんやない?」
「確かに。いい趣味とは言えないわね」
絵里が同意する。
「知らないわよ。後ろを歩いてたら、あなたたちの話が聴こえてきただけだもの」
「物は言い様ね」
「それで、用件はなんやろか?」
「やっぱり今回の一件は、希…あなたが首謀者だったのね?」
「首謀者って、ウチは悪代官か!?」
笑いながらツッコミを入れる希。
「前に私に言ったわね…面倒くさい人だって」
「そうやっけ?」
「言ったわよ。最初の合宿の時にね…」
「よく覚えてるね。すごいやん」
「茶化さないで!…はぁ…自分のほうがよっぽど面倒じゃない」
「真姫、気が合うわね」
「?」
「私もそう思う」
絵里はそう言うと、真姫に右手を差し出した。
それを照れ臭そうにして、握り返す真姫。
「いらっしゃいませ~!!」
花陽が穂乃果の家…『穂むら」に入ると、店内から明るい大きな声が聞こえてきた。
「あれ?花陽さん…?」
店番をしていたのは、穂乃果の妹、雪穂だった。
「あ、雪穂ちゃん…穂乃果ちゃんは?」
「お母さんと一緒に買い出しに…。1時間は掛からないと思うけど…。」
「そっか…どうしようかな…」
「なにかあった?」
「あ、うん…穂乃果ちゃんの部屋にお財布忘れちゃって」
「それは大変だ!」
「あ、でもいないなら、また、出直すね」
「私が取りに行ってもいいけど」
「いない間に持って帰るのも…なんか悪いし…」
「あ、だったらさ、時間に余裕があるなら、お団子食べて待ってる?お父さんの新作なんだけど…。」
「えっ?いいの?」
「うん!」
「そう言えば穂乃果ちゃん、この間そんなこと言ってたねぇ。…あ…でも…」
地獄のダイエットを終えたばかり。
さすがの花陽も躊躇した。
「あ、そうか…。花陽さんもお姉ちゃんと一緒に減量したんだっけ?でも、海未ちゃんにちゃんと報告すれば大丈夫だよ」
「…だよねぇ…じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな」
「はい、喜んで!あ、そこに座ってください」
案内されたのは店内にあるテーブル席。
いわゆるイートインスペース。
花陽がそこに座ると、雪穂がお盆に団子とお茶を乗せて運んできた。
「これは?」
「まぁ、食べてみてくださいな」
「では…早速…なんと!柚子味噌ですか!?」
「はい!」
「美味しいよ!うん、美味しい!雪穂ちゃん、これは売れるよ!」
「やった!花陽さんのお墨付きをもらえば間違いなしだね」
「えぇ、私にそんな権限はないよ」
「なにを仰(おっしゃ)いますやら。『アキバのお米クイーンも太鼓判!』って…あ、それいいかも!」
…あはは、やっぱり姉妹だね…こういう時の雰囲気とか、穂乃果ちゃんソックリ…
「ところで、花陽さんは、雪穂と初めて会ったときのこと…覚えていますか?」
店内に誰もいないが、雪穂は急に小声で訊いてきた。
「初めて会った時のこと?うん、覚えてるよ。確か雪穂ちゃんはバスタオル姿で…」
「わぁ~!!忘れてください、忘れてください!今すぐあの時のことは忘れてください!」
「そんなに連呼しなくても…」
「いやいや、あんな恥ずかしい姿を見られたのは一生の不覚…」
「…ごめんね。元はと言えば、私が部屋を間違って開けちゃたのが原因だから」
「違いますよ。お姉ちゃんがちゃんと案内しなかったのがいけないんです」
「じゃあ、そういうことにしておくね」
「はい」
…穂乃果ちゃんの部屋は、穂乃果ちゃんの部屋で…開けたら海未ちゃんが妄想全開のアイドルポーズをしていたんだけどね…
「早いなぁ…まさかあの時は、私がこうなるとは思ってなかったもんねぇ…」
「私、μ'sの人たちにすごく感謝してるんです!」
「えっ?」
「海未ちゃんやことりちゃんはともかく…あんなにガサツで、いい加減で、だらしなくて、ダメなお姉ちゃんに皆さん付き合ってくれて…」
「あはは…ひどい言いようだね…」
「初めはスクールアイドルやるって言ったとき、お姉ちゃんがなれるわけない!って思ってて…だって、学校を救うとか言うんですよ!出来るわけないじゃないですか…」
「そうだね」
「でも…出来たんですよね…。廃校を阻止しただけじゃなく、あのA-RISEのライバルって言われるまでになった…。それもこれも、花陽さんたちが加入して、お姉ちゃんを支えてくれたからだと思うんです。だから、もう、皆さんには感謝しかなくて」
「ありがとう、雪穂ちゃん。…でも、少しだけ違うよ」
「?」
「私たちが穂乃果ちゃんを支えたんじゃなくて、穂乃果ちゃんが私たちを引っ張って来たんだよ。確かに、みんな迷ったり、立ち止まったりしながらだったけど…ついにラブライブの最終予選まできた!だから私たちは、きっかけを作ってくれた穂乃果ちゃんに感謝、感謝なんだよ」
「花陽さん…」
「だからお姉ちゃんのこと、あんまり悪く言っちゃダメだよ」
「はぁ…わかりました…。ところで最近…亜理沙と話してるんですが」
「亜理沙ちゃん?絵里ちゃんの妹の?」
「はい…。あの…その…私たちもμ'sに入れるかな…って」
「!」
「あ、いや…最初はお姉ちゃんのことバカにしてたんだけど…皆さんのパフォーマンス観たら、かっこよくて、可愛くて…すごく素敵で…キラキラしてて…私もこの中に入れたら…って」
「嬉しいな、そう思ってくれてるなんて」
「亜理沙なんか、もう何曲も振り付け完コピしてて…。あ、でも、来年、入部希望者が殺到したら、μ'sは何人になっちゃうんだろう?10人…20人?Aチーム、Bチームに分けるのかな?それともオーディション?」
「…」
「あ、ごめんなさい!ひとりで盛り上がっちゃって」
「ううん…いいの…。その先のことなんて、まったく考えてなかったから…」
…いや、考えてなくはないんだけど…
3年生が卒業したら…μ'sはどうなるんだろう…
にこちゃんは『部活だから新入生が入ってくるのは当たり前』って言ってたけど、雪穂ちゃんが言う通りいっぱい入ってきたら…
「花陽さん?」
「えっ?あぁ…えっと…穂乃果ちゃんはその想い伝えたの?」
「まだ言ってないですよ。そんなこと言ったら、すぐ調子に乗るし…あ、だから今の話はナイショですよ!」
「うん、わかった」
「そう言えば、お姉ちゃん『どうしよう?どうしよう?』って悩んでたけど、なにかありました?」
「実は、まだ最終予選になにを歌うか、決まってないんだ」
えへへ…と笑う花陽。
「そうなんですか!だったら私は『No brand girls』がいいです。すごくノリがいいし、ライブでやったら絶対盛り上がるし」
「うん、わかる!…けど…すごく体力が消耗するんだよねぇ…」
苦笑いの花陽。
「もうひとつ理由があって、お姉ちゃんが…」
と雪穂が言い掛けた時だった。
「ただいま!あれ、花陽ちゃん?どうしたの?」
花陽の待ち人が帰宅した。
「あ、帰ってきちゃった!続きはまた今度ということで…」
「うん」
「なに?なに?雪穂、穂乃果の悪口言ってなかった?」
「えへへ…そんな話はしてないですよ。新しいお団子、美味しいな…って」
「でしょ?でしょ?私も1本食べちゃおう」
「お姉ちゃん!」
「今日一日頑張った…♪自分にご褒美だ~」
~つづく~