【ラブライブ μ's物語 Vol.1】Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~ 作:スターダイヤモンド
「へぇ、希ちゃんて、ひとり暮らしだったんにゃ…」
「不肖、園田海未…不覚にもまったく知りませんでした」
真姫に引率されて、希の家まで来た穂乃果、海未、ことり、凛、にこ…そして、花陽…。
全員、初めての訪問のようである…花陽以外は。
花陽は…そう、つい2ヶ月ほど前、ここで熱い夜を過ごした。
玄関に足を踏み入れた途端、その時のことが鮮明に甦り、一瞬、頭がクラクラしてよろけた。
「ん?かよちん?」
「あ、大丈夫だよ。ちょっとバランスを崩しただけだから」
「なら、いいんだけど…」
「希!なぜ、そういう大事なことを黙っていたのですか?」
海未が少し険しい顔で訊く。
「別に隠してたわけやないんやけど…無用な心配をされても、アレやし…。ウチ、子供の頃から両親の仕事の都合で転校が多くて、まぁ、それはそれでそんなもんやと思ってたんやけど…さすがに少し落ち着きたくなって…。高校進学時に、無理言ってこうさせてもらったんや」
「ひとり暮らしかぁ…憧れちゃうなぁ!」
「穂乃果のようなガサツな人間には出来ませんけどね」
「またぁ、海未ちゃんはすぐ、そういう風に決めつけるぅ。穂乃果だって、その気になれば…」
「…ってことは、炊事洗濯からなにやらなにまで、全部ひとりでやってるんでしょ?凛には無理にゃ~」
「なぁんだ、案外、希もアタシと変わらない生活してるんじゃない」
「いやいや、にこっちには負けるわ。ウチには子供、3人もおらんし」
「だから、あれは妹と弟だって!」
あはは…とメンバーに笑いが起きた。
「それで、一体、なにがあったのでしょう」
と、ひと呼吸置いてから、海未。
「それは私から説明するわ」
「なんで真姫ちゃんが説明するにゃ?」
「べ、別にいいでしょ。たまたま事情を知っただけで…」
だが凛と花陽はピン!ときた。
2人の前から走り去ったあと、希と絵里を突き詰めたに違いない…と。
「真姫ちゃんも、随分、熱い人間になったにゃ」
「なにか言った?」
「なんでもないにゃ」
その様子を見て、花陽はひとりクスクスと笑った。
「?」
不思議がる真姫。
「真姫ちゃん、本当に話すん?」
「ここまできて、教えないわけにはいかないでしょ?」
「ウチはもう、いいんやけどね」
「みんなも不思議に思ったでしょ?絵里が妙にラブソングに拘るのを」
「まぁ、確かに」
「実は希の為だったのよ。希の夢を叶える為に、絵里が仕掛けたことなの」
「夢?ラブソングが?」
口を揃えて驚く6人。
「笑わんといて…。別にラブソングに拘ってたわけやないから」
「真姫、それじゃ言葉不足だわ。希がしたかったこと…夢は『9人みんなで、曲を作りたい!』ってことだったの」
「9人で!?」
「あっ!それじゃあ…」
花陽がハッとして、絵里の顔を見た。
「そう、花陽が提案してくれたアイデア。まさにそれ」
「かよちんは知ってたにゃ?」
「いや、全然…」
「ひとりひとりが持ち寄った言葉を紡いで…想いを紡いで…本当に全員で作り上げた曲…。そんな曲を作りたい、そんな曲でラブライブに出たい。それが希の夢だったの…」
「ラブソングなら、テーマとしてアイデアが出しやすいかな…って思ったんやけど、考えが浅はかやったね。改めて海未ちゃんの大変さを実感したわぁ。やっぱり才能って大事やね」
「いや、それほどのことでは…。ですが、それならそうと言って頂ければ」
「そうだよ。希ちゃんが言えなくても、絵里ちゃんがちゃんと言ってくれれば!」
「穂乃果、それは私も何度もそう思ったわよ。…でも希に止められて…」
「言ったやろ?ウチが思ってたのは、夢なんてものやない…って」
「じゃあ、なんなのよ?」
「う~ん、にこっち、なんなんやろね?」
「アタシが訊いてるんだけど」
「ははは…そうやね。上手く説明出来ないんやけど…ただ…曲じゃなくてもいい、9人が集まって力を合わせて、何かを生み出せればそれでよかったんよ…。ウチにとって、この9人が集まったことは、神様によって導かれた『運命』やと思ってるから」
「『運命』?またそっち方面の話?」
「ウチは転校、転校ばかりで友達が出来なくて、引き籠りの一歩手前やった。そんな時に…えりち…ウチと同じように人付き合いの下手な、意地っ張りに出会ったんよ」
「意地っ張りは余計じゃない?」
「そして、もうひとり…にこっち…」
「アタシ?」
「えりちは、なんとか振り向いてくれたんやけど、にこっちは最後まで心を開いてくれなかった…」
「…」
「だけど、それを大きな力でつないでくれる存在が現れた…それが穂乃果ちゃん、あなた…」
「えっ?私?」
「想いを同じくする人がいて、つないでくれる存在がある。この子たちなら、きっとそうしてくれる。ウチはそう信じたんや。ウチの運命を、この子たちに託そう…そう決めたんよ」
「だから、あんなに私たちに協力的だったのですね」
海未の言葉に、頷く希。
「真姫ちゃんを見たときも、熱い想いはあるけど、どうやってつながっていいかわからない。あぁ、この子も人付き合いが下手なんや…って」
「面倒な人たち!」
「ちょっと、凛!今、ここで私のマネしなくてもいいでしょ!」
「ふふふ…ホントやね。凛ちゃんの言う通りやと思う。ここに集まったメンバーは、みんな、なんらかのコンプレックスを抱えて生きてきた…。それが9人も集まった…って、これはもう奇跡やないかと思うんよ」
「それはアタシが部長として、まとめあげてきたからであって」
「うん、ありがとな」
「…って、ここは突っ込むとこでしょ!」
素直に認められると、それはそれで恥ずかしい。
本当に面倒な連中である。
「紆余曲折はあったけど、誰ひとり欠けても、μ'sはμ'sじゃなくなるんよ…だから、必ず形にしたかった…この9人で何かを残したかった」
「うん、それはわかるよ」
穂乃果が同意すると、残りのメンバーも黙って頷く。
「でも…μ'sは、もうすでに何か大きなものを生み出してる。だから…ウチはそれで充分! 夢はとっくに叶ったんよ。もう…とっくに…」
ひとつ、ひとつ、過去の記憶を確認するかのように、ゆっくりと話した希。
最後に
「だからこの話はおしまい。それでいいやろ? 」
と付け加えた。
「…って、希は言うんだけど、みんなはどう思う? 」
絵里がメンバーに問い掛けた。
「いいんじゃない、みんなで作れば?仲間なんだから…」
返答したのは、にこ。
「にこっち!?…」
仲間…というワードが、にこの口から飛び出すとは思わなかったのは、希だけではなかった。
他のメンバーも、思わず彼女の顔を見た。
「…な、なによ…当たり前のことを言ったまでだから」
「ふふふ…そうですね。反対する理由はありませんよ」
「うん、ことりも賛成!」
「じぁあ、ここまで支えてきてくれた、希ちゃんへの誕生日プレゼントということで!」
「プッ!穂乃果ちゃん、ウチの誕生日は6月やけど」
「あ、そうだった!」
「だったら、ちょっと早いけど、クリスマスプレゼントってことでどう?μ'sから…μ'sを作ってくれた女神さまに」
「女神さまは言い過ぎやん!…でも、えりち…みんな…。うん、ありがとな。このプレゼント、一生の宝物やね…」
希の頬に、一筋の涙が走った。
「にゃ?希ちゃん、これって?」
「あっ!それは!」
凛が目敏(めざと)く、棚に飾ってある写真を見つけた。
花陽が手に取って見る。
以前は合宿で撮った集合写真だったが、今は一次予選のステージの画に変わっていた。
「そういうの飾ってるなんて意外ね」
にこが少し意地悪く、希の顔を見る。
「べ、別にいいやろ。ウチだってそのくらいするやん… 仲間…なんやから…」
「希ちゃん!」
「可愛いにゃ~!」
ことりと凛が希に抱きつく。
「もう!笑わないでよぅ! 」
「にゃ?話し方変わってるにゃ~!」
照れてベッドに逃げる希。
「暴れないの!たまにはこういうこともないとねっ」
絵里が背後からスリーパーホールドを仕掛ける。
「もう…」
希は観念したのか、バタバタするのをやめた。
「おぉ、なんか、その姿勢はエロいにゃ!」
「そのままチューしそうだね」
「恋愛映画で爆睡してたコンビが、よく言うわね」
「たはは…真姫ちゃん、痛いとこを突くねぇ…」
そう言って、穂乃果が何気なく見た窓の外…。
ある異変に気付く。
「あっ!見て、見て!」
「えっ、なに?」
「嘘でしょ?雪?」
「聴いてないわよ!!」
絵里、真姫、にこが窓の外を見る。
「雪にゃ!雪にゃ!」
と、3人を押し退けるように、凛も身を乗り出して、外を眺める。
「あっ!穂乃果ちゃん!」
「なに?花陽ちゃん!」
「やっぱり、さっき穂乃果ちゃんが『初心忘るべからず』なんて難しいことを言うから」
「なるほど!それで雪が降ってきたんですね」
「もう!そんなわけないじゃ~ん…ことりちゃん…花陽ちゃんと海未ちゃんが苛めるよぅ」
「うふふ…」
そのやりとりに全員が笑う。
「ねぇ、外に出てみない?」
真姫の発案に、目の前にある公園へと飛び出した。
そして、ちらちらと舞う雪を見ながら、それぞれが心に自分の感じた言葉を想い描いた。
…想い…
…メロディー…
…予感…
…不思議…
…未来…
…ときめき…
…空…
…気持ち…
…好き…
…やっぱり、ウチはこのメンバーが大好きや…
9人はいつの間にか、輪になって、手と手を繋いでいた…。
~つづく~