【ラブライブ μ's物語 Vol.1】Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~ 作:スターダイヤモンド
除夜の鐘が鳴り終わり、新しい1年が始まった。
「いやぁ、まさか着替えてる最中に年が明けちゃうなんて…」
「ちゃんと出かける準備をしておかないからです!」
「確か、去年もこうだったよね?」
「そうだっけ?」
「はぁ…あなたはこの1年間、何も成長していないのですか!?」
「も~、新年早々、怒らないでよぅ。…よし、準備完了!それじゃあ出発進行~!」
3人はいつものように騒がしくしながら、神社へと向かった。
ここだけを切り取れば、知り合ってから十数年と繰り返してきた、何も変わらない日常。
穂乃果が海未に怒られ、ことりがそれを見守る…という、もはやルーティーンと言っても良いほどの、ありふれたシチュエーション。
「でもさ、去年の今日とは明らかに違うことがあるよ」
「?」
「それは、私がμ'sの一員だってこと!」
彼女たちが想像すらしていなかった、この1年間の出来事(…正確に言えば4月からの9ヶ月)。
朝、目を覚ました時…それまでのことは夢だったんじゃないか…と思うことは何度もあった。
いや、日常においてさえも、自分がスクールアイドルでいることに対し、未だ、半信半疑な状態だ。
しかし、それは虚構の世界で起こった話ではない。
紛れもなく全てが真実。
どんなに夢から覚めても、μ'sのメンバーであることに変わりなかった。
「まさかスクールアイドルとはねぇ…」
「私が一番驚いていますけど…」
「でも、最近の海未ちゃんを見てると、実は一番適性があったんじゃないかと思うよ」
「ことり、それは何かの間違いです!」
顔を真っ赤にして視線を逸らす海未。
「そうかなぁ…」
ことりはニコニコしながら、海未を見る。
「と、とにかく、ラブライブ、優勝しましょう!」
「うん!」
「もちろん!…それにしても、相変わらず凄い人だね…」
「そうですね。迷子にならないでくださいよ」
「迷子って…小学生じゃないんだから」
と、苦笑いする穂乃果。
その時だった。
前から歩いて来るμ'sのメンバーを見つけた、穂乃果。
「凛ちゃん!花陽ちゃん!」
これだけの人混みの中でも、わかる時にはわかるものである。
「あ、穂乃果ちゃん、海未ちゃん、ことりちゃん!ハッピーニャーイヤー!」
「明けましておめでとうございます」
「おめでとう!」
「おめでとうございます。凛、花陽、今年もよろしくお願いします」
「はい、こちらこそ」
「わぁ!凛ちゃん、その服可愛い! 」
スカイブルーのダッフルコートの下は、白のブラウスに、カーキ色のミニスカート。
すっかり例のトラウマは払拭されたようである。
「そう?…えへへ…クリスマスに買ってもらったんだ !それでね、このコートはかよちんと色違いなんだにゃ」
「少しだけデザインも違うんだけどね」
「うん、2人とも、よく似合ってるよ!」
「にゃは!ことりちゃんに誉められたにゃ!」
「良かったね、凛ちゃん!」
…なんか凛ちゃんの女子力が、どんどん上がっていってるね…
…はい…このままでは、私と穂乃果は、置いていかれる一方です…
…今年の目標は、女子力アップだね!…
…承知しました!…
「どうかした?」
険しい顔でアイコンタクトを交わす穂乃果と海未に、ことりが訊く。
「へっ?いやいや、別に…」
「それより、真姫の姿が見当たりませんが…」
海未の言う通り、1年生組がひとり足らない。
「あれ、本当だ。真姫ちゃんは?」
「…真姫ちゃん…さっきまでいたんだけど… 」
「恥ずかしいから…って、あそこに隠れてるにゃ~」
「隠れてる?」
「お~い、真姫ちゃ~ん!」
凛の呼び掛けに、電柱の影からチラ見する真姫。
「かくれんぼ?」
「ことりちゃん、小学生じゃないんだから」
「じゃあ、なんでこっちにこないのかなぁ」
「仕方ないにゃ~、かよちん、行くにゃ!」
「うん!」
凛と花陽は真姫へと走りよると、彼女の腕を掴み、2年生組の前へと引きずり出した。
「!!」
その姿に、ハッと息を飲む3人。
「なんと、真姫は和装でしたか…」
「ビューティフォー…」
「可愛い!」
そう、真姫の装いは、鮮やかなローズピンクの振り袖姿。
髪の毛をアップにしているせいか、かなり大人っぽく見える。
「『孫にも衣装』だね」
「それを言うなら穂乃果ちゃん『馬子にも衣装』だよ」
「どちらにせよ、それは誉め言葉ではありませんよ」
「お姉ちゃん、色っぽいねぇ…」
「オヤジか!」
穂乃果の一言に、凛が速攻で突っ込む。
「わ、私は普通の格好でいい…って言ったのに、ママ…お母さんが着ていきなさいって!…ていうか、なんで誰も着てこないのよ!」
「なんでと言われましても…」
「そんな約束してたっけ?」
「べ、別にしてないけど…」
「だったら、穂乃果も晴れ着にすればよかったよ」
「そうですね。そうすれば『今だけ』でも『おしとやか』でいられるかもしれませんものね」
「海未ちゃん…」
「まぁ、穂乃果ちゃんには無理にゃ…」
「ちょっと凛ちゃん!」
「出掛けるまで、時間掛かりそうだよね」
「うわっ!ことりちゃんまで!」
あはは…うふふ…と笑い声が響く。
その声に敏感に反応した人物がいた。
「あら、あなたは!」
「ん?…あっ!」
「やっぱり!」
6人に声を掛けてきたの…綺羅ツバサ。
A-RISEのリーダー。
よく見ると、その後ろには優木あんじゅと統堂英玲奈もいた。
「相変わらず、にぎやかね」
「すみません、騒がしくて」
海未が頭を下げる。
「μ'sらしくて、いいんじゃない?」
「あ!?あけましておめでとうございます」
「おめでとうございます」
穂乃果に続いて挨拶をする5人。
するとツバサは
「おめでとう。そして、もうひとつ重ねて…おめでとう」
と言った。
「もうひとつ重ねて?…あっ!ありがとうございます」
「ふふふ…『あの日』はちゃんと言えなかったから…。こう見えて、結構ショックを受けてるのよ」
「すみません…」
「ふふふ…謝ることはないけど」
「初詣?」
珍しくあんじゅが口を開いた。
「あ、はい!みなさんも?」
と海未。
「そうね、地元の神社だから」
「もうお参りは終わったけどな」
英玲奈はいつもの調子で、ぶっきら棒に言う。
「うん、そういうわけで…行くわね…」
「あ、はい…また、今度…」
「時間が取れるといいね。色々、話したいこともあるし」
「私も南さんと話してみたいのよねぇ…」
「優木さんが?」
「衣装のこととか…ネ?」
「あ、はい!是非!」
「じぁあ…」
「はい、また…」
μ'sの6人が、歩き出すA-RISEの3人を見送る。
「ねぇ、優勝しなさいよ!ラブライブ!」
数メートル進んだところで、ツバサが振り返り叫んだ。
あんじゅも英玲奈も立ち止まり、6人を見る。
「もちろんで~す!」
穂乃果の声に満足そうな笑みを浮かべると、ツバサは再び向きを変え、歩き始めた。
~つづく~