【ラブライブ μ's物語 Vol.1】Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~ 作:スターダイヤモンド
「ではラブライブ本大会のルールを説明します」
コンタクトを忘れたのか、眼鏡をかけた花陽が、部室のホワイトボードに文字を書き込みながら説明する。
「まず曲についてですが、新作である必要はありません。衣装もダンスも曲の長さも、基本的には自由です」
「1時間やってもいいんやね?」
「構わないです。それだけの体力があれば…ですが」
こういうモードに入った時の花陽は、先輩であろうとなかろうとコメントが手厳しい。
「優勝チームは最終予選と同じで、全代表が1曲ずつ歌って、最後に会場とネットの投票で決める…実にシンプルな方法です」
「いいんじゃないの?わかりやすくて」
と真姫。
「何組出るんやっけ?」
「47組です!」
「ひょえ~…それを1日で?まるで紅白歌合戦だねぇ。日本野鳥の会も来るのかな?」
穂乃果はそう言うと、机に突っ伏した。
「仮に1グループ3分のパフォーマンスとして、入れ替えの時間等を考えれば5分…掛ける47組では…235分!これは確かに長丁場です」
「さすが海未ちゃん、計算が早い!…って何時間?」
「割る60分なので…3.9時間…下手をすれば4時間越えです…」
「長いにゃ~」
「長いねぇ」
「凛と穂乃果なら途中で寝るわね」
「真姫ちゃん、それは凛ちゃんと穂乃果ちゃんでなくても同じだよ」
「どういうことにゃ?」
「全部で50近くのグループが1曲ずつ歌うのよ。 よっぽどのファンでない限り、来場者すべてが、全部を真剣に観て、公平に判断してくれるとは限らない」
「そうやねぇ…えりちの言う通り、普通は自分の高校か、同じ都道府県を応援するもんね」
「ネットの視聴者なんか、もっと極端よ!お目当てのグループだけを観るって人も多いから」
「そういう事情は、にこっちの方が詳しいか」
「そこで、出場グループの間では、いかに大会までに、自分たちをアピールできるか?が重要だと言われてるらしくて」
「アピール?」
「つまり、言葉は悪いですが『名前を売る』ということです」
「週刊誌にスクープされるとか?」
「そんなことがあったら出場停止になります!!」
「いや、冗談だから…」
花陽の怒りの口調にたじろぐ穂乃果…。
「μ'sはA-LISEを破ったグループとして注目を浴びているので、現時点では他に比べれば一歩リードしています。会場のポイントも加算されるので『地の利』もあります」
「だけど、それも本大会のある3月には、どうなっているか…ってことやね」
「はい 」
「でもさぁ、事前に印象付けておく方法なんてあるの?」
机に顔を着けていた状態から、身を起こして穂乃果が訊いた。
「はい!ふたつあります。ひとつはブログやSNSで情報を発信し続けること」
「もうひとつは?」
「それが意外に重要だと言われているのが、キャッチフレーズなんです」
「キャッチフレーズ?」
「はい、出場グループは、この紹介ページにキャッチフレーズを付けられるんです」
「 『歩く人間山脈、アンドレ・○・ジァイアント』とか『音速の貴公子、アイ○トン=セナ』とか『マシンガン打線』『カナリヤ軍団』とかやろ?」
「『赤い彗星、シャア=アズ○ブル』もあるにゃ!」
「例えがどれも古いですけど…端的にその人物やグループの特徴を伝えるという意味では、良い例かと」
思わず花陽は苦笑する。
「実際には、どんなのを付けてるんやろ?」
「えっと…『あなたと雪国の女子高生 ~あな雪~』…」
「なんか、聴いたことあるフレーズやね」
「あとは…『恋の小悪魔 』とか」
「にこっちやん」
「アタシに許可なく使わないでくれる?」
「『はんなりアイドル 』」
「京都代表?」
「かよちんと凛なら『はなりんアイドル』にゃ」
「他には『With 優』とか…」
「…なるほど、みんな考えてるわね…」
絵里が腕を組む。
「当然、ウチらも付けておいたほうがいい…ってことやね」
「…ですね!私達を一言で言い表すような」
「μ'sを一言で…か…」
と考える穂乃果。
ん~…ん~…と2、3度唸ったあと、パチンと手を叩いて、こう言った。
「薬用石…」
「却下です!」
「海未ちゃん、早っ!」
「当たり前です!穂乃果の考えてることなど」
「9人組!」
「それも当たり前です!」
「否定ばっかりしないで、海未ちゃんもちょっとは考えてよう」
「分かってます、ですが… 簡単には。キャッチフレーズとなると、そんなにコロコロ変えられるものではありませんから」
「そうだよね。なかなか難しいと思うよ。9人の性格は違うし、一度に集まったわけでもないし」
「でも、ことりちゃん!優勝したいって気持ちはみんな一緒だよ!」
「…となると…キャッチフレーズは…」
「ラブライブ優勝!」
全員で唱和する。
「何様ですか… 」
呆れる海未。
「…って、海未ちゃんも一緒に言ったじゃん!!」
「じゃあ、今日は花陽ちゃんと買い出しに行くから」
「ことりちゃん、花陽ちゃん、よろしく~」
「私は弓道部に…」
「あ、たまには顔出さないと…だもんね」
「はい。辞めた訳ではありませんので…」
「行ってらっしゃ~い!」
ひとりになった穂乃果が…たまには、どっか寄って帰ろうかな…などと考え事をしながら歩いていると
「高坂穂乃果さん!」
と呼び止められた。
「!?」
声の主は綺羅ツバサだった。
「話があるの !」
「え?」
「ごめんなさいね、でもどうしてもリーダー同士、あなたと話がしたくて」
「あ、いえ…私も話がしてみたいと…でもツバサさんから誘われるとは…」
「迷惑かな?」
「とんでもないです。むしろ、光栄です。私がスクールアイドルを始めたのは、ツバサさんたちの映像を観たのがきっかけですから」
「そう…あ、コーヒー飲める?」
「え、あぁ、はい」
学校から特に目的もなく歩きながら話しているうちに、少し離れた公園に辿り着いた。
ツバサはそこにあった自販機でホットコーヒーを買うと、穂乃果に手渡す。
「遠慮しなくていいから」
「では、お言葉に甘えて…いただきます」
穂乃果はそれを受け取ると、2人はベンチに腰をおろした。
「ツバサさんも、缶コーヒーなんて、飲むんですね」
その質問にプッと吹き出すツバサ。
「なにか、おかしなこと言いました?」
「あなた、勘違いしてるわよ。私はセレブでもなんでもないんだから。学校の施設を見ちゃうと、確かにそうなんだけど、別に普段は普通の高校生よ」
「あははは…そうですよね!少し安心しました」
「あれ?穂乃果ちゃんじゃない?」
「あ、本当だ…」
その2人がいるところの側を、偶然通り掛かったのは、ことりと花陽。
「ほの…」
「待って、ことりちゃん!!」
穂乃果を呼ぼうとしたことりの口を、慌てて塞ぐ花陽。
「一緒にいるのはA-RISEのツバサさんじゃ…」
「えっ!?あ…こんなとこで何してるのかな?」
「まさか…引き抜き?」
「引き抜き…どうしよう、花陽ちゃん…」
「と、取り敢えず、ちょっと様子を見てみましょう」
「う、うん…」
ということで、ことりと花陽は少し遠巻きに2人の行動を観察することにした。
「どう、練習は頑張ってる?」
「はい!本大会ではA-LISEに恥ずかしくないライブをしなきゃ!…ってみんな気合入ってます!」
「そう…」
「あの…A-LISEは…」
「心配しないで、ちゃんと練習してるわ…。ラブライブって目標がなくなって、一時はどうなるかって思ったけど、やっぱり私達、歌うのが好きなのよ」
「よかった…。でも、皆さん3年生ですよね?今後の進路は…」
「そうね…。実は今、芸能プロダクションから誘いを頂いてるの」
「わぁ!さすがA-RISE!じゃあ、卒業しても解散しないでプロで?」
「そこはまだ、結論が出てないの…。本当にその世界で勝負していけるかっていう、覚悟の問題ね」
「覚悟…ですか?」
「結果がすべての世界に挑むのよ、中途半端な気持ちじゃ、あっという間に消えていくわ」
「確かにそうですね…」
「それに本大会に出られなかったことによって、少し気落ちしたところがあったの。自信をなくしたというか…」
「すみません…」
「謝らないで!別にあなたたちが悪いなんて、これっぽちも思ってないんだから。ただ、やっぱり、どうしてもちゃんと訊いておきたくって…」
「?」
「私たちは最終予選に、全てをぶつけて歌った!それはμ'sこそが、唯一のライバルだと思っていたから」
「…」
「だけど…負けた。勝てなかった。本大会には進めなかった…。でも、そのことに何のわだかまりもない!堂々と勝負して、力を出し尽くして負けたんだから仕方ない!…と思っていたんだけどね…」
「えっ?」
「やっぱり、悔しくて…。ちょっとだけ…じゃないか…メチャクチャ引っかかってるの…なんで負けたんだろう?…って」
「A-RISEが負けた理由?」
「そう。逆に言えば、μ'sが勝った理由。自惚れてる訳じゃないけど、キャリアは私たちの方が上。負けるわけがないという気持ちでステージに臨んだわ」
「わかります。強い気持ちを持つことは大事ですから」
「確かに、あの時のμ'sは完璧だった。パフォーマンスが素晴らしかったのはもちろんのこと、私たちよりもファンの心を掴んでいた。だから私は結果が出る前に確信したわ…負けたな…って」
「はぁ…」
「でも実は、私が訊きたいのはここからなの」
「えっ?」
「どうして、あの日、あの時、あのステージでそれだけのことが出来たのか?ってこと」
「どうして?」
「雪であなたたちは遅刻寸前だったし、普通、ああいう状況で100%のパフォーマンスなんて、できないものよ」
「そうですね。バタバタしてましたね」
「それに…確かに、努力はしたんだろうし、練習も積み重ねてきたのはわかる。チームワークだっていい 。私たちが認めたグループなんだから、実力に問題はない…そんなことはわかってるわ。むしろμ'sの出現によって、私たちは大きな刺激を受けた。より高いレベルを目指さなければ!という、モチベーションになったの…。だからA-RISEは、あなたたちよりも強くあろうとしてきた! 少数精鋭!それがA-LISEの誇り!スタイル!負けるはずがない!そう思ってた。でも…負けた…」
「それは…」
「μ'sを突き動かしているものって何!?…あなたたちを支えているもの、原動力となる想い…それはなんなの?…それを訊いておきたくて…」
「えっ?えっ?えっと… ごめんなさい!私、よくわからないです!」
「えっ?」
「私がスクールアイドルを始めたのは…学校が廃校になる…って聴いて、なんとかしなきゃ!って思った時、A-RISEの映像を観て、これだ!って思って…」
「 …」
「そのあと、なんとか廃校はなくなったんだけど、今度はラブライブ直前で私の不注意から、エントリーを取り消す事態になって…。スクールアイドルとしての目的も目標もなくなっちゃて…私は脱退も考えました」
「脱退?リーダーなのに?」
「はい、色々あって…。みんなにすごい迷惑を掛けました。だけど奇跡的に、もう一度ラブライブが開催されることが決まって…そこからは打倒A-RISEを合言葉に頑張ってきました。だから、あの日のパフォーマンスは。A-RISEあってのことだと思います!」
「そう…ありがとう」
「ごめんなさい、なんかちゃんと答えられなくて」
「気にしないで」
「でも!A-LISEがいてくれたからこそ、ここまで来られたのは間違いないです!」
「そう言ってもらえて、うれしいわ。だけど、あなたたちには『それ以外』のプラスαがあるのよ、きっと…。それが何か、あなたは気付いているんじゃないかしら…。私たちにはない、μ'sを突き動かす、大きな原動力があることを…」
「あ、帰っちゃうね、ツバサさん」
「話、終わったみたいだね」
「なんだったんだろう…やっぱり、スカウトなのかな?」
「小泉さん、それは、ない!」
「ぴゃあ!…えっ?英玲奈さん!…に、あんじゅさん」
振り返った花陽とことりの後ろには、何故か統堂英玲奈と優木あんじゅがいた。
「いつからここに!?」
「最初からだ」
「えぇ?」
「私たちは初めから、ここから少し向こうに立っていた。そこにあとから、あなたたちがここにきた」
「だったら、声を掛けてくれれば」
「お互い、そんなタイミングじゃなかったのよねぇ」
「優木さん!どういうことですか?」
「南さん…あんじゅって呼んでもらっていいわよ」
「はぁ」
「私たちは止めたんだけど、どうしても直接、話がしたいって…。だから私と英玲奈はツバサを監視しに来たの」
「監視…ですか?」
ことりと花陽が顔を見合わす。
「割りと暴走するタイプだからな、こちらのリーダーに失礼があっちゃいけない」
「元々、μ'sを注目し始めたのはツバサだし、リーダー同士、何か感じるものがあったみたい。シンパシーってやつ?」
「かなり肩入れして頂いてるのは、感じていましたけど」
「それで、ツバサさんは、何を話にきたんですか?」
「ツバサはね、ラブライブに負けたことがやっぱり悔しくて…自分たちに足りなかったものを探りにきたの」
「足りなかったもの?」
「実は…まだ内緒だけど、私たち、卒業後もA-RISEを続ける予定なの」
「な、なんと!す、すごいです!」
「まだ確定ではないんだがな」
「だけど、今回、ラブライブの本大会に出れなかったことで、彼女自身の中でケチがついちゃって」
「完璧主義者だからな、ステージパフォーマンスに関しては」
「だから、それを確かめたかったみたい」
「何かあったら、飛び出そうと思ったんだが、あの様子だと何事もなかったようだな」
「なので、あなたたちが心配していたような『邪(よこしま)』な、話ではないわよ」
「はぁ…良かったです…」
「仮に私たちがスカウトしたとして、首を縦に振るような人?あなたたちのリーダーは」
「違います!」
ことりと花陽は、同時に力強く答えた。
そしてお互いの顔を見て、笑った…。
~つづく~