【ラブライブ μ's物語 Vol.1】Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~   作:スターダイヤモンド

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新しいわたし その8 ~別れ際~

 

 

 

 

 

希と花陽は、書店で小1時間あまりを費やし、それぞれ好きな本を2、3冊買った。

「たまには、こういう落ち着いた時間もいいですね」

「μ's始めてから、毎日慌ただしかったもんね。少しはリフレッシュ出来たんやない?」

「はい、何もかもが新鮮で、色々楽しかったです」

「おっと、まだ終わりやないんよ?」

「はい!まだ焼き肉が残ってます!」

「その通りやね!じゃあ、秋葉原に戻ろうか?」

「はい!」

どうやら、今日のラストイベントは焼き肉のようである。

むしろ、花陽にとってはこれが「メインイベント」なのかも知れない。

 

 

 

新宿は眠らない街である。

土曜の夕方であっても、行き交う人の数が減ることはない。

2人は、再び人込みを掻き分けながら、帰りの電車に乗る。

幸いにも、うまく座ることが出来た。

 

適度にエアコンが利いている車内。

「初デート」という緊張感。

地元に戻る安心感。

そして花陽を包み込んだ満腹感…。

そんなこんながあったのだろう、希も花陽も、すぐに睡魔に襲われてしまった。

 

 

 

《次は船橋…船橋に停まります…》

 

その車内アナウンスを、先に気付いたのは希だった。

 

…ん?…ふなばし…船橋…千葉?…

 

「花陽ちゃん!!花陽ちゃん!!起きて!起きて!」

「ひゃい、なんでひょう?焼き肉屋さんに着きましたか?」

「寝惚けてる場合やないよ!ウチら、乗り過ごてる!」

「ん?…ん?…」

「このままだったら幕張まで行っちゃうやん」

「ん…起きました…」

「大変やって!次の駅で降りるよ!」

「なんでですか?」

「だから、乗り過ごしたんやって」

「乗り過ごした?…今、どこですか?…」

「次、船橋!」

「船橋?千葉じゃないですか!」

「だから、そう言ってるやん!」

2人は、そんな漫才を繰り広げたあと次駅で降り、再び、秋葉原を目指した。

時間にして、およそ往復60分あまりのロス。

2人が秋葉原に戻って来たのは、間もなく19時になろうかとしていた。

 

 

 

「ごめんなぁ、ウチがしっかりしていれば…」

「いえ、希ちゃんが、起こしてくれなければ、本当に千葉(終点)まで、行ってるとこでしたから…」

「なんにしても、遅くなってしまったね…どうする?帰る?」

「あ…今日は食べてくる…と言ってあるので、帰ってもご飯はありません。なので、一緒に…」

「そうなん?ありがとう」

「では、早速行きましょう!お腹が空きました!」

花陽が足早に歩き始める。

「どこに行くか、知ってるん?」

「…そうでした…」

 

…ふふふ…だから好きなんよ…

 

希は花陽を連れて、目的の焼き肉屋へ目指した。

 

 

 

その焼き肉屋は食べ放題ではなかったが、ご飯のお代わりは自由だった。

 

どうして『焼き肉のタレ』と『ご飯』はこんなに相性がいいんでしょう!!…と、花陽は何度も店員を呼ぶ。

お代わりのコールが5回目を過ぎる頃には、周りの客がざわつき始め、10回目には拍手が起きた。

 

…花陽ちゃんはμ'sより先に、違うことで売れてしまうんやないやろか?…

 

希はその食べっぷりに感嘆した。

 

 

 

2人が店を出る頃には、20時半を回っていた。

 

「満足した?」

「はい、お腹いっぱいです」

「結局、奢ってもらってしまったね」

「世の中には、あんなに優しい人もいるんですね」

「稀(まれ)やと思うよ。花陽ちゃんは人がいいから、騙されんようにせんと…」

「はい」

 

会計を済ます5分前…2人の(というより花陽の)食べっぷりに感動した客のひとりが「オレが彼女たちの分を支払う」と名乗りを挙げたのだ。

 

希も花陽も当然断ったのだが、その客に他の客も同調し、最終的には数名の客で2人の食事代を『割り勘』にすることで落ち着いた。

 

店員から、サインを求められたが、それも丁重に断った。

「大食いタレントと間違えられてますよね…私たち」

いや、それは花陽ちゃんだけやん!と希は心の中でツッコミを入れた。

 

そして希も花陽も、ただただ恐縮し、店を出たのだった。

 

 

 

「それにしても…すっかり遅くなってしまったね」

「そうですね」

「今日はありがとう」

「いえいえ、こちらこそ…。すごく楽しかったです。また時間があったら遊びましょう。今度は花陽がエスコートしますよ」

「グルメツアーになりそうやね。ウチ、ついていけるかな?」

「お腹を空かせて来て下さいね…。あ、では、花陽はここで…」

「そやね…じゃあ、明日…」

「明日は10時からでしたよね?寝過ごしちゃダメですよ!」

「花陽ちゃんもね…」

「では、おやすみなさい」

「おやすみ…」

 

花陽は小路(こみち)を右に曲がって、帰路についた。

しかし数歩進んだところで、希に呼び止められた。

忘れ物でもしたかな?…花陽が再び、希に歩み寄る。

 

「はい?」

「思ったんやけど…花陽ちゃん、今日、ウチのとこに泊まっていかへん?」

「えっ!?…」

想定外の言葉に、花陽はしばし絶句した…。

 

「さすがに、この時間、ひとりで帰す訳にはいかんやん」

「大丈夫ですよ」

「この街は決して治安のいいとこではないんよ。花陽ちゃんみたいな娘がひとりで歩いてることを考えたら、それは危な過ぎるやん」

「それは、希ちゃんも」

「だから、一緒にウチんとこに泊まろうって。こっちの方が近いやろ」

「まぁ、そうですが…」

「家にはウチから電話してあげるから」

「は、はぁ…」

「花陽ちゃん、家に電話して」

「本当にですか?」

「冗談言ってるように見える?」

確かに、わざわざ帰宅を引き留めて話すことではない…と花陽も思った。

「…でも、ご迷惑では?」

「迷惑な訳…ないやん…」

希は少し照れたように花陽を見たあと、視線を足元に落とした。

 

いつもと違う希の雰囲気に…何故かこれは断っちゃいけない気がする…と花陽が折れた。

「…はい、わかりました。ちょっと待って下さいね…」

花陽はスマホを取り出すと、自宅に電話した。

 

「もしもし、あ、お母さん?花陽だけど、うん、ごめんなさい、遅くなっちゃって、あ、今、先輩に代わるね…」

「お電話代わりました。花陽さんと同じ部活の東條希と申します。いえ、こちらこそ…はい、すみません、私が付き合わせてしまって遅くなりました。…それで、今日はもう、この時間ですので、ウチに泊まってもらおうと思いまして…いえいえ、ご心配なく。はい、明日は練習がありますので、朝には…はい、では、失礼します」

交渉成立…と、希は軽くVサインをして、花陽にスマホを返した。

「じゃあ、行こうか?」

「はい…お世話になります」

 

緩やかに風が吹いてきた。

さすがにこの時間になると、秋の気配を感じる。

 

満腹状態の花陽には心地良かったが、希は少し肌寒かったようだ。

「花陽ちゃん、少し寒くない?」

「そうですか?これ、羽織ります?」

と、持ち歩いていたサマーカーディガンを手渡す。

「ありがとう…。ついでに…腕、組んでもいい?」

「大丈夫ですか?具合悪いんですか?」

「うん、大丈夫やけど…たまには甘える側になってみようかと」

「酔っぱらってます?お酒…飲んでないですよね?」

「知らないうちに飲んだかも…」

「また花陽はからかうんですね…」

希は…バレたか…と舌を出した。

 

 

 

…でも、甘えたいのは本心なんよ…

 

 

 

 

 

~つづく~


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