【ラブライブ μ's物語 Vol.1】Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~   作:スターダイヤモンド

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心のメロディ その5 ~晴のち曇り~

 

 

 

 

 

 

2月になった。

 

ラブライブ本大会まで、あと1ヶ月。

 

いつもと違い、今回は早目に曲が仕上がった。

衣装は制作中だが、それでも突貫工事で追い込まなきゃいけない…という状態ではない。

 

今は本番に向けて、心と身体のメンテナンス期間と言える。

テンションとパフォーマンスの完成度は、当日に向けて徐々に高めていけばいい。

 

あまり早くから気合いを入れすぎると、大会までもたない。

 

従ってこれまで、ほぼ週6くらいで行っていた練習も、向こう3週間の日程は、だいぶ緩くなっている。

 

 

 

だが…身体はともかく、心の方はなかなか落ち着かない。

 

それはラブライブへの高揚感、緊張感…などではなく、別の問題が解決されていないからだ。

 

 

 

それは…μ'sの今後について…。

 

 

 

 

 

この日は、音ノ木坂で合格発表があった。

掲示板に番号が貼り出され、それを見た受験生が一喜一憂している。

 

その中に穂乃果と絵里の妹…高坂雪穂と絢瀬亜里沙もいた。

 

「!」

「!」

「雪穂!」

「うん!」

「やったね!あったよ、番号!」

「あったね、番号!」

「私たち、音ノ木坂に合格したんだよ!」

「うん、そうだね!」

「早速、電話しないと…あ、もしもし、お姉ちゃん?亜里沙ねぇ、合格したよ!亜里沙もμ'sになるんだよ!うん、うん、雪穂ももちろん一緒だよ!うん、じゃあ…」

嬉々とした表情で姉と会話する亜里沙。

それを複雑な表情で雪穂は見ていた。

「雪穂?どうかした?電話はしなくていいの?」

「えっ?うん、私は家に帰ってからでいいや」

「なんか、嬉しそうじゃないね?」

「そ、そんなことないよ…。にっこにっこに~!…なんてね」

「あははは…今から楽しみだねぇ」

「う、うん…」

と頷いたものの、やはり雪穂の表情はどこか曇っていた。

 

 

 

 

 

「ただいま…」

「雪穂!どうだった?電話ちょうだいって言ったじゃん!」

「ん?あぁ、合格したよ」

「合格したの?おめでとう!…って本当に?」

「なんでよ、本当だよ」

「…のわりにはテンション低いね」

「まぁ、受かって当然だから…」

「なんか…クールだね…」

穂乃果は自分の妹の無愛想な対応に、首を傾げた。

 

 

 

…嬉しくないのかな…

…それとも亜里沙ちゃんと喧嘩でもした?…

 

 

 

「あ、絵里ちゃん?ごめん、今、大丈夫?うん、雪穂のことなんだけど…」

 

 

 

…う~ん、特に2人の関係に変化はなしか…

…だとすると…頼りは花陽ちゃんか…

 

 

 

「はい、あ、穂乃果ちゃん。えっ、雪穂ちゃん?はぁ…そうですねぇ…う~ん…思い当たるとしたら…」

 

 

 

 

 

ファストフード店…。

 

集まったのは3年生を除いた6人。

今日は学校で合格発表があった為、練習は休みだったが、海未、ことり、真姫、凛の4人は、穂乃果と花陽に急遽、呼び出された。

 

集合場所が穂乃果の部屋でなかったのは、とある事情からである。

その理由は彼女たちの会話から明らかになる…。

 

口火を切ったのは花陽。

「え~…まずは『改めて』おめでたい話から…。今日、音ノ木坂で合格発表があり、晴れて雪穂ちゃんと亜里沙ちゃんが、私たちの後輩になりました!!」

「穂乃果ちゃん、良かったね!」

「ありがとう、ことりちゃん!」

「おめでとうにゃ~!」

「うん、ありがとう、みんな!まぁ、落ちるとは思ってなかったけど、やっぱり結果が出るまではね」

「雪穂ちゃんの合格祝いをしてあげないと」

「うん!」

「それで…入学したら2人は、アイドル研究部に…μ'sに入ろうと考えてるようです」

と花陽。

「凛たちの後輩が出来るんだね!?」

「そうだね。だけど…亜里沙ちゃんはともかく、雪穂ちゃんはμ'sに入ることに迷いがあるみたい」

「迷い?」

「亜里沙ちゃんの場合は、絵里ちゃんと入れ替わりになるから、そこに『お姉ちゃん』はいないけど、雪穂ちゃんは『穂乃果ちゃん』が現役でいるんだよね…。そこに少し抵抗があるんじゃないかな?この間話した時に、ちょっとそんなことを言ってたから」

「…姉妹で同じ部活なんてよくあるよ。穂乃果ちゃんと雪穂ちゃんだって、別に特別仲が悪い訳じゃないし、気にすることじゃないと思うけど…」

「そもそも本当に嫌だったら、迷うも何もないでしょ?」

「ううん、ことりちゃん、真姫ちゃん…。ちょっと違うかも。多分、雪穂が気にしてるのは、もし他に入部者があった場合…私たちが1年生全員を平等に接することが出来るか…ってことだと思う」

「ことりたちが?」

「確かにその2人だけなら『身内』として接しても問題ないけど…他にも入部者がいるとなると、そうはいかなくなるわね。…かと言って、変に厳しくするのも逆差別になるし」

「真姫の言う通りですね。雪穂は、穂乃果と違って精神的に大人ですから、そう考えていても不思議ではないです」

「海未ちゃん、またそういうことを…」

「それで?…それだけの為に、わざわざ集めたの?」

真姫に問われた花陽は、静かに首を左右に振った。

「問題は、私たちがこの先、μ'sをどうするか…ってことでしょ?」

今度は頷く花陽。

「でも、真姫ちゃん、その話は本大会終了まで禁止のハズにゃ」

「わかってるわよ。でも現実問題、入部を希望する子たちがいるんだから…結論を出さないまでも、考えておかなきゃいけないことではあるでしょ?」

「それはわかってるにゃ…」

「そうですね…μ'sの今後は…選択肢としていくつかあります。…ひとつ目…μ'sを存続させること…」

 

その言葉を聴いたとたん、空気が変わった。

その反対の選択支があることを、誰もが知っているからだ。

 

「…μ'sを存続させた場合…このメンバーで続けるのか、新しいメンバーを受け入れるのか…という問題が発生します。…というより、もう発生してますね…」

「人数にもよるよね?」

「うん、穂乃果ちゃん。そこはポイントだよね!」

ことりが相槌を打つ。

「ないとは思うけど…入部希望者が2桁なんてことになったら、とてもμ'sとしてやっていけないわ」

真姫は少し困った顔をした。

「μ's Aチーム、Bチームとか、μ's 2ndとか、μ's from ○○…とかになるのかにゃ?」

「全然イメージがわかないね…」

ことりが誰に問うでもなく、ポツリと呟いた。

頷く一同。

「そこまでの人数になったら、一緒のグループとして活動するのは、やはり厳しいでしょうね…」

「そうしたら何人までがOKで、何人からがダメなの?」

「それは…」

穂乃果の質問に、言葉が詰まる海未。

「でも、入部希望者全てが、必ずしも私たちと一緒にやりたいとは限らないし…」

「花陽ちゃん、確かにそうだね」

「やっぱり、今、この話をしてもラチが開かないにゃ」

「…選択支はまだあります…」

「…」

「それはμ'sの解散です」

「海未ちゃん!」

「…ズバリ言うわね…」

「その言葉はツラいにゃ…」

「私だって言いたくありませんでした…」

「ごめん、海未ちゃん…本来なら穂乃果が話さなきゃいけないことなのに…」

「いえ、それはたまたま私が言っただけのことで…」

「ちょっと待ってください!」

「花陽?」

「μ'sの解散…と、スクールアイドルを辞める…っていうのは、別の話ですよね?」

「えっ?」

「にこちゃんは…『部活である以上、先輩が卒業して、後輩が入ってくるのは当たり前でしょ?』…って、言ってました。…花陽もそう思います…」

「かよちん…」

「恐らく、それが繰り返されることで、歴史とか伝統が生まれるんだと思うんです」

「花陽、わかっていますよ」

「でも、私たちは…いわゆる音ノ木坂のスクールアイドル1期生で…始まったばかりなんです。だから…新しく入部する人たちの…希望は消しちゃいけないんです!勝手に終わらしちゃダメなんです!!」

花陽の語気が強くなった。

「花陽…誰もまだ辞めるなんて言ってないじゃない…」

真姫の口調は穏やかだった。

「そ、そうにゃ…誰も言ってないにゃ」

「じゃあ、なんで誰もハッキリ、μ'sを続けるって言わないの!?」

 

「!!」

 

「私は続けたい!まだまだみんなと一緒に歌って踊りたい!」

「かよちん…」

「花陽…」

「花陽ちゃん…」

「そんなこと、当たり前じゃない!」

「真姫ちゃん…」

「私だって花陽と同じ意見よ!」

「凛だって!」

「穂乃果もだよ」

「私も花陽ちゃんと一緒だよ」

「私だって同じです」

「だけど…」

と言ったのは真姫。そのまま言葉を続ける。

「3年生がいなくなったら…いなくなったら…μ'sはμ'sじゃなくなるの…。私はイヤ…この9人以外でμ'sを名乗るのは…」

「真姫ちゃん…」

「確かに希は、μ'sの由来は『9人の女神』だと言っていましたから…であるなら、私たちだけでμ'sを名乗るのは…」

「一番いいのは、にこちゃんたちが、μ'sを続けてくれればいいんでしょ?…部活?…スクールアイドル?…もういいんじゃないかにゃ、別物として考えれば」

「凛の意見は理想ですけど、現実的に考えれば不可能でしょうね」

「絵里ちゃんと希ちゃんはどう考えてるのかな…」

「穂乃果ちゃんは聴いたことないの?」

「うん、ハッキリとは…」

 

「…」

 

「ダメだよ、みんな!ラブライブの本大会に向けて気持ちを高めていかなきゃいけない時期に、暗くなってる場合じゃないよ!」

「穂乃果…」

「穂乃果だって、わかってるよ。ラブライブの本番が終わったら、3年生がいなくなることくらい。…あれだけ出たくて、出たくて、どうしようもなかったラブライブの本大会に出れたのに、その結果がこんなに寂しいことになるなんて、考えてもみなかったよ」

「そうですね…」

「凛ちゃんの言う通りかも知れないね。ことりたちがやってきたのは、部活じゃなくて『μ's』なんだよ」

「ことりちゃん…」

「さっき花陽ちゃんが言ってたけど、私たちは自分たちでμ'sを作りあげてきた。だからμ'sへの想い入れが強いのは当然のことなんじゃないかな…」

「うん…」

「ことりだって、この9人以外のメンバーでμ'sを名乗るのは、想像つかないよ。でも私たちに憧れて…μ'sに入りたい!って言ってくれる人がいることも事実。にこちゃんも花陽ちゃんもずっとアイドルに憧れてきたから…きっと私たち以上にそういう人たちの気持ちがわかるんだと思う」

「ことり…」

「…なんてね。えへへ…やっぱり、ことりもどうしたらいいか、わからないよ」

「そうですね。結論を出すのは、もう少し待ちましょう。絵里たちの意見もあるでしょうし…」

「うん、まずはラブライブに集中しなきゃ!雪穂の件はごめん、私も本人の気持ちを訊いてみるよ」

「そうにゃ!集中!集中!」

「う、うん…そうだね…」

「なるようにしかならないんだから」

「じゃあ、ハンバーガー食べよう?」

「あ…」

ことりの一言に一同気付く。

買ったはいいが、話に夢中になり、誰ひとり口を付けていなかった。

「どおりでお腹が空いたと思ったよ!」

「穂乃果はいつもじゃないですか!」

「うわ~また海未ちゃんが苛めるよ…」

「あははは…」

 

やっとメンバーが笑顔になり、いつもの彼女たちに戻った。

 

「ごめん、ちょっとお手洗いに…」

と席を立つ花陽。

 

ことりは、その時の彼女の顔を見逃さなかった。

 

 

 

花陽の瞳には、うっすらと涙が浮かんでいた…。

 

 

 

 

 

~つづく~


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