【ラブライブ μ's物語 Vol.1】Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~ 作:スターダイヤモンド
「ただいま~」
穂乃果が家に帰ってきた。
手には海未と選んだケーキの箱。
脱いだ靴も揃えず、階段を駆け上がる。
そして、妹の部屋の前…。
「雪穂、いる?」
「あ、お姉ちゃん?お帰り!」
その声を聴いて、勢いよくドアを開ける穂乃果。
「改めて合格おめでとう!これ、お祝いのケー…」
そこまで言って初めて気付く。
部屋に、もうひとり、いることを…。
「穂乃果さん! お邪魔してます」
「いらっしゃい、亜里沙ちゃん!」
…って、いたのね…
雪穂の視線が、ケーキの箱に行く。
…少しは気を使ってよ…どうせ、私の分しかないんでしょ?…
…たははは…亜里沙ちゃんがいたの、知らなくて…
…玄関に靴があったでしょ?…
…急いで上がってきたから、見てないよ…
…だからお姉ちゃんはガサツって言われるんだよぅ…
…えぇ!?穂乃果は雪穂の為に、急いで帰ってきたのに…
努力と好意が報われない、姉。
それがわかっていながら、つい悪態を突いてしまう、妹。
以心伝心…とまではいかないが、声を出さずに、身振り手振りで会話する2人を、亜里沙は不思議そうな顔で見ていた。
「あ、亜里紗ちゃんも合格おめでとう!」
「えっ?あ!ありがとうございます!」
「ゆっくりしていってね!」
「はい!」
…じゃあ、雪穂、ケーキは下に置いとくね…
…う、うん…とりあえず、ありがとう…
今度は目と目で会話をした2人。
なんだかんだ言っても、仲がいい姉妹である。
「あの…」
「ん?なになに?」
自分の部屋に行こうとした時、穂乃果を亜里沙が呼び止めた。
「時間があったら、亜里沙のダンス、見てもらっていいですか?」
「えっ?」
「μ'sの曲です!もう5曲、マスターしました!」
「5曲目も!すごいね!…うん、じゃあ見せてもらおうかな…」
「やった!えっと、どれにしようかな…」
10秒ほど考えてから
「μ's…ミュージックスタート!」
と言って、音楽プレイヤーを再生して踊り始めた。
…!…
…『僕らのLIVE 君とのLIFE』…
…絵里ちゃんと希ちゃんが加わってからの…9人で踊った初めての曲…
…もうすぐ、いなくなっちゃうんだね…3年生…
「どうですか?練習したんです!」
息を切らせながら、亜里沙が訊く。
「うん!バッチリだったよ!」
「本当ですか?嬉しいです!」
「敢えて言うなら…おしりを振るとこは、もう少し大胆にした方がいいけど…最初は恥ずかしいよね…」
「はい!」
「えへへ…」
「あの、私…」
「?」
「μ'sに入っても、問題ないですか? 」
「!」
戸惑った表情をして答えに詰まった穂乃果を、妹がフォローする。
「…亜里沙、お姉ちゃんは本番直前なんだから、あんまり邪魔しないの」
「Oh…」
「あ、こっちこそ…。2人の邪魔しちゃ悪いから、向こうに行くね!じゃあ、ゆっくりしていって」
「は、はい…」
…雪穂、サンキュー…
…どういたしまして…
穂乃果は来たときとは逆に、静かにドアを閉めた。
「おしりはもっと大胆に!ですね?…こうかな?」
「そっち向いてやると、パンツ丸見えだよ」
「ハラショー!」
「ハラショー?」
「じゃあ、こうかな?雪穂も明日、ここのを練習しよう!」
「う、うん…あのさ、亜里沙…」
「なに?」
「亜理沙は、μ'sのどこが好きなの?」
「えっ?」
「どこが一番好きなところ?」
「…雪穂?…」
翌日…。
運動部がいない時間を狙って、校内のグランドでウォーミングアップをするμ's一同。
「じゃあいくわよ~!次はトラック3周!」
「はいっ!」
絵里の掛け声、メンバーの返事が、貸し切り状態のグランドに木霊する。
「…とは言ったものの、ランニングが一番キツいね…」
と、ゆっくり走り出しながら、穂乃果。
「凛も短距離は得意だけど、長距離は好きじゃないにゃ…」
「…それより、どうするのよ、昨日の話…。3年生に訊くの、訊かないの?」
「でも、真姫ちゃん…本大会が終わるまではダメだって…」
「じゃあ、花陽はこのまま黙ってるつもり?」
「そういうわけじゃないけど」
「続けなさいよ!」
「にこちゃん!」
真姫たちは小声で話していたつもりだが、にこには聴こえていたようだ。
「地獄耳ね」
「ふん!どうせ、アタシたちが抜けたあと、μ'sをどうするか…なんて、くだらないことを話してたんでしょ?」
「くだらない…って」
ムッとする真姫。
「メンバーの卒業や脱退があっても、名前は変えずに続けていく、それがアイドルよ」
「にこちゃんの考えはブレないわね」
「当たり前じゃない!そうやって名前を残してくれたほうが、卒業していくアタシたちだって嬉しいの!だから…うわっ!!」
余所見をしながら走っていた、にこ。
目の前に立ち止まっていた希に気付かず、その豊かな胸にぶつかり『ぼよ~ん』と撥ね飛ばされた。
…エアバッグみたいにゃ…
…いや、むしろ、あれは凶器です…
希の武器に呆れる、凛と海未。
「痛いじゃない!」
にこが叫ぶ。
「その話はラブライブが終わるまで、しない約束やったやん」
「わ、わかってるわよ!」
「今はラブライブに集中…でしょ?」
絵里も嗜める。
「本当にそれでいいのかな?」
「花陽?」
「だって絵里ちゃん…亜里沙ちゃんもμ’sに入るつもりでいるんでしょ?ちゃんと答えてあげなくていいのかな?…もし私が同じ立場なら…やっぱりハッキリさせて欲しいと思うし」
「かよちんはどう思ってるの?」
「え?」
「μ's続けていきたいの?」
「凛ちゃん…それは…続けたいよ。花陽は、まだまだみんなと一緒にいたい!…だけど…」
花陽はチラッとにこの顔を見た。
「なに遠慮してるのよ?続けなさいよ!メンバー全員入れ替わるわけじゃなく、アンタたち6人は残るんだから」
「遠慮してるわけじゃないです。今後のμ'sをどうするか…この件はみんなで一回話し合いました。でも結論は出なくて…。私たちにとってμ'sはこの9人であって、1人欠けても違うんじゃないか…って意見もあるし…」
「私もそう思う。3年生がいなくなったメンバーで、μ'sって名乗りたくないもの…。でも、にこちゃんの言う事もわかる。μ'sという名前を消すのはツラい…だったら続けていったほうが良いんじゃないかって…」
「真姫、それでいいのよ」
「えりちはどう思ってるん?」
「私は決められない…。それを決めるのは、穂乃果たちなんじゃないかしら」
「絵里ちゃん…」
「私たちは必ず卒業するの。スクールアイドルを続けることはできない。だから、そのあとのことを言ってはいけない…私はそう思ってる。決めるのは穂乃果たち…」
「そうやね…」
「希は?」
「ウチ?」
「そうよ、アンタがμ'sの名付け親なんだから」
「にこっち…。う~ん、ウチはどっちでもいいんやけどなぁ」
「はぁ?どっちでもいいって」
「怒らんといて!…確かにウチにとってのμ'sはこの9人以外、考えられないんよ…。でも、それに拘るのは、ウチらが卒業するまでのこと。…それから先は、えりちの言う通り、穂乃果ちゃんたちが決めることやと思う。もし、μ'sと言う名前が代々引き継がれて…それが音ノ木坂の代名詞みたいになったら…それはそれで名付け親として、光栄なことやと思うしね」
「なるほど…希の言い分も一理ありますね…。はぁ、3人に訊けば答えが出るかと思いましたが…」
「決まらなかったね」
海未もことりも苦笑いするしかなかった…。
その日の夜…。
穂乃果の部屋をノックしたのは、雪穂。
「お姉ちゃん、入るよ?…」
「うん…」
「…元気ないね…具合悪いの?」
ベッドの上に仰向けになって、ボーッとしている姉に、妹が声を掛けた。
「うん、大丈夫…。ただ、ちょっと悩み事というか、なんというか…」
「ひょっとして…μ'sのこと?」
「…」
「隠さなくてもいいよ…実はそのことで話があるんだけど、ちょっといいかな?」
「え?」
「失礼します」
雪穂の後ろから現れたの、絵里の妹だった。
「あ、亜里沙ちゃん!えっ?雪穂、いるならいるって言ってよ?…なに、ダンスの披露?今日はなんの曲?」
「いえ、そうじゃないんです…。穂乃果さん!あの…私…」
「?」
「私、μ'sに入らないことに決めました」
「!」
「ごめんなさい…」
キョトンとする穂乃果を尻目に、宣言をした亜里沙の顔に悲壮感はない。
むしろ少し晴れやかな表情に見えた。
そして、雪穂も。
優しく、穏やかに、亜里沙の顔を見つめていた…。
~つづく~