【ラブライブ μ's物語 Vol.1】Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~ 作:スターダイヤモンド
その後9人は、寺院や遊園地などを周り、弾丸ツアーはいよいよ終わりを告げようとしていた。
「地元に住んでても、行ったことがないところが、結構あるのね」
にこたちは遊園地をあとにして、駅へと歩を進めている。
「そうやね…。知ってた?最後に乗った遊園地のタワー…」
「あのゴンドラで上に吊られて、グルッと1周するやつ?」
にこは立ち止まり、園外からでも見える、その構造物に目をやる。
「あれなぁ…近いうちに取り壊されるんやって…」
「なくなっちゃうの?」
「うん、花陽ちゃん…残念やけどね」
「…なら、このメンバーで乗ったのは、最初で最後ってことね」
にこはその遊園地のシンボルを、感慨深げに見た。
「え~、まだ先の話でしょ?最後だなんて言わず、また来ようよ!」
「そうですね。卒業しても会えないわけじゃないのですから」
「むしろ、これからの方がいっぱい遊べるよ!」
「穂乃果、海未、ことり…」
にこがそれぞれの顔を見回す。
3人は黙って首を縦に振った。
「し、仕方ないわねぇ!アンタたちがそう言うなら、付き合ってあげてもいいわよ」
「うん、約束だよ!」
と穂乃果。
「…って、なにこの雰囲気…。こんな話をしたら、湿っぽくなるじゃないの!今日はパーッと騒ぐんでしょ?次はどこ?さっさと移動するわよ!」
「そうですね。…とは言え、そろそろ時間も時間ですし…これが最後かと…」
海未が時計をチラッと時計を見た。
「最後は、海を見に行こう!」
唐突な穂乃果の言葉。
「そうだ、海に行こうよ!」
「園田海未に行こうよ?…私ですか?」
と海未。
「その件(くだり)はもういいにゃ!」
「失礼しました…。ですが、今から海って…お台場にでも?」
「ううん、そんなとこじゃなくて…もっと、誰もいない静かなところ…。9人しかいない場所で、9人だけの景色が見たい…ダメかな?」
「ダメも何も…行くと言ったら、行くのでしょう?」
「えへへへ…」
海未は呆れがらも、反対はしなかった。
「本当に今から行くの?」
「行けるとこまで行ってみようよ!」
「穂乃果…」
絵里もまた、それ以上は言わなかった。
この状況では、なにをどう言っても変わらない。
わかってることだった。
「凛は賛成にゃ!夕陽が沈む海岸…見てみたいにゃ!」
「行けるところまで…って、冒険みたいでワクワクするね」
「…とか、のんびりしたこと言ってると置いてくわよ!」
「ぴゃあ!」
にこが花陽の脇を抜け、一目散に走り出した。
「にこちゃんズルい!」
穂乃果があとを追う。
…あ、このシチュエーションは…
穂乃果は自分がμ'sを続けるか否かでグズグズしてた時、にこに階段ダッシュの勝負を挑まれた時のことを思い出した。
…あの時も、にこちゃんがフライングでスタートしたんだっけ…
…途中で転んじゃって…勝負自体が流れちゃったけど…
…にこちゃん、ありがとう!…
…にこちゃんがいてくれなかったら、μ'sはここまで続かなかった!…
…高坂穂乃果はここにいなかった!…
…本当にありがとう…
あの時とは真逆の気持ち。
もっと、もっとこのメンバーで続けたい!
必死に、にこの背中を追う穂乃果。
「さぁ!2人を追いますよ!」
「走るの?」
少し面倒そうに訊く真姫。
「それは走るしかないやん!」
「ハラショー!こうなったら、とことん付き合うわよ!」
「はぁ…」
とため息を吐いたあと、真姫も走り始めた。
「ことりちゃん!かよちん!負けずに行くにゃ~!」
にこと穂乃果のあとを、海未が…希が…絵里が…そして、真姫、凛、ことり、花陽が追いかける。
…まったく、いつも勝手に走っていくのですから…
海未はそう思いつつも、それはそれで悪い気がしなかった。
《危険ですから、駆け込み乗車はおやめください…》
駅までダッシュしてきた9人は、そのアナウンスを聴いてスピードを緩めた。
「意外と…距離が…あったわね…」
「にこちゃんが…急に…走り出すから…」
「アンタが…時間との勝負とか…言うから…」
「違うよ…それは…花陽ちゃんだよ…」
「どうでもいいにゃ…喉、乾いた…」
にこ、穂乃果…そして、凛が息を切らせながら、ホームへの階段を降りていく。
「うん、なにか飲もう」
3人は自販機でジュースを買って、ひと息をついた。
その間に海未たちも降りてきた。
「みんな、この電車に乗ってください!」
3人は慌てて来た電車に飛び乗った。
「全員いるかな?」
穂乃果が人数確認をする。
「1、2、3、4、5、6、7、8…ひとり足りない!?」
「また、穂乃果ちゃんを置いてきたちゃった?」
ことりが周りをキョロキョロする。
「数えてるのは、穂乃果だよ!」
「あれ、そうだね…じゃあ…誰?」
「1、2、3、4…あ、自分を数えるのを忘れてた!」
「穂乃果ちゃん…」
ことりは苦笑。
これが、にこなら「うぉ~いっ!」と裏拳で突っ込みを入れてるとこである。
地下鉄からJRに乗り換えた一同。
電車は都内を抜け、神奈川県に突入した。
川崎、横浜、戸塚…大船…。
「ここから先は、三浦方面と湘南方面に分かれますが…」
「日の入は…今日は17時半みたいやから、あと1時間ほどあるね…」
「乗り換えるの面倒だし、このままでいいんじゃない?」
「面倒という理由には納得しませんが、確かに乗り遅れなどがないとは言えませんから」
海未は穂乃果の顔を見る。
「ん?私?」
「いいでしょう、このまま進みましょう!」
《藤沢~、藤沢~》
「ここで乗り換えると、江ノ島に行けます」
「江ノ島かぁ…行ってみたいけど、静かではないよね?」
「まだ、この時間は賑わってるでしょうね」
「じゃあ、もうちょっと先に行こう!」
辻堂、茅ヶ崎、平塚、大磯、二宮…
行ったことはなくとも、箱根駅伝ファンなら馴染みの地名(駅名)を、次々と通過していく。
そして小田原…。
「この先は、もう熱海やん?」
「熱海?意外と近いんだね!」
「温泉旅行のイメージがありますが…特急に乗ればアッという間です」
「温泉入って帰る?」
「さすがにそこまでの時間はありません!」
「え~、ここまで来て…」
「どうせ希は『みんなの裸が見たいとか』言うのでしょ?」
「海未ちゃん、わかってるやん」
「…」
「冗談やって!あ、でも、そろそろ降りないと…さすがに限界やない?」
「そうですね!穂乃果!」
「うん、わかった。じゃあ、次の駅で…」
…心の準備は出来てる?…
真姫は花陽と凛の目に問い掛けた。
静かに頷く2人。
…穂乃果、ことり…
…わかってるよ、海未ちゃん…
…うん、ことりも大丈夫だよ…
2年生組もアイコンタクトで会話を交わした。
電車が駅に着く。
ドアが開き、9人はホームに降りた。
夕陽に照らされ、赤く染まったホームは、眩しくもあり、心なしか切なくもあった…。
~つづく~