【ラブライブ μ's物語 Vol.1】Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~ 作:スターダイヤモンド
浜辺へと歩いてきた9人。
水平線の先に消え行く太陽が、彼女たちのいる空間を金色(こんじき)の光で包み込む。
「うわぁ~~~っ! 」
その絶景に、全員が感嘆の声をあげたきり、しばし言葉を失った。
「ちょうど沈むところにゃ!」
「凛ちゃん、ベストタイミングだね!」
「そして、本当に誰もいない…穴場スポットにゃ?」
「スピリチュアルやね!」
「アタシの日頃の行いがいいからよ!感謝しなさい」
「はい、はい」
「真姫!なに?そのなげやりな返事は」
「べ、別に…」
「まるで絵はがきを見てるようです」
「うん、海未ちゃん!素敵だね!」
「太陽光線の恵みを、体中で浴びてる感じ…神様のお陰やん」
「合宿の時も、こうして朝陽を見たわね」
「えりち…」
「あの時が始まりなら…」
と、そこで絵里は言葉を飲み込んだ。
もちろん、希はその意味を理解している。
…でも、ウチらは、もうひと仕事、残ってるんやからね…
…もちろん、わかってるわよ…
「絵里ちゃん、足!」
不意に穂乃果の声。
「えっ!?」
反射的に飛び上がる…が、着地失敗…。
水しぶきが跳ねる。
「波?」
それに気付いて、数歩バックステップした。
「満ちてきてるんだよ…ほら、来た時はあの辺だったもん」
「本当だわ。この時間の海って、あまり来たことがな…きゃあ!」
パシャ、パシャ、パシャ…
「誰?今、押した人!」
「にこっちやない?」
「アンタでしょ!」
「希!やったわね?」
仕返しとばかりに絵里がアタックする。
それを「ひょい!」と躱(かわ)す希。
目標を失った絵里の両腕が、その先にいた真姫を突き飛ばす。
パシャ、パシャ、パシャ…
「絵里~!」
「真姫、ごめん…でも、悪いのは…」
「そうね…」
この瞬間、心が通じあった。
「行くわよ、絵里!」
「真姫!」
2人は希に狙いを定め、彼女の身体を確保した。
「うわっ!うわっ!えりち、真姫ちゃん!2人がかりはルール違反やって!」
必死に抵抗する希。
「ダ~メ!」
「許さないから」
「凛!」
「にこちゃん!」
その様子を見ていたこの2人も、阿吽の呼吸で動き出す。
波打ち際の攻防に参戦。
「ちょっと、待って!なんで、にこちゃんが!」
「凛!押さないの!」
「楽しそうだねぇ…」
ニヤッと笑ったのは、現生徒会長。
「まさか、穂乃果!」
「行くよ、海未ちゃん!」
「わ、私を巻き込まないでくだ…」
と言ってるそばから、穂乃果は海未の手を引っ張って走り出す。
「花陽ちゃん!」
「ことりちゃん…」
悪戯っぽく笑ったことりは、花陽を連れだって彼女たちに近寄ると、後方から「えいっ!」と押す。
「うひゃ!冷たい!」
「うわっと!あぶない…」
「やられました…」
「もう!濡れたじゃない」
「にゃ~!」
「ぴゃあ!!」
「うふふ…」
「あはは…」
9人が押し合い、引き合い、揉みくちゃになりながら、迫り来る波と戯れる。
なぜ人は、ただ寄せては返す波との戦いに、これだけ熱くなれるのだろう。
彼女たちも例外ではなく、少しの間、童心に戻り、無邪気にはしゃいだ。
「あ~面白かった…」
「やっぱり、海に来るときは、それなりの格好をしないといけませんね」
「暖かくなったら、また来ようよ」
「絶対にくるにゃ!」
余韻に浸るかのように…
いや、このあとに訪れる時間を拒むかのように…9人はこの至福の時間、空間、空気を共有した。
しかし…
洒落た言葉で使うなら、彼女たちのそばを天使が通り抜けた。
急に静かになる一瞬。
ざわめきが収まり、波の音さえ聴こえなくなった(ように感じた)。
いよいよ、その時。
運命がメンバーに合図した。
それを告げるのは、穂乃果。
「あのね…にこちゃん、絵里ちゃん、希ちゃん… 私たち話したんだ。あれから6人で集まって、これからどうしていくか…3年生が卒業したら、μ'sをどうするか」
それは囁くように、呟くように…とても静かな語り口だった。
穂乃果は3人の顔を見ていない。
視線ははるか彼方…水平線に沈みゆく太陽。
「穂乃果… 」
絵里も、穂乃果の顔を見てはない。
彼女もまた、正面に広がる海原を眺めていた。
気付けば全員横並びの状態。
誰も目を合わさない。
いや、合わせない。
それでも、穂乃果は言葉を続ける。
続けざるを得ない。
ゆっくり、絞り出すように話す。
「1人1人で答えを出したんだ。みんな、悩んだと思う。辛かったと思う。だけどね、最後は全員同じ答えだった…みんな同じ答えだった。…だから…だから決めたの!そうしようって!」
語尾の「!」に、穂乃果の覚悟が現れている。
「みんな、準備はいい?」
その言葉で、手と手を繋いだ1年、2年。
「せ~の!…って言ったら言うんだよ!」
崩れ落ちる8人。
「うぉ~いっ!」
にこが砂まみれになりながら、渾身の突っ込みを入れる。
「ごめん、ごめん!こんな雰囲気はどうも苦手で…」
穂乃果の謝罪の言葉。
だが、それを咎める者はいなかった。
むしろ、笑顔で穂乃果を見た。
それぞれがアイコンタクトを交わす。
準備は整った。
穂乃果は大きく深呼吸してから、思いきり叫んだ。
「せ~のっ!」
大会が終わったら!
μ'sを!
おしまいにします!!!
ついに…6人で出した結論が明かされた。
それを聴いた3年生は、噛み締めるように、その言葉を受け入れていた。
「やっぱり…この9人なんだよ。この9人がμ'sなんだよ」
「はい。誰かが抜けて、誰かが入って…それが普通なのはわかっています」
「でも、私たちはそうじゃない!」
「μ'sはこの9人…」
「誰かが欠けるなんて考えられないにゃ」
「1人でも欠けたら、μ'sじゃないの…」
穂乃果、海未…真姫、花陽、凛、ことりが、それぞれ想いを述べていく。
「そう…」
決めるのは穂乃果たち…そう言った絵里は、出た結論がどっちであれ、黙って頷くしかなかった。
「ウチも賛成や」
「希…」
にこは、希の顔を見る。
「そんなの当たり前やん…ウチがどんな想いで見てきたか…名前を付けたか…9人しかいないんよ。ウチにとってμ'sはこの9人だけ… 」
「でも、アンタ、この間、どっちでもいいって…」
「言えないやん、あの場で。…だって、それは…ウチのわがままやもん…言えない…やん…」
「そんなの…そんなのわかってるわよ!アタシだってそう思ってるわよ!でも…でも…だって…」
にこは感情の昂りを必死に抑えながら、言葉を続ける。
「私が、どんな想いでスクールアイドルをやってきたか…わかるでしょ? 3年生になって諦めかけてて…それが奇跡みたいな仲間に巡り合えて…こんな素晴らしいアイドルになったのよ!絶対に嫌だ!終わっちゃったら、もう、二度と…」
「だからアイドルは続けるわよ!!絶対約束する!何があっても続けるわよ! 」
真姫は、にこの両手を握りしめた。
「真姫!?… 」
「でも、μ'sは私たちだけのものにしたい!にこちゃん達のいないμ'sなんて嫌なの!私が嫌なの!」
この瞬間、真姫の涙腺が崩壊した。
「ううっ…かよちん…泣かない約束なのに!…凛、頑張ってるんだよ!…なのに…もう… 」
「凛ちゃん…ごめん…でも…涙が…勝手に…」
「う、海未ちゃん…」
「ことり…我慢です…今は…堪えてください!ここであなたが泣いたら…私は…」
「あぁ~~~っ!! 」
この空気を切り裂いたのは、穂乃果の叫び声。
「時間!!早くしないと、帰りの電車なくなっちゃう! 」
「ええ~!?」
「みんな、ファイトだよ!…違った…ダッシュだよ!!このままじゃ、海岸で野宿になっちゃう!」
真っ先に走り始めた穂乃果。
「ウソでしょ!?」
残されたメンバーは、キツネにつままれたように顔を見合わせたあと、慌てて、その姿を追った。
~つづく~