【ラブライブ μ's物語 Vol.1】Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~   作:スターダイヤモンド

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心のメロディ その14 ~Angel passed children~

 

 

 

 

 

 

浜辺へと歩いてきた9人。

 

水平線の先に消え行く太陽が、彼女たちのいる空間を金色(こんじき)の光で包み込む。

 

 

 

「うわぁ~~~っ! 」

 

 

 

その絶景に、全員が感嘆の声をあげたきり、しばし言葉を失った。

 

 

 

「ちょうど沈むところにゃ!」 

「凛ちゃん、ベストタイミングだね!」

「そして、本当に誰もいない…穴場スポットにゃ?」

「スピリチュアルやね!」

「アタシの日頃の行いがいいからよ!感謝しなさい」

「はい、はい」

「真姫!なに?そのなげやりな返事は」

「べ、別に…」

「まるで絵はがきを見てるようです」

「うん、海未ちゃん!素敵だね!」

「太陽光線の恵みを、体中で浴びてる感じ…神様のお陰やん」

 

 

 

「合宿の時も、こうして朝陽を見たわね」

「えりち…」

「あの時が始まりなら…」

と、そこで絵里は言葉を飲み込んだ。

もちろん、希はその意味を理解している。

 

…でも、ウチらは、もうひと仕事、残ってるんやからね…

 

…もちろん、わかってるわよ…

 

 

 

「絵里ちゃん、足!」

不意に穂乃果の声。

「えっ!?」

反射的に飛び上がる…が、着地失敗…。

水しぶきが跳ねる。

「波?」

それに気付いて、数歩バックステップした。

「満ちてきてるんだよ…ほら、来た時はあの辺だったもん」

「本当だわ。この時間の海って、あまり来たことがな…きゃあ!」

 

パシャ、パシャ、パシャ…

 

「誰?今、押した人!」

「にこっちやない?」

「アンタでしょ!」

「希!やったわね?」

仕返しとばかりに絵里がアタックする。

それを「ひょい!」と躱(かわ)す希。

目標を失った絵里の両腕が、その先にいた真姫を突き飛ばす。

 

パシャ、パシャ、パシャ…

 

「絵里~!」

「真姫、ごめん…でも、悪いのは…」

「そうね…」

この瞬間、心が通じあった。

 

「行くわよ、絵里!」

「真姫!」

 

2人は希に狙いを定め、彼女の身体を確保した。

「うわっ!うわっ!えりち、真姫ちゃん!2人がかりはルール違反やって!」

必死に抵抗する希。

「ダ~メ!」

「許さないから」

 

「凛!」

「にこちゃん!」

その様子を見ていたこの2人も、阿吽の呼吸で動き出す。

 

波打ち際の攻防に参戦。

 

「ちょっと、待って!なんで、にこちゃんが!」

「凛!押さないの!」

 

「楽しそうだねぇ…」

ニヤッと笑ったのは、現生徒会長。

「まさか、穂乃果!」

「行くよ、海未ちゃん!」

「わ、私を巻き込まないでくだ…」

と言ってるそばから、穂乃果は海未の手を引っ張って走り出す。

 

「花陽ちゃん!」

「ことりちゃん…」

悪戯っぽく笑ったことりは、花陽を連れだって彼女たちに近寄ると、後方から「えいっ!」と押す。

 

「うひゃ!冷たい!」

「うわっと!あぶない…」

「やられました…」

「もう!濡れたじゃない」

「にゃ~!」

「ぴゃあ!!」

「うふふ…」

「あはは…」

 

9人が押し合い、引き合い、揉みくちゃになりながら、迫り来る波と戯れる。

 

なぜ人は、ただ寄せては返す波との戦いに、これだけ熱くなれるのだろう。

 

彼女たちも例外ではなく、少しの間、童心に戻り、無邪気にはしゃいだ。

 

 

 

「あ~面白かった…」

「やっぱり、海に来るときは、それなりの格好をしないといけませんね」

「暖かくなったら、また来ようよ」

「絶対にくるにゃ!」

 

余韻に浸るかのように…

いや、このあとに訪れる時間を拒むかのように…9人はこの至福の時間、空間、空気を共有した。

 

 

 

しかし…

 

 

 

洒落た言葉で使うなら、彼女たちのそばを天使が通り抜けた。

 

急に静かになる一瞬。

 

ざわめきが収まり、波の音さえ聴こえなくなった(ように感じた)。

 

いよいよ、その時。

 

 

 

運命がメンバーに合図した。

 

 

 

それを告げるのは、穂乃果。

 

「あのね…にこちゃん、絵里ちゃん、希ちゃん… 私たち話したんだ。あれから6人で集まって、これからどうしていくか…3年生が卒業したら、μ'sをどうするか」

それは囁くように、呟くように…とても静かな語り口だった。

穂乃果は3人の顔を見ていない。

視線ははるか彼方…水平線に沈みゆく太陽。

 

「穂乃果… 」

絵里も、穂乃果の顔を見てはない。

彼女もまた、正面に広がる海原を眺めていた。

 

気付けば全員横並びの状態。

誰も目を合わさない。

いや、合わせない。

 

それでも、穂乃果は言葉を続ける。

続けざるを得ない。

ゆっくり、絞り出すように話す。

 

「1人1人で答えを出したんだ。みんな、悩んだと思う。辛かったと思う。だけどね、最後は全員同じ答えだった…みんな同じ答えだった。…だから…だから決めたの!そうしようって!」

 

語尾の「!」に、穂乃果の覚悟が現れている。

 

「みんな、準備はいい?」

その言葉で、手と手を繋いだ1年、2年。

 

「せ~の!…って言ったら言うんだよ!」

 

崩れ落ちる8人。

 

「うぉ~いっ!」

にこが砂まみれになりながら、渾身の突っ込みを入れる。

 

「ごめん、ごめん!こんな雰囲気はどうも苦手で…」

穂乃果の謝罪の言葉。

だが、それを咎める者はいなかった。

むしろ、笑顔で穂乃果を見た。

それぞれがアイコンタクトを交わす。

準備は整った。

 

穂乃果は大きく深呼吸してから、思いきり叫んだ。

 

 

 

「せ~のっ!」

 

 

 

大会が終わったら!

μ'sを!

おしまいにします!!!

 

 

 

ついに…6人で出した結論が明かされた。

 

それを聴いた3年生は、噛み締めるように、その言葉を受け入れていた。

 

 

 

「やっぱり…この9人なんだよ。この9人がμ'sなんだよ」

「はい。誰かが抜けて、誰かが入って…それが普通なのはわかっています」

「でも、私たちはそうじゃない!」

「μ'sはこの9人…」 

「誰かが欠けるなんて考えられないにゃ」

「1人でも欠けたら、μ'sじゃないの…」

穂乃果、海未…真姫、花陽、凛、ことりが、それぞれ想いを述べていく。 

 

「そう…」

決めるのは穂乃果たち…そう言った絵里は、出た結論がどっちであれ、黙って頷くしかなかった。 

 

「ウチも賛成や」 

「希…」

にこは、希の顔を見る。 

「そんなの当たり前やん…ウチがどんな想いで見てきたか…名前を付けたか…9人しかいないんよ。ウチにとってμ'sはこの9人だけ… 」

「でも、アンタ、この間、どっちでもいいって…」

「言えないやん、あの場で。…だって、それは…ウチのわがままやもん…言えない…やん…」

「そんなの…そんなのわかってるわよ!アタシだってそう思ってるわよ!でも…でも…だって…」

にこは感情の昂りを必死に抑えながら、言葉を続ける。

「私が、どんな想いでスクールアイドルをやってきたか…わかるでしょ? 3年生になって諦めかけてて…それが奇跡みたいな仲間に巡り合えて…こんな素晴らしいアイドルになったのよ!絶対に嫌だ!終わっちゃったら、もう、二度と…」 

「だからアイドルは続けるわよ!!絶対約束する!何があっても続けるわよ! 」

真姫は、にこの両手を握りしめた。

「真姫!?… 」

「でも、μ'sは私たちだけのものにしたい!にこちゃん達のいないμ'sなんて嫌なの!私が嫌なの!」

 

この瞬間、真姫の涙腺が崩壊した。

 

「ううっ…かよちん…泣かない約束なのに!…凛、頑張ってるんだよ!…なのに…もう… 」

「凛ちゃん…ごめん…でも…涙が…勝手に…」

「う、海未ちゃん…」

「ことり…我慢です…今は…堪えてください!ここであなたが泣いたら…私は…」

 

 

 

 

 

「あぁ~~~っ!! 」

 

 

 

 

 

この空気を切り裂いたのは、穂乃果の叫び声。

 

 

 

「時間!!早くしないと、帰りの電車なくなっちゃう! 」

 

 

 

「ええ~!?」

 

 

 

「みんな、ファイトだよ!…違った…ダッシュだよ!!このままじゃ、海岸で野宿になっちゃう!」

真っ先に走り始めた穂乃果。

 

「ウソでしょ!?」

残されたメンバーは、キツネにつままれたように顔を見合わせたあと、慌てて、その姿を追った。

 

 

 

 

 

~つづく~


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