【ラブライブ μ's物語 Vol.1】Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~   作:スターダイヤモンド

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心のメロディ その15 ~今更ながら~

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

穂乃果に先導されて、駅まで走ってきたメンバーたち。

もう間もなく日が暮れようとしている。

 

駅舎は神奈川県に位置するも、決して都会にあるわけではない。

どちらかと言えば、田舎駅…というより、東海道線内唯一の無人駅。

 

周辺にはコンビニすらない。

改札口の周りにはジュースの自販機と、証明写真ボックスのみ。

 

確かにこんなところで取り残されたら、途方に暮れるどころの騒ぎではない。

彼女たちを不安にするには、充分なロケーションだ。

 

 

 

だが…

 

 

時刻表を眺めた絵里が言う。

「電車は… まだまだあるわよ…」

「えっ?」

「上りの終電…22時49分…」

「穂乃果、どういうことです?」

「えへっ!バレたか…絵里ちゃん、海未ちゃん、みんな…ゴメン!」

「穂乃果ちゃん?」

「ことりちゃん…イヤだなぁ…そんな目で見ないでよ。いや、だって…あのままいたら、みんな泣いちゃいそうだったから…穂乃果も涙、止まらなくなりそうで…」

舌をペロッと出して、穂乃果は照れ笑いをした。

「なぁんだ、そういうことにゃ」

「穂乃果、謀(たばか)りましたね」

と海未。

「よいではないか!よいではないか!」

「お主もなかなか悪よのう」

「ウッシッシッ…」

「希も一緒になって、なにバカなことやってるのよ」

「にこっちもやる?」

「やらないわよ!」

「それにしても、騙されたわ…。もう、本気で走っちゃったじゃない」

「そうよ、今日は休養日だったハズでしょ?なのに、何本目のダッシュよ!」

「真姫もにこも、これくらいで疲れてるようでは、本番が心配です」

「そういう問題じゃないでしょ!」

「まぁまぁ、にこちゃん、落ち着いて…」

「落ち着いてるわよ…っていうか、アンタに言われたくないわよ!」

「ごもっともで…」

にこに突っ込まれ、頭を掻く穂乃果。

 

「もうちょっと海を見てたかったにゃ」

「きっと、夜の海も綺麗だっただろうね」

「凛ちゃん、花陽ちゃん、また来ればいいんじゃなかな?」

「ことりちゃんの言う通り!また来よう、みんなで!」

「穂乃果ちゃん…」

その言葉に、全員が頷いている。

「でも、よかったです…9人しかいない場所に来られました」

海未がニッコリと微笑む。

「そうね、今日はあの場所であの海を見たのは、私たち9人だけ…。この駅で、今こうしているのも…私たち9人だけ…」

絵里の発言に、希が反応した。

「えりち!…実は知らない間に、この地球上にはウチらしか残ってなかったりして」

「なるほど!」

「穂乃果!なるほど…じゃないわよ。そういう話、苦手なんだから…」

「絵里ちゃんは意外に怖がりなんだね…」

「放っておいてよ…」

「じゃあ、怖がる絵里ちゃんの写真を…あっ!いいこと、思い付いた!記念に写真を撮ろうよ!」

「写真なら沢山撮りましたよ。花陽も撮ってましたし」

「あ、でも…海未ちゃん、集合写真は撮ってないですねぇ」

「そういえば…じゃあ…」

「でも、撮ってもらえそうな人がいないにゃ」

「そうですね。誰も歩いてませんものね…」

「ううん、違うんだ。アレで撮ろうよ!」

「アレ?」

8人は、穂乃果の指差す方向を見た。

 

 

 

「証明写真!?」

 

 

 

「面白そうじゃない?」

「面白そうやけど…」

「プリクラじゃないのよ!」

「希ちゃん、にこちゃん、わかってるって!」

穂乃果はそういうと、スタスタと歩き始めた。

 

「他になんにもないのに、これだけあるのも、おかしいよね…」

「確かに違和感がありますが…」

「だから、これは『使え』ってことなんだよ」

「いささか、強引ですが…」

「よいしょ!…結構狭いんだね…」

「当たり前やん」

「そっか、希ちゃんは使ったことあるんだ」

「履歴書に貼ったりするから」

「ちょっと、絵里、押さないでよ!」

「にここそ…」

「希、胸を私の頭に乗せないでください!嫌味ですか?」

「海未ちゃん、そんなん言われても、おっぱいは取り外しできんのよ」

「にゃにゃにゃ…痛いにゃ!」

「花陽ちゃんのホッペ、プニプニ…」

「こ、ことりちゃん!ツンツンしないでください!」

「髪が耳に…くすぐったい…」

 

 

カシャ!

 

 

 

 

 

「にゃにゃ~!?凛、1枚目写ってないにゃ~」

「本当だね!凛ちゃん、見切れてる…」

 

9人はプリントアウトされた写真を見ながら、改札からホームへと歩く。

 

「こっちは、ことりちゃんが下から生えてきてるよ」

「生えてきてるって、穂乃果ちゃん…ことりはキノコじゃないよ」

「にこっち、頭切れてるやん」

「仕方ないでしょ!アンタだって、ヒゲがあるわよ」

「ぬ?これ、にこっちの髪やん」

「ぷぷっ、こっちの真姫ちゃん変な顔にゃ」

「みんな同じでしょ!」

「フフフ…にこっち、この顔はないやん 」

「む!敢えてよ、敢えて!」

「これ、校内に貼り出しちゃおうか」

「穂乃果、冗談にもほどがあるわよ!」

「うひゃひゃひゃひゃ…」

 

その時、ひとしきり盛り上がったメンバーの熱を冷ますかのように、一陣の風が吹いた。

 

季節は間もなく春を迎えようとしていたが、海からの風はお世辞にも暖かいとは言えなかった。

 

風が吹き抜けたあとに聴こえてきたのは…鼻をすする音。

 

「…うぅ…ひっく…」

「…ん?かよちん…泣いてる?」

「違うよ、凛ちゃん…笑いすぎて…あれ、おかしいな…そんなんじゃないのに…あれ?…あれ?…うぅ…うぅ…」

花陽はその姿を見られまいと、顔を手で覆い、メンバーに背をむけた。

「かよちん…泣かないでよ…泣いちゃイヤだよ…なんで?せっかく笑ってたのに…うっ…ううっ」

凛は花陽の背中にしがみつく。

「もう…花陽も凛もやめてよ…やめて…って言ってる…の…に…」

「そういう真姫ちゃんだって…なんで、泣いてるの?…もう…変だよ…そんなの…」

「穂乃果ちゃ~ん…」

「ことりちゃん…」

「うぅっ…うっ…うぅ…」

海未は歯を食い縛り、溢れ出る涙に、必死に抗(あらが)おうとしている。

しかし、止められない。

「…ダメです…ごめんなさい…」

膝から崩れ落ちるように、その場にじゃがみこんだ。

 

「もう!メソメソしないでよ!なんで泣いてるのよ!…泣かない…アタシは泣かないわよ!」

にこは1、2年生組から目線を逸らす。

その先にあったのは、瞳を潤ませながら微笑む希の顔だった。

「絶対に泣かないんだから!」

 

「…にこっち…」

 

ただ、それだけ。

希は名前を呼んだだけ。

だが、それで彼女の強がりは一蹴された。

 

希は両腕を拡げる。

 

「やめてよ…そういうの…やめてよ…」

 

そして、にこは、引き込まれるように希の胸へと飛び込んだ。

 

 

「希のバカ…バカ、バカ、バカ…」

「うん、うん、そやね…」

 

うわぁ~ん…

 

にこ、号泣…。

 

 

 

絵里はそっと、その場を離れ、ひとり声を圧し殺して、涙していた…。

 

 

 

 

 

東海道線は、車両によっては、4人掛けのボックスシートが採用されている。

彼女たちが乗った電車が、まさにそれだった。

 

そして…にこと穂乃果と凛は…そこで熟睡中である。

 

「まったく、どこでも寝ますね…穂乃果と凛は…」

「今日は、にこちゃんも一緒だよ」

「泣き疲れたのかしら」

「3人とも子供ですか?」

「ホッとしたんじゃないのかな…いろんなことから解放されて」

「そうかもね…」

寝ている3人を見ながら話しているのは、通路を挟んで反対側のシートに座っている海未、花陽、絵里。

 

乗った順に座ったら、たまたまこういう組み合わせになった。

 

「それにしても…自分でいうのもなんですが、この3人というのはとても珍しいですね」

「えっ?あ、そうか…。海未ちゃんと絵里ちゃんは、いつも2人で練習を引っ張っていたから、何となく一緒にいるイメージだったけど…」

「実際には、そうでもないわね」

「そうですね…。合宿では希と凛と一緒になりましたのが…この3人というのは、とても新鮮ですね…」

「今更だけど…ね」

絵里はそう言って笑った。

「地元に戻るまで2時間近くあるし…今日は色々話そうか」

「はい。私も絵里に訊いてみたいことが、沢山ありますし…」

 

「そっちが珍しい組み合わせなら、ウチらもそうやん」

絵里たちの背後のシートに座っている希が、ひょいと顔を出す。

「確かに!希と真姫とことりって組み合わせも、あまりないわね。じゃあ、そっちはそっちで楽しんでね」

「はいは~い!」

 

 

 

…って返事はしたものの…ウチとことりちゃんと真姫ちゃんで、なにを話したらいいんやろ?…

 

…う~ん、共通の話題が見つからない…希ちゃんも真姫ちゃんも、アルパカさんには興味なさそうだし…

 

…なんで2人とも黙ってるのよ…私から話なんてできないんだから…

 

 

 

「絵里ちゃんも、海未ちゃんも、学年で分けると、誕生日が1番遅いんですね」

「花陽もそうですよね?」

「はい!」

「じゃあ、私たちは各学年の『末っ子』ってことでいいのかしら?」

「2人はどう見ても『妹キャラ』ではないですけど」

「えっ!花陽は知らないのですか?私には姉がいるのですよ」

 

 

 

「ええっ!?」

 

 

 

驚いたの花陽だけではなく、絵里も同じだった。

 

 

 

「ハラショー…」

「あら、絵里も知りませんでしたか?」

「初耳よ…」

「もう、嫁いで家を出ていますけど…」

 

 

 

 

…なんか、えりちのとこは盛り上がってるやん…

 

…うしろの席、楽しそうだな…

 

…こうなったら、助っ人を呼ぶしかないわ…

 

 

 

「花陽ちゃん!」

「花陽ちゃん!」

「花陽!」

 

 

 

「あ…」

 

 

 

「?」

 

 

 

…そうやん!ことりちゃんは最近、花陽ちゃんと急接近中やったね…

 

…そっか、真姫ちゃんは、花陽ちゃんが1番のお友達なんだよね…

 

…そういえば…希は花陽とデートしてたじゃない…

 

 

 

「呼びました?」

 

花陽が3人を覗きこむ。

 

 

 

 

「ごめん、なんでもない…」

 

 

 

3人の返答に首を傾げる花陽であった…。

 

 

 

 

 

~つづく~


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