【ラブライブ μ's物語 Vol.1】Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~ 作:スターダイヤモンド
「はぁ…はぁ…はぁ…」
穂乃果に先導されて、駅まで走ってきたメンバーたち。
もう間もなく日が暮れようとしている。
駅舎は神奈川県に位置するも、決して都会にあるわけではない。
どちらかと言えば、田舎駅…というより、東海道線内唯一の無人駅。
周辺にはコンビニすらない。
改札口の周りにはジュースの自販機と、証明写真ボックスのみ。
確かにこんなところで取り残されたら、途方に暮れるどころの騒ぎではない。
彼女たちを不安にするには、充分なロケーションだ。
だが…
時刻表を眺めた絵里が言う。
「電車は… まだまだあるわよ…」
「えっ?」
「上りの終電…22時49分…」
「穂乃果、どういうことです?」
「えへっ!バレたか…絵里ちゃん、海未ちゃん、みんな…ゴメン!」
「穂乃果ちゃん?」
「ことりちゃん…イヤだなぁ…そんな目で見ないでよ。いや、だって…あのままいたら、みんな泣いちゃいそうだったから…穂乃果も涙、止まらなくなりそうで…」
舌をペロッと出して、穂乃果は照れ笑いをした。
「なぁんだ、そういうことにゃ」
「穂乃果、謀(たばか)りましたね」
と海未。
「よいではないか!よいではないか!」
「お主もなかなか悪よのう」
「ウッシッシッ…」
「希も一緒になって、なにバカなことやってるのよ」
「にこっちもやる?」
「やらないわよ!」
「それにしても、騙されたわ…。もう、本気で走っちゃったじゃない」
「そうよ、今日は休養日だったハズでしょ?なのに、何本目のダッシュよ!」
「真姫もにこも、これくらいで疲れてるようでは、本番が心配です」
「そういう問題じゃないでしょ!」
「まぁまぁ、にこちゃん、落ち着いて…」
「落ち着いてるわよ…っていうか、アンタに言われたくないわよ!」
「ごもっともで…」
にこに突っ込まれ、頭を掻く穂乃果。
「もうちょっと海を見てたかったにゃ」
「きっと、夜の海も綺麗だっただろうね」
「凛ちゃん、花陽ちゃん、また来ればいいんじゃなかな?」
「ことりちゃんの言う通り!また来よう、みんなで!」
「穂乃果ちゃん…」
その言葉に、全員が頷いている。
「でも、よかったです…9人しかいない場所に来られました」
海未がニッコリと微笑む。
「そうね、今日はあの場所であの海を見たのは、私たち9人だけ…。この駅で、今こうしているのも…私たち9人だけ…」
絵里の発言に、希が反応した。
「えりち!…実は知らない間に、この地球上にはウチらしか残ってなかったりして」
「なるほど!」
「穂乃果!なるほど…じゃないわよ。そういう話、苦手なんだから…」
「絵里ちゃんは意外に怖がりなんだね…」
「放っておいてよ…」
「じゃあ、怖がる絵里ちゃんの写真を…あっ!いいこと、思い付いた!記念に写真を撮ろうよ!」
「写真なら沢山撮りましたよ。花陽も撮ってましたし」
「あ、でも…海未ちゃん、集合写真は撮ってないですねぇ」
「そういえば…じゃあ…」
「でも、撮ってもらえそうな人がいないにゃ」
「そうですね。誰も歩いてませんものね…」
「ううん、違うんだ。アレで撮ろうよ!」
「アレ?」
8人は、穂乃果の指差す方向を見た。
「証明写真!?」
「面白そうじゃない?」
「面白そうやけど…」
「プリクラじゃないのよ!」
「希ちゃん、にこちゃん、わかってるって!」
穂乃果はそういうと、スタスタと歩き始めた。
「他になんにもないのに、これだけあるのも、おかしいよね…」
「確かに違和感がありますが…」
「だから、これは『使え』ってことなんだよ」
「いささか、強引ですが…」
「よいしょ!…結構狭いんだね…」
「当たり前やん」
「そっか、希ちゃんは使ったことあるんだ」
「履歴書に貼ったりするから」
「ちょっと、絵里、押さないでよ!」
「にここそ…」
「希、胸を私の頭に乗せないでください!嫌味ですか?」
「海未ちゃん、そんなん言われても、おっぱいは取り外しできんのよ」
「にゃにゃにゃ…痛いにゃ!」
「花陽ちゃんのホッペ、プニプニ…」
「こ、ことりちゃん!ツンツンしないでください!」
「髪が耳に…くすぐったい…」
カシャ!
「にゃにゃ~!?凛、1枚目写ってないにゃ~」
「本当だね!凛ちゃん、見切れてる…」
9人はプリントアウトされた写真を見ながら、改札からホームへと歩く。
「こっちは、ことりちゃんが下から生えてきてるよ」
「生えてきてるって、穂乃果ちゃん…ことりはキノコじゃないよ」
「にこっち、頭切れてるやん」
「仕方ないでしょ!アンタだって、ヒゲがあるわよ」
「ぬ?これ、にこっちの髪やん」
「ぷぷっ、こっちの真姫ちゃん変な顔にゃ」
「みんな同じでしょ!」
「フフフ…にこっち、この顔はないやん 」
「む!敢えてよ、敢えて!」
「これ、校内に貼り出しちゃおうか」
「穂乃果、冗談にもほどがあるわよ!」
「うひゃひゃひゃひゃ…」
その時、ひとしきり盛り上がったメンバーの熱を冷ますかのように、一陣の風が吹いた。
季節は間もなく春を迎えようとしていたが、海からの風はお世辞にも暖かいとは言えなかった。
風が吹き抜けたあとに聴こえてきたのは…鼻をすする音。
「…うぅ…ひっく…」
「…ん?かよちん…泣いてる?」
「違うよ、凛ちゃん…笑いすぎて…あれ、おかしいな…そんなんじゃないのに…あれ?…あれ?…うぅ…うぅ…」
花陽はその姿を見られまいと、顔を手で覆い、メンバーに背をむけた。
「かよちん…泣かないでよ…泣いちゃイヤだよ…なんで?せっかく笑ってたのに…うっ…ううっ」
凛は花陽の背中にしがみつく。
「もう…花陽も凛もやめてよ…やめて…って言ってる…の…に…」
「そういう真姫ちゃんだって…なんで、泣いてるの?…もう…変だよ…そんなの…」
「穂乃果ちゃ~ん…」
「ことりちゃん…」
「うぅっ…うっ…うぅ…」
海未は歯を食い縛り、溢れ出る涙に、必死に抗(あらが)おうとしている。
しかし、止められない。
「…ダメです…ごめんなさい…」
膝から崩れ落ちるように、その場にじゃがみこんだ。
「もう!メソメソしないでよ!なんで泣いてるのよ!…泣かない…アタシは泣かないわよ!」
にこは1、2年生組から目線を逸らす。
その先にあったのは、瞳を潤ませながら微笑む希の顔だった。
「絶対に泣かないんだから!」
「…にこっち…」
ただ、それだけ。
希は名前を呼んだだけ。
だが、それで彼女の強がりは一蹴された。
希は両腕を拡げる。
「やめてよ…そういうの…やめてよ…」
そして、にこは、引き込まれるように希の胸へと飛び込んだ。
「希のバカ…バカ、バカ、バカ…」
「うん、うん、そやね…」
うわぁ~ん…
にこ、号泣…。
絵里はそっと、その場を離れ、ひとり声を圧し殺して、涙していた…。
東海道線は、車両によっては、4人掛けのボックスシートが採用されている。
彼女たちが乗った電車が、まさにそれだった。
そして…にこと穂乃果と凛は…そこで熟睡中である。
「まったく、どこでも寝ますね…穂乃果と凛は…」
「今日は、にこちゃんも一緒だよ」
「泣き疲れたのかしら」
「3人とも子供ですか?」
「ホッとしたんじゃないのかな…いろんなことから解放されて」
「そうかもね…」
寝ている3人を見ながら話しているのは、通路を挟んで反対側のシートに座っている海未、花陽、絵里。
乗った順に座ったら、たまたまこういう組み合わせになった。
「それにしても…自分でいうのもなんですが、この3人というのはとても珍しいですね」
「えっ?あ、そうか…。海未ちゃんと絵里ちゃんは、いつも2人で練習を引っ張っていたから、何となく一緒にいるイメージだったけど…」
「実際には、そうでもないわね」
「そうですね…。合宿では希と凛と一緒になりましたのが…この3人というのは、とても新鮮ですね…」
「今更だけど…ね」
絵里はそう言って笑った。
「地元に戻るまで2時間近くあるし…今日は色々話そうか」
「はい。私も絵里に訊いてみたいことが、沢山ありますし…」
「そっちが珍しい組み合わせなら、ウチらもそうやん」
絵里たちの背後のシートに座っている希が、ひょいと顔を出す。
「確かに!希と真姫とことりって組み合わせも、あまりないわね。じゃあ、そっちはそっちで楽しんでね」
「はいは~い!」
…って返事はしたものの…ウチとことりちゃんと真姫ちゃんで、なにを話したらいいんやろ?…
…う~ん、共通の話題が見つからない…希ちゃんも真姫ちゃんも、アルパカさんには興味なさそうだし…
…なんで2人とも黙ってるのよ…私から話なんてできないんだから…
「絵里ちゃんも、海未ちゃんも、学年で分けると、誕生日が1番遅いんですね」
「花陽もそうですよね?」
「はい!」
「じゃあ、私たちは各学年の『末っ子』ってことでいいのかしら?」
「2人はどう見ても『妹キャラ』ではないですけど」
「えっ!花陽は知らないのですか?私には姉がいるのですよ」
「ええっ!?」
驚いたの花陽だけではなく、絵里も同じだった。
「ハラショー…」
「あら、絵里も知りませんでしたか?」
「初耳よ…」
「もう、嫁いで家を出ていますけど…」
…なんか、えりちのとこは盛り上がってるやん…
…うしろの席、楽しそうだな…
…こうなったら、助っ人を呼ぶしかないわ…
「花陽ちゃん!」
「花陽ちゃん!」
「花陽!」
「あ…」
「?」
…そうやん!ことりちゃんは最近、花陽ちゃんと急接近中やったね…
…そっか、真姫ちゃんは、花陽ちゃんが1番のお友達なんだよね…
…そういえば…希は花陽とデートしてたじゃない…
「呼びました?」
花陽が3人を覗きこむ。
「ごめん、なんでもない…」
3人の返答に首を傾げる花陽であった…。
~つづく~