【ラブライブ μ's物語 Vol.1】Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~   作:スターダイヤモンド

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心のメロディ その17 ~最後の晩餐~

 

 

 

 

 

「あ~あ、もう練習終わりなのかぁ…やり足りないにゃ」

「そうね。もっとやっておけば…って不安になる気持ちは、わからないでもないけれど…本番に疲れを残すわけにはいかないしね」

凛の言葉に絵里が答える。

 

練習を終え、校舎を出る9人。

いよいよ明日は本番である。

 

「じゃあ、みんな時間を間違えないようにね。各自、朝連絡を取り合いましょ」

「絵里、部長はアタシだってぇの!」

「うふふ…そうだったわね」

「穂乃果のところには、私が連絡しますね」

「え~海未ちゃん、大丈夫だよ!遅刻なんてしないよぅ!」

「念には念を…です。なんと言っても明日が最後なのですから…」

 

「あ!…」

海未の一言に、花陽は弾かれるように声をあげた。

 

「どうかしましたか?」

「もしかして、みんなで練習するのって、これが最後だったんじゃ…」

「…そうやね…」

「それにしては、あっさり終わっちゃって…」

「みんな、薄々気付いてたわよ…だけど…」

「真姫ちゃん…。そっか…ごめんなさい…」

「ううん、実は私もちょっと思ってた…。今日、このまま終わっていいのかしら…って」

「絵里、ダメよ!」

「にこ!」

「ラブライブに集中!みんなも!すぐに感傷的になるんだから…」

「…わかってるわ…」

「じゃあ、遅くなるから、行くわよ」

にこが、校門の前にある横断歩道を渡る。

 

「危ない!」

「ぬわっと!!希?」

 

「にこっち、赤は止まれやからね」

希が言う通り、そこにある信号機は青ではなかった。

幸い車の通行はなく、にこは無事だった。

 

「大丈夫やった?」

「大丈夫もなにも…車が来たわけじゃないし…」

 

…と言いつつ、希の声に驚いて首のスジを痛めるとこだったわ…

 

にこは平静を装い、目の前の信号が変わるのを待った。

 

「はい!行くわよ!」

横断歩道を半分ほど渡り始めて、気付く。

「…って、なに、いつまでも立ち止まってるのよ!」

走って引き返す、にこ。

 

「いや、だってねぇ…」

「やっぱり、なんと言いますか…」

「そうだよね…」

と穂乃果、海未、ことり。

 

残りのメンバーも「そうそう…」という顔。

 

「仕方ないわねぇ…」

にこは苦笑しながら言った。

「じゃあ、行くよ!いつもの所!」

 

 

 

 

 

「これで、やり残したことはないわね」

にこが言う。

「うん!」

 

9人は例の場所で願掛けをしていた。

 

「こんな一辺に色々お願いして、大丈夫だったかにゃ」

「平気だよ~!だってお願いしてることは、ひとつだけでしょ?言葉は違ったかもしれないけど、みんなの願い事って同じだったんじゃないかな?」

穂乃果が、屈託のない笑顔で言う。

「そうね」

「じゃあ、みんなでもう一度…」

絵里と希が手を合わせた。

それを見て残りのメンバーも、再び拝む。

 

 

 

「よろしくお願いします!!!」

 

 

 

「さぁ、今度こそ、帰りましょう」

と階段を降りながら、絵里。

「うん!また明日…」

「そうね…」

しかし、穂乃果も真姫も、そう返事をしたものの足が前に出ない。

「もう…キリがないでしょ」

絵里が2人の身体を押す。

「そうよ、帰るわよ!」

「行こっか」

「うん」

にこと希は、絵里の手を引くと1、2年生組に背を向け歩き出した。

「じゃあね!バイバ~イ!」

意を決した穂乃果は、その後ろ姿に手を振ると、ことりと海未と共に反対方向へと進む。

 

 

「さ、私たちも!」

「明日、また全員揃うにゃ!」

「うん…そうだね…」

最後に残った1年生組。

 

だが、花陽はなぜか階段を登り始めた。

「花陽?」

「かよちん?」

「真姫ちゃん、凛ちゃん、先に帰ってて。花陽はもうちょっとだけ、ここに残ってる」

「かよちん…」

「…明日から、にこちゃんたちがここに来ないなんて、まだ信じられなくて…。みんなは寂しくないのかな…」

「そんなこと、ないよ…みんなだって寂しいよ。でも、そうしたら帰れなくなっちゃうから…」

「わかってるけど…」

「花陽!みんなも同じ気持ちみたいよ!」

真姫が階段の下を指差す。

「えっ?…あっ!」

 

「なんで、まだいるのよ!」

「あなたたち、なにしてるの?」

「帰ったんやなかったん?」

花陽たちが見たのは、にこ、絵里、希の姿だった。

 

「それはこっちのセリフ」

「そうにゃ!戻ってきたのは、そっちにゃ!」

 

「あれ?みんな…」

 

その声に6人が振り返る。

 

「穂乃果ちゃん!…どうしたの?」

そこいたのは穂乃果、海未、ことり…。

「えっ?ああ…うん…なんだか、まだ、みんな残ってるかな…って…」

「ですよね!!」

みんなが同じ心情だとわかり、花陽の顔が綻ぶ。

 

「でも、どうするの?このままじゃ、いつまでたっても帰れないわよ」

「そうだよね…」

真姫とことりは困り顔。

「朝まで、ここにいる…ってどうやろ?」

「風邪ひくじゃない!」

「にこちゃんは、平気にゃ!」

「凛もね!」

「こらこら、2人とも…」

2人がいつもの如くじゃれているのを、絵里が間に入って止めた。

 

 

 

「あ!じゃあさ!こうしない?」

「穂乃果?」

 

 

 

 

 

「でっきたぁ!!」

と叫んだのは穂乃果。

「ちょうどピッタリ…」

布団を並べ終わった真姫は、妙に満足そうな顔をした。

「学校でお泊まり!テンション上がるにゃ~!」

「さすが穂乃果ちゃんやね。学校は盲点やったわ」

「でも、ことり…本当にいいのですか?」

「うん!お母さんに承認もらったもん。『事前申請を見落としてました』ってことで…」

「親バカ?」

「職権濫用?」

「凛!真姫!ここはそういうことにしてもらいましょ」

「絵里ちゃんの言う通り!」

ことりは満面の笑みで2人を見る。

 

 

 

「はい、おまたせ!!」

にこが熱々のフライパンを片手に、室内に入ってきた。

「あっ!寮母さんや!」

「誰が寮母よ!」

「うわぁ、いい匂い!麻婆豆腐?」

「はい、食欲をそそりますね」

「さすが、にこちゃんにゃ!」

「花陽~、そっちは?」

「ご飯炊けたよ~!!」

花陽が炊飯ジャーを両手に現れる。

「えっ?ふたつ!?」

「穂乃果ちゃん、なにを今更?いつものことにゃ」

「そうだった…」

「そして凛は…ラーメンにゃ!」

ジャジャーン…と言いながら、ドンブリを見せる。

「いつの間に持ってきたのよ!?」

「えへへ、真姫ちゃん、これ誕生日にもらったやつだよ」

「本当だ」

「ありがたく使わせてもらってるにゃ!」

「良かったわね」

 

「それじゃあ、夕食にしましょ!」

絵里が椅子に座る。

凛の前にはインスタントラーメンが、花陽の前には大盛りのご飯…と、お櫃(ひつ)。

 

「いっただきま~す!」

すべての準備が整い、食事が始まった。

 

 

「なんか合宿の時みたいやね」

「今日は枕投げ、しないからね!」

真姫が希を牽制する。

「やらんの?」

「希、明日が本番ですよ!」

「海未ちゃん、わかってるって」

「合宿も楽しかったけど、今日も楽しいね?だって学校だよ?学校!」

「うん、穂乃果ちゃん、最高にゃ!」

「まったく、アンタたちは子供ねぇ」

「えへへへ…あ、ねぇねぇ、今って夜だよね!」

「穂乃果?なにを当たり前のこ…」

穂乃果は、海未の言葉を最後まで聴かずに、やおら席を立つと勢いよく教室の窓を開けた。

 

室内に風が吹き込む。

 

「ひゃっ!」

「寒いにゃ!」

「なにするのよ!寒いじゃない!」

「あははは…ごめん、ごめん。夜の学校ってさ、なんかワクワクしない?いつもと違う雰囲気でさ。見てよ、外も真っ暗」

「そりゃあそうよ」

「あとで肝試しするにゃ~」

「え!?」

一瞬、絵里の顔が曇った。

「理科室と音楽室は外せないにゃ」

「そうやね…えりちもそういうの大好きだもんねぇ」

「希!」

「…なんてね。えりちはホント、恐がりやね」

「にゃは!絵里ちゃん、可愛いにゃ」

「男の人はこういうギャップに『萌える』んだよねぇ…」

「凛!穂乃果!そんなことはどうでもいいから、早く食べなさい!」

絵里の顔は真っ赤だ。

「照れてるん?」

「もう…いいでしょ!ごちそうさま」

そう言って席を立つと、食べ終わった食器を片付けに部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

~つづく~


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