【ラブライブ μ's物語 Vol.1】Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~ 作:スターダイヤモンド
「あ~あ、もう練習終わりなのかぁ…やり足りないにゃ」
「そうね。もっとやっておけば…って不安になる気持ちは、わからないでもないけれど…本番に疲れを残すわけにはいかないしね」
凛の言葉に絵里が答える。
練習を終え、校舎を出る9人。
いよいよ明日は本番である。
「じゃあ、みんな時間を間違えないようにね。各自、朝連絡を取り合いましょ」
「絵里、部長はアタシだってぇの!」
「うふふ…そうだったわね」
「穂乃果のところには、私が連絡しますね」
「え~海未ちゃん、大丈夫だよ!遅刻なんてしないよぅ!」
「念には念を…です。なんと言っても明日が最後なのですから…」
「あ!…」
海未の一言に、花陽は弾かれるように声をあげた。
「どうかしましたか?」
「もしかして、みんなで練習するのって、これが最後だったんじゃ…」
「…そうやね…」
「それにしては、あっさり終わっちゃって…」
「みんな、薄々気付いてたわよ…だけど…」
「真姫ちゃん…。そっか…ごめんなさい…」
「ううん、実は私もちょっと思ってた…。今日、このまま終わっていいのかしら…って」
「絵里、ダメよ!」
「にこ!」
「ラブライブに集中!みんなも!すぐに感傷的になるんだから…」
「…わかってるわ…」
「じゃあ、遅くなるから、行くわよ」
にこが、校門の前にある横断歩道を渡る。
「危ない!」
「ぬわっと!!希?」
「にこっち、赤は止まれやからね」
希が言う通り、そこにある信号機は青ではなかった。
幸い車の通行はなく、にこは無事だった。
「大丈夫やった?」
「大丈夫もなにも…車が来たわけじゃないし…」
…と言いつつ、希の声に驚いて首のスジを痛めるとこだったわ…
にこは平静を装い、目の前の信号が変わるのを待った。
「はい!行くわよ!」
横断歩道を半分ほど渡り始めて、気付く。
「…って、なに、いつまでも立ち止まってるのよ!」
走って引き返す、にこ。
「いや、だってねぇ…」
「やっぱり、なんと言いますか…」
「そうだよね…」
と穂乃果、海未、ことり。
残りのメンバーも「そうそう…」という顔。
「仕方ないわねぇ…」
にこは苦笑しながら言った。
「じゃあ、行くよ!いつもの所!」
「これで、やり残したことはないわね」
にこが言う。
「うん!」
9人は例の場所で願掛けをしていた。
「こんな一辺に色々お願いして、大丈夫だったかにゃ」
「平気だよ~!だってお願いしてることは、ひとつだけでしょ?言葉は違ったかもしれないけど、みんなの願い事って同じだったんじゃないかな?」
穂乃果が、屈託のない笑顔で言う。
「そうね」
「じゃあ、みんなでもう一度…」
絵里と希が手を合わせた。
それを見て残りのメンバーも、再び拝む。
「よろしくお願いします!!!」
「さぁ、今度こそ、帰りましょう」
と階段を降りながら、絵里。
「うん!また明日…」
「そうね…」
しかし、穂乃果も真姫も、そう返事をしたものの足が前に出ない。
「もう…キリがないでしょ」
絵里が2人の身体を押す。
「そうよ、帰るわよ!」
「行こっか」
「うん」
にこと希は、絵里の手を引くと1、2年生組に背を向け歩き出した。
「じゃあね!バイバ~イ!」
意を決した穂乃果は、その後ろ姿に手を振ると、ことりと海未と共に反対方向へと進む。
「さ、私たちも!」
「明日、また全員揃うにゃ!」
「うん…そうだね…」
最後に残った1年生組。
だが、花陽はなぜか階段を登り始めた。
「花陽?」
「かよちん?」
「真姫ちゃん、凛ちゃん、先に帰ってて。花陽はもうちょっとだけ、ここに残ってる」
「かよちん…」
「…明日から、にこちゃんたちがここに来ないなんて、まだ信じられなくて…。みんなは寂しくないのかな…」
「そんなこと、ないよ…みんなだって寂しいよ。でも、そうしたら帰れなくなっちゃうから…」
「わかってるけど…」
「花陽!みんなも同じ気持ちみたいよ!」
真姫が階段の下を指差す。
「えっ?…あっ!」
「なんで、まだいるのよ!」
「あなたたち、なにしてるの?」
「帰ったんやなかったん?」
花陽たちが見たのは、にこ、絵里、希の姿だった。
「それはこっちのセリフ」
「そうにゃ!戻ってきたのは、そっちにゃ!」
「あれ?みんな…」
その声に6人が振り返る。
「穂乃果ちゃん!…どうしたの?」
そこいたのは穂乃果、海未、ことり…。
「えっ?ああ…うん…なんだか、まだ、みんな残ってるかな…って…」
「ですよね!!」
みんなが同じ心情だとわかり、花陽の顔が綻ぶ。
「でも、どうするの?このままじゃ、いつまでたっても帰れないわよ」
「そうだよね…」
真姫とことりは困り顔。
「朝まで、ここにいる…ってどうやろ?」
「風邪ひくじゃない!」
「にこちゃんは、平気にゃ!」
「凛もね!」
「こらこら、2人とも…」
2人がいつもの如くじゃれているのを、絵里が間に入って止めた。
「あ!じゃあさ!こうしない?」
「穂乃果?」
「でっきたぁ!!」
と叫んだのは穂乃果。
「ちょうどピッタリ…」
布団を並べ終わった真姫は、妙に満足そうな顔をした。
「学校でお泊まり!テンション上がるにゃ~!」
「さすが穂乃果ちゃんやね。学校は盲点やったわ」
「でも、ことり…本当にいいのですか?」
「うん!お母さんに承認もらったもん。『事前申請を見落としてました』ってことで…」
「親バカ?」
「職権濫用?」
「凛!真姫!ここはそういうことにしてもらいましょ」
「絵里ちゃんの言う通り!」
ことりは満面の笑みで2人を見る。
「はい、おまたせ!!」
にこが熱々のフライパンを片手に、室内に入ってきた。
「あっ!寮母さんや!」
「誰が寮母よ!」
「うわぁ、いい匂い!麻婆豆腐?」
「はい、食欲をそそりますね」
「さすが、にこちゃんにゃ!」
「花陽~、そっちは?」
「ご飯炊けたよ~!!」
花陽が炊飯ジャーを両手に現れる。
「えっ?ふたつ!?」
「穂乃果ちゃん、なにを今更?いつものことにゃ」
「そうだった…」
「そして凛は…ラーメンにゃ!」
ジャジャーン…と言いながら、ドンブリを見せる。
「いつの間に持ってきたのよ!?」
「えへへ、真姫ちゃん、これ誕生日にもらったやつだよ」
「本当だ」
「ありがたく使わせてもらってるにゃ!」
「良かったわね」
「それじゃあ、夕食にしましょ!」
絵里が椅子に座る。
凛の前にはインスタントラーメンが、花陽の前には大盛りのご飯…と、お櫃(ひつ)。
「いっただきま~す!」
すべての準備が整い、食事が始まった。
「なんか合宿の時みたいやね」
「今日は枕投げ、しないからね!」
真姫が希を牽制する。
「やらんの?」
「希、明日が本番ですよ!」
「海未ちゃん、わかってるって」
「合宿も楽しかったけど、今日も楽しいね?だって学校だよ?学校!」
「うん、穂乃果ちゃん、最高にゃ!」
「まったく、アンタたちは子供ねぇ」
「えへへへ…あ、ねぇねぇ、今って夜だよね!」
「穂乃果?なにを当たり前のこ…」
穂乃果は、海未の言葉を最後まで聴かずに、やおら席を立つと勢いよく教室の窓を開けた。
室内に風が吹き込む。
「ひゃっ!」
「寒いにゃ!」
「なにするのよ!寒いじゃない!」
「あははは…ごめん、ごめん。夜の学校ってさ、なんかワクワクしない?いつもと違う雰囲気でさ。見てよ、外も真っ暗」
「そりゃあそうよ」
「あとで肝試しするにゃ~」
「え!?」
一瞬、絵里の顔が曇った。
「理科室と音楽室は外せないにゃ」
「そうやね…えりちもそういうの大好きだもんねぇ」
「希!」
「…なんてね。えりちはホント、恐がりやね」
「にゃは!絵里ちゃん、可愛いにゃ」
「男の人はこういうギャップに『萌える』んだよねぇ…」
「凛!穂乃果!そんなことはどうでもいいから、早く食べなさい!」
絵里の顔は真っ赤だ。
「照れてるん?」
「もう…いいでしょ!ごちそうさま」
そう言って席を立つと、食べ終わった食器を片付けに部屋を出ていった。
~つづく~