なんとかペースを取り戻すよう善処致します!
というより本編、決勝戦終わりそうなんですね!やべぇ!
「俺が負けるだと?」
男は風香の言った言葉にぴくりと反応した。なんという愚かなことを話すのだろう。
「…はったりと思いますかー?」
そんな風香は余裕綽々な態度で男を見ていた。
「ふん、馬の骨も知らん貴様なぞに負けるわけがない!」
男は柱の影へと潜み、気配を消していく。風香の周りから黒い棘が襲い掛かる。だが、風香は軽々と避けていた。
「遅い!」
男は風香の背後から斬撃を振り下ろす。それをもみ見切っていたかのように風香はひらりと躱す。体勢を立て直し再び突きを放つがそれも風香は軽々と躱す。
「‥‥どうした?さっきから避けているだけではないか?」
男は違和感を感じていた。この女、あの時の一度だけの攻撃以降、ずっと避けているだけだ。実力を測っているのか、いずれにせよ思っていたよりも実力がないのなら、早々に始末を…
「いったはずですぜ?もうチェックメイトです」
ズシリ
風香がにやりと笑った途端、男の身体が重く鈍くなった。足が、手が、上がらないほどの重さがのしかかる
「なっ…!?」
男は驚愕した。まさか重力系の能力かと考察し別の方法で風香に攻撃をする。だが、影から棘を伸ばすも蝸牛の歩みのように遅く、そして重い。
この女、一体何をした…!? どうしてこうなったかと思考を張り巡らせたとき、ふと見ると自分の足にはオモリが、両腕には片方づつ手錠がついていた。
「こ、これはっ…!?」
「気づきました?うちの能力は特殊でしてねー。うちが『罪』だと感じた相手にきつーい『施錠』をかけ身体も能力も『ロック』するんです」
「『罪』だと…!?」
「そう、例えば『幼気な少女を誘拐』、『大事な友達を殺人未遂』なーんてことをしてうちが『あ、こいつ悪いなー』なんて思えばそれで御用です」
風香は片手で手錠型の煌式武装をくるくる回す
「まあそういった事案と『校則違反』がメインで、消費も激しくて発動条件が厳しいから大会には出にくいんですよねー」
だからうちのことは星導館だけしか知られてないですよーと付け加えて、風香は手錠をメリケンサックのように握って構えた。
「でも、うちの友達を傷つける輩は懲罰房より厳しい罰を与えます」
風香は男に向かって駆ける。男は何が何でも抜けて風香に一撃を当てようと力尽くで動こうとした。だが、男の影、体中に手錠が施錠されていきついには身動きができなくなってしまった。
「これで…御用です!」
風香の強烈な拳のデンプシーロールをくらい、フィニッシュのアッパーが男のアゴに炸裂した。男は半回転しながら宙を舞い、どさりと地面に落ちた
「ふう、これで落着ですよー」
「風香、助かった」
風香はにっこりと紗夜達に笑いかける。上の階では影の大群も消えたことだろう。これで無事にフローラを救出することができた
「よし、綾斗達に伝えなくちゃ」
「そうですね、綾斗先輩とユリス先輩は今、準決勝の真っ最中です」
今の時間、綾斗とユリスはアルディとリムシィとの試合をしているところだ。早く伝えなければ綾斗は『黒炉の魔剣』を使えないまま戦い続けなければならない。
「うぐ…」
そんな時、男はぐったりとしながらも、呻いた。紗夜達は警戒する。いくら身動きができなくても相手は幾人も殺める手練れだ。何をするかわからない
「…き、貴様…見ているだけなのはどういうことだ…!」
男は紗夜達とは違う方向、明後日の方向に睨んでいた。正気を無くしたのか、警戒をしつつ伺っていた時、綺凛はわずかながらも広間の奥の方から殺気を感じた
「‼気を付けてください!もう一人、『誰か』います!」
暗い広間からゆっくりと明かりに照らされて出てきたのは紫色の汚れた陣羽織を羽織り、傷だらけの三日月型の飾りがついた兜を被った男だった。猫背で垂れ気味の濁った眼付で薄気味悪い印象を出している
「『蜥蜴』…!なんのつもりだ…!?」
蜥蜴と呼ばれた男は答えるのも面倒なのか虚ろ気味な瞳をじろりと倒れている男の方に目をやる
「なんのつもり…と言われましてもねー。『約束』がちがうんですけどねぇ」
「…なんだと!?」
「我が主からはー、俺が『最も殺したい奴第一位』の『天霧遥』の弟をぶち殺してあのクソアマに『自分の弟の首を見せて精神ショックをして何もかも嫌になるの刑』をやろうとおもったんですけど、誰ですかあのガキども?」
蜥蜴は気だるそうに紗夜達の方を指さす。
「交渉決裂ですねー。なので俺はなーんにもしないよー」
「貴様っ…‼」
男は蜥蜴を強く睨む。どうやら仲間割れのようだ。紗夜は風香にアイコンタクトして今のうちにフローラを外へ連れ出すように合図をし、こっそりと逃げようとしていた
「…と、言うわけで『オレ様に嘘をついた』ということで『全員俺様に皆殺しで仲良くあの世へGOの刑』を執行しまーす」
蜥蜴がそういった瞬間、殺気がよぎる。暗い広間の上ではひゅんひゅんと何かが飛んでいる音がし、風香と紗夜の方へ近づいてきた
「二人とも、伏せてください!」
いち早くその正体に気づいた綺凛は大声で呼びかけた。風香がいち早く紗夜とフローラを押し倒す。彼女たちの上に何かが通り過ぎ蜥蜴の方へ飛んでいく。蜥蜴が掴んだものはブーメランのような形をした半円状の刃物だった。蜥蜴の腕には黒い籠手がされ、籠手には鋭い爪がついていた
「…運のいい奴。お前、名前はなんだ?」
綺凛は千羽切を蜥蜴の方に構えて静かに睨む
「…刀藤綺凛といいます」
「よーし、まずはお前から処刑執行するか」
蜥蜴は勢いよく半円状の刃物を投げる。撓るように回転しながら刃は綺凛に襲い掛かる。綺凛はそれを避けて蜥蜴の方を見た。しかし、その先には蜥蜴の姿はなかった。綺凛は立ち止まる。いつの間にか姿を消しどこから迫るのか警戒をした。離れていた風香と紗夜も周りを見た
「紗夜さん、見ていやしたか?」
「いや…投げたと同時に姿を消した?」
綺凛は静かに落ち着いて気配を探る。どうやって姿を消したのか、星辰力のわずかな流れを感じ、一瞬感じた殺気を辿る。その先には‥‥紗夜がいる
「紗夜さん!すぐ近くです!」
紗夜がはっと気づいたとき、いつの間にか蜥蜴が目の前まで迫っていた。
「しまっ…!」
「はい、とったー!」
蜥蜴の籠手の爪が紗夜の顔に突きかかる。寸前、紗夜の前に立った風香が腕で防ぎ、反撃しようとした
「おっと!」
蜥蜴は追撃はせずに大きく後ろへ下がる。風香の一撃をくらわなければ施錠はされない。こっそりと聞いていた蜥蜴は警戒していた
「風香、ごめん」
「謝るのはウチの方です…せっかく助太刀に来たのにお荷物になるなんて…」
「風香様!?大丈夫ですか!?」
フローラが心配そうに叫ぶ、蜥蜴の攻撃で風香の両腕にはずたずたの切り傷がついていた。あの蜥蜴という男、どうやら何かの力でステルスする能力があるようだ。
「狙いは私ではないんですか‥‥!」
綺凛は蜥蜴の方を睨む。声にも目つきにも静かながら怒りを出している。そんな綺凛の態度に蜥蜴はバカにしたように笑う
「ヴァーカ!そうほいほい釣られるてめぇが悪いんだよ!」
「そうですか…ならば!」
綺凛は星辰力を高め、一瞬で蜥蜴に迫った。凄まじいスピードで蜥蜴はギョッとする。千羽切の一撃を籠手で防ぎ後ずさりをする。その隙を逃さず綺凛は蜥蜴の横腹を峰で思い切り叩く
「うごげっ!?」
吹っ飛ばされた蜥蜴はのた打ち回る。さらに追い打ちをかけようとしたとき、半円状の刃物が背後から飛んできた。綺凛は躱すが、ズキッと片足の方に激痛が走る。前の試合にくらった痛みが今になってぶり返してきたのだ
(こんな時にっ…!)
蜥蜴はその様子を見逃さなかった。再び姿を消したかと思えば、綺凛の目の前に姿を現した
「こんの木偶がぁぁぁっ‼」
蜥蜴の爪が綺凛の脇腹に突き刺さる。肉が抉られる、熱い鉄が体に突き刺さるような激痛が走る。
「ああああっ‼」
千羽切を落としそうになるが綺凛は唇を強く噛みしめなんとか堪え、千羽切を荒々しく振るう。蜥蜴を退けることはできたがそれが精一杯だった。倒れそうになる身体を千羽切で支える
「このクソ木偶の分際で!俺様に敵うと思ってんのぉ?ねぇ思ってんのぉ!」
先ほどまで落ち着いていて舐めたようにかかっていた蜥蜴の感情が一転して激情していた。
「__当たり前、です」
それでもなお、綺凛はふらふらと立ち上がる。真剣な眼差しの綺凛に蜥蜴はさらに苛立ちの声を上げる
「木偶の分際でぇ舐めた口を叩くんじゃぁねえよ!」
どくどくとわき腹から流れる血を見つつ綺凛は大きく息を吸い、集中する。残りの体力を持ってあと一撃が限界だろう。だとすれば…この一撃で倒さなければならない。千羽切を鞘に納め、居合の構えを取る
「次で仕留めます…」
「ああ?だったらやってみろよぉぉっ‼」
蜥蜴が叫び駆け、姿が消える。その間に半円状の刃物がヒュンヒュと音を立てながらこちらに近づいてくる。それでも綺凛は目をつぶり動かずじっと集中していた。神経を集中させ、星辰力の流れを感じ取り、そしてわずかに感じる迫る殺気を探っていた。刃物が綺凛の横腹に突き刺さる寸前だった。綺凛はかっと目を開き、鞘で半円状の刃物を叩き落とし、体に残っている星辰力を全力で絞り出す
「見つけました!刀藤流抜刀術__『布晒(ぬのさらし)』‼」
それは凄まじい抜刀術だった。全力で抜いた千羽切から一直線に剣閃が迸る。背後から迫っていた蜥蜴に強烈な一撃が炸裂した
「ぬぶらばっ!?」
一回の抜刀で5つの剣閃が蜥蜴の身体に叩き込まれた。綺凛はふらりと倒れる前に紗夜の方へ眼を向ける
「紗夜さん!今です!」
「準備オッケー!ドドーン!」
紗夜はウォルフドーラのフルチャージの砲撃を放つ。よろける蜥蜴は光の砲撃に包まれる
「こんのっ…刀藤綺凛!てめえぇは『殺したい奴第3位』に昇格してやらぁぁぁぁぁっ‼」
砲撃をくらった蜥蜴はそう叫びつつ壁を抜け外の遥か彼方までふっ飛ばされていった。綺凛は千羽切を鞘に納めて辺りを見る。黒猫の男の姿はない。殺気も感じられないことから能力や身体を封じられてながらもなんとか逃げたのだろう。
「よかった…誰も傷つかなく…て…」
安堵した綺凛は緊張の糸が切れたかのように倒れた
「綺凛さん、しっかりしてくだせぇ!」
「綺凛!しっかりしろ!」
「綺凛様!綺凛様!」
風香たちの声を聞きながら、綺凛は薄れゆく意識の中で綾斗達のことを思った
(綾斗先輩…試合、どうなったんでしょうか…)
___*___
「…うん、知らない天井だこれ」
亨介は目を覚ました。気づけばすでに夜だ。包帯をぐるぐると巻かれ、腕には点滴、病院特有の薬品の臭い、間違いないここは医療院だ。
「目を覚ましましたか?」
ふと目をやるとクローディアが座っていた。亨介を優しくみて微笑む
「あ、どーも、今期あんまり出番がないクローディアさんじゃないですか」
「うふふふ。亨介は殴られたいですのね?」
「ウソです、ごめんなさい!今宵も美しゅうございますね!」
そんなやりとりもつかの間、二人の間にしばらく静寂が流れる
「…で、どうなった?」
「私がここにいる時点でもう察しはついているのでは?」
亨介にクローディアは微笑む。どうやらフローラの救出はできたようだ。亨介は安堵したように大きく息を吐く
「あーよかった。骨折り損にならずにすんだぜー」
「うふふ、すでに骨折りにはなっていますけどね」
「よけいなお世話だ」
再び静寂が流れる。この後何を言えばいいか亨介は少々戸惑っていたが気になることを口に出した
「それで、明日の決勝は?」
「…明日は綾斗と戦うことになりますわね」
「…マジでかー…」
亨介は嫌そうな顔をして布団を大きく被る。ぶっちゃけのところ決勝はロボットの方がよかったなーと思っていた
「合体とかかっこよかったからあいつらの方がよかったなー」
「…亨介。その身体で出るのですか?」
「お前が見まいに来た理由はあれだろ?試合に出ないでくれってやつだろ?」
クローディアは静かに首を縦に振る。
「わかっているはずでしょう?これまで貴方は一人で身体を張って戦っていました。先の試合ですでに限界を超えているハズ。もう能力の代償を抑える力もないこともわかっていますわ」
「…心配してくれんのは嬉しいんだがな」
亨介はため息をついて苦笑いをする。真剣に考えているのだろう、クローディアの目つきが少しきつくなったのを感じた
「ダイジョーブ、代償のコントロールぐらいできらぁ。それに、優勝しなきゃ願いは叶えられんし?」
「…亨介、貴方の願いはやはり…」
「ニシシ、見とけよ?明日はお前の大好き―な綾斗に勝ってやっからさ」
「…貴方にこれほど言っても無駄ですわね。いいでしょう、綾斗にじっくり絞られなさい」
にししと笑う亨介にクローディアは苦笑いをした
「…で、俺の為に林檎の皮をむいて、『アーン』してくれる、コスプレナースさんプレイを希望するんだが?」
「うふふ、それじゃあお休みしていただくために一発殴りますわね?」
私服の綺凛ちゃんはやはり天使でござった ニッコリ