二人は仲良し? ミント&ヤンヤン   作:新六毛

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楽に死ねると思わないでね ミント&ヤンヤン

全裸のミントは熊のチョコの縫いぐるみで恥ずかしそうに身体を隠す

 

『可憐な変態』

 

ニーソックスと赤いシューズだけを身につけた今のミントは、そんな形容詞よく似合う

 

「ダメよミント! チョコも離して!」

 

もう1つだけ身につけていたインカムに、ヤンヤンの非情な指示が飛ぶ

 

「そ、そんな~…」

 

夜の戸張も落ちた住宅地の公園 その銀杏の木立の間にミントは立つ

人気は薄いとは言え、公園に面した道路には時折車が行き交い、近くの家々からは明るい笑い声も漏れる

 

(やっぱり引き受けるんじゃなかった…)

 

きっかけは朝の新聞だった

最近この住宅地の付近で立て続けに起こった少女の連れ去り未遂事件

幼い美少女がハイエースに引き摺り込まれ、連れ去られ様としたのだ

幸い目撃者が大声を上げるなどしたために、直ぐ様少女は投げ出され、大事には至らなかった

だが大事にならなければ動か無いのが警察である

結局捜査はうやむやになり、少女達は怯える日々を過ごしているという

ヤンヤンは激怒した ミントも同調した

その結果がこの囮捜査である

ミントを餌に凶悪なハイエーサーを釣り上げる!

ミントは杜撰な計画に反対したが、ヤンヤンの「結局金持ちは自分さえ良ければ良いのね!」の罵声に己のプライドが傷付けられた事もあり、最終的に何かあったらヤンヤンが直ぐに助けに来る約束で囮役を引き受けたのだ

 

 

 

ミントは渋々チョコを芝生に降ろすと、細い腕を胸の前で交差させてヨロヨロと立ち上がる

 

「アンタ、そんな陰に隠れていちゃ変質者の股間を刺激しないわよ… とりあえずそこのジャングルジムに登ってみて!」

 

能天気なまでに明るい声で指示が飛ぶ

 

「えっ… イヤよ… 恥ずかしわよ…」

 

誰かに見られる為に誰にも見られたくない姿を晒す…

ミントの羞恥心は早くも限界に達し様としていた

 

「それじゃいつまでたっても事件を解決出来ないわよ! それでも三峯雛菊の末裔なの!?」

 

ヤンヤンの罵声がインカムを震わせ、ミントの鼓膜を刺激する

この様子では途中棄権を認めてはくれまい

ミントは覚悟を決めてジャングルジムによじ登る

初夏の夜の風は全裸に心地好い程だったが、ミントは全身から汗が噴き出すのを感じた

 

(何やってんだろ… 私… )

 

ヤンヤンと出会ってから幾度となく繰り返された自問

ミントはもう深く考えるのを止めた 考えても答えなど出ないからだ

公園の水銀灯が、ミントの白い裸身をジャングルジムの頂きに浮かび上がらせる

 

「ミント、その頂上で三点倒立やって見て!」

「出来ないわよ!」

 

「じゃあ、振り付きで『みらくる☆ちゃんす』歌って!」

「懐かしいけどそれ別の世界の話でしょ!」

 

「じゃあ、夏祭りに出てる屋台の焼き鳥屋のオヤジの物真似してよ!」

「何の為によ!? じゃあ、じゃ無いわよ!」

 

「だったら…」

「ちょっと待って! 誰か来た…! 車が止まった!」

 

戯けた掛け合いを繰り返している最中、公園の入り口付近に1台のワゴン車が止まったのがジャングルジムの頂きから見えた

ミントは車に詳しくないが、あれが多分ハイエース…

 

「ヤンヤン、どうしよう? 此方に向かって来る…! 男の人… 二人… 三人… 怖い…!」

「落ち着いてミント! まだその人達が犯人と決まった訳じゃ無いわ! とりあえず登り棒に移動して! 早く! 出来るだけ高く登って!」

「えっ? う、うん!」

 

囮にはなっていたが、まさか本当にそれらしき集団が現れるとは…

こうなってはヤンヤンだけが頼りである

ミントは素早くジャングルジムを降り、隣の登り棒によじ登る

薄暗い公園、ミントが男達の姿を朧気にしか捉えられなかった様に、男達もミントの姿を見失った様だ

三人の男が先程までミントが居たジャングルジムとその周囲を見回している

その行為は、男達が紛れもない連続少女連れ去り未遂犯である事を意味していた

全裸で遊んでいたミントを探しているのだ

 

(こ、怖い…!)

 

ミントの手が緊張と恐怖で汗ばむ

手が滑る 身体が降りる また必死によじ登る

 

「……ヤンヤン…… どうすれば良いの…?」

 

小声で訴える

 

「今、車の番号を控えに行くわ! お願い、時間を稼いで!」

「えっ? ……うん… でもどうやって……?」

 

ヤンヤンの返事は無かった

代わりに遥かハイエースに向かい、垣根の陰から飛び出す小さな人影が見えた

…と、同時にジャングルジム付近で屯していた男達が、ミントの捜索を諦め、辺りを気にしながら車に戻って行くのが見えた

 

(あぁ、マズイ!)

 

このタイミングでは完全は鉢合わせ

ミントの脳裏に羽交い締めにされ、ハイエースされるヤンヤンの姿が浮かんだ

いつも偉そうで、傲慢で、トラブルメーカーのヤンヤン…

だけどミントのかけがえの無い無二の親友…

ミントは躊躇しなかった

 

 

 

「ミ~ンミンミンミ~ン…」

 

 

 

何でそうしたのかと問われても答えは出ない

男達の気を引きたかったのだ

ミントはミンミン蝉になった 登り棒にたかる全裸のミンミン蝉…

ミントは腰に力を入れる 陰部から勢い良く小水が噴き出した

蝉には付き物だ 余分な水分は飛行の妨げなのだ

ミントは蝉に成りきった

ふざけているのでは無い 蝉になりたかったのだ

これから友の代わりに我が身に振りかかるであろう恐怖

人の心を殺したかった

夏の哀れな蝉は、今から蟷螂の集団に捕食されるのだ

何も考えたくない 蝉になりたかったのだ

 

「ミ~ンミンミンミ~ン!」

 

より高くミンミント蝉が鳴き声あげる

生きた証をこの夏の夜に残すかの様に…

蟷螂達の気配を感じる

ミントの掴まる登り棒の下に集まって来た

ミンミント蝉は今一度、小水を噴射する

 

「うひゃぁ!?」

 

蟷螂の一匹が悲鳴を上げる

最後の意地だ 蝉のプライドだ

懐中電灯の明かりがミンミント蝉を照らす

 

(ヤンヤン… 幸せになってね! お祖父様… リオ… ごめんなさい…!)

 

やっぱり怖い…! ミントは力一杯登り棒を握り絞めた

 

 

 

「お嬢ちゃん、そんな所で何やってるの?」

 

それは予測に反し、落ち着つき包容力のある、紳士的な声だった

ミントは登り棒にしがみ付き、微動だにしなかった

 

「お嬢ちゃん、その格好はどうしたの? 降りて来てくれる?」

 

(誰が言うことを聞くものですか!)

 

「島ノ内02から本部~ 一丁目公園で全裸の少女を発見… 遊具の上で寄生を発し、隊員に対して放尿をして抵抗… 薬物中毒の可能性あり~」

 

(!?)

 

何者かに正確かつ事務的な報告をする声

ミントの脳裏にある光景が浮かぶ

恐る恐る視線を下に移す

ミントの予想は的中していた

警察官の衣装に身を包んだ三人が、登り棒の上のミントを見上げている

確かに目が合った

 

「お嬢ちゃん、もう大丈夫だからね~ 降りて来てね~」

 

「………………」

 

ミントは動かなかった 動けなかった

一体どんな説明をすれば良いのか…

全裸で公園の遊具によじ登り、蝉の真似をして放尿する…

これら行為に対する合理的な説明が、ミントには思いつかなかった

両者の間に流れるその沈黙は、ミントにとって永遠にも感じられた

 

(!?)

 

警察官の直ぐ後ろに立ち尽くす小さな影を認めた

 

「ヤンヤン… ヤンヤン…!」

 

ミントは声は感情の高まりから完全に裏返っていた

こうなったのも全てヤンヤンのせい ヤンヤンに説明して貰うしかない

 

「君は彼女のお友達かな? 姉妹かな?」

 

ミントの声によってその存在に気付いた警察官が、ヤンヤンに懐中電灯の明かりを向ける

 

「知らないですぅ! 怖いですぅ! 変態ですぅ! 早く逮捕して下さぁい!」

「!!」

 

ヤンヤンの信じられない返答

普段は見せないあどけない少女感を振り撒いて、ヤンヤンはその場から駆けて行った

ミントはただ呆然とその後ろ姿を見送る事しか出来なかった

 

「島ノ内02から本部~ 少女は精神疾患の可能性もあり… 黄色い救急車の手配を求む~」

 

そうだ… その手があった…

ミントは再び登り棒を掴む手に力を込める

精神病患者になろう… 精神病なら全裸で蝉の真似をしても仕方ない…

 

「ミ~ンミンミンミ~ン! カナカナカナカナ…!」

 

ミンミント蝉はこの日一番の大鳴きを響かせた

夜の住宅地に響く哀れで無様な蝉の声…

ミントはこの年の夏を、鉄格子付きの窓のある病院で過ごす事になるのだが、それはまた別の物語である

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