『パチンッ』
黄楊駒が盤面を叩く乾いた音が和室に響く
「後手、5六銀打つ…」
ヤンヤンの動きが止まる
玉頭に叩き込まれた搦め手
鉄壁を誇った美濃囲いが急速に崩壊して行く
(ヤンヤン…)
柱に縛りあげられたミントは不安気な視線をヤンヤンの背中に向ける
「先手ヤンヤン、持ち時間を使い切りました これからは一手30秒以内にお願い致します… 10秒… 20秒… 5、6、7、8…」
『パチンッ』
口元に添えられていたヤンヤンの右手が、電光石火の動きで駒台の上をかすめ、基盤に増援を叩き付ける
「先手、5八香打つ…」
完全に劣勢に回ったヤンヤン
制限時間に追われて放った苦し紛れの一打
それは打った本人が直後に顔をしかめる明らかな悪手だった
先手番のミウたんは、相手の失策で転がって来た大きなチャンスに綻ぶ口元を必死に引き締め、摘まんだ角を露になった急所にゆっくりと進める
「後手、7九ワサビ角成…」
(あぁ…… )
ミントの祈り虚しく最初のアタッキングイニシアチブは後手の物になる
陰から現れた黒服達の手によって、信州安曇野産の高級ワサビが擦り上げられる
食欲をそそる爽やかな香りは、それだけで既に目頭を熱くする
そしてこんもりと擦り上げられたそれは、スプーンに掬われ、ミントの口内に強制挿入される
瞬間広がる仄かな甘味、間を置いて襲い来る強烈な辛味…
「ホゲェェェェェェッッ!!?」
思わず吐き出そうとするミントを黒服達が押さえる
吐き出されてはゲームにならないのだ
きっかけは無論ヤンヤン…
『手っ取り早く大枚を手にしてこの世のしがらみから解放されたい!』
そんなヤンヤンに無理矢理連れられ、参加させられたのが、この地下格闘将棋だった
二人一組で参加し、パートナーの肉体を担保に戦う闇将棋
勝者には大金を、敗者には壮絶な加虐を…
加害マニアを対象にした、恐るべき脱法ギャンブル将棋…
それは将棋歴3ヶ月のヤンヤンが挑むには、余りに無謀な戦いだった
「先手、1八玉…」
ヤンヤンは早めに玉を逃がしに掛かる
詰まれれば勿論敗退であるが、敗者ペアには社会復帰が困難になるまで加虐が行われるのだ
目と鼻の穴から体液を吹き出しながら、ミントは形勢の逆転を祈る
「後手、5八ムカデ馬…」
だが、アマチュア四段の期力を持つミウたんは攻撃の手を緩めない
ガラスケースにのたうつ百匹の大ムカデが、ミントのブラウスの襟元から注がれる
「うぎゃゃゃゃゃゃぁっっっ!!」
全身を這いずるムカデの感触に絶叫をあげるミント
「痛っ!? 痛っ! 痛いっ!!」
暴れた衝撃で、ムカデ達がミントの柔肌に大顎を食い込ませる
電気ショックを受けた様に身をくねらせるミント
早くも強制投了の危機が迫る
「先手、2八角打つ…」
何とか攻撃を凌ぎたいヤンヤン…
「後手、4九鼻フック馬…」
確実に寄せるミウたん
ネットに入れられたみずみずしい大玉スイカ
それが紐に結わえられ、ミントの頭頂部を経由してフックで鼻の穴に固定される
「ムリムリムリッ! 裂ける裂けるっ!! ヤンヤンもう無理っ!!」
己の頭程ある大玉スイカを鼻の穴で支えるミントの姿
それはとても世界有数の大富豪の息女には見えなかった
完全な詰路、誰の目にも投了は時間の問題に見えた…
ヤンヤンを除いては…!
「先手、9一虫歯氷馬成…」
「!!」
まさに好手
完全に前懸かりだったミウたんの隙を突いた痛快な一手
ニヤリとほくそ笑むヤンヤン
アタッキングイニシアチブを初めて取得する
ミウたんの後ろの柱に縛り付けられていた緑髪の少女、らむねの口が黒服によって抉じ開かされる
その左第二大臼歯に大きく空いたC3レベルの虫歯に、アイストングに摘ままれた氷の塊が押し当てられる
「びやぁぁぁぁぁっっっ!!」
神経節に直接押し当てられる摂取零度の結晶
らむねは小さな身体を激しく脈動させる
「ら、らむね!?」
「へ…… へ…… 平気だよ……… 」
圧倒的優勢からのまさかのアタッキング
言葉とは裏腹に危険な迄の痙攣を続けるらむねは、とても平気な様には見えなかった
「勝負はこれからよ!」
人差し指をミウたんに突き付け、ペロリと唇を舐めるヤンヤン
この日初めて、ミントはヤンヤンの背中を頼もしいと思った
『パチンッ』
「後手、2七くすぐり地獄馬… まで、48手を持ちまして、後手、ミウ選手の勝ちでございます」
「ちょっとヤンヤーーーンッ!!」
一斉に群がる黒服達 数十本の手が、ミントの脇の下や足の裏など敏感な部分をねぶり回す
「イヤァァァァッ!! ハハァァァッ!? ハハンッ! ヤメ…! ヤメテェェェ!! ウヒィィィィィッ!! シヌゥ!!」
早くも呼吸困難に陥ったミント
身体中の穴という穴から色んな体液を迸らす
だが、真の地獄はここから幕を開ける
敗者には壮惨な加虐を…!
「勝ちましたミウ、らむねペアには賞金を…!
敗れましたヤンヤン、ミントペアには…… 」
秋葉原のビックアップル…
なのはとフェイトのコスプレをしたミントとヤンヤンが男に話掛ける…
「ねぇ! 今どんな気持ち? 今日十回目のアースラが3ゲームで終了したけど、今どんな気持ち? もう八万円溶けてるけど、今どんな気持ち? ねぇねぇ! あっちのまどマギは全6みたいだけど今どんな気持ち!?」
ミントとヤンヤンに課せられた余りに残酷な加虐…
戦に敗れた紳士達のストレスの捌け口としてその身を捧げるのだ…
「う………」
終電が過ぎた秋葉原駅前に、顔面を酷く腫らした二人の少女が立ち尽くす
余りの顔面変形ぶりに、最早どちらががミントとヤンヤンであるか、判別が出来ない
ヨロヨロと覚束ない足取りで夜の街に消える二人…
(痛い? でも大切なものをとられちゃった人の心は、もっともっと痛いんだよ…)
そんな言葉が何処からか聞こえた気がした…