「緊張しているのかね、ミント?」
クラーク卿は傍らに立つ孫娘の様子を気にかける
間もなく始まるのは、クラーク卿主宰の社交会
ピンクのパーティードレスに身を包んだミントは、何度も汗を拭いながら落ち着きなく身体を揺らす
「緊張する事はない 普段の様に、元気に振る舞えばよい」
「は、はい お爺様… でもちょっとおトイレに……」
ミントは祖父に会釈をすると、足早に化粧室を目指した
ミントは社交界が苦手だった
物心ついた時には既にデビューしており、場数だけは踏んできたつもりだが、未だこの化粧とアルコールの匂いが充満し、大人達が見得とエゴを張り合う、上面だけを美しく装った欺瞞の世界に馴染めなかった
ミントは個室に籠ると、便座に腰掛け、大きく息を吸い込んだ
「是非とも家の倅を婿に…」
「流石はクラーク家の令嬢… 将来が楽しみね…」
パーティー会場の方々を巡り、スカートを広げてゲストに挨拶をして回るミントは、普段のおじゃまなプチセレブに戻っていた
「ミント… 今夜はさ… う、家に… 泊まっていきなよ!」
「えっ!?」
勇気を振り絞ったジャックの大胆な誘いに、ミントは赤面し俯く
友達以上、恋人未満…
久しく続いていたそんな関係が今、大きく変わろとしていた
初々しい二人は互いに二の句を発せず、ただただ沈黙の時を見送るばかり…
「ははっ… ごめん… 怒られちゃよね……」
漸く口を開いたジャックはやはり、押しの弱いウブな少年だった
(神様…… 勇気を下さい!)
今度はミントが勇気を振り絞った
ここで進展させなければ、二人は永遠に友達のままだ
ミントはジャックを自分だけの物にしたかった
「ちょっと…… 後で……」
「えっ?」
「1分たったら… あの銀杏の木の陰に来なさいよ!」
そう言うと、ミントはジャックを残して、銀杏の木の下へと走り出した
「ミント… 大丈夫? 具合悪いの?」
1分後、ジャックが心配の面持ちで銀杏の木の下を覗く
「はぁ… はぁ… ジャック… 来て……」
「ミ、ミント!?」
ジャックは目を見開いた
そこには全裸となった憧れの少女が、あられもなく股を開いて、己の生殖器を指で拡げるという、信じられない光景が…
「お泊まりは出来ないから…… ここで… 済ませて……」
上気し肌を染めたミントは、蕩けた様な虚ろな瞳をジャックに向けた
「ミ、ミ、ミントーーー!!」
若いジャックが理性を保てる筈がなどなかった
「午後の部でヘマしたら首だからね!」
「う、うん…… 頑張るわ……」
鬼の形相のヤンヤンにミントはたじろぐ
叱られるのは無理もない
ヤンヤン劇団の一員として各地の養護施設で芝居を披露してきたミントは、この日もプリキュアに変身する事が出来なかった
なんという事はない
「愛と正義の搾精戦士、キュアピンク!」
そう舞台の上で叫び、ポーズを決めればよいのだ
だがどうしても、ミントは子供達の前で変身の決め言葉を発する事が出来なかった
不幸な星の元に生まれ、荒み切った子供達の、射る様な視線に耐えられないのだ
「もうすぐ午後の部が始まるわよ! スタンバイして!」
ヤンヤンの激が飛ぶ
「う、うん…… ちょっと……」
「何処行くのよ!? もう開演よ!」
ヤンヤンの叫びを背中に受けながら、ミントは楽屋代わりの用具室を飛び出し、トイレの個室に籠る
「はぁ… はぁ… はぁ… はぁ…」
まただ…… また来た…… この黒いモヤモヤ……
不安と緊張に際悩まされ時、必ず心の隙間から沸き上がる黒い霧
これに心を飲まれると、例え様のない孤独感と絶望感に襲われるのだ
ミントはポシェットからハンカチを取りだし、額の玉の様な汗を拭う
その手が壊れたブリキ人形の様にガタガタ震える
駄目だとは分かっている
駄目だとは分かっているが、このモヤモヤから逃れる術は1つしかない
ミントはポシェットの奥からそれを取り出す
白く濁った液体を湛えたアンプルと、一本の注射器…
更に震え出した手で注射器を掴み、アンプルを狙うが、的が定まらない
「ウオッ! ウオォォォッ!!」
苛立ち、獣の様な唸りを上げてミントは注射器を持つ己の右手に噛みつく
ドス黒い雫が、噛み突いたミントの口元から幾筋も垂れる
それで幾らか治まった震えで、なんとかアンプルの中身を吸いだす
「はぁ… はぁ… はぁ… はぁ…」
注射器の針先から溢れる雫を見て、ミントの呼吸は更に荒くなる
もどかし気に左腕の袖を捲る
浅黒く変色した腕の中央に、ミントは勢い良く注射器をぶっ射す
「ふ…… ふぅぅぅぅ…………」
注射器の中身が挿入されていくにつれ、ミントの表情がドロドロに溶けだす
ミントは空を飛んでいた
ミントはプリキュアになっていた
愛と正義の搾精戦士、キュアピンク…
キュアグリーンのらむね、キュアインディゴの雛菊、キュアライトピンクのティナ、そしてキュアパープルのヤンヤン……
五人の搾精戦士が妖窟魔境と化したパーラーを舞台に、宿敵モエヨーブンの諭吉と精液を根こそぎ奪い取る冒険活劇
キュアピンクこと、ミントは大活躍だった
例え様のない万能感、押さえきれない高揚感
怖い物など、何も無かった
さぁ 続きは子供達の待つ舞台の上で…!
瞳の奥に炎を立ち上らせたミントは、トイレの個室から勢い良く飛び出す
「いい加減、変な薬やめなさいよっ!!」
ヤンヤンの愛の拳がミントの頬を捉える
ゴム人形の様にミントは吹き飛び、便座に顔を埋める
そこにヤンヤンが手配していた警察官が殺到する
「13時15分、ミント・クラーク… 麻薬取締法違反で逮捕… 」
ミントの痣だらけの左腕の手首に、重く冷たい手錠が掛けられた
当初は覚醒剤の仕様を否定していたミント容疑者
しかし取り調べの最中、禁断症状を発症し警察病院へと護送され、翌日、大筋で容疑を認めた
また、交際していたジャック容疑者(同容疑)の頭髪からも覚醒剤があり、警察は二人がキメセックスに及んでいたと見て、厳しく追及していく方針との事
ミントとコンビを組んでいたヤンヤンは、マスメディアの取材に対し…
「ヤンヤン劇団を除名するつもりはない 自分なりに彼女を支えてあげたい もう一度舞台で一緒にSEY YESを歌いたい」
などと述べ、ミントの演劇界復帰を後押しする考えを示した
パチスロ萌えキャラ界の薬物汚染は深刻な様だ…
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