マウンドの上で再三タイムを要請するミント
だが主審の村山は首を横に振るばかり…
(もう無理~…! お腹が~…!)
120センチの小柄な身の丈から投げ出される、時速40キロの山なりのボール
それがこれ程打ちずらい物だったとは…
公園でヤンヤンとキャッチボールに興じていたミントを中畑監督が見初め、崩壊しつつある中継ぎ投手陣の救世主としてスカウトしたのは2週間前
「私は彼女の才能に全幅の信頼を寄せている! 進退を賭けても構わない!」
マスコミの嘲笑とファンの罵声に中畑はそう答えた
いつも何か新しい物にチャレンジしたい… そう思っていたミントは監督の期待に見事答える
初登板の阪神戦でミントの超スローボールは、
相手のクリーンナップを3者凡退に打ち取る 一夜にしてプロ野球界のスターに登り詰めたミント
その後も順調にセットアッパーをこなし、ミントから山崎に繋ぐ必勝の逃げ切りパターンが形成された
そして今日、楽天相手の交流戦、みちのくシリーズ
試合会場の福島あづま球場は、楽天のホームであるが、中畑にとっても青春の汗を流した、思い出深い郷里の球場でもある
決して負けられない大一番
1点リードの8回、ミントはマウンドに上がった
だが、この日のミントはピリッとしない
ヒットと四球でノーアウト満塁…
ミントは激しい腹痛に苛まされていた
きっかけは多分、ヤンヤンが差し入れてくれたユニバG…
変な味がしたが、健康に良い天然バナバを使用した大変貴重な物だ、とヤンヤンに一気飲みを強要された
直後から下腹部に鈍痛が走った
本音では回避したかった登板…
だが、ミントもこの試合に懸ける監督の熱意を十分理解していた
自分が投げなければ、ヤマピー(山崎)がそれだけ長いイニングを… 勝利の方程式が…
けれども、ミントの闘志とは裏腹にボールに力が込もらない
下腹部の鈍痛は激しさを増し、刺し込む様な激痛へと変わっていた
これ以上、チームに迷惑を掛けられない…
遂に我慢出来ずにタイムを要請したのだった
「ふんっ 貴方が憎かったのよ!」
バックネットの裏から苦痛に顔を歪めるミントを見詰めるヤンヤン
本当なら、あの場所に立っていたのはアタシだった筈なのに…!
今一度、主審にタイムを要請するミント
既に内股で必死に何かを堪える情けない姿を曝していた
だが、非情にも村山は再び首を横に振る
ミントはすがる思いでつのキャッチャーの高城を手招きする
だが、高城は己の胸板をドンと叩いて、ミントに強気で行け、と激を飛ばす
(そ、そうじゃなくて~……!)
次いでベンチに目を遣る
監督なら自分の非常事態に気付いてくれる筈!
だが、目の合った中畑はゆっくりと頷き、ミントに強気で行けと合図を送る
(ち、違うの~……!!)
最早、ミントは一歩も動けない状態に陥っていた
排泄口を激しく殴打する熱いオロチを必死に宥め透かすのが精一杯であった
こんな大観衆の中で粗相をすれば、クラーク家の息女として切腹は免れない…
(だ、誰か… リリーフカーを… )
右手を宙に泳がし救いを求めるミント
「大丈夫か、ミント!?」
そんな彼女の背中に掛けられた優しい声
「ひ、飛雄馬さん!!」
普段から何かとミントを気遣ってくれた、チームのムードメーカー
やはり彼だけがミントの異変に気付いてくれていたのだ
「飛雄馬さん私… 」
グローブで下腹を抑えながら涙目で体の不調を訴えるミント
「強気で行けよ!!」
遠慮を知らない脳筋飛雄馬のボディブローが、ミントの秘孔を確実に突いた
『ブバババババッッッ!!』
最早遮る物は何も無かった
爆音と共にミントの横浜ストライプのズボンが鮮やかなミルクコーヒーの色に染まる
ゆっくりとマウンドに崩れ落ちるミントは、薄れ行く意識の中で思う
「このチームは後、20年は優勝出来ないわよ……」