IS~あの娘だけのヒーローに~<凍結>   作:カタヤキソバ

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第十話

 血と土に汚れた体を洗い、綺麗な服に着替えた一夏と簪は二人きりで居間にいた。

 

「一夏、傷は痛まない?」

「いや、それが不思議とどこも痛く無いんだ。これも、簪とこいつのお陰かな」

 

 そう言って一夏は笑い、手元のISコアを指で弾いている。

 

 あの後。

 士郎たちが庭の修繕やご近所への説明に奔走するなか、一夏と簪はこうして居間に放り込まれていた。

 

 一夏の監視の為だ。

 

 ーーーとは言え、別に一夏が危険だからとかそういう理由からではない。

 一夏は死の間際から生還したばかりだと言うのに、この騒動は自分のせいだからと事後処理に参加しようとしていたからだ。

 だが当然誰も一夏の提案を受け入れる訳がなく、放っておいたら勝手に何かし始めそうな一夏のお目付け役に簪が抜擢されたのだ。

 

 簪が選ばれた理由は、一夏の提案に一番強く反発していたからだ。

 それは一夏の事を心配しての事だったが、罪悪感もあるのだろう。一夏が死にかけたのは自分のせいだと、簪は思っていた。ーーーその逆に、簪が危険な目にあったのは自分のせいだと、一夏は思っているのだが・・・。

 

 それはともかく、一夏の心配を一番にしている簪が側に居るのが一番だろうと本音が提案し、士郎達は快く了承した。

 正直、本音に都合良くお膳立てされたと簪は感じていた。

 

 やっぱり私、一夏のことーーー。

 ・・・どうしよう。

 

 その事を考えるだけで、体が熱くなる。

 初めて会ったときから意識して、淡い恋心を抱いていた所に身を呈して守ってくれた。

 

 惚れない理由が無い。

 

 だがそんなこと一夏には分かる筈も無く、何やら突然赤くなった簪を心配して声をかける。

 ーーーピタッと簪の額を触りながら。

 

「簪、どうしたんだ?」

「ーーーヒャッ!?」

 

 つい、変な声が出てしまった。

 それを自覚して、簪は先程とは違った意味で赤くなる。

 

「い、いちか、何するの!」

「わ、悪い!体調が悪いのかと思って、つい・・・」

 

 簪はただ恥ずかしかったから離れたのだが、勢い良く離れた簪の反応に、一夏は申し訳無さそうに謝る。

 

「あ・・・。ーーーう、ううん。私の方こそ、ごめんなさい・・・」

 

 気まずい空気が流れる。

 お互いがお互いを想い合っているのだが、その方向性が見事に噛み合っていない。

 

 お互いにチラチラ見てはふいっと目を背ける。

 一夏はそんな空気に耐えられなくなり

 

「えっと・・・そうだ、簪はどこか怪我とかしなかったのか?」

 

 そう話題を切り出した。

 

「あ、うん・・・。私は大丈夫。その・・・一夏のお陰で」

 

 簪は嬉しさと申し訳無さの混ざった声音で答える。

 

「そっか、なら良かった」

 

 何気無く聞いた事なのに、その答えを聞いてホッとした。けれど一夏自身どうしてホッとしたのか、あまり良く分からなかった。

 

「・・・ねえ、一夏。どうして私を守ってくれたの?」

 

 どんな答えが返ってくるのか、正直不安だった。

 けれど同時にずっと気になっていた事でもあったから、聞かずにはいられなかった。

 

「どうして・・・か。どうしてなんだろうな」

 

 一夏は宙を見る。顔が向いているのは天井だが、その目は自分の内側に向いていた。

 

 守らなきゃ・・・いや違うな、守りたい・・・ならどうして。

 ヒーローになると決意したから?

 ・・・いや、あの時はそんなこと意識して無かった。

 なら勝手に体が動いた?

 それまで全く動けなかったのに?

 どうしてーーー

 

 ーーーどうして、簪だけは体を張ってでも守ろうとしたんだ?

 

 簪とはまだ会って一週間の仲だ。

 なのにどうして命を掛けようとしたんだ?

 俺は・・・ーーー

 

 一夏は自問する。

 これまでも、誰かのために奮闘したことはあった。

 しかし命を掛けてまで誰かを助けようとしたのは、これが初めての事だった。

 だから一夏は困惑しているのだ。

 もし姉の命と自分の命なら、姉の命を優先するかも知れない。

 しかし、一夏でも優先するとは言い切れない。

 あの時、モンド・グロッソの時に自分の命の重さと軽さは肌で感じた。近付いてくる死に恐怖した。

 だから死の恐怖は知っているつもりだ。

 けれど、今回は何の躊躇も無く危険の前に身を投げ出した。

 

 思えば、最初からそうだった。

 始めにゴーレムの腕が簪に延びたとき、一夏は簪を守ろうとした。

 あの時は士郎が割って入った為に事なきを得たが、あの時も士郎が居なかったら簪もろとも死んでいたかも知れない。

 だからーーー

 

「簪だったから・・・かも知れない」

「!」

 

 ーーーそうかも知れないと思った。

 

 そうだ、そう思えば後は簡単だった。

 だって始めからそうだったのだ。初めて会ったときからーーー

 

「俺は、簪に惹かれてたのか・・・」

「え、えっ!? い、いちか?」

 

 ーーー俺はこの綺麗な赤い目をした少女に、恋をしていたんだ。

 

 一夏は簪に向き直る。

 

「簪」

「は、はい!」

 

 一体何が起きているのか。訳が分からない簪は、混乱した頭で一夏に向かう。

 

「好きだ」

「ーーー私も大好きです!」

 

 ーーー何故に敬語?

 混乱した簪の頭は、まったく検討違いの事を考える。っと言うか、今一夏は何と言って、私は何と返した?

 えーっと、確か・・・ーーー

 

 ーーー理解して、簪を更なる混乱と興奮が襲う。

 え、ええええっ!? ま、マジで!?

 どうやら混乱は言語野にも影響を及ぼしているらしい。普段の簪では考えられない言葉で、この状況を理解する。

 

「い、一夏! ホントに? ホントに私のこと!?」

「ああ、勿論本当だぞ」

 

「ーーー・・・けど、一夏は私のせいで怪我をして・・・」

 

 簪は顔を伏せる。

 一夏の気持ちは嬉しい。この上なく嬉しい。

 けれど自分のせいで一夏が怪我をしたという思いが、簪の浮かれた心に歯止めをかける。

 

「それは違うぞ。俺は簪に怪我をして欲しく無くて、危険に飛び込んだんだ。だから簪が気にする事じゃない」

 

 それに、と一夏は続ける。

 

「俺は、簪のヒーローになりたいと思ったんだ」

「ーーーぁ・・・」

 

 嬉しかった。

 胸が締め付けられる。

 

 涙が、零れた。

 

「いちか、良いの・・・?」

 

 声が震える。

 

「ああ。俺に、簪を守らせてくれるか?」

「ーーーうん、うんっ!」

 

 一夏は簪の疑問に快答し、簪は一夏に抱きついた。

 

 少女の想いは少年を救い。少年の決意は少女を救う。

 そう、だからこれは少年と少女の英雄譚。

 

 悲劇から幸福への道のりの始まりだ。

 

「一夏ーーー」

「簪ーーー」

 

 見つめ合う二人はお互いしか目に入らずーーー

 

 

 

 

 

「お~い、二人と・・・も」

 

 ーーーガラッと本音が居間に入ってきて、二人きりの時間はこれで終わりだ。

 

 

 

 逃げる本音を羞恥心で真っ赤になって追いかける簪は、今までで一番幸せそうな顔をしていた。

 

 




 お読み頂きありがとうございました!

 一夏、気持ちに気付いたら一直線です。
 原作もさっさとヒロインズの気持ちに気付いて欲しいです。じゃないとずっとホモ疑惑が消えないぞ!


 東○「英雄には悲劇が必要だ」
 ーーーファイナルベ○トーーー
 東○「先・・・生・・・」

 悲劇はもう必要無いですよね。二人は十分苦しみましたから。


 批評や感想・質問などいつでもお待ちしておりますので、気軽にお願いします!

 では、次回をお待ちください!
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