少女は迷っていた。
せっかく六年振りに一夏に会えたというのに、あの女のせいで話しかけるタイミングを逃してしまった。どうする、今からでも一夏に話しかけるべきか?いや待て、ここは次の休み時間まで待って場の空気がもう少し穏やかになるのを待つべきではないのか・・・?
ーーーなっ!何だあのツインテは!一夏に馴れ馴れしく話しかけるだと!・・・ええい!ならば私もーーー
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「い、一夏・・・久し振りね」
「ん?ーーーおお! お前鈴か!」
あの銀髪の少女の宣戦布告?のせいでかなり気まずい空気になっていた一年一組だったが、そんな空気の中でも臆せず・・・と言えるかは微妙な所だったが、勇気を出して一夏に話し掛ける者がいた。
凰 鈴音《ファン・リンイン》。
名前から分かる通りの中国人で、一夏の幼馴染みの一人であり、中学二年の時に中国に帰ってしまって以来疎遠だった一夏の数少ない友人だ。
「久し振りだな!」
「・・・あんた、元気そうね」
「そう見えるか? これでもこの学園に来てからはずっと緊張してるんだぜ?」
「そういう意味じゃないわよ」
一夏はやれやれといった具合でそう話すが、鈴が言いたいのはそういう事では無い。今より昔の、一年前の一夏と比べてだ。
「あんた、ずっと苦しそうだったじゃない。だから私、中国に行ってからも心配で」
「・・・そのことだったらもう大丈夫だ。俺はーーー」
「一夏!」
鈴と話す一夏だったが、その間に割って入る者がいた。居ても立ってもいられなかったあの少女だ。
一夏は呼び掛けられた声に反応して振り向く。
「ん? ーーー箒? お前、もしかして箒か!」
箒と呼ばれた少女は一夏が自分を覚えていてくれた事が嬉しくて、つい気分が浮わついてしまう。
先程までの迷いも何処へやら、今は目の前の一夏しか見えていない。
「あ、ああ。ーーーひ、久し振りだな・・・」
「ちょっと一夏、誰よこいつ」
だがそれは箒一人の感情では無い。
鈴はせっかくの友人との再会を邪魔されたからか他に理由があるからなのか、その声は先程よりも弱冠低い。
「ああ、こいつは篠ノ之箒。昔話しただろ? 鈴と入れ代わりで転校して行ったっていう」
「ああ、あの・・・」
「・・・それで、お前は一体誰なのだ。随分一夏と親しそうだったが」
鈴は複雑な感情が入り交じった声音で呟き、反対に箒の口調は分かりやすく刺々しい。
だからと言って箒が喧嘩腰という訳ではなく、箒は元々そういう話し方だという事と鈴と比べて背が高い為に威圧感が有ることが原因である。
ーーーまあ、箒は人付き合いの経験が乏しいというのが一番の原因なのだが。
「こいつは凰鈴音。箒が転校してから仲良くなったんだよ。こいつにも色々世話になってーーー」
「(先に世話を焼いてきたのはあんたでしょ・・・)」
「ん? なんか言ったか?」
「何でも無いわよ」
一夏には何でもないと答えた鈴だが、その呟いた言葉は鈴にとって決して何でも無い事ではない。
鈴が思い出すのは転校初期の出来事だ。
慣れない日本で戸惑う私に最初に手を差し伸べてくれたのは、紛れもないあんたじゃない・・・。
だから私は、そんなあんたが苦しんでるのが我慢出来なくてーーー
「ーーーって、そんなことは良いのよ。私はあんたが最近どう過ごしてるのか気になってーーー」
だが悲しいかな。時間とは有限なもので、チャイムが授業の休み時間の終わりを告げる。
「・・・はぁ。一夏、また来るわね」
「ではな、一夏」
そう言って鈴はタイミングの悪い予鈴に落胆した表情で、箒は少し固い表情で一夏に声をかけてから席に戻り、一夏も返事をして正面に向かう。
あいつ、元気になってたわね。・・・私がいない間に何があったのよ・・・。
またやってしまった・・・。やはり空気が読めていなかっただろうか・・・。
鈴は知らない内に立ち直っている一夏に対して嬉しいような寂しいような複雑な気持ちを抱き、箒は人との距離感が上手く掴めず、一夏との再会に舞い上がって二人の会話に割り込んだ事を内心後悔していた。
「・・・・・・」
そして、一夏を険しい表情で見る生徒が一人。
「じゃあまたね、簪」
「うん。シャルロットも、またね」
仲良くなっているのも一組居た。
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「クラス代表を決めるぞ」
次の授業が始まった冒頭、千冬はそう切り出した。
「あの、クラス代表って何ですか?」
質問したのは鷹月静寐《たかつき しずね》
ショートの黒髪にピンを付けた真面目そうな見た目の生徒だ。
「クラス代表は所謂クラス委員だと思ってもらえば良い。普段は教師の手伝いをしたり、例年だとーーー・・・いや、何でもない。とにかく、クラスの顔になるものだと思ってもらって良い。自薦他薦は問わない、誰かいないか」
千冬が言い終わると生徒の間で次々声が上がる。
「はい、織斑君を推薦します!」
「私も織斑君が良いです!」
「私も!」etcetcetc・・・
「・・・やっぱりか・・・」
一夏は予想できたこの事態に肩を落とす。
学園で唯一の男だから色々注目されることは覚悟の上だったが、流石にこんな事まで押し付けられるのは我慢ならなかった。
「ふむ・・・。他に誰も居ないならクラス代表は織斑で決まりだぞ。どうだ、誰か居るか?」
「あの、俺はーーー」
「そんなこと、認められませんわ!」
突如教室中に響き渡った声により、姦しい喧騒は静まり返る。
一夏は最初一方的な選出に怒ってくれた人がいるのかと期待したが、振り返りその目を見て、全く違うことを理解した。
「・・・ほう。何が認められない、セシリア・オルコット」
千冬は目を細め、声を上げ立ち上がったセシリアという少女を見る。
それは見るものを震え上がらせる眼差しであったが、セシリアは頭に血が上っているのか気付かない。
「男がクラス代表など、このクラスの顔であるなど・・・、私は耐えられません!」
それを聞いて立ち上がろうとした人物は四人。
だがその内二人は一夏が立ち上がり手で制した為に座らざるを得なかった。
「・・・なんのつもりだよ」
「なに、私もその女に同意だという事を示そうと思っただけだ」
結果。立ち上がったのは一夏と銀髪の少女の二人だ。
「・・・そうかよ。ーーーで、オルコットって言ったか? つまり何が言いたいんだ?」
「ーーー決闘ですわ。男など、女の足元にも及ばないという事を教えて差し上げます」
セシリアは心底一夏を見下した表情で宣言する。
「では私もそれに混ぜてもらおう。教官、私とオルコットの二人も立候補します。なので代表は戦って決めれば良いかと」
取って付けたような尤もらしい理由を述べて、銀髪の少女は千冬に戦いの許可を求める。
「ーーーお前らっ・・・」
勝手に話を進める三人(特にオルコット、次にボーデヴィッヒ、一応一夏)に正直言ってぶちギレそうな千冬だったが、同時にここまでの話になったらやらせるしか無いことも理解していた。しかしそれでも、千冬には聞いておかなければならない事があった。
「ーーー・・・ボーデヴィッヒ、お前はどうして織斑を敵視する」
「当然、教官の為です。教官がおっしゃったのではありませんか、力があるものが正しいのだと」
「・・・ッ。ーーーそうか」
千冬は小さく溜め息を吐き、一夏に問いかける。
「二人はそういうつもりらしい。織斑、お前はどうだ?」
「当然、問題ありません」
「・・・ならば明日、アリーナでISを使った模擬戦を行う。三人とも準備を整えておくように」
この時間は自習にすると言い残して、千冬は教室を出ていき、その後三人は席に座り各々の作業をしていたが他の生徒は非常に気まずい思いをしていた。
ーーー 一、二度校舎が揺れたこともあったが、それの震源地が何なのか(何処ではなく)皆考えないように自習に集中していた。
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昼休み。
やっとの事で気まずい空気から解放された一年一組の生徒たちは、我先にと食堂へ向かった。
そして、残されたのはたった数人だ。
「箒、鈴、一緒に食堂行こうぜ!」
「あ、ああ!」
「・・・」
箒は嬉しそうに返事をするが、鈴は何やら元気がない。
けれど着いてくるには着いてくるので、一夏は取り合えず何も言わないでおいた。
そして簪と、簪と一緒にいる子と一緒に食堂に向かう。
簪と一緒にいる子はシャルロット・デュノアというらしく、フランスの代表候補生だそうだ。
学園の食堂は食券制で、欲しいものを選んで食券をカウンターに持っていくと、料理と代えて貰える。
一夏は焼き魚定食、簪はかき揚げうどんで、後は各々好きなものを選んでいた。
適当な席を選び、五人で座る。
「ーーーって、一夏!二度目だがこいつは誰だ!」
「ん? ああ、紹介してなかったな」
「更識簪です」
「俺の恋人だよ」
「何だ、恋人か。なら一緒に居るのも当然だな」
箒はうんうんと頷き、箸を取る。
「ーーーい、一夏の恋人だと!!!!!!!!!」
「はあ、やっぱりね・・・」
食堂中に、箒の悲鳴が木霊した。
お読み頂きありがとうございました!
遅くなって申し訳ありませんでした!
箒はアニメだとあんなんだけど、暴力さえ無かったら良い子なんですよ。暴力さえなかったら、ね・・・。
箒も保護プログラムで毎月違う地方の違う学校に移って、名前も変えて過ごしていたとか、マトモなコミュニケーション能力が育つわけ無いんですよね。
ウサギが悪いよウサギガー。
批評や感想、質問などいつでもお待ちしていますので、気軽にお願いします!
後、活動報告でアンケートを取りますので宜しければ見てやってください。
では、次回をお待ちください!