「こ、恋人とはどういう事だ!」
一夏の衝撃的な発言に、箒はテーブル越しに詰め寄る。
箒の声が大きかったせいで食堂中の生徒の意識が一夏と簪に向かっていた。
当然だ。なんせ一夏は学園で唯一の男子生徒で、個人的な気持ち如何に関わらず注目の的なのだから。
「やめなさい。みっともないわよ」
だが、身を乗り出した箒を鈴が座らせる。
「何をするのだ!」
「あんたの気持ちは分かるけど、今はやめときなさい。皆見てるでしょ」
「・・・くっ!」
一度は席に座った箒だったが、結局は昼食に殆ど手を付けずに席を立ってしまった。
一夏は呼び止めようとしたが、それは簪に止められた。
「・・・あの子とは私が話をしとくから、あんたは黙っときなさい」
「ーーー・・・なあ、もしかして箒って・・・」
昔なら気付かなかっただろうが、今の一夏には何となく箒の気持ちが察せられた。いや、察してしまえた。
一夏の呟きに鈴と簪は無言で頷く。
「マジかよ・・・」
一夏にとっては正に寝耳に水の出来事だった。
ーーーまさか箒が自分に好意を持っていたなんて。
「驚くのも無理無いわよ。あんた、あの子が転校して以来一度も会う機会が無かったんでしょ?」
それでもあんたを想い続けてたあの子が凄いわよ。
鈴にそうフォローされるが、一夏は驚きから抜けきれない。
「てか、どうして二人は気付いてたんだよ。今日会ったばっかりだろ? それに鈴は箒と違って驚いて無かったし・・・」
「あの子が分かりやすいからよ。それと、あんまり驚いてなかったのは何となくそうなんじゃないかって思ってたから。ーーー簪・・・って言ったっけ?あのオルコットとかいうのが一夏に食って掛かった時、あんたも怒ってたじゃない」
「・・・良く見てたんだね」
先程の授業の時、立ち上がろうとしたのは四人。
その内立ち上がった二人は一夏とボーデヴィッヒだったが、一夏に制され立ち上がらなかった二人は簪と鈴だ。
それに鈴は気付いていた。だから思ったのだ、あの子は一夏と特別な関係なんじゃないか・・・と。
鈴は鋭い目で簪を見る。簪は、その視線を正面から受け止める。
「・・・どっちから告白したの?」
「一夏から」
「・・・・・・あんたは一夏の事どう思ってる?」
「大好きだよ、この気持ちは誰にも負けない自信がある」
「・・・・・・・・・こいつの事、信頼してる?」
「心から」
二人は互いに無言で見つめあい、暫しの沈黙が辺りを包み込む。一夏そっちのけで視線を交わす二人に割って入る者はなく、一夏ですらそのやり取りには口出し出来なかった。
誰もが固唾を飲んで見守っている中、動けているのはシャルロットだけだ。彼女だけが黙々と昼食を食べていた。
「じゃ、いっか」
空気が緩む。
息の詰まるような二人のやり取りだったが、鈴は満足したのか、脱力して軽い口調になる。
「一夏はもう大丈夫みたいだし、私が言うことは何もないわね」
「けど、出来ればこれからも仲良くして欲しい。昔の一夏の話とか聞きたいから」
「もちろんよ。よろしくね、簪」
あの視線のやり取りで何を交わしたのか、二人は仲良さげに握手を交わす。
「じゃあ私は箒の所行ってくるから、あんたらはゆっくりご飯食べてなさい」
そう言うといつの間に食べ終えていたのか、鈴はさっさとトレーをカウンターに返しに行ってしまった。
「簪、鈴は何て?」
「一夏の事はあんたに任せる。・・・こんな所かな?」
一夏は食堂から出ていく鈴を見る。
鈴には世話になったと、本心からそう思っている。
一夏が辛い環境でも耐えられていたのは鈴の存在が大きく、鈴は周囲から辛く当たられる事の多かった一夏の味方をして、助けてくれた。
そんな支えの一人であった鈴が居なくなって一夏は重圧に潰されるようになったが、あのときの感謝の気持ちは変わらない。
「今度、手料理でも振る舞うか」
「そうだね、鈴も喜んでくれると思う」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
取り合えず一段落したとはいえ、依然食堂は変な雰囲気に包まれていた。
なんせ織斑一夏の恋人発覚。
思惑はどうであれ一夏を狙っていた女子も多いため、そのショックから抜け出せない子もそこそこいたからだ。
そんな中ーーー
「あ、ちょっと良いかな」
「ん? 何だ、シャルロット」
テーブルに着いている一夏、簪、シャルロットの三人の中で一人だけ食事の終わっているシャルロットが一夏に話し掛けた。
あの張り積めた空気の中で黙々と食べていたのだから当然なのだが、ある意味凄まじい胆力だと言えるだろう。
「実は僕、一夏に感謝してるんだ。だからありがとうって言っておきたくて」
「感謝って、何でまた」
一夏は疑問に思う。一夏とシャルロットは初対面で、それは間違いない。実は幼少期に出会っていて結婚の約束をしているとか、そういう過去は存在しない。
「デュノア社って分かるかな」
「ああ、ISの製造会社だよな?」
「世界で第三位のシェアを持ってる大企業でもあるね」
一夏と簪の答えにシャルロットはうん、と頷く。
「FNからも分かるように僕はそこの一人娘で、ここには元々一夏に近付く為に男として送り込まれたんだよ」
「! ーーー・・・? いや、どう見てもシャルロットは女だろ」
「一夏、何処見て言ってるの・・・?」
「ーーーいっ!? 何処も見てないです、はい!」
隣の簪に太ももをつねられる。
どうやら一夏の反応は簪の密かなコンプレックスを刺激したらしい。衛宮邸でも一番小さかったからね、仕方無いね。
「普通分かるよね」
シャルロットは苦笑する。
「けど社長・・・僕の父親は真面目に男として送り込もうとして、実際根回しもして書類も男で出しているんだ。だから学園に着いてーーー」
「ーーーいの一番に、織斑先生にデュノア社の企みを全部バラしちゃった」
「ーーー・・・はっ?」
すごく良い笑顔で話すシャルロットに、一夏の思考が停止する。
それ・・・ヤバくね?
「今の内にデュノア社の株を空売りしておけばかなり儲けが出そう」
どうやら簪も一夏と同意見らしい。
「僕はデュノア社でも良い扱いは受けてなくて、自分の思うままに生きるなんて出来なかったんだ。けど、良い加減自由になりたかった・・・。そんなとき一夏が現れて、僕には一夏に近付くよう指令が与えられたんだ。生体データの収集、あわよくば手込めにして来いってね」
けど、とシャルロットは続ける。
「チャンスだと思ったんだ。自由になるための最後のチャンスだってね。だから弟の事を心底溺愛してるって噂のあった織斑先生にデュノア社の企みを伝えて、デュノア社を潰してもらおうと思ったんだ。織斑先生も結構やる気みたいだったよ」
「ーーー僕は司法取引としてデュノア社の企みを暴露したから罪も問われる事も無いし、一夏のお陰で僕は自由になれたんだ。だからありがとう、一夏!」
「あ、ああ・・・。どういたしまして・・・」
すごく良い笑顔だった。満開に花開くような笑顔だった。けれど同時にーーー
怖っ!!
声が震える位怖かった。そういう笑顔だった。
「これから宜しくね、一夏、簪!」
けどまあーーー
「・・・よろしくな、シャルロット」
「よろしくね」
仲良くは出来るかなと、そう思わせる人懐っこさが会った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
放課後。
午後の授業も多少ピリピリしていたけれど特に問題が起きることも無く、一夏は解放感に包まれていた。
だが一点。箒が難しい顔をしているのが気がかりだった。けれど鈴からは今は放っておけと言われていたし、一夏自身も手を出して良いとは思えなかった。
箒からしたら自分を選ばなかった男に優しくされるなど、屈辱以外の何者でも無いだろう。
ーーー俺は簪を好きになった。今さらこの気持ちは揺るがないし、そんな気は毛頭無い。
とは言え友人として気がかりだというのも、一夏の偽らざる本心なのだ。
「一夏、帰ろ?」
「・・・そうだな」
この問題を一旦頭の隅にやり、一夏は部屋の鍵を掴んで簪と一緒に教室を後にする。
荷物は朝の内に部屋に運び込んであるし、誰と一緒かもすでに確認してある。
「よろしくな、簪」
「うん、よろしく一夏」
二人は当然の如く同じ部屋だ。
防犯の関係上一夏と親密な関係の生徒が良いだろうという話になったときに千冬が提案したものだが、何であれ二人は同じ部屋だという事が嬉しかった。
「一夏、明日の模擬戦はどう?」
簪は荷物を整理しながら訪ねる。
「白式の性能を最大限に発揮して、必ず勝つ。そうじゃなきゃ俺の為に怒ってくれた簪や鈴に申し訳が立たないし、士郎さんたちに鍛えられたんだ、負けられねぇよ」
「そうだね・・・。応援してるよ、一夏」
一夏は明日の模擬戦に焦点を合わせ、決意を新たにしていた。
お読み頂きありがとうございました!
鈴は多少恋愛感情は有ったけど、一夏が幸せならそれで良いか、といった感じです。
シャルは、私が一番お手軽に実家の問題が解決するであろう手段を取らせて頂きました。表でダメでも学園には更識がいますからね。何とでもなるでしょ(オイ
デュノアの行く末が心配されますね。
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