幻想郷。忘れ去られたモノ達が集う世界。そんな摩訶不思議な世界を管理する者。管理者、八雲 紫。そしてその式である八雲 藍。
外の世界と幻想郷の狭間に存在する彼女らの空間は決して何者にも侵されることのない空間である。である、はずだった。
「「────────!」」
結界で隔離されているこの場所に万が一誰かが入ってきた場合、彼女らはそれを察知することが出来る。動いたのは、式の藍だった。
「紫様。いかがいたしますか?」
「とりあえず無力化して連れてきなさい。処するかどうかはここにきた目的を聞いてからでも遅くないわ」
「御意」
スッと藍の姿が消える。
1人となった空間で紫は思案に更ける。
(この空間に足を運べるということはそれなりの力の持ち主ということか)
(荒事になった場合は、藍1人じゃ厳しいかもしれないわね)
犯人の目的は。能力は。様々な疑問を思い浮かべながら藍からの知らせを待つ紫の背後から藍が現れた。
「思ったより早かったのね。で、何があったのかしら?」
「そ、それが・・・」
その先を一向に口にしない藍を訝しげに思い、紫が振り替えると、出ていった時と変わらぬ藍がそこにいた。脇に目を回した少年を抱えながら。
「え?」
「ご、ごはん・・・」
「行き倒れみたいでして」
「あ、あらあらまぁまぁ」
流石の展開に紫も動揺を隠せず扇子で口元を隠しながらほほほ、と笑うしかなかった。
それから数時間後、ものすごい勢いで食べ物を腹に詰め込んでいく少年の姿がそこにあった。
その量は明らかに少年の体積を越えていたが、少年が食べる手を止めることは一向にない。
「藍お姉さん。おかわり!」
「ま、まだ食べるのか?流石にそろそろ・・・」
「次いつご飯食べれるかわからないから今食べときたい!藍お姉さんのご飯美味しいし!」
「そ、そうか?仕方ないな」
「藍、乗せられてるわよ。君、名前は?」
話が一向に進まない為、紫が話を切り出す。
「ないよ!」
「・・・・・どうやってここに?」
「んー覚えてない!気付いたら藍お姉さんに抱えられてた」
紫の眼がスッと細くなる。それは強者の眼だ。幻想郷の管理者である紫はこの少年が如何様な目的でここへと訪れたかを確かめなければいけない。例えそれが少年の心の尊厳を踏みにじる"最低な行為"だとしても。
「─────!? 」
数拍置いてから、紫が動揺を見せる。
「どうしたの?紫お姉さん」
少年に悟られるほどに動揺を隠せきれなかった紫だが、今は"そんなこと"は気にしていられなかった。数百年、もしくは数千年生きてきた紫にとってそれは初めてのことだった。
(私の能力が効かない!?)
紫の能力は万能であり、弱点と呼べるものはほぼ存在しない。それは長年生きてきた紫の中で経験に基づいて言える確かなことだ。
唯一その特性上、明と暗、白と黒をはっきりつけるという、物事をあやふやとする紫に対して正に天敵とも呼べる能力をもつ閻魔だけが紫は苦手だった。
だが閻魔に対しても能力が効かない、ということはなかった。無論に能力を行使されれば紫の能力は上書きされ、消えてしまうが通じることは通じるはずだ。
だが目の前の少年には効かなかった。最初からなかったようにかき消された。
(この子、もしかして能力を無効化する能力でもあるの?)
「紫様?」
藍の声に紫はハッとした。どうやら思案に更けすぎていたようだった。
「あ、あぁ。ごめんなさい。少し考え事をね」
「それでこの子の処遇ですが・・・」
「そうね。もう少し身柄を保護するわ。その後は・・・霊夢にでも任せようかしら」
「そうですね。そうしましょう」
人、それを丸投げといった。
(とりあえずこの子の正体がわかるまでは預かるしかないわね)
そうして名も無き少年は幻想郷の管理者の元への居候が決まった。
(二人とも何の話をしてるんだろう?)
本人を差し置いて。