八雲邸に突然現れた謎の少年。名前は無く、紫の能力が効かなかった。紫はとりあえず少年の正体がわかるまで八雲邸に住まわせることにした。(前回のあらすじ)
それから1週間が経った。その間にも紫は能力で様々な干渉を行ってきたが、どれか1つでも成功することはなかった。
藍は少年の素性を聞いた。曰く、親はおらず、今までは野宿で生活を送っていた。人食いの妖怪が蔓延る中で、生きていられたのは偶然か必然か。
そしてその日の晩だった。
藍がものすごい形相で紫の寝室を開けた。
「紫様!あの子が消えました!」
「・・・なんですって?」
寝てる中を起こされ、不機嫌そうに目を細めぐしぐしと目をを擦る紫。
「場所は掴める?」
「はっ!・・・っ!?」
藍がぴくりと肩を揺らす。
「どこにいるの?」
「南の────離れです」
「っ!急ぐわよ!」
そこにはかつて紫と闘争を繰り広げ、紫によって封印された妖怪がいる。自らの思うがままに力を振るい、妖怪とはこうあるべきと紫に説いた妖怪。人と妖怪の暮らす紫の理想郷を鼻で笑った妖怪。厳重な結界に守られているはずのあの場所に、何故少年が入れたのか。
自らの能力で空間と空間を繋ぐ。空間には割れ目が走り、中からは無数の目が紫を覗く。だが紫に躊躇いはなく、藍も続きその中へと入る。
目玉だらけの気味の悪い空間を一瞬で抜けると、そこには少年の姿があった。
「よ、よかった。間に合───」
「遅かった!」
藍の安堵の言葉を遮って紫は歯噛みした。少年の中に既にヤツはいる。
『おいおい何年ぶりだよ八雲。ちっとも変わってねえなぁ俺もお前も』
元気に走り回っていた少年の姿はそこにはなく、ゆらりとただただ暗く笑う少年の姿がそこにはあった。
『あの夢物語をまさか本当に実現させちまうなんてなぁ。流石は俺を封印しただけのことはあるぜ』
「今更ね。その子の身体を乗っ取ってどうするつもりかしら?」
『あん?決まってんだろうが。俺の妖気を徐々に慣らしていって俺の器にすんだよ!』
「させると思うかしら?」
『こいつは幻想郷の住人だ。いわばてめえの家族みたいなもんだろう?攻撃できるのか?てめえに?』
「っ!」
読まれている。動かそうとした手を止める紫。
『また弱くなったんじゃねえかぁ?』
「貴様ぁ!!」
「やめなさい!藍!」
激昂する藍を紫が止める。ここで藍が少年を攻撃してしまえばこの楽園は終わりを迎える。それは紫の夢が潰えることに等しい。
『くっくっく。まぁいいさ。今はこいつの身体を乗っとるのが第一だ。じゃあな、しばらくはこいつの中でゆっくりさせてもらうぜ』
その言葉を皮切りにパタリと少年が倒れる。
「どうやら気絶しているだけみたいですね」
少年を抱えながら藍が言う。
「そう」
藍の抱える少年からは抑えきれんばかりの妖力が溢れだし、あの妖怪が少年の中に確かに存在することを証明していた。
「藍・・・」
「どうしました?」
「私は、弱いのかしら?」
その直後、ハッとした紫はなんでもない、忘れてと藍に告げ寝室へと戻っていった。
「紫様・・・」