ソードアート・オンライン 仮想世界に降り立つ暁の忍 -改稿版-   作:鈴神

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第九十七話 ゆるぎないものひとつ

見渡す限り広がる、果てしない蒼穹。冬の冷たく清らかな空気が見せるこの景色は、この一年間の中で、最も澄んで見えていた。そんな青空を、詩乃は一人眺めていた。

 

「…………」

 

じっと見つめる先。視界全体を染める青一色を眺める詩乃の心中に思い浮かぶのは、同色の髪と目をした少女の姿。銃の世界たるGGOにおいて、氷の狙撃手として戦ってきた自身の分身――シノンである。次いで思い出されるのは、GGOでの戦いの日々。

強く生きたい……その一心で、銃を手に戦いの渦中へ飛び込み、多くのモンスターやプレイヤーを相手にしてきた。かつて、その姿に真の強さを感じた少年の面影を追いかけ、光剣を手にしたこともあった。しかし、それでも強くなれたとは思えず、戦いの中でレベルが上がるのみで、心が晴れることは無い日々が続いた。そして、その果てに、強大な対物狙撃銃たる『ウルティマラティオ・ヘカートⅡ』に出会った。

死の女神の名を冠する相棒との出会いに運命を感じたシノンは、これを最初で最後の相棒にしようと決めた。これを手に戦いに臨み続け、狙撃手として名が売れていった。そして、この銃を手に第三回BoBに出場を決めた矢先のことだった。

 

 

 

彼に、出会ったのは――――

 

 

 

「……!」

 

そこまで思い出したところで、詩乃は思考を現実へと戻した。この場所へ近付く、複数人の足音を聞き取ったからだ。上空へと向けていた視線を正面へと戻し、足音の聞こえた方向――校舎の北西端と、大型焼却炉の間の通路へと目を向ける。そこには、詩乃の友人“だった”、遠藤と二人の仲間たちが姿を現していた。三人は、詩乃の姿を見るや嗜虐的な笑みを浮かべた。

その反応を見た詩乃は、面倒だとばかりに溜息を吐くと、立ち上がって口を開いた。

 

「呼び出しておいて、待たせないで」

 

寒空の下で待たされた苛立ちを隠すことなく放たれたその言葉に、遠藤の取り巻き二人が舌打ちしながら前へ出る。

 

「朝田さぁー、最近マジちょっと調子のってない?」

 

「ほんとー、友達に向かってそれはちょっとひどくない?」

 

取り巻き二人の威圧するような視線に対し、しかし詩乃は臆することはなく、呆れの表情を浮かべていた。こんな嫌がらせにもならない嫌がらせに一々反応していては、限が無い。これ以上時間を無駄にするのも馬鹿馬鹿しいと考えた詩乃は、この三人のリーダー格である遠藤へと視線を向けた。対する遠藤は、口の端を釣り上げて捕食動物染みた笑みを浮かべると、予想通りの要求を口にした。

 

「別にいいよ、トモダチなんだから何言っても。それにお前、転校するらしいじゃん。どうせ、次の学校でもボッチなんだろうし……あたしらが友達続けてやるからさ。そんで、とりあえず……二万でいいや。貸して」

 

「あなたにお金を貸す気は、無いわ」

 

遠藤からの、恩着せがましい文句に次いでの、返す気ゼロの金銭の要求。それを詩乃は、即座に切って捨てた。そんな、非友好的かつ反抗的な詩乃の態度に対し、遠藤は対して丈夫でもない堪忍袋の緒が切れたのだろう。目を細めて詩乃を睨み付けると、声を荒げて怒鳴り散らす。

 

「……いつまでもチョーシくれてんじゃねえぞ。言っとくけどな、今日はマジで兄貴からアレ借りて来てんだからな。また吐かせるぞ、朝田!」

 

詩乃を脅迫しながら、通学鞄に手を突っ込む遠藤。ガサゴソと中を漁った後、大型のモデルガンを取り出した。しかし、実物は持って来てはいても、扱い慣れてはいないのだろう。覚束ない手つきのまま、詩乃へと構えた。

 

「これ、段ボールとか穴開けられんだぜ。絶対に人に向けんなって言われたけどさぁ、朝田は平気だよな。慣れてるもんな」

 

「…………」

 

詩乃のトラウマの象徴たる拳銃を手に、得意満面で邪悪な笑みを浮かべる遠藤達。詩乃の過去と、それ故に彼女が重度のPTSDを抱えていることを、遠藤達は知っている。故に、これを向けられたならば、このような反抗的な態度は取れない筈。遠藤達は、そう確信していた。

しかし、モデルガンを向けられた詩乃は、自身に向けられたモデルガンを前にして、微動だにしない。それどころか、モデルガンを持つ遠藤に対しては、まるで、つまらない物を見るような……憐れみにも似た感情が込められた視線を向けていた。そんな詩乃の態度に、さらに苛立ちを募らせた遠藤は、今度は引き金へと指を掛けて脅迫する。

 

「泣けよ朝田。土下座して謝れよ!ほんとに撃つぞテメエ!」

 

そう言い放つと、遠藤は詩乃の左足に銃口を向け、引き金を絞ろうとする。しかし……

 

「クソッ、何だよこれ!」

 

銃弾は、発せられなかった。引き金を絞ろうとするも、カチッカチッとプラスチックの小さなきしむ音が聞こえるのみである。

 

「ハァ……」

 

その、見ようによっては滑稽な遠藤の姿に、やれやれ、と言わんばかりに深い溜息を吐いた詩乃が取った行動。それは、自身に向けられる銃口へと歩み寄るというものだった。

 

「んなっ!?」

 

「借りるわよ」

 

弾が出ずに戸惑っていた遠藤に対し、静かに接近した詩乃は、有無を言わさずその手からモデルガンを奪い取った。グリップを握り、その銃身を眺めると感心したように、しかし平淡な口調で話しだした。

 

「1991ガバメントか。お兄さん、渋い趣味ね。私の好みじゃないけど」

 

短く、個人的なコメントとして、それだけ口にした詩乃は、次いで、銃身の左側面に手を回し、二か所の安全装置を外す。

 

「ガバメントは、サムセーフティの他にグリップセーフティもあるから、こことここを解除しないと撃てないわ」

 

続いて、親指でハンマーを起こす。硬い音と共にトリガーが僅かに持ち上がった。

 

「それに、シングルアクションだから最初は自分でコッキングしないとだめ」

 

モデルガンの扱いに必要な動作の講釈をした詩乃は、最後の仕上げとばかりに、両手でグリップを持ち、モデルガンを構えた。標的は、すぐそこにあったポリバケツの上に乗った、空き缶である。唖然とする遠藤をよそに、詩乃は六メートル程度離れた場所にある標的に照準を合わせ、引き金を引いた。そして、ばす、という銃声の半分にも満たない大きさの乾いた音とともに、オレンジ色の小さな弾が射出される。弾が命中した空き缶は、金属音とともにバケツの上を落ち、地面を転がった。

その様子を眺めていた詩乃は、やがて銃を下ろすと、今度は遠藤の方へと向き直った。対する遠藤は、先程までの威勢はどこへやら。モデルガンを持つ詩乃を見て、顔を引き攣らせて硬直していた。

 

「や、やめ……」

 

「……はい、返す。確かにこれ、人には向けない方がいいわね」

 

何でもない風にそう言いながら、詩乃はモデルガンのハンマーをデコックし、セーフティ二つを元に戻すと、遠藤の手にそれを戻した。取り上げられていたモデルガンをいきなり返された遠藤は、ビクリと恐怖に身体を震わせた。

モデルガンを遠藤へ返却すると、用は済んだとばかりに、詩乃はその場を後にする。残された遠藤はその場にへたり込み、取り巻き二人はその場に呆然と立ち尽くすばかりだった。そうして、三人が硬直から再起したのは、詩乃が立ち去ってから十数分後のこと。真冬の寒空の下、自分達の知らない詩乃の姿を目の当たりにした遠藤達は、心まで凍りつかせるような寒気を覚えていた。

 

 

 

 

 

遠藤との、恐らくはこれで最後であろう対話を終えた詩乃は、昇降口へ向かう途中、校舎の壁に手を付いていた。持病のPTSDによるものなのだろう。呼吸と心拍が乱れ、眩暈がする。今にも崩れそうな身体を支え、深く息を吸い込んで心を落ち着かせようとする。

 

「これが……最初の一歩なんだから……!」

 

あの事件を経て、ようやく過去と向き合えるようになったのだ。この場で倒れていては、今までと何ら変わらない。忌避してきた過去と己自身の姿をありのままに直視しなければ、前へは進めないのだから。

 

「最初の一歩にしては、無茶が過ぎるんじゃないか?」

 

「!」

 

前へ進むための覚悟を新たにしていた詩乃だったが、その背中へと唐突に声が掛けられる。その聞き覚えのある声を耳にした途端、持病による心拍の乱れは一発で治まり、過去のトラウマとは別の理由で動悸が発生する。ゆっくりと振り向くと、そこに居たのは、予想通りの人物だった。

 

「和人……学校の外で待っている筈のあんたが、何でここにいるのよ?」

 

詩乃の背後に立っていたのは、この学校のものではない制服の上に、黒いコートを羽織った少年。五年前からの知己であり、先日の事件で詩乃の命を救った恩人でもある、桐ヶ谷和人だった。

バイクで迎えに来てもらう約束をしていたが、集合場所は学校の外の駐輪場だった筈。一体、何故学校の中にいるのかと、詩乃の不機嫌を露わに問い掛ける。対する和人は、相変わらずの冷たい無表情のまま口を開いた。

 

「待ち合わせの時間になっても来なかったから、迎えに来ただけだ。そしたら、さっきの場面に遭遇してな」

 

「……見ていたのね」

 

詩乃の言葉に対し、和人は静かに頷いた。そんな、特に隠すつもりも無く、平然と首肯した和人の態度に対し、詩乃は若干顔を赤くした。遠藤達からのモデルガンの脅しを正面から受け、強気に出ていたものの、実際はこの体たらく。トラウマを完全に克服し切れていない、このように弱々しい姿は、絶対に見られたくはなかった。相手が和人ならば、尚更である。

 

「見ていたのは、お前がモデルガンを撃つところからだ。もっと早く来れば、助けに入ることもできたんだがな……」

 

「余計なことはしないで。これは、私の問題なんだから」

 

気丈に振る舞い、助太刀など必要無かったと言い張る詩乃。そんな、強がってみせる詩乃の姿に、和人は溜息を一つ吐いた。

 

「昔からそうだが、お前は何事も急ぎ過ぎる。俺でなくてもいい。もっと周りを頼って、ゆっくり進もうとは、思わないのか?」

 

「……私の問題なんだから、どんなペースで解決していくかも、私が決めるわ。それに……いつまでも、弱いままではいられないもの」

 

「どれだけ力を付けたとしても、何もかもを守れるとは限らんぞ。本当に大切なのは……」

 

「『己を許せること』、でしょう。そして、『一人でできないことがあるからこそ、それを補ってくれる仲間がいる』、だったわね。それが、あなたが前世の『うちはイタチ』として見出した答えなんでしょう?」

 

「ああ……その通りだ」

 

和人が口にしようとした言葉の本質。それを紡いだのは、詩乃だった。対する和人は、自身が伝えておきたいと思っていたことを、詩乃が明確に覚えていてくれたことに安心した様子で首肯した。

 

 

 

数日前に発生した事件が解決して一夜明け、状況が落ち着いた頃。事件に巻き込まれていた詩乃も精神的に安定したところで、和人は詩乃と二人で話をする場を設け、あることを語った。和人自身の過去……即ち、うちはイタチとしての前世である。

和人はこの世界に転生してからこれまで、うちはイタチとして生きた忍時代の前世について、他者に口外することを極力避けてきた。そんな和人が、自身の秘めたる過去を詩乃に対して告白しようと思った理由は、詩乃に異常なまでの強さへの執着を植え付け、危険な行動に走らせたことに負い目を感じていたことにある。

後に『死銃事件』と呼ばれた今回の事件。これに詩乃が巻き込まれたことに関して、和人に非は無い。加えて、被害者である詩乃本人も和人に対して恨み等は抱いてはいない。しかし、詩乃が過去のトラウマを乗り越えるために強さを只管に求め、GGOを始めたのは、五年前に苛められていたところを助けた、和人との出会いがきっかけである。つまり、和人が良かれと思って差し伸べた助けが、今回の事件で詩乃が巻き込まれる遠因となったとも言える。

故に和人は、詩乃に自信の前世を話すことにした。SAOをはじめとした数々の仮想世界の中で発揮された高い戦闘能力が、前世の経験によって裏打ちされたものであることは勿論、どれだけの強さを持っていても、本当に守りたいものは自分の手で守り切れず……己一人の力には限界が存在することを痛感した、それらの経験全てを語った。これ以上、詩乃が強さを追い求め、間違った方向へと走らないようにすることは勿論のこと。強ささえあれば、自分一人で何でもできると考える、かつての自分と同じ過ちを犯さないようにするために。

 

 

 

「けど、前世の忍者の記憶そのまま引き継いでいるなんてね。道理で強い上に、妙に達観していたと思っていたわよ。まあ、最初に聞いた時には唖然としたけど……今なら全部、納得できるわ」

 

「直葉にも似たようなことを言われた。あいつや周りにいた他の人間から見て、俺は色々と規格外で異質な存在だったそうだ。忍の前世があったと告白したが、簡単に信じてくれた。むしろ、今までが今までだったから、納得できたそうだ」

 

義妹に前世のことを告白した際のコメントを思い出した和人は、額に手を当てて頭が痛いとばかりの表情を浮かべていた。直葉が納得していても、和人本人が納得できない納得のされ方だったのだろうことが窺い知れた。そんな、少しばかりショックを受けた様子の和人を見て、詩乃は思わず苦笑した。恐らく、和人の前世を簡単に信じたと言う義妹も、今の自分と同じ気持ちだったのだろう。普段は冷徹そのものでまるで動じない和人を少しだが凹ませたことに、詩乃は満足感を得ていた。

 

「でしょうね。ま、あなたもそっちの世界では色々あったみたいだし……無理も無かったのかもね。ともあれ、経験豊富な年長者の助言は、素直に受け入れることにするわ」

 

「そうしてくれ。それじゃあそろそろ、行くか」

 

「ええ。目的地までは、よろしく」

 

和人に促され、校門へ向かう二人。和人が前を歩き、詩乃がその背中に付いて行く。本来ならば、校舎に詳しい詩乃が先導して和人を案内するべきなのだろうが、和人はここに来るまでの道筋を既に覚えており、その必要も無い。そして、詩乃もまた、和人の背中を見ていたいと思っていたのだ。

こことは別の世界で、多くの体験をした記憶をそのまま引き継ぎ、数々の戦いに身を投じ続けてきた、強く大きな背中を……

 

「…………」

 

「詩乃……?」

 

ふと、左手に覚えた温かな感触に、横目で後ろを振り返る和人。そこには、和人のすぐ傍を歩きながら、和人へと右手を伸ばし、その手を握る詩乃の姿があった。

 

「詩乃?」

 

「場所を知っているのはあなただけなんだから……案内を、お願いするわ」

 

顔を赤くして目を逸らしながら、詩乃はそれだけ口にした。緊張していた所為か、詩乃は自身の声色と、和人の左手を握る右手が微かに震えていたことを自覚していた。

異性の手を握るという行為自体初めてだが、それだけが緊張の原因ではない。詩乃の右手には、五年前の銀行強盗事件の際にできた、小さな黒子がある。拳銃の引き金を引いたことによって、火薬の微粒子が肌に侵入してできたこれは、詩乃の犯した罪の証として、今もそこに在り続けている。

そして、詩乃の過去を知る和人もまた、この黒子の存在を知っている。故に、人殺しの証が刻まれたこの右手が、拒絶されるのではないかと感じたのだ。無論、相手が和人であれば、そんなことは考えられない。それでも、今までが今までだったために、詩乃の中で不安は拭えなかったのだった。だが、当の和人はといえば……

 

「分かった」

 

ただ一言、それだけ口にすると、詩乃の手を引いて歩き始めた。詩乃の右手に刻まれた黒子のことなど、まるで気にせず、繋いだ手もそのままである。

 

「……ありがとう、和人」

 

詩乃の全てを知った上で、受け入れてくれた和人の優しさが嬉しくて、感謝の言葉が思わず零れた。寒空の下で吹く風の音により、霞んで消えてしまいそうな声で呟いた言葉は、しかし和人には届いていたらしい。詩乃が握った右手は、ぎゅっと優しく温かく、握り返された。

その後、和人と詩乃は二人揃って手を繋いだまま校門へと向かうのだった。しかし、いざ校門を通って外へと出ようとした時だった。二人の姿を、詩乃とそこそこ仲の良いクラスメート達に発見されたのだ。

 

「おい、詩乃……」

 

「……案内、してくれるんでしょう?」

 

奇異と興味の視線を肌で感じ取った和人は、すぐに手を解こうとしたのだが、詩乃は決して放そうとはせず……むしろ、より密着する形で寄り添う形を取ったのだ。

結果、二人は傍から見て恋人としか見えないような状態で校門を通ることとなり……その様子を終始見ていた生徒たちから生温かい視線を向けられることとなるのだった。

 

「こんな真似したら、誤解されるぞ……」

 

「私は構わないわよ。どうせすぐに転校するんだし」

 

手を解くどころか、がっちりホールドして放さない詩乃に対し、和人は頭痛を覚えた。一体、どうしたものかと内心で戸惑いを感じながら対策を考える和人だったが、詩乃はその内心を悟った様子で、悪戯な笑みを浮かべて口を開いた。

 

「私より、和人の方が焦っているのは、どういうわけかしら?もしかして、この場面を見られて困る人とかいたりするのかしら?」

 

「…………」

 

詩乃の言葉に対し、下手な反論も口にできない状況に置かれ、沈黙を貫く和人。そんな和人の態度を見て、詩乃は常の無表情に浮かべた笑みをより深めた。表面上は冷静ながらも、内心では多いに困惑しているであろう和人の様子を見て、自身の悪戯が成功したことに満足感を得ている様子だった。一方、疑う余地も無く確信犯な詩乃の行動に、和人は無表情を装いながらも尚頭を痛めるのだった。

 

 

 

 

 

「着いたぞ。ここだ」

 

「ここって、かなり高いお店なんじゃ……」

 

和人にバイクに乗せられて案内された場所は、銀座四丁目に建つ、見るからに高級そうな喫茶店だった。扉を潜ると、白シャツに黒蝶ネクタイのウェイターに出迎えられ、深々と頭を下げられた。店内の客もまた、高級感溢れる店のイメージ通り、ブランド品で着飾った買い物帰りのマダムばかり。普段暮らしている世界とはかけ離れた空気に満ちた空間に立ち、詩乃はどう振る舞えば良いのか、内心で困惑していた。

一方、隣に立つ和人は、この空間の中にあっても、常と変わらずに緊張や動揺が全く感じられない。ここは、彼に先導してもらおう。そう思い、袖を引っ張って目線で助けを求めようとした、その時だった。

 

「おーいイタチ君、こっちこっち!」

 

「……待ち合わせの相手です。案内をお願いします」

 

場の空気をまるで読まない、店の奥から響いた大声での呼び出し。それに対し、和人は目に見えて呆れた様子で口を開いた。詩乃もまた、若干唖然としてしまっていた。

 

「行くぞ、詩乃」

 

「え、ええ……」

 

動揺を隠せない詩乃を伴い、店の奥へと進んでいく和人。和人と詩乃の学生服姿は、店内の雰囲気にはそぐわず、来店した客達の注目を集めていた。和人は特に気にすることはなかったが、詩乃は若干居心地が悪そうに店内を歩く。そして、待ち合わせ相手である、ダークブルーのスーツに身を包み、黒縁眼鏡をかけた長身男性――菊岡誠二郎の向かいの席へと座った。

 

「さ、何でも頼んでください」

 

「それでは、お言葉に甘えて……」

 

菊岡に促された和人は、言葉通りまるで遠慮した様子が無く、メニューを開いてケーキ類を次々注文していく。甘いものには目が無いのは相変わらずだな、などと思いながら、詩乃もまたメニューを開いて注文しようとした。しかし、メニューに記載された数値が四桁のものが過半数を占めていることを認識すると、詩乃が日常的に利用している喫茶店との次元の違いに凍り付いた。果たして、これを自分が注文して良いのだろうか、と。

そんな詩乃の内心を察したのか、注文を終えた和人が背中を押すように話し掛けた。

 

「遠慮することはない。国家公務員の懐は、金が有り余っているわけだからな」

 

和人の無遠慮で容赦の無い後押しに、菊岡は顔を引き攣らせるばかりだった。本当に大丈夫なのかと疑問を感じた詩乃だったが、ここは和人の言葉に乗ることにした。流石に和人ほど好き勝手に注文することは敵わなかったが、美味しそうと感じた、そこそこ高いケーキと紅茶を注文した。

 

「さて、そろそろ話を始めようと思うのだけれど、その前に……」

 

そして、一同の注文が一通り終わったところで、菊岡は佇まいを直すとともに、詩乃の方へと向き直った。その表情は、常の飄々とした態度とは違う、大人の真剣さが感じられた。

 

「朝田詩乃さん。この度は、こちらの不手際で朝田さんを危険に晒してしまい、本当に申し訳ありませんでした。」

 

「い……いえ、そんな」

 

「全くですね」

 

深々と頭を下げて謝意を示す菊岡に対し、詩乃は慌てた様子でどう言葉を掛ければ良いかと逡巡する。だが、詩乃が言葉を紡ぐより先に、和人が容赦なく菊岡の謝罪を切って捨てた。

 

「そもそも今回の事件は、現実と仮想世界での事象を混合した推測に凝り固まった思考に囚われなければ、未然に防ぐことは可能だった。ALO事件の時といい……間が抜け過ぎているとは思いませんか?」

 

以前発生した事件を引き合いに出し、菊岡をはじめとした総務省仮想課の対応を痛烈に皮肉る和人。急所を抉るような容赦の無い批判に対し、菊岡は苦々しい表情を浮かべながら顔を上げた。

 

「そうは言うけどね、和人君。君だって今回の事件には、僕が依頼するより前から関わっていたんだろう?それこそ、彼女に危険が迫るよりも前に、事件を未然に防ぐことは十分可能だったんじゃないかい?」

 

「責任転嫁で言い逃れですか。まあ、詩乃を危険な目に遭わせたという点では、俺も同罪でしょうが……それにしても、仮想世界を管理する役割を担う国の組織が、少し見方を変えればすぐに行き着くトリックに考え至らないというのは、どうかと思いますよ」

 

「ぐぅっ……言ってくれるね、イタチ君。けど、最初からトリックを見抜いていたのなら、正直に僕に教えてくれてもよかったじゃないか。そうすれば、君の依頼人と協力して、もっと事件を円滑に解決することだってできただろうに」

 

「あの時も言った筈ですが、俺には依頼の内容を外部に漏らさないという、守秘義務があったんですよ。依頼人の方も、捜査に関わる人材は予め決めた以上の人員を導入するつもりはありませんでしたから、協力することは無かったことは明白です。それに、如何に国家公務員といえども、殺人のトリックが憶測の域を出ない状況では、GGOプレイヤーの個人情報を収集することはできなかったでしょう?」

 

「ぐぬぬ…………!」

 

菊岡の反論に対して、和人は全くと言って良い程悪びれる様子が無い。否定できない、痛い点ばかりを突かれ、有無を言わさず和人によって一方的に無能の烙印を捺される菊岡。だが、事実と理解しているためか、遠まわしに自分のことを役立たずと言われているにも関わらず、低く呻き声を出すばかりだった。

今回の高遠が用いたトリックは、仮想世界のアバターと現実世界の生身の肉体を同時攻撃して、両世界で同時に死を齎す『死銃』を演じるというもの。このトリックを実行するためには、標的の住所情報が必要不可欠となる。そこで高遠は、ゲーム内でメタマテリアル光歪曲迷彩機能を持つマントと双眼鏡を利用した、個人情報の盗み見トリックを教唆した。BoBに限らず、個人情報を端末に打ち込んで参加するイベントはGGOにおいては多数存在するため、計画決行日までに標的全ての住所情報を獲得するに至ったらしい。

そして、これに対する竜崎ことLが投じた策は、死銃達の先手を打ち、ターゲットの自宅へ不法侵入した水際で介入し、犯人を確保するという手段だった。ただし、この手段で犯人全員を燻り出すには、ゲーム世界の死銃には殺人計画が滞り無く進んでいると、最後まで誤認させる必要があった。そのためにLは、腹心であるFことファルコンに対し、GGO日本サーバーへのハッキングを命じたのだった。高遠が操る大会中に発生した死銃の銃撃と共に起こった回線切断も、ファルコンがハッキングによって再現したものだった。

だが、如何に人命を守るためとはいえど、手段は犯罪そのものであり、とても褒められたものではない。和人もまた、これを容認していた立場にある以上、本来ならば、菊岡を一方的に責め立てる資格など無いのだ。それでも尚、菊岡に対して負い目を感じた様子を一切見せずに、淡々と痛烈な返しを繰り出すのは、一重に弱みに付け入る隙を与えたくないという、拒絶の意志があるからだった。

 

「まあ、こんな話を蒸し返しても何もなりませんね。それより、今日この場に集まった本題……『死銃事件』の処理についてお聞かせ願えますか?」

 

「……話を逸らしたね。まあ、良いよ別に。けどまさか、死銃の殺人が複数犯によるものだなんて、思いもしなかったけどね……君の言う通り、単純過ぎるトリックなのに……盲点だったとしか言い様が無いよ」

 

「まあ、それこそが高遠の狙いだったんでしょうからね。あなたはおろか、明日奈さん達にも通用しなかった点からしても、SAO事件関係者相手には、非常に効果的なトリックだったのは明らかですね」

 

大部分の人間がトリックの看破に至らなかった最大の理由は、捜査関係者の大部分がSAO事件関係者だったことにあると、和人は考えている。SAO事件の衝撃の大きさゆえに、今回の事件においても皆が皆、同様の方法で人を死に至らしめている可能性を考えていた。即ち、高度な電子的な仕掛けを疑っていたのだ。

加えて、重度のVRゲーマーが、連日のフルダイブによる脱水症状で衰弱死する事件が多発する社会事情が背景にあったことも大きい。司法解剖がされないのでは、事件性を疑うことはできても、確証までは得られない。

これまで、数々の難事件をプロデュースしてきた地獄の傀儡師が考案した計画にしては、シンプル過ぎるトリックと計画だった。しかし、関係者の心理の裏を突くという意味では、これ以上無い程に効果を発揮していたのだ。思考の硬直を利用し、水面下で犯行を行う手法は、マジシャンらしいとも言えただろう。

 

「まあ、トリックの話はこれくらいにして……その容疑者達についても一応確認したいんだけど、いいかな?」

 

恐る恐る、慎重に確認を取る菊岡が視線を向けているのは、和人ではなく、隣に座る詩乃の方だった。しかし、容疑者の話について触れると聞いた時、詩乃は僅かに表情を強張らせたのみで、比較的落ち着いた様子だった。

 

「大丈夫です。それに、私も知りたいんです。新川君が、あの後どうなったのかを」

 

「……分かった。それじゃあ、まずはその彼――新川恭二君のことから話していこう」

 

今回の死銃事件において、現実世界側の死銃として、詩乃の殺害を担当していた犯人の一人、新川恭二。彼が今回の殺人事件に及んだきっかけを作ったのは、プロデューサーである高遠遙一ではなく、兄である新川昌一の存在だった。

新川昌一――――またの名を、『赤眼のザザ』。かつてSAOにおいて、殺人ギルド『笑う棺桶』の幹部として名を馳せた幹部の一人である。イタチとは、殺人ギルド結成以前からの因縁であり、幾度となく死闘に臨んだ宿敵である。

昌一は、そんなSAO時代にザザとして自身が繰り広げた殺戮劇を、弟である恭二にのみ語ったという。対する恭二は、常人ならば嫌悪と恐怖を抱く筈が、逆に憧憬を抱き、その所業を英雄視したという。その背景には、両親からの過度な期待や、それに反して低下する成績、上級生からの恐喝等、数々の重圧があった。そんな過度に抑圧された環境下に置かれた恭二にとって、昌一の話は解放感と爽快感を齎すものだったらしい。

 

「そこへ現れたのが、新川昌一を使って新たな事件を画策していた、高遠というわけですね」

 

「地獄の傀儡師と呼ばれる高遠にとって、彼のように心に闇を持った青少年は、まさに格好の傀儡だったんだろうね。この計画に誘われた時、彼は喜々として引き受けて、父親の経営する病院から劇薬と合法マスター電子錠を盗み出したと言っていた」

 

「言っていた?」

 

「これらは全て、兄である新川昌一と、彼等の父親の証言に基づく話なんだ。逮捕された容疑者達は、ほぼ全員が自身の罪を認めて聴取に応じているけれど、彼だけは未だに黙秘を続けていてね」

 

計画全てが潰えた今、黙秘を続ける理由があるとすれば、現実を受け入れることを拒絶しているか、受け入れきれずに錯乱状態にあるかの二つだろう。菊岡の話を聞く限りでは、後者である可能性が高い。

 

「まあ、仕方ないでしょう。彼は今回の計画に全てを捧げ、自身の復讐と成し遂げ、死銃を伝説化しようとしていたのですから。計画の失敗は彼にとって、世界の終わりにも等しかったことでしょう」

 

「と、言うと?」

 

「新川恭二が今回の事件に及んだ理由には、現実世界の重圧に加え、GGOにおけるキャラクターの育成に行き詰まったことがあったそうです。現実逃避のためのゲームが、逆にフラストレーションを加速させ、死銃事件に彼を駆り立てた一面もあったんですよ」

 

「ちょっと待ってくれ。ゲームは通常、ストレス解消のためにやっているものだろう?それが、逆にストレスになったというのかい?」

 

和人の説明を聞いた菊岡は、理解できないとばかりに戸惑った様子で問いを口にしていた。対する和人は、相変わらず冷静な様子で説明を続けた。

 

「ゼクシードを殺害した時の発言からも、それは明らかです。彼にとっては、キャラクター育成の失敗の原因となったAGI型万能説を唱えたゼクシードをはじめ、STR特化型ビルドのプレイヤー全てが悪であり、抹殺対象だったわけです」

 

「何と言うか……それはもう、現実とゲームの区別が付いていないということなのかな?」

 

「ゲーム世界においては、ステータスの振り方に関する揉め事は日常茶飯事であり……それは、SAOにおいても同様でした。ただし、彼のように現実とゲームの区別が付かなくなるケースに発展することは、早々無い筈です。今回は、高遠がそこに付け入ったことも大きかったのでしょう」

 

和人の説明に対し、絶句したように硬直する菊岡だが、その反応も当然と言えば当然だろう。仮想世界に関する……主にVRゲーム関連のトラブルを解決する仕事に従事しているとはいえ、ここまで深刻な問題に発展するケースは、菊岡にとって初めてだった筈。ゲーマーの闇に萎縮してしまうのも、無理は無かった。

 

「あの……新川君……いえ、恭二君は今、どんな状態なんでしょうか?」

 

そんな中、詩乃は逮捕された恭二のその後について尋ねることにした。殺されかけたとはいえ、かつては友人同士だった少年である。最後に会った逮捕現場においては、これ以上無い程に錯乱していただけに、その後の状態が気になっていた。また、自分がその精神の危うさに気付いていれば、止められたかもしれないという、後悔も少なからず感じていた。そのため、出来ることならば、彼の現在の精神状態について知りたいと思っていた。

 

「僕が聞いた話によれば、聴取の時やそうでない時を問わず、質問にはほとんど応じず、一日中脱け殻のように宙を見つめて呆然としているらしい。食事はきちんと取っているから、死ぬことは無いだろうけど……彼の心は未だに不安定みたいだね」

 

「そう、ですか……」

 

菊岡から恭二の話を聞いた詩乃は、落ち込んだように声を発した。黙秘を続けているということから、ある程度は予想していたが、彼が現実に戻ってくるのは、まだ遠い先の話になりそうだった。

 

「まあ、君も関係者だったとはいえ、深く気に病む必要は無い筈だよ。まあ、彼が君のところに行く前に、ゲームの中で“あんなこと”があったとはいえ、ね」

 

「!」

 

菊岡が悪戯な笑みを浮かべ、揶揄するように放った言葉に、詩乃の顔が見る間に赤く染まった。確かにあの日、詩乃に好意を寄せていた恭二の暴走を誘発するような行為を、詩乃はゲームの中でしていた。そして、事件の詳細を知る菊岡ならば、それを知っているのも当然である。

顔を赤くして、羞恥に身を縮こまらせる詩乃の姿に、菊岡は愉快そうな笑みを浮かべていた。良い大人が、女子高生をからかっているその様子は、知らない人間が見れば、誤解を招きかねないものである。だが、菊岡本人は気にした様子は無く、詩乃は気付く余裕すら無い。

 

「真面目な話をしているのですがね、菊岡さん」

 

そんな空気を破ったのは、詩乃の隣に座る和人だった。その顔には、呆れの色が浮かんでいる。

 

「ふふ、しかし君も、隅に置けないねえ。仲の良い女の子なら、他にもたくさん……」

 

「菊岡さん」

 

「……いや、スマナイ。ふざけ過ぎた」

 

菊岡に向ける和人の視線に、呆れの色に加えて殺気が宿り始めた。流石の菊岡も、和人の苛立ちに危険なものを感じたのか、先程までのふざけた態度を改めることにした。

 

「話を戻しましょう。新川兄弟の事情については分かりました。他の容疑者達……それから、被害者達については、どの程度分かっていますか?」

 

「ああ、そうだったね。新川兄弟以外の容疑者についても、一応の事情聴取は済ませて、動機については確認済みだよ。新川昌一以外で本選参加組に属していたのは、三人みたいだね」

 

「ヒトクイ、スコーピオン、呪武者ですね」

 

和人が口にしたプレイヤーネームに頷いた菊岡は、次いでリストアップされた容疑者達の、各々の詳細について説明していく。

 

ヒトクイ――本名『風戸京介』。SAO時代のプレイヤーネームは、『スケアクロウ』。現実世界では敏腕の若手外科医だったが、SAO事件に囚われ、出世コースを外れたことに絶望。レッドプレイヤーに身を落としたという。模倣技術に優れ、無実のプレイヤーに殺人容疑を着せる事件に加担してきた策略家であり、『コピー剣士のスケアクロウ』と呼ばれ、恐れられていた。

スコーピオン――本名『浦思青蘭』。SAO時代のプレイヤーネームは、『プース・チンラン』。ロマノフ王朝研究科の中国人であり、怪僧ラスプーチンの崇拝者でもあった。SAOにおいては、ラスプーチンの子孫を名乗り、その怨念を体現するために、暗殺された遺体に準え、右眼を狙う攻撃により『右眼穿ちの蠍』の二つ名で恐れられた女暗殺者である。

呪武者――本名『西条大河』。SAO時代のプレイヤーネームは、『ベンケイ』。京都の古流剣術『義経流』の継承者であり、SAOには開発スタッフとして、制作に関わっていた。しかし、義経流のユニークスキル採用を却下され、それを逆恨みした末に、レッドプレイヤーとなったSAO屈指の剣豪である。

 

「第三回BoBに参加していたプレイヤーの正体については、大会中に交戦した時点で分かっていました」

 

「そうかい……それじゃあ次は、標的の自宅に侵入して、生身の体に劇薬を注入していた方の、恭二君以外の実行犯について話そうか」

 

「そちらについては、死銃事件解決後にLから詳細を聞いています。しかし、確認のためにお願いします」

 

世界的名探偵であるLから情報を得ているなら、説明の必要など無いだろう、と内心で呟く菊岡だったが、詳細を知らない詩乃にも説明が必要なため、そのまま説明を始めた。

 

「SAO時代に笑う棺桶に所属していたという人物は二人だね。金本敦、十九歳。蔵出守(くらいでまもる)、二十七歳。プレイヤーネームは、金本がジョニー・ブラック、蔵出がクラディールだね。聞き覚えは?」

 

「ジョニー・ブラックは高遠ことスカーレット・ローゼスの先代幹部ですね。クラディールについては、奴がSAOで手掛けた最後の事件で傀儡として利用された男です」

 

「成程……容疑者はほとんど、笑う棺桶所属のプレイヤーで、しかも高遠が以前犯行を教唆した人間で構成されていたみたいだね。今回の事件で、彼等をGGO内での狙撃を担当する死銃に任命したのも、高遠だって皆口を揃えて言っていたよ」

 

「高遠のことです。現実世界への帰還後に事件を起こすにあたり、SAO事件の時点でこの六名に目を付けていたとも考えられます。それで、新川恭二以外で、今回の事件に加担した死銃については?」

 

「そっちの話については、標的となった被害者の話を交えて説明していこう」

 

そう言うと、菊岡はタブレット端末を再度操作し、和人が口にした今回の事件で高遠の新たな傀儡となった容疑者達の詳細についての説明を開始した。

 

「今回、本選出場者を殺害するにあたり、高遠が新たな死銃として呼び出したのは、氏家貴之、安岡真奈美、毒島陸の三人だ。彼等は現実世界側の殺人役であると同時に、自身の名義で取得したアカウントをゲーム内の実行犯達に譲渡していたらしい。容疑者三人は、標的となった特定の被害者に対して、殺人に及ぶに十分な程の強い恨みがあったらしい」

 

「高遠も、自身のアプローチとは無関係に事件を起こす可能性の高い危険人物達であると言っていましたしね」

 

容疑者三人の名前を教えてくれた菊岡だったが、それ以上は語らなかった。恐らく、この三人の動機については、新たに捜査対象となった事件の情報であり、当事者である和人と詩乃にはこれ以上話すわけにはいかないという事情があったのだろうと、和人は悟っていた。

 

(とはいっても、俺は既に竜崎から聞いているのだがな)

 

今回の事件に加担した非SAO生還者の容疑者達の動機について、既に和人は竜崎から詳細を聞いていた。

氏家貴之、四十八歳。西条大河に呪武者のアカウントを提供。自身の実子を苛めで死に追いやった、スパロウ――本名、鯨木大介へ復讐するために死銃事件に加担した。

安岡真奈美、三十一歳。浦思青蘭にスコーピオンのアカウントを提供。結婚を迫るために、以前モデルだった自分を陥れる陰謀を画策した夫である、クラウン=ドール――本名、安岡保之へ報復するために、死銃事件に及んだ。

毒島陸、二十歳。風戸京介にスケアクロウのアカウントを提供。三年前に発生した、女子高生を拉致監禁の末に死に至らしめた事件の濡れ衣を着せられた復讐のために、この事件の主犯である、アント=ライオン――本名、多間木匠を殺害すべく、高遠の誘いに乗った。

いずれも、殺人に及ぶに十分な動機を有しており、高遠が人形としての価値を見出したことにも得心がいく人物達だった。ちなみに、今挙げた被害者達が過去に起こした事件については、竜崎がもののついでと称して既に調べ終えている。いずれ彼等も、相当の罪に罰せられることが予想される。

 

「しかし、まさか三人もの共犯者を新たに揃えていたことには、驚きだったよ。彼等の供述によれば、今回の準備期間は一年にも満たなかったらしい」

 

「復讐心を秘めた人間を探すのは、高遠の専売特許と言っても過言ではありません。それは、SAOにおいても明らかでした」

 

高遠の舞台計画は、復讐心を持つ人間を探すことから始まる。だが、今回の死銃事件は順序が逆であり、標的を決定してから、恨みを持つ人間を探し出したのだ。殺人に及ぶ程に殺意を滾らせた人間など、そういるものではない。にも関わらず、高遠は必要な人数を簡単に見つけ出し、まとめ上げたのだ。その手腕は、脅威の一言に尽きる。

 

「高遠はこうして揃えた容疑者達を使い、ゼクシードと薄塩たらこの殺害を序章と称し、次に第三回BoBを舞台とした、本格的な大量殺人を計画していたらしい。標的となったプレイヤーは、合計六人。プレイヤーネームは、モンスター、スパロウ、クラウン=ドール、ジェイソン、アント=ライオン……そして、シノン。朝田さん、君だ」

 

「…………」

 

殺害される予定だった人間の一人として名前を呼ばれ、詩乃は息を呑んだ。生まれてこの方、命を狙われたことなど無かった詩乃にとって、今回の事件は色々な意味で衝撃的だったのだから、当然の反応だろう。

しかし、若干緊張した様子になりながらも、それほど取り乱した様子は無く、詩乃は比較的落ち着いた様子だった。それを確認した菊岡は、話を続けていく。

 

「ともあれ、本選で標的にされたプレイヤー達は、部屋へ侵入して劇薬を注入しようとする水際で、現場待機していた警察が取り押さえてくれたお陰で、全員無事だったよ」

 

「竜崎の計画に抜かりはありませんよ。惜しむべきは、高遠を逃したことくらいでしょうかね……」

 

「まあ、それは仕方ないさ。それにしても、高遠遙一が教唆していた死銃が、まさか九人もいたのは、驚きだよ。」

 

「俺としては、一年という時間が経った今、六人ものSAO帰還者が高遠の共犯に名を連ねていたことの方が驚きですよ。一体、仮想課は何をしていたんでしょうね?」

 

「はは、は…………」

 

和人の容赦ない皮肉に対し、当の総務省仮想課所属の国家公務員である菊岡は、顔を引き攣らせて笑うしかできなかった。しかし、和人はそんな菊岡に対し、容赦なくさらなる追い打ちをかける。

 

「さて、事件のことについては十分確認が取れましたし、そろそろ契約に関する話でもしましょうか」

 

「え、えーと……何のことだっけ?」

 

「報酬のことですよ」

 

誤魔化して言い逃れしようとした菊岡だったが、和人に対してそれは全く意味を為さない。和人はそんな菊岡に対して冷やかな視線を向けつつ、懐から折り畳まれた一枚の紙を取り出し、広げてテーブルの上に置いた。

 

「この事件の捜査を引き受けるに当たって作成した契約書です。お忘れになったわけではありませんよね?」

 

和人が菊岡の前に出した契約書には、事件捜査に関する約束と、報酬に関する詳細が明記されていた。文末には、菊岡の直筆サインと母印も付けられている。

それを見せられた菊岡は、冷や汗をだらだらとかき始め、その表情はみるみる青く染まっていった。

 

「今回の事件捜査の報酬ですが、何らかのロジックによる殺人事件だった場合には、容疑者一人につき三百万円を支払う契約となっています。主犯の高遠には逃げられてしまいましたが、実行役の九人は全員確保できました。よって、二千七百万円の支払いを請求させていただきます」

 

「にっ、二千七百って……!」

 

和人の要求したとんでもない金額に対し、隣に座っていた詩乃は驚愕に目を剥く。一方、とんでもない額の報酬を請求している和人の方は、驚くほど冷静かつ平淡であり……まるでそれが、当然とばかりの態度だった。一切の誤魔化しは利かないであろう、そんな状況下に置かれた菊岡は、鞄の中から封筒を取り出し、おずおずと和人の前に差し出した。

 

「……済まない、桐ヶ谷君。悪いんだが、これで勘弁して貰えないだろうか?」

 

僕と君の仲じゃないか、などと付けくわえながら差し出してきた封筒には、それなりの厚みがあった。笑って誤魔化そうとする菊岡を余所に、和人は差し出された封筒をその手に取る。一万円札数十枚を眉一つ動かさないその様子に、詩乃は何とも言えない表情を浮かべていた。やがて、万札を数え終えた和人は、菊岡へと顔を向けて口を開いた。

 

「三十万円、ですか。契約に基づく報酬額より、かなり少ないですね」

 

「いや、流石に二千七百万円なんて金額は、僕でも用意できなくて……」

 

「随分と大幅な減額ですね。殺人事件の解決に駆り出されて、命懸けで解決に導いたにも関わらず、契約を反故にするとは……あんまりな仕打ちじゃありませんか?」

 

「……で、でも、君だって、死銃が本物の殺人犯だっていうことを知っていながら、黙っていたじゃないか!」

 

「あなたから依頼を受けた時には、既にLからの依頼を受けていたんですよ。守秘義務があった以上、話せなかったのは当然です」

 

「それを言うなら、君は自分の意思でこの事件に関わったんじゃないか。僕に無理強いされたみたいに言うのはどうかと思うけど?」

 

「Lからの依頼が無かろうと、あなたは俺に調査依頼を強要したんじゃないですか?どの道、俺に拒否権があったとは思えませんね」

 

菊岡の契約不履行に対し、冷たい視線と共に皮肉の応酬を連発する和人。客観的に見れば、契約に従って払うべき報酬を、端金とも言える金額で済ませようとしている菊岡こそが責められるべきである。

しかし、和人は菊岡に依頼を受けた時点で、事件の全容……即ち、殺人事件であることに加え、犯人が複数いることが分かっていたのだ。多額の報酬が出る依頼条件を課した裏には、菊岡から搾取しようとする悪意があったことは明らかである。如何に契約違反とはいえ、菊岡を一方的に責められる道理は無いのだ。

菊岡が理不尽を感じるのも、ある意味では当然のことだった。和人もまた、菊岡の心中を理解してはいるものの、妥協して済ませるつもりは毛頭無い様子だった。

 

「そもそも、殺人事件の可能性があったのなら、最初の打ち合わせの時にトリックの推測だけでも話してくれれば良かったじゃないか。どうして黙っていたんだい?」

 

「あの時あなたは、『ゲーム内の銃撃によって、プレイヤー本人の心臓を止めることができるか』とだけしか聞いてきませんでした。俺は明確な回答を出したのですから、それ以上を語る必要は無かったと思いますが」

 

「それは屁理屈じゃないか!」

 

譲歩をするつもりが全く無く、正論とはいえ屁理屈に近い言い分を平然と口にする和人に、菊岡がつい声を荒げる。周囲の客達が何事かと視線を向けてきたため、菊岡は慌てた様子で佇まいを直し、詩乃はやや居心地が悪そうにするが、和人は全く気にした様子は無く、そのまま続けた。

 

「俺の対応に不満を抱いているようですが……それならば何故、死銃の一件が殺人事件である可能性について聞かなかったのですか?」

 

「いや、だって……あの時には、死銃が本当に殺人を犯してるなんて思っていなくて……」

 

「殺人事件の可能性があるからこそ、俺を呼び出して意見を聞こうとしたのに、率直にそれを確かめなかったのでは、まるで意味がありませんよね?それに、どちらかというとあの時あなたは、俺にGGOをプレイさせることを目的に話を進めていたように思うのですが」

 

「えっと、それは……」

 

「今までの依頼の時もそうでしたが、あなたは俺に、仮想世界の騒動に関わらせることの方に重きを置いているように感じました。一体あなたは――――」

 

 

 

俺を使って、何をしようと考えているのでしょうか?

 

 

 

「…………」

 

和人の放った後半の言葉は、とてつもなく冷たい響きを帯びていた。今回の騒動に和人を巻き込もうとした、菊岡が抱いていた、事件解決以外の目的。その核心を突いたかのような和人の指摘。それに対し、菊岡は黙り込んでしまった。

その反応に、和人は相変わらず冷たい視線を向けていた。ただ一人、詩乃だけは二人の間でどのような思惑が交錯していたのか、分からず、内心で狼狽していた。

 

「まあ、良いでしょう。俺があなたの依頼を受けるのも、これで最後なわけですし……俺にはもう関係の無いことですからね」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!桐ヶ谷君、それは一体、どういうことだい!?」

 

「言葉通りの意味ですよ。契約を反故にするような方の依頼を、今後も引き受けるとお思いですか?申し訳ありませんが、菊岡さん。あなたの依頼は、今後一切引き受けません」

 

和人はそれだけ言うと、自分と詩乃の支払い分として一万円札を一枚テーブルの上に置いて、席を絶った。無論、菊岡から受け取った三十万円の現金が入った封筒もまた、テーブルの上に置かれたままである。

 

「ま、待ってくれ!和人君!頼むから!ちょっとっ!」

 

「ちょっと、和人!?」

 

菊岡が必死で静止しようとするが、和人は一切耳を貸さない。詩乃については、いきなりの契約打ち切り宣言を下した和人に驚く間も無く、その背中を追いかけるべく席を立つ。菊岡は尚も和人を引き留めようとするも、暖簾に腕押しと言った具合に、その歩みを止めるには至らなかった。

そのまま店を出た和人は早足のまま、オートバイを停めた駐車場を目指す。同行していた詩乃は、ただ流されるままに、その後姿を追って続くしかできなかった。

 

「……和人、いくらなんでも、欲張り過ぎだったんじゃないの?」

 

一連の出来事に思考が全く追い付かなかった詩乃だが、ここに至ってようやく落ち着きを取り戻し、和人に問いを投げるに至った。対する和人は、駐車場を目指す歩調を若干弱め、しかし前を剥いたまま口を開いた。

 

「勘違いするな。俺は初めから、二千七百万なんて報酬が手に入るとは、思っていない」

 

「え?……でもそれじゃあ何で、あんなことを……」

 

和人の口から語られた真意に、詩乃はわけが分からなくなり、唖然となった。死銃事件を解決し、SAOに由来する因縁に決着を付けることが目的だったことは間違いない。だが、依頼内容の中に、常識的に考えて、到底払いきれない程の報酬額を盛り込んだのも事実。その意図とは、一体何なのか。その隠された真意を推し量るべく、詩乃は思考を巡らせた。

 

「……もしかして、契約の打ち切りそのものが目的だったの?」

 

「その通りだ」

 

先程の菊岡とのやりとりの結果そのものが目的ならば、全て説明が付く。そう考え、結論に至った詩乃の言葉に、果たして和人は首肯して答えた。

しかし、そうなるとますます分からない。殺人事件を解決した報酬としては安いかもしれないが、三十万円もの報酬が得られる仕事を回してくれる相手との繋がりを絶ち切る理由とは、一体何なのか。どれだけ考えても分からないそれに、しかし和人は答えてくれた。

 

「菊岡誠二郎……本人は、総務省仮想課の役人と名乗っているが、真の所属は、防衛省。階級は、二等陸佐だそうだ」

 

「防衛省って……自衛隊の人ってことよね。というか、どうやってそんなこと知ったのよ?」

 

「俺にも色々と伝手があるということだ」

 

菊岡についての情報源は、今回の事件におけるもう一人の依頼主である、世界的名探偵Lである。Lこと竜崎が菊岡をマークしていると聞いた和人は、その正体について尋ねた。対して、聞かれた竜崎の方は、守秘義務を条件として、菊岡の真の所属について語ったのだった。

 

「しかも、色々と表には出せない、仮想世界絡みの研究を秘密裏に行っているらしい」

 

「表に出せないって……それって、かなり危ないんじゃないの?」

 

先程の喫茶店での確認に同席していた詩乃も、菊岡が胡散臭い人間であることは悟っていた。しかし、和人の説明を聞いた途端、警戒レベルが段違いに上がった様子だった。

 

「何の研究をしているかまでは分からんが、仮想世界の技術を軍事利用する試みなら、いくつか思い付く。菊岡は恐らく、その計画に俺を何らかの形で利用しようと画策しているんだろう」

 

菊岡が国の命令でどんな計画を進めているかについては、流石に竜崎の口からは聞けなかった。しかし、里の暗部やS級犯罪組織として活躍していた、うちはイタチとしての前世を持つ和人である。殊に軍事関連の、しかも秘密裏に行われている研究と言われれば、どんなものかはいくらでも思い付く。

 

「成程……だから、契約を断って距離を置いたってことね」

 

「そういうことだ。俺は今後も、仮想世界で起こる騒動の解決に動くつもりだが、思惑に乗せられるつもりは無い。少なくとも、これで奴は主導権を完全には握れなくなった」

 

「……危険と分かっていても、結局関わるのは止めないのね」

 

「それが、俺が仮想世界で為すべきことだからな」

 

和人の前世について聞かされている詩乃は、和人が現世を生きる上で背負っているものについても聞かされていた。即ち、SAO事件と、その延長線上で起こったALO事件……これら両事件の発生について、SAO開発スタッフであったことに由来する罪を感じていることも。故に和人は、その先に何があろうとも、決して逃げ出すことはしない。

そんな予感が、詩乃にはあった。しかし、だからと言って、それをただ傍観しようとは、思わない。その意志を、詩乃は和人の手を握ることで示すことにした。

 

「詩乃……?」

 

「和人は私を助けてくれた。なら、今度は私が助ける番。危ないことに首を突っ込むなら、その時は私も巻き込みなさい」

 

和人を止められないのならば、自分も隣を歩くのみ。一人でできないことを成し遂げるために仲間がいると言ったのは、他でもない和人である。ならば、それも許される筈だと、詩乃はそう思っていた。

 

「譬えあなたが拒否しても、私から巻き込まれに行くから。その辺、覚えておいてね」

 

「……覚えておこう」

 

「なら、行きましょうか。引っ越しの片付けとかが、まだ残っているしね」

 

「ああ。だが、少しばかり寄るところがある。付き合って貰うぞ」

 

「別に良いわよ。どうせ帰る場所は同じなわけだし」

 

和人の頼みをあっさり了承した詩乃は、再び歩みを進める。無論、その間も手は繋がれ続けており、二人の姿は傍からは寄り添い合うカップルにしか見えなかった。和人もそれを分かってはいたものの、敢えて何も言わず、容認するのだった。

 

 

 

 

 

銀座中央通りを、先程と同様に二人乗りして出た和人と詩乃が向かった場所は、御徒町。ノスタルジックな雰囲気の町並みを抜け、細い路地を抜けた先に、和人の目的地はあった。

 

「ここに用事が?」

 

「ああ」

 

オートバイが辿り着いた場所にあったのは、黒光りする木造の建物。出入り口となるドアの上には、二つのさいころを組み合わせた意匠の金属板が提げられており下部には『DICEY CAFE』という文字が打ち抜かれている。

 

「ついでに、お前に紹介したい知り合いもいる」

 

「へえ……ちょっと興味あるかも」

 

和人の知り合いがいるという言葉に、何を想像したのか。その真は分からないが、藪蛇と感じた和人は、詮索することはやめておいた。

その後、和人は詩乃と共にバイクを降りると、扉の前に二人並び立ち、ドアノブに手を掛けた。扉を開けた二人をまず待っていたのは、香ばしいコーヒーの匂いと、レコードから流れるスローなジャズ調の曲。

 

「いらっしゃい」

 

そして、見事なバリトンボイスで掛けられた、挨拶だった。声の主は、カウンターの向こうに立っていた。チョコレート色の肌で、体格の大きい禿頭の男性。彼こそが、この喫茶店『ダイシー・カフェ』の店主にして、和人のSAO以来の知己。エギルことアンドリュー・ギルバート・ミルズである。

さらに、店内には先客がいた。カウンターのすぐ近くにあるテーブルの席に、“制服を着た女子高生”らしき二人組が――――

 

「いらっしゃい、和人君。それに、詩乃さん」

 

「やっと来たね、二人とも」

 

「な……!」

 

扉を潜った和人に向けて、にこやかに声を掛ける二人。和人と同じ学校に通っている、アスナこと結城明日奈と、和人の義妹である桐ヶ谷直葉だった。傍から見れば、目を奪われるような美しい笑顔を向ける二人だが……その目は、まるで笑っていなかった。

その姿を見た和人は、驚愕と戦慄の余り、その場に凍ったように立ち尽くした。そして、隣に立つ詩乃もまた、若干驚いた様子だったが、やがて、和人よりも先に口を開いた。

 

「直葉……どうしてここに?」

 

「お兄ちゃんが、詩乃さんをここに連れてくるって聞いてね。ついでに、明日奈さんのことも紹介しようと思ったの」

 

詩乃の問い掛けに、直葉は朗らかな笑みをそのままに答えた。隣で聞いていた和人は、何故そこで明日奈を連れてくる必要があったのかと問い質したい気持ちに駆られたが……それよりも先に、本来ここに居る筈だった人物の行方について聞くことにした。

 

「直葉……それに明日奈さん、どうしてここに?それに俺は今日、ここで新一と一の二人と待ち合わせる予定だったんですが……二人はどこに?」

 

「蘭さんにお願いして、新一さんからお兄ちゃんの依頼について聞いてもらったんだ。そしたら、快く答えてくれてね」

 

「けど二人とも、怪盗キッドと怪盗紳士が予告状を出した件が忙しいからって、後の案内は私達に任せてくれることになったの」

 

「………………」

 

直葉に次いで、明日奈が説明した事件については、和人もある程度の詳細を聞かされている。神出鬼没の絵画泥棒・怪盗紳士と、ビッグジュエルしか狙わない筈の月下の奇術師・怪盗キッドが、鈴木財閥の相談役が収集したゴッホのひまわりの絵を狙って予告状を送り付けたという。ルパン三世と怪盗キッドによる騒動の熱が覚め遣らぬうちに発生したこの事態に対し、警察組織は助っ人として、二人の凄腕高校生探偵――即ち、工藤新一と金田一一――に協力を依頼した。こうして、二大怪盗と警察組織による、第二次三つ巴対決が勃発したのだった。

閑話休題。ともあれ、新一と一は、怪盗二人を警察組織と共に迎え撃つべく動くこととなったのだが……それより先に、和人から、ある依頼を受けていたのだ。そして今日、ここダイシー・カフェにてその報告を受ける予定だったのだが……それを、依頼主である和人に無断で欠席したという。その理由は、この二人を見てすぐに分かった。

 

(二人とも、逃げたな……)

 

頭の良い二人のことである。現状の修羅場を想定し、件の怪盗対策を言い訳に、依頼の報告を明日奈と直葉に任せて逃げたと考えるのが妥当だろう。探偵は通常、依頼に関する守秘義務を守るものである。だが、この二人に関しては、死銃事件をリアルタイムで見ていたメンバーであり、事件の顛末についてもある意程度の説明は受けている。故に、和人の依頼内容について話したとしても、守秘義務には然程抵触しない。尤も、問い詰めたのが蘭であっては、守秘義務を守るのも難しいと和人は考える。ALO事件解決の夜、朦朧とする意識の中で、黒幕たる須郷伸之を一撃で撃沈させた空手の腕を見ただけに……

 

「へえ……それで、和人が紹介したいって言ってたのって、この二人のことかしら?」

 

「いや、紹介する予定だった相手は別にいたんだが……というより、直葉とは初めてじゃないだろう」

 

「それもそうね。けど、改めて自己紹介した方が良さそうね」

 

そんな和人の内心を余所に、どこか挑発的な笑みを浮かべてそう口にする詩乃に、和人はさらに頭が痛くなった。同時に、明日奈と直葉が放つ空気がより剣呑なものになっていくような気もしたのだが……恐らく、偶然ではないのだろう。

深刻化していく修羅場の真っ只中に立たされた和人は、内心で冷や汗をダラダラとかいていた。それは、店主であるエギルも同じであり、二人が席に座った和人と詩乃に飲み物を出すと、そそくさとカウンターへ帰っていった。しかし、そんな和人の心中などお構いなしに詩乃は和人とともに席に座ると、対面する二人に対して自己紹介を始めた。

 

「はじめまして。私の名前は朝田詩乃。和人とは、小さい頃からの付き合いよ。あと、もう聞いていると思うけれど、この前の事件で家が住めない状態になっちゃったから、和人の家に居候させて貰っているわ。あと、学校も和人と同じところに転校することになったわ。仲良くしてもらえると、助かるわ」

 

魅力的な笑みを浮かべて自己紹介を締め括る詩乃。だが、どう考えても、目の前の二人と本気で仲良くする気が無いだろうと、和人は感じた。事実、顔に浮かべた笑みはそのままに、明日奈と直葉が纏う空気に殺気が宿り始めていた。

 

「詩乃さんね……あなたのことは、和人君と直葉ちゃんから話は聞いているわ。私は結城明日奈。和人君とは中学からの付き合いで、SAOでも二年間一緒に過ごした仲なの。ちなみに、私も同じ学校に通っているわ」

 

「あと、詩乃さん。私も一応言わせて貰うと、お兄ちゃんとはずっと小さい頃から同じ屋根の下で暮らしてきた仲なの。それから、詩乃さんが今住んでいる家は、お兄ちゃんだけじゃなくて、私とお母さんの家でもあるから、そこら辺のことも忘れないでね」

 

詩乃に対抗するように挨拶をする、明日奈と直葉。付き合いの長さや同じ家に住んでいることなどを強調するその口調には、敵愾心にも似たものを感じさせるものがある。凄まじい威圧感をぶつけ合う三人の姿に、カウンター越しにその様子を見ていたエギルは、我関せずで顔を逸らし、グラスを磨くのみだった。

 

「……三人とも、落ち着いてくれ。詩乃と同じ家に暮らしていると言っても、部屋はそれぞれ別だし、転校にしても適切な処置だという結論に至ったからこそ取った選択だ。妙な勘違いをするのは止してくれ」

 

だが、いつまでもこんな空気を続けさせるわけにはいかない。エギルの援護も期待できない中、和人は藪蛇を覚悟で、この修羅場の原因となっている、詩乃の現在の住居事情と学校事情についての説明をするべく口を開いた。

死銃事件の容疑者全員が逮捕されたその日。詩乃の自宅は、恭二が持ち込んだプラスチック爆弾によって、爆発炎上した。住居を失った詩乃は、事件の事後処理が済むまでは、竜崎ことLの拠点であるビルの一室で寝泊まりし……その後は、和人の家に居候することが決まった。理由としては、詩乃の幼馴染であることや、精神に抱える深刻なトラウマについて認知している点で、和人が精神的なケアをする上で適任と判断されたことが大きい。無論、詩乃を住まわせる上で、何も問題が無かったわけではない。自宅の家族には難色を示されたし、東北にいる詩乃の祖父母にも了承を得なければならなかった。しかし、関係各所の人間は全員、和人が説得するに至った。家族の内、比較的すぐに賛成してくれた母親の翠に反し、中々首を縦に振らなかった直葉に至っても、滅多に頼みごとをしない和人の要請ということで、渋々ながらも了承した。詩乃の親戚についても、最初こそ反対していたが、亡き和人の祖父の現地における人望が厚かったお陰で、結果的には同意を得られた。こうして、詩乃の桐ヶ谷家での生活がスタートしたのだった。

そしてもう一つ。詩乃は今回の事件をきっかけに、和人達が通う、SAO生還者達のために建てられた高校に転校することが決まったのだ。精神的なケアをするために、生活環境を一新するのだから、学校もこの機に変えた方が良いだろうという、和人の提案だった。和人が通う学校が推されたのは、SAO事件の被害者という特殊な境遇を持つ関係上、詩乃の存在も広く受け入れられるだろうという考えからだった。尤も、和人や明日奈の通う学校の生徒は、SAO生還者であることとは無関係に、特殊な出自や性格をした人間が多く、詩乃のことも簡単に受け入れられるだろうと和人は考えていたのだが。ともあれ、詩乃の転校は、和人が菊岡に働きかけたことで実現するに至ったのだった。

 

「それにしても……中学時代からの先輩ね。付き合いが長いみたいだけど、あんまり深い仲ってわけじゃないみたいね。直葉も、妹として以上の関係は無いみたいだけど」

 

「……そんなこと無いわよ。SAOでは、一緒に命懸けで戦ってたわけだし」

 

「あたしだって、子供の頃からずっと一緒で、お互いのことなら何でも分かるし」

 

「けど、そんなに特別なことなんて、してないんでしょう?」

 

そう言いながら、詩乃は艶然とした笑みを浮かべながら、自身の唇にそっと指を這わせた。その勝ち誇ったような仕草を見た明日奈と直葉の額に、青筋が浮かんだ。

 

「小さい頃は剣道もやっててね。和人とはそれで知り合ったの。まだ忙しくて、余裕が無いけれど、和人のところに住むから、これをきっかけにまた始めようと思っているの。あと、和人が部長をやってる剣道部にも入る予定だから、よろしくね」

 

「こちらこそ、副部長として歓迎するわ。和人君と一緒に稽古していたって言うから、それなりに実力もあると思うから、手加減無しでも大丈夫かしら?」

 

「あたしの方も、お兄ちゃん以外の稽古の相手ができるから大歓迎よ。これでもあたし、全中ベストエイトだから、遠慮なくかかってきてね」

 

「……………………」

 

詩乃、明日奈、直葉の三人による、一向に止まない挑発の応酬。顔に笑顔を貼り付かせたまま、壮絶な火花を散らすその様に、和人は居心地が悪いことこの上ない。ますます緊張の高まったその場の空気に怯えたエギルは、既に店の奥へと姿を消している。

 

「詩乃、いい加減にしろ。明日奈さん、直葉…………二人とも、その辺にしてください」

 

「むぅ……和人君が言うなら、仕方無いかな」

 

「けど、これだけは言わせて、お兄ちゃん」

 

そう言うと、明日奈と直葉は佇まいを直し、真剣な表情で詩乃と向かい合い、宣言する。

 

「「絶対に、負けないから」」

 

「望むところよ」

 

改めての宣戦布告に対し、詩乃はこれを真っ向から受けると言い放つ。何に関しての宣戦布告なのかは、聞くまでもない。

 

「だから、いい加減にしろ、三人とも。それより、明日奈さんと直葉、新一と一に出した依頼の件は?」

 

全くもって埒が明かず、頭痛ばかりが増す話しの流れを切り替えるべく、和人は詩乃をこの場へ呼び出した依頼の件について尋ねる。

 

「ええ。一君と新一君から、ちゃんと聞いているわよ。勿論、あなたが依頼していた人も、きちんとここに来ているわよ」

 

「依頼していた……人?」

 

明日奈の口にした言葉に、疑問符を浮かべる詩乃。一方の和人は、無表情のままほっと一息吐いていた。その安堵は、一時は修羅場に突入したものの、本来の目的を果たすために持ち直せたことによるものだろう。依頼していた事項がしっかり果たされていたことを確認した和人は、詩乃の方へ向き直る。

 

「詩乃。お前に無断で済まないとは思ったが……余計なお節介を覚悟の上で、知り合いの探偵にある依頼をした」

 

「依頼?」

 

「お前の過去に関わることだ」

 

和人が放ったその言葉に、詩乃の体に緊張が走った。和人の言う過去とは即ち、詩乃が十一歳の頃に起こった、銀行強盗事件を意味している。今回の死銃事件について、捜査関係者である和人は勿論、発生時点から認知している直葉と明日奈にも、その詳細が知られていることは分かっていた。加えて、被害者の一人であり、和人と親しい間柄にある自分の素性についても。だが、いざ知られた事実を改めて認識させられると、自分の過去を知る者達が、自分の敵のように思えて、反射的に身構えてしまう。人を殺した自分が、受け入れられる筈が無いという、強迫観念染みたものが、詩乃の心を支配するのだ。

 

「落ち付け、詩乃」

 

「和人…………」

 

詩乃の内心を察した和人が、その手を握ることで落ち着かせようとする。明日奈と直葉の視線が鋭くなるが、知ったことではないとばかりに無視を決め込む。

 

「俺が依頼したのは、東北にあるお前が育った故郷の町の、とある人探しだ。例の事件の関係者で、お前にどうしても会わせたい人がいる」

 

「……会わせたい、人?」

 

一体、和人は自分と誰を会わせようというのか。詩乃が育った東北の町にいる人間は、あの銀行強盗事件が発生して以来、詩乃の存在を煙たがり、殺人者を見るような軽蔑の眼差しを向ける人間ばかりだった筈。和人が会わせようと意図する人間とは一体誰なのか、詩乃には見当が付かなかった。

そんな若干混乱した様子の詩乃に対し、和人は説明を続けた。

 

「お前はあの事件以来、自分がやった事の重みに囚われてきたことはよく分かった。確かに、お前があの事件の中でやったことで、奪われたものや失ったものはあったが……それと同時に、“護った”ものもあったんだ。譬え結果論だとしても……俺は、お前がそれを知るべきだと判断した」

 

それだけ言うと、和人は詩乃へ向けていた視線を直葉の方へと変え、小さく頷く。対する直葉は、それが合図だったのだろう、和人の顔を見て頷き返すと、席を立って店の奥にある扉へと向かった。そして、PRIVATEの札が提げられた扉を開くと、そこから一人の女性が姿を現した。

年齢は三十歳くらいで、髪はセミロング。化粧は薄めで服装も落ち着いており、主婦のような印象を受ける。さらにその後ろには、幼稚園児らしき幼い少女がくっ付いていた。顔立ちが似ていることから、親子であると思われる。

和人は、この親子を詩乃と会わせようとしていたと言ったが、当の詩乃にはこの二人が誰なのか、顔も名前も見覚えが無い。

 

(あの人…………)

 

にもかかわらず、初めて会った、赤の他人とは思えない。どこかで会ったような……そんな、既視感にも似たものが詩乃の中で静かに渦巻いていた。

 

「はじめまして。朝田……詩乃さん、ですね?私は、大澤祥恵と申します。この子は瑞恵、四歳です」

 

やはり、名前を聞いても何も思い出せない。先程感じた既視感は気の所為で、自分に面識があるというのは、和人の勘違いだったのだろうか。そんな風に思ったところで、和人が説明を引き継ぐべく口を開いた。

 

「大澤さんは、元郵便局員だ。娘さんの瑞恵ちゃんが生まれてからは退職して、それとほぼ同時期に、東京に引っ越してきたらしい。それで、最後に働いていた局は……お前が住んでいた町にある郵便局だ」

 

「あ…………」

 

和人の説明で、詩乃は全てを理解した。目の前に立つ大澤という女性は、詩乃が巻き込まれた銀行強盗事件の現場にいた、受付嬢である。麻薬中毒の強盗犯に拳銃を向けられていた、詩乃の母親を含めた標的の一人である。もしあのまま放置されていれば、カウンターにいた彼女を含めた受付嬢二人と、すぐ傍に倒れていた詩乃の母親の三人の内誰か、もしくは全員が射殺されてもおかしくなかった状況だった。しかし、詩乃がその場に乱入したお陰で、結果的に命拾いをするに至った一人である。

だが、和人は何故、知り合いの探偵に依頼してまでこの女性と自分を今になって会わせようとしたのか。その意図は未だに掴めずにいた。詩乃の中で疑問が深まる中、今度は詩乃の正面に座っていた祥恵が口を開いた。

 

「……あの事件の時、私、お腹にこの子がいたんです。だから、あなたは私だけでなく、この子の命も救ってくれたんです。なのに私……あの事件の事を忘れるために、あなたにお会いして、謝ることも、お礼を言うこともせずに……本当にごめんなさい。それから……本当に、ありがとう」

 

目尻に涙を浮かべながら、謝罪と感謝を述べる祥恵に、詩乃は戸惑いの表情を浮かべるばかりだった。隣の席に座っている、娘の瑞恵は、母親と詩乃を心配そうな瞳で交互に見つめていた。

 

「命を…………救った?……私、が……?」

 

自身がこの手で人を殺した、あの忌まわしい銀行強盗事件。詩乃に『殺人者』のレッテルを貼り、その後の人生を大きく狂わせてきたあの事件の中で……詩乃に救われた人間が居たという。詩乃の中では、それは信じられない事実であるようで、中々受け入れられずに混乱している様子だった。

そんな詩乃を導くために、和人は再度、この場を設けた本当の想いを言葉に紡ぐ。

 

「詩乃、あの時のお前は、ただ母親を守るためだけに強盗犯に立ち向かったのだろうが……それでも、お前は確かにこの子を守った。それは事実だ。お前のしたことは、決して許されるものではないし、これを理由に正当化されるものでもない。だがお前は、あの事件の中で犯した罪と共に……救ったものにも目を向けるべきだった。それが、本当の意味で“最初の一歩”を踏み出すということだと、俺は思う」

 

それは、和人の心からの言葉だった。うちはイタチとしての前世において歩み続けた修羅道の中で、それでも己を失わずにいられたのは、自身の犯した罪と、結果として救ったものの両方を認識していたからこそだと、和人は思っている。それは現世においても変わらず、自分が救い、救われた仲間達のことを想っていたからこそ、SAO事件もALO事件も、そして今回の死銃事件も解決に導けたのだと、そう考えていた。

そしてだからこそ、詩乃にもそれが必要だと思い、余計なお節介だと自覚した上で、この場を設けたのだ。それが、和人の嘘偽りの無い本心だった。

 

「…………」

 

対する詩乃は、そんな和人の言葉を聞いても、自分はどうすれば良いのか分からず、未だに困惑の中にいる様子だった。黙った状態の詩乃を中心に、誰もが沈黙したその状況の中。瑞恵はただ一人、物怖じすることなく、詩乃の前へと歩み寄った。

詩乃の前に立った瑞恵は、幼稚園の制服の上からかけたポシェットに手をやり、四つ折りにした画用紙を取り出した。そこには、瑞恵自身と母親である祥恵、そして眼鏡をかけた父親らしき男性が描かれていた。そして一番上に、『しのおねえさんへ』という平仮名が書かれていた。瑞恵が笑顔で渡してくるそれを、詩乃はぎこちなく受け取る。そして、大きく息を吸い、顔に浮かべた純粋無垢な笑顔をそのままに、はっきりと言った。

 

「しのおねえさん、ママとみずえをたすけてくれて、ありがとう」

 

それを聞いた瞬間、堰を切ったかのように、詩乃の目からどっと涙があふれ出した。涙に滲む視界に映るのは、未だに笑顔を絶やさない瑞恵の顔と、彼女が渡した親子の絵――――図らずも詩乃が守った光景である。

全身を震わせて泣く、そんな詩乃の様子を見て、瑞恵は画用紙を持つ詩乃の手に、自分の手を据えた。火薬の微粒子によって作られた黒子が残るその箇所を、そっと温かく、包み込むように……

 

「……良かったね、お兄ちゃん」

 

「和人君……本当に良かった」

 

「……ああ」

 

そんな詩乃と瑞恵の姿に、瑞恵の母親である祥恵は勿論、直葉と明日奈もまた貰い泣きしていた。和人もまた、いつもの冷たい瞳の中に、温かく慈愛に満ちた光を宿しながら、その光景を心の中に焼きつけていた。

 

 

 

 

 

犯した罪故に、心に深い傷を負った少女。彼女が弱い自分を克服するために探し続けた、本当の強さ。しかしそれは、強い敵を倒すための力ではなく、過去に囚われた自分を解き放ち、前へと踏み出すための力だった。

奇しくもそれは、同じようで違う前世を渡り歩いた、一人の少年によって、見出すことができた。うちはイタチの現世を持つ和人もまた、自分が自分であるために必要な、“ゆるぎないもの”をひとつ見つけるに至ったこの少女との邂逅の中で、自身の内にも、現世の現実と、忍時代を思い出させる仮想世界を生きるために抱き続けている“ゆるぎないもの”があることを、改めて感じた。

 

 

 

 

 

終わりの見えない二つの世界を――――イタチは、ゆるぎない想いを胸に歩んで行く。

 




読者の皆様、鈴神です。
ファントム・バレット編は、これにて終了となります。
次回からは、キャリバー編突入の予定でしたが……申し訳ございません。
自宅がリフォームのため、ネット環境がしようできなくなり、来月は投稿を休ませていただきます。
次回の投稿は、11月14日を予定しております。
キャリバー編突入を楽しみにしていただいていた方々には、お詫び申し上げます。
今後も暁の忍をよろしくお願いします。
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