ソードアート・オンライン 仮想世界に降り立つ暁の忍 -改稿版-   作:鈴神

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今回の話には、少年ジャンプをお読みの方なら一度はきいた事のある名前のベータテスターが登場しますが、彼等は本人ではありません。強いて言うならば、平行世界で起源を同じくする人物という設定です。


第十話 第一層攻略会議

 

第一層の迷宮区タワーの近くにある街、トールバーナ。その郊外にある農家の二階にある部屋に、現在二人の人物が入っていた。この部屋を取ったイタチと、彼が雇った情報屋のアルゴである。

 

「はいよ、イタっち。これが頼まれていた調べ物だヨ。」

 

「手間をかけさせたな。」

 

そう言ってイタチはアルゴから何枚かの羊皮紙を受け取り、内容を確認する。そこに書かれていたのは、イタチが調査を依頼した、ある特定のプレイヤーのリストだった。

 

「結構苦労したんだヨ。ベータテスターで、今生き残っている人間の数と、イタっちが名指しした連中が今どうしているのかについテ…全く、追加料金が欲しいくらいだネ。」

 

「提示した額で了承したのはお前だろう。それよりも…まさかこれほどとはな…」

 

羊皮紙に書かれた調査結果に目を通し、悲痛な面持ちになるイタチ。アルゴが引き受けた調査依頼の内容は、現在生き残っているベータテスターの数と、イタチが名前を挙げたプレイヤーの現在の動向についてだった。調査を依頼した理由は、第一層攻略の戦力を見積もるためである。MMORPGで攻略最前線に出るトッププレイヤーは、大部分がベータテスターで占められると相場が決まっている。このゲーム、ソードアート・オンラインにおいてもそれは変わらないと考えていたのだが…

 

(思っていたより少ないな…やはり、デスゲームになったことが大きいな。)

 

デスゲームという過酷な条件が、プレイヤー達を街の中へ拘束しているだろうことは分かった。全員がイタチのように、命がけの生活を送っていたリアルや前世を持っている筈もなく、攻略に積極的に乗り出す人間が少ないのは当然のことだった。そして、現在攻略に乗り出しているベータテスターはおよそ三百人。今後すぐに行われるだろう第一層攻略に参加できるテスターは、自分を入れて十人足らずだ。

 

「ベータで最前線に立っていた連中に死者が多すぎる…カズキにヒデユキ…トレインまでやられたか…」

 

「ライトはトラップで死んだらしいヨ。サイコーは無茶なレベリングで命を落としたらしいネ。」

 

かつてベータテストで共に戦った仲間達を悼みながら、その名を口にするイタチとアルゴ。ゲームクリアのための貴重な戦力が失われたことは勿論、彼等は現実でも死んでいるのだ。その喪失感は半端なものではない。イタチのように、戦争体験者ではないのに、それら苦痛に耐えて調べてくれたアルゴには感謝してもし足りないとイタチは感じていた。

 

「死んだ連中のことを考えても詮無きことか…それより、生き残りはどうなっている?」

 

「そこに書いてある通り、大部分の連中が仲間と安全なレベリングを行ってるヨ。ヌエベエは、ビギナーを集めて戦闘方法を指導して、先生みたいだったネ。」

 

「メダカとコウイチは既に暫定的なギルドを作っているようだな。あの二人はカリスマが強い。今回の攻略は無理でも、すぐに最前線に追い付いてくるだろう。」

 

「ケンシンは生きてるけど、攻略はやめて街に残っているプレイヤーへの資金供給をしているみたいだヨ。腕は確かなのに、惜しい人材だネ。」

 

「トリコとヤコは…相変わらず食材関連のクエストにご執心か…」

 

「あの二人はその手のクエストではシステム以上の動きを見せるけど、前線での活躍は期待できそうにないヨ。」

 

現在生き残っているプレイヤー達について話していく内に、場の空気は少しずつ和んでいった。生き残っている知り合い達は、デスゲームと化した今でも必死に生きようとしている。それが分かっただけでも、救われた気持ちになれた。

 

(クラインは未だはじまりの街周辺で仲間とレベリング中か…)

 

はじまりの街を出る時に置いてきた仲間のことを思い出すイタチ。当然ながら、ビギナーであるクラインが仲間と一緒に行動している以上、リスクの少ない狩りをせざるを得ない。だが、聞いた話ではクラインの暫定的ギルドのメンバーは、ほぼ全員モンスター相手の狩りに慣れてきているとのこと。前線に追い付いてくるのも時間の問題かもしれない。

だが、今はそれよりも目先にある第一層攻略のことに専念せねばならない。

 

「話を戻すが、確認できた攻略参加メンバーはこれだけか?」

 

「間違いないヨ。皆、直接会って確認してるからネ。」

 

「アレン、コペル、フースケ、ゴン、カズゴ、リョーマ、セナ、ツナヨシ、ヨウ…そして俺か。」

 

「分かっているだけで十人。中々よく集まった方だと思うヨ。会議のことを考えるとネ…」

 

アルゴの言葉にイタチは苦い顔をする。今日これからトールバーナで行われる会議は、間違いなく荒れる。その理由は、他でもない、自分を含めたベータテスターにあるのだから。

 

「全くその通りだ。その辺りを覚悟の上で集まってくれたんだ。これ以上を望むのは贅沢だな。」

 

「それじゃ、そろそろ行こうカ。あっちじゃもうぼちぼち集まっている頃だろうしナ。」

 

一先ず、ベータテスターの生き残りの話はここで終わらせて、イタチとアルゴは連れだって部屋を借りている農家を出た。向かう先は、トールバーナの野外ステージ。

その場所は、観客席が中央のステージを囲っている、すり鉢状の構造である。イタチとアルゴは、会議に参加する攻略組の集団に混じってその場所を目指す。適当な場所にアルゴと二人で座り、確認するように話をする。

 

「どうだ、皆来ているか?」

 

「大丈夫だヨ…一先ず安心だナ。」

 

イタチの質問に、アルゴは問題ないと頷く。尋ねたのは、先程言っていた、ベータテスター参加者の有無である。アバターが現実世界と同じになった今、イタチにはそれが本人なのかをすぐに確認する術はない。故にアルゴに尋ねたのだが、心配はなかったようだ。

 

「しかし、四十四人か…やはり、レイド一つ分にも足らないな。」

 

「仕方ないヨ。第一層とはいえ、ボス攻略は死地に向かうも同義だからネ。」

 

アルゴの言っていることは尤もだ。誰もがイタチのように命がけの世界を体験したことのある人間ではない。戦いに積極的に赴く人間など一万人の中でほんの一握りだろう。

 

「…そうだ、アルゴ。プレイヤーの情報で、知りたい奴がいる。」

 

「イタっちが気になるってのは、どんな奴なんダ?」

 

アルゴの私見ではイタチは現状、トッププレイヤーの座に位置する。そんな彼が注目する、恐らくはビギナーのプレイヤーというのは一体どんな人間なのか、興味がある。

 

「アスナという細剣使いの女性プレイヤーだ。」

 

「…ああ、アーちゃんか!」

 

その名前を聞いて、アルゴは合点が行った。

 

「知っているのか?」

 

「オイラも最近注目してるプレイヤーだヨ。しかし、どこで会ったんダ?」

 

「今日の昼頃、迷宮区で会ったが、急に倒れたのでフィールドまで運び出した。」

 

「アチャー、やっぱりまだそんな無茶してたのカ…っていうか、どうやって運び出したんダ?」

 

「普通に運び出した。それだけだ。」

 

アスナを迷宮区から運び出した手段を聞くアルゴに、イタチは平然と返した。嘘ではない、事実だ。通常、プレイヤー一人を独力で運ぼうものなら、相当な筋力パラメータが要求されるが、イタチはそれを持っているのだ。女性プレイヤーのアスナ一人迷宮区から運び出すのは造作も無いことだった。

 

「全く…イタっちは相変わらず無茶苦茶だネ。」

 

「そんなことより、一体何者なんだ?使っているソードスキルのレベルは初級だが、完成度が非常に高い。ベータテスターでもあれだけの実力者はいなかったぞ。」

 

「その情報は、安くしとくヨ。五百コルでどうダ?」

 

「貰っておこう…と言いたいところだが、それはまた後でだな。」

 

情報と金のトレードを行おうとしたところで、会議はようやく始まるようだった。イタチやアルゴはじめとした会議出席者達の視線の先、ステージの上に主催者らしき青年の姿があった。

 

「今日は、俺の呼びかけに応じてくれてありがとう!俺はディアベル、職業は気持ち的にナイトやってます!」

 

ディアベルと名乗る青髪の爽やかなイメージを持つ青年の言葉に、集まったプレイヤー達がどっと沸く。緊迫していた場の空気が和やかになる。開始早々に冗談をかましてプレイヤー達の精神に余裕を持たせるあたりからして、主催者のみならずリーダーとしての適性の高さが窺える。

 

「コミュ力高いナ。これなら、今回の攻略も上手くいくかもしれないネ。」

 

「指揮官としての適性は未知数だったが、確かに彼ならば集団を上手くまとめられるかもしれない。」

 

主催者としてこの場を仕切るディアベルについて評価するアルゴとイタチ。ソードアート・オンラインに閉じ込められたプレイヤーは、大概が重度のMMOプレイヤーで、さまざまなMMORPGで名を挙げた強豪に違いないだろうが、それは飽く迄従来の「ゲーム」の中での話だ。ソードアート・オンラインは今や「デスゲーム」と化している。リアルで命のやりとりをしたことのある人間など、いる筈もない。そんな死と隣り合わせの戦場で指揮を取れる人間が果たしているのかと懸念していたが、どうやらそれも杞憂で済みそうだ。目の前のディアベルは、見たところ指揮官適性は高い。前世の忍世界では少なくとも中忍以上に相当する腕前とイタチは推測する。

 

「今日、迷宮区のマップが新たに十八階まで公開された!二十階ある迷宮区の攻略も大詰めだ。ボスの部屋が見つかるまでの時間も、そう長くはならない筈だ!」

 

これは迷宮区から出たイタチが、フレンド登録しているアルゴにメールを送って流した情報である。ちなみに、イタチの攻略ペースからして、明日には二十階に達してボス部屋も見つける予定である。

 

「一カ月。ここまで、一カ月もかかったけど…それでも、俺達は示さなきゃならない。ボスを倒し、第二層に到達して、このデスゲームそのものもいつかきっとクリアできるんだってことを、はじまりの街で待ってるみんなにつたえなきゃならない。それが、今この場にいる俺達トッププレイヤーの義務なんだ!そうだろ、みんな!」

 

集まったプレイヤー達に自分達の使命について力説するディアベル。そんな彼に、拍手喝采が降り注ぐ。集まったプレイヤー達の士気が向上している点からしても、ディアベルのリーダーシップには非の打ちどころがない。だが、そんな中、

 

「ちょお待ってんか、ナイトはん。」

 

突然流れた低い声に、会議場の空気がぴたりと静まり返る。何事かと後ろを振り返ってみると、そこには小柄ながらがっちりした体格の男の姿が。背中にはやや大型の片手剣を装備し、サボテンのように尖ったヘアスタイルが特徴的だ。

 

「誰だ?」

 

「アー…まあ、見てれば分かるヨ。」

 

イタチの呟きに、しかしアルゴは苦い物を口にしたような顔で答えた。いつもなら情報料を要求するところなのにこの態度である。イタチは嫌な予感しかしなかった。

そうこうしている内に、現れたサボテン頭のプレイヤーは装備に似合わぬ跳躍力で一気に下のステージに降り立つと、集まったプレイヤー達に向き直って濁声で話し始めた。

 

「わいはキバオウってもんや。作戦会議を始める前に、言わせてもらいたいことがある。」

 

会議の最中に乗り込んできていきなり何を言うのだろうと疑問に思うプレイヤー達。少なくとも、キバオウと名乗ったこのプレイヤーに好印象を抱く者はいない筈。だが、次に放った言葉に一部のプレイヤーに緊張が走る。

 

「こん中に、今まで死んでいった一千人に、詫び入れなあかん奴がおる筈や!」

 

集まったプレイヤー達に向けて人差し指を突きつけ、そう宣言するキバオウ。ステージ上の自身とディアベル以外の四十二人の集団を鋭い目つきで端から睥睨する中、イタチの顔の前で一瞬視線が止まった。イタチ自身もそれに気付いており、そこから彼の意図を推察しようとする。だが、その思考はステージ上で、客席にいる一部プレイヤーへ問答しようとするキバオウによって遮られることとなる。

 

「キバオウさん、君言う奴等とはつまり…元ベータテスターの人達のこと、かな?」

 

「決まっとるやないか!」

 

当然と言わんばかりにディアベルに返し、キバオウはプレイヤー達を再び睨みつけて憎々しげに言い放つ。

 

「ベータ上がりどもは、こんクソゲームが始まったその日に、ビギナーを見捨てて消えよった!奴等はウマい狩り場やらボロいクエストを独り占めして、ジブンらだけぽんぽん強うなって、その後もずーっと知らんぷりや。」

 

乱入してきたキバオウの話しに聞き入るほかないプレイヤー達。イタチとアルゴも表情には出さなかったが、内心は複雑だったに違いない。

 

「こん中にもおる筈やで!ベータ上がりの奴等が!そいつらに土下座さして、溜め込んだ金やアイテムを吐きだして貰わな、パーティーメンバーとして、命は預けられんし、預かれん!」

 

イタチやアルゴが最も懸念していた一幕だった。魔女狩りよろしく、ベータテスターを公式の場で吊るし上げてその私財を根こそぎ奪おうと言う魂胆。確かに、キバオウの言うことには一理ある。ベータテスターの大部分は、情報力といった優位性を活かして自身の生存率を上げるために奔走していることは事実である。そして、リソース独占に走ったことが原因で、ビギナー達が死んだとなれば責任問題に問われても文句は言えない。キバオウの言葉には、イタチやアルゴも思うところはある。だが、死んだ一千人の中にはベータテスターもいるのだ。全てがキバオウの言う通りであるとは思えないし、思わない。そこまで考えて、イタチは周囲のプレイヤー達に視線を巡らせた。

 

「…あそこで物言いたげな顔をしている白髪の少年、アレンじゃないか?」

 

「!…よく分かったネ。」

 

「それに、上の方で拳を握り締めているオレンジ髪の男…カズゴだろ。」

 

「その通りだヨ…」

 

広場に集まった人間の中から、次々にベータテスターを言い当てて行くイタチ。アルゴは場が場なので、確認のための情報料を要求せず、肯定していく。そして、言い当てたベータテスター達は、いずれもが怒りや苦脳に満ちた顔をしていた。

 

「拙いナ…アレンとセナはキバオウに食って掛かりそうだヨ…」

 

「カズゴは今にも殴り掛りそうだな…」

 

冷静に、小声で会話をしているようで、二人は内心冷や汗ものだった。仮にここでベータテスターだと正直に名乗り出て金やアイテムを供出したとしても、それで済む話ではない。ビギナー達の死がベータテスターの所為であると考えているプレイヤー達は納得せず、排斥すべく動くだろう。喧嘩腰で殴りかかるのは尚悪い。ベータテスターとビギナーの関係がさらに悪化し、それら二つの枠で、プレイヤー達が真っ二つに割れて敵対してしまう。

 

(どうする…?)

 

冷静な風を装っているイタチだが、内心で冷や汗をかいていた。この場に集まった過半数のプレイヤーは、キバオウの意見に同調する姿勢のようだ。このまま放置しておけば、ベータテスター側も下手な行動に出かねない。何か打開する手段はないかと考えていた、その時だった。

 

「発言、いいか?」

 

攻略会議の会場、その前方の席より、豊かなバリトンが響き渡った。イタチは、また新手の闖入者かと声のした方を見ると、どうやら最初から会議に出席していたプレイヤーのようだった。身長百九十ほどもある筋骨隆々とした体格に、頭は完全なスキンヘッドで肌はチョコレート色だ。見た目通りのパワープレイヤーなのだろう、背中に吊った武器も両手用戦斧だ。突如声を発した巨漢のプレイヤーは、ステージ上に上がると、キバオウに向き直る。圧倒的体格差にさしものキバオウも口を閉ざした。

 

「俺の名前はエギルだ。キバオウさん、あんたの言いたいことはつまり、元ベータテスターが面倒を見なかったからビギナーがたくさん死んだ、その責任を取って謝罪・賠償しろ、ということだな?」

 

「そ…そうや」

 

エギルはキバオウの訴えの内容を確認すると、腰につけた大型ポーチから羊皮紙を閉じた分厚い本アイテムを取り出した。辞書ほどではないが、五百ページ近くあるだろう。それを掲げて、エギルはキバオウに問う。

 

「あんたはそう言うが、キバオウさん。金やアイテムはともかく、情報はあったと思うぞ。このガイドブック、あんただって貰っただろう?ホルンカやメダイの道具屋で無料配布してるんだからな。」

 

エギルが取り出したのは、イタチにとってもかなり見覚えのある本。何せ、自分もそれを持っているし、“制作を手伝った”のだから。

 

「無料配布…か…」

 

「にゃハハ………」

 

ジト目で横に座るに視線を送るイタチ。何か言いたげなイタチにしかし視線を向けられたアルゴは誤魔化すように笑った。それはさておき、今は目の前で行われているキバオウとエギルの問答についてだ。

 

「――貰たで。それが何や。」

 

威圧されながらも、刺々しく返すキバオウ。エギルは本をポーチに戻すと、腕組みして再び口を開く。

 

「このガイドは、俺が新しい村や町に着くと、必ず道具屋に置いてあった。あんたもそうだったろ。情報が早すぎる、とは思わなかったのかい?」

 

「せやから、早かったら何やっちゅうんや!」

 

「こいつに載ってるデータを情報屋に提供したのは、元ベータテスター達以外にあり得ないってことだ。」

 

エギルの言葉に、会議に参加していたプレイヤー達がざわめく。キバオウは苦々しい顔で再度閉口し、隣のディアベルの表情は少々明るくなる。エギルはなおもガイドブックに関する説明を続ける。

 

「しかも、ただのガイドじゃない。各村や町のフィールドのクエストの詳細、フィールドのマップは勿論、適性レベルに応じた狩りの穴場や危険なポイント、さらにはモンスターの詳細な攻撃パターンや有効な攻撃手段まで載っている。一人や二人で集められる情報量じゃない。どう考えても、複数のベータテスターが作成に協力していることは明らかだ。」

 

アルゴが配布しているこのガイドブックの情報は、しかし実際はほとんど一人のβテスターによって集められたものである。協力者の名前は、言うまでも無く「イタチ」。常人を遥かに超える戦闘センスと、他の追随を許さない長時間のプレイによって、各フィールドをくまなく駆けまわって集めた情報である。

エギルの推察では複数のベータテスターの協力のもと作られたとされているが、この場の空気を治めるにはその認識はありがたい。当のイタチもこれで良かったと考えている。

 

「いいか、これだけ詳細な情報がビギナーにも配られていたんだ。なのに、たくさんのプレイヤーが死んだ。だが今は、その責任を追及してる場合じゃないだろ。俺達自身がそうなるかどうか、それがこの会議で左右されると、俺は思っているんだがな。」

 

エギルの至極真っ当で筋の通った論旨に、キバオウは反論できない。しばし無言でエギルを睨みつけていたキバオウだったが、やがてその横を通って観客席へと向かった。エギルもそれに倣い、もといた場所へと戻っていく。プレイヤー達が落ち着いたことを確認したディアベルは、この話題の最後を締めくくる。

 

「みんな、それぞれに思うところはあるだろうけど、今だけはこの第一層を突破するために力を会わせて欲しい。どうしても元テスターとは一緒に戦えない、って人は、残念だけど抜けてくれて構わないよ。ボス戦では、チームワークが何より大事だからさ。」

 

ディアベルの視線の先にいるキバオウは、未だ何か言いたそうにしていたが、これ以上は口を挟むつもりはないようだった。その後の会議は滞りなく進み、最終的には騎士ディアベルの掛け声に、会議に参加したプレイヤーが盛大な雄叫びを上げる一幕で締められた

実務的な議論はなかったが、プレイヤーの士気は十分に上げられた。この分ならば、ボス攻略当日に欠席するプレイヤーが発生することはないだろう。

会議が終わったのち、イタチとアルゴは揃ってステージの場所を出た。

 

「どうにか、乗り切ったか…」

 

「そうだナ。全く、イタっちの言う通り、前途多難だヨ。」

 

キバオウの乱入によって生じた波乱の一幕は、ある意味では第一層攻略以上に緊迫したものだった。ベータテスター排斥の動きが出るのは予期されていたことだが、この調子では今後の攻略でも揉める可能性が高い。

 

(結局、この世界も前世と何一つ変わらないのだな…)

 

うちはイタチとして生きた前世の世界でも、今日の会議のような現場は幾つもあった。血継限界を忌み嫌うあまり、差別が横行した末に一族が挙兵することは、忍の世界では珍しいことではない。イタチの一族、うちはもその一つだ。木の葉隠れの里での主権を取り戻すためにクーデターを試み…そして、二重スパイだったイタチによって、その弟一人を残して虐殺された。

 

(俺は、また止められないのか…)

 

新たな世界に転生してなお、自分はあの悲劇を繰り返さねばならないのか。それは前世で犯した自分の罪故のことなのかと、イタチは誰にでもなく心の奥で問いかける。ならば、自分が今ここにいる意味は―――

いくら考えても、やはり答えを見出すことはできなかった。今は目先の問題に対処せねばならない。第一層攻略は、今日この日から始まったも同然なのだから。

 

 




繰り返し説明しますが、ベータテスター達は、「本人」ではありません。彼らが本人だったら、既にアインクラッドは攻略されていますから……

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