ソードアート・オンライン 仮想世界に降り立つ暁の忍 -改稿版-   作:鈴神

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第百十話 二つの想いを一つずつ形にして

『ソロプレイでフロアボス攻略を成し遂げる』――――そんな、何の冗談だと疑いたくなるような凄まじい偉業を、しかし成し遂げたプレイヤーは…………信じられないことながら、実在する。

プレイヤーのネームは『マコト』。種族は九種族中で最も膂力に優れた土妖精族の『ノーム』。武装は最低限の防具のみで、体術スキルを駆使した徒手空拳を武器に戦い、魔法は補助以外には全くといって良い程使用しない、近接戦闘特化型のピュアファイターである。

今年の四月頃、『武者修行』と称して突如このALOの舞台であるアルヴヘイムへとやってきたこの男は、ゲームをスタートしてから現在に至るまで、以下のような武勇伝を作り、その名をALO中に轟かせたのだった。

 

曰く、ALO開始初日に中ボスクラスのモンスターを、HPをドット以下のダメージで単独でクリアした。

曰く、種族対抗の大規模レイド戦イベントにおいて、一人敵陣へ突撃し、フルレイド四十九人を相手に無双し、全滅せしめた。

曰く、その拳撃と蹴撃は、剣であろうが魔法であろうが粉砕する伝説級武器である。

 

そして、そんな並外れた武勇伝の中でも、聞くだけならば最も信憑性が低いものが、『フロアボスの単独攻略』である。しかしこれは同時に、明確かつ誰もが確認できる物的証拠が存在する武勇伝でもある。それは、アインクラッド第一層『はじまりの街』の黒鉄宮に設置されたオブジェクト『剣士の碑』である。

『剣士の碑』とは、アインクラッドの各フロアボス攻略に参加したプレイヤーの名前が刻まれる鉄碑である。ただし、これは参加したプレイヤー全員の名前が刻まれるというわけではない。攻略に参加したレイドの各パーティーリーダーが代表として刻まれるのだ。そしてその中には、『マコト』一人分の名前しか刻まれていない階層が存在していた。

無論、この話に否定的なALOプレイヤーの中は、実はマコトは七パーティーフルメンバーの、総勢四十九名のレイドで挑戦し、一人生き残ったことで名前を刻むに至ったのではと考えた者もいた。しかし、当該フロアボス攻略においてマコトとパーティーを組んで攻略したプレイヤーは一人として確認できなかった。

 

 

 

この偉業をきっかけに、マコトの名前は絶対無敵の拳の使い手として、『絶拳』の二つ名とともにALO中に轟くこととなったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「……イタチ。その人って、本物……なの?」

 

「本物だ」

 

目の前に現れた『絶拳』と呼ばれた男を指差し、ユウキは顔を引き攣らせながらイタチに問い掛けるも、即座に肯定されてしまった。『絶拳』の詳細は、特に秘匿されているわけでもなく、一般のプレイヤーでもその情報は容易に入手できる。性別は男性で、百八十センチメートル超の屈強な肉体を持ち、ノーム特有のタトゥーを左目の上に付けているという。また、その写真もあちらこちらに出回っており、その容姿は広く知られている。

しかし、本人を目の前にしてしまえば、本物なのかと疑ってしまうのも無理は無い。それだけ、『絶拳』が成し遂げた偉業は、凄まじいものがあるのだから。

 

「オイオイ、俺達も忘れてもらっちゃ困るぜ!」

 

「そうだよな。折角、友達の救援に駆け付けてきたのに、放置は無いぜ」

 

「ああ、悪かったな。キヨマロとギンタも、よく来てくれた。こんな無理な依頼を引き受けてくれたことには、感謝している」

 

マコトの両隣に立つプレイヤーに対し、改めて声を掛けるイタチ。それに対し、ギンタと呼ばれたケットシーの少年と、キヨマロと呼ばれたシルフの少年は、揃って笑みを浮かべて口を開いた。

 

「助けが欲しいって言ったのは、お前だろう。それにしても……戦いを始めるのが、少し早過ぎたんじゃないか?」

 

「キヨマロの言う通りだぜ。約束の時間より早く暴れ始めやがって。俺達が間に合わなかったら、どうするつもりだったんだよ?」

 

その言葉を聞いたユウキ達スリーピング・ナイツのメンバーは得心した。この場に駆け付けてきた三人のプレイヤーは、イタチによって呼び出された援軍なのだ。

 

「すまんな。俺としては、もうしばらく時間を稼ぐつもりだったのだが、俺の仲間が先走ってしまってな……」

 

「うぐっ…………ご、ごめん」

 

イタチの呟きを耳にしたユウキは、しゅんと萎れた様子で謝罪を口にした。余所のギルドが敵に回る、このような事態も予測に入れてイタチは作戦を立てていたというのに、それをユウキが台無しにしかけたのだ。居た堪れない気持ちになるのも無理は無かった。

 

「だが、本格的な戦いはこれから始まるところだ。増援は十分に間に合っている」

 

窮地に陥っていたイタチ達七人パーティーのもとへ、キヨマロとギンタ、そして絶拳ことマコトが駆け付けたことにより、戦況は十対四十九となった。ゾディアックのフルレイド四十九人は、扉側に二十人、通路側に二十九人がそれぞれ展開している。イタチ等七人パーティーが相手する数より、キヨマロ、ギンタ、絶拳ことマコトが相手する敵の方が数は多い形となっていた。

そんな不利な戦いを強いられることとなった三人に、イタチは確認するようにキヨマロへと問い掛けた。

 

「やれるか、この数?」

 

「あと一人増えたら厳しいかもな」

 

「……なら、その一人は俺が倒すさ」

 

「なんだ、お前も手伝ってくれるのか?」

 

この危機的状況下において、余裕そのものの態度で軽口を叩き合えるのだ。フルレイドによる挟撃など、大した障害にはならないのだろう。

 

「心配は無用なようで何よりだ。なら、当初の予定通り、俺達は扉側の部隊を相手する。通路側の援軍は、お前達三人に頼む」

 

「了解した」

 

「任せとけ、イタチ」

 

互いのコンディションがいつもと変わらないことを確かめたイタチとキヨマロは、それぞれの方向へと剣を改めて構えた。イタチにはユウキをはじめとしたスリーピング・ナイツのメンバーが、キヨマロにはギンタとマコトが追従する。

 

「イタチ」

 

そして、いよいよ戦いが始まろうとしていたその時。今まで口を開かなかった絶拳ことマコトが、イタチの名前を呼んだ。呼ばれたイタチはちらりと後方にいるマコトへと視線を向けた。

 

「この戦いが終わったら、例の約束は守ってもらうからな」

 

「ああ、任せておけ。それでは……始めるぞ!」

 

その一言を最後に、今度こそ戦いの火蓋が切って落とされた。イタチ率いるパーティーは、イタチとユウキがツートップで前へ出て通路を駆け抜け、ゾディアックの前衛メンバーのもとへ向かう。それをジュンとテッチ、ノリが追う形で続く。シウネーは、槍からワンドに持ち替えたタルケンと共に、後方支援に回っていた。

 

「ユウキ、前衛の連中は相手にするな。まずは、後方のメイジ隊を潰すぞ」

 

「オッケー!」

 

隣に並び立つユウキに指示を出し、敵前衛に斬り込んでいくイタチ。襲い来るゾディアックのメンバーが振るう武器に対し、受け止めるのではなく、受け流す。攻撃は相手の動きを封じるための最低限度に止め、追撃はせず、只管に敵陣の奥を目指す。

 

「ジュン、テッチ、ノリ!突破した敵を足止めしろ!」

 

「了解だ!」

 

「任せといて!」

 

「背中はあたし等が守るよ!」

 

勿論、突破した後に残した敵への対処も怠らない。イタチとユウキの後続として突撃してきたジュン、テッチ、ノリの三人が、イタチとユウキに向けて再度攻撃を仕掛けようとするゾディアックのメンバーを攻撃して行動を阻む。お陰で、イタチとユウキは背後からの攻撃を気にせず、突き進むことができる。

 

「させるかぁぁあっ!」

 

「むっ!」

 

「わゎっ!」

 

しかし、ゾディアックもALOを代表する攻略ギルド。たった七人のプレイヤー相手に、やられっ放しのままではない。イタチとユウキの進撃を防ぐために、反撃に動く。

イタチとユウキに対して繰り出されるのは、槍系二連撃ソードスキルの『ツインスラスト』。しかし、得物はただの細剣や槍ではない。鞭のように撓って湾曲し、二人の死角を穿つように放たれたのだ。かなりの速度で、回避が難しいタイミングで受けた攻撃だったが、二人とも反応が間に合い、危なげなく刺突を弾くことに成功するのだった。

 

「調子に乗ってんじゃねえぞ!」

 

「お前か……」

 

「イタチ、今のって……!」

 

イタチとユウキが視線を向けた先に居たのは、先程まで扉の前で押し問答をしていたリーダー格の男、コウガである。その右手には、刺突を放った武器である多節棍が握られていた。

 

「単体攻撃技である『ツイン・スラスト』を二体の標的に対して放つ、か。噂に聞くエンシェント・ウエポン級武装の『百足』だな。成程、流石は攻略ギルドだ。中々に強力な武装に、巧みな使い手を揃えている」

 

ALOにおいて実装化されている有名どころの武器に関する情報を一通り押さえていたイタチだからこそ判別できた武装だった。

エンシェント・ウエポン級武装『百足』は、その名の通り、虫のムカデを彷彿させる無数の関節を持つ多節棍である。形状は片手棍に近いものの、片手棍特有の打撃系ソードスキルのみならず、槍系の刺突系ソードスキルも使える、汎用性の高い武器なのだ。加えて、無数の関節が分離して鞭のように撓り、湾曲する特性を持つことから、自由自在な軌道を描くことができる上、ソードスキル発動時においてもこの特性は機能するのだ。唯一にして最大の難点として、癖の強い武器故に扱いが難しいことが挙げられており、使い手は非常に少ないとされている。

 

「ユウキ、避けろ!」

 

「こ、今度は何っ!?」

 

コウガの攻撃を凌いだのも束の間。ゾディアックからの反撃は、間断無くイタチとユウキへ行われる。

続いてイタチとユウキに繰り出されたのは、体術ソードスキルの『閃打』。大したダメージを与えられるわけではない、敵をノックバックさせるためのソードスキルである。恐らくこれで隙を作り出し、重攻撃型のソードスキルと魔法を立て続けに叩き込んで攻め潰すつもりなのだろう。

こちらの攻撃も死角から仕掛けられたものだったが、イタチとユウキにとっては問題にはならず、こちらも難なく回避に成功する。だが、攻撃が仕掛けられた方向に居た……『閃打』を放った相手を見たユウキは、ぎょっと目を見開いて驚きを露にした。

 

「う、腕!腕の、お化けぇっ!?」

 

「落ち着け。スプリガンの幻属性魔法『スプリットパーツ』だ」

 

目の前に浮遊する“腕だけの存在”に対し、しかしイタチは相変わらずの冷静さをもって分析し、その答えをユウキに告げた。

『サスケ』というスプリガンのアバターをサブアカウントで持ち、幻属性魔法を熟知していたイタチには、その魔法の正体はすぐに分かった。

『スプリットパーツ』は、手足と胴体を、実体を持ったまま分離・浮遊させる魔法である。ソードスキルや他の魔法の併用も可能なことから、遠隔攻撃や陽動に使われている。ボス攻略戦においては、タゲを攪乱するのに重宝されることから、ゾディアックがレイドのメンバーに使い手を入れているのは当然とも言えた。

 

「後方支援の連中の中に、両手が欠損したプレイヤーが見えた。恐らく、奴が発動しているのだろう」

 

イタチが件で指し示した先には、確かに手足が欠損した状態の、髑髏の仮面を被った男性プレイヤーがいた。彼が『スプリットパーツ』を発動しているスプリガンでまず間違いない。

 

「ふぇぇえ……やっぱり攻略組って、凄く強い人達なんだね」

 

「感心している場合じゃないだろう。その凄く強い連中を、半数以下とはいえ……俺達七人で全員倒さなければならんのだぞ」

 

初めて身をもって知る攻略組の強さを前に、臆するどころか、好奇心に目を輝かせて興奮するユウキに、イタチは半ば呆れていた。しかし、歴戦の強豪プレイヤーでもまず匙を投げるような状況下に置かれても、気勢を削がれることなく、戦いに臨むことができる純真さと芯の強さには、敬意を持っていた。スリーピング・ナイツのメンバーはもとより、イタチにとっても支えになるからだ。

 

「ゾディアックを嘗めんなよ!お前達七人程度、すぐに叩き潰してやらあっ!」

 

「ボク達だって、負けないよ!君達を倒して、絶対にフロアボス攻略を成功させてみせる!!」

 

己の譲れないもののために、どれ程の兄弟な困難が障害として立ちはだかったとしても必ず乗り越える。その固い意思を胸に宣言したユウキの決意を、しかしコウガは鼻で嗤った。

 

「ハッ!俺達にすら手こずっているような奴等に、そんなことできるわけがねえだろうが!後ろの援軍も、いくら絶拳が一緒だからって、三十人近い数を相手にいつまでも持ち堪えられるわけがねえ!すぐに挟み撃ちにしてやるぜ!」

 

「果たして、そう上手くことが運ぶと思うか?」

 

「ああん!?何言ってやがる!見ろ!絶拳だって、すぐに…………」

 

イタチの挑発的とも言える態度に苛立ちを露にし、絶拳ことマコトとその仲間二人が戦っている場所を指差す。しかしそこにあったのは、コウガが口にしていたような、ゾディアックにとって圧倒的に有利な戦況などではなく……それどころか、真逆の展開だった。

 

 

 

 

 

「『絶拳』ことマコト……それに、『シルフ五傑』のキヨマロと『リビング・ウエポン使い』のギンタ、か。たった三人ながら、錚々たる面々だな」

 

「俺も、あんたのことは聞いてるぜ。俺より古株のALOプレイヤーの『シルフ五傑』――ガリアンだな」

 

「俺とバッボのことも知ってるみたいだな!」

 

マコト、キヨマロ、ギンタの三人に相対するゾディアックの代表者として口を開いたのは、リーダーであるガリアンだった。

 

「直接顔を合わせるのはこれが初めてだが、お前のことはシチロウからもよく聞いている。ここ最近新たに加わった『シルフ五傑』の男は、俺と同じ雷使いだと聞いていた。それも、“オリジナルソードスキルを使いこなす”とな」

 

「あんたの噂も聞いてるぜ。ALOの中でも随一の両手剣使いで、ユージーン将軍に最も近い実力を持つ、シルフのトップクラスの使い手に名を連ねていた強豪だってな」

 

種族同士の抗争が激しかった旧ALO時代には、ホームタウンが隣同士だったシルフとサラマンダーも例に漏れず、壮絶な戦いが毎日のように繰り広げられていた。そして、その種族間戦闘の急先鋒に立っていたプレイヤーというのが、シルフ五傑と呼ばれる五人のプレイヤーと、サラマンダー実戦部隊を率いるユージーン将軍だった。

伝説級武器『魔剣』グラムを持ち、OSS『ヴォルカニック・ブレイザー』を使いこなす、ユージーン将軍は、イタチをはじめとしたSAO生還者の強豪たちがALOに参戦した今も尚、最強クラスのプレイヤーとして名高い強豪である。そして、ユージーン将軍と渡り合ってきたシルフ五傑の一人に数えられるガリアンもまた、強豪と呼ぶに相応しい実力者には違いなかった。

 

「できることならば、そこの絶拳も含めて一対一での手合わせといきたかったが、今はギルドの任務中だ。任務達成の責任がある以上、レイド全員で当たらせて貰う。悪く思わないでもらおう」

 

ガリアンが手を上げると、後方に控えていたメイジ数名が詠唱を開始した。魔法の発動を止めようにも、マコトによって瓦解しかけた前衛部隊の立て直しは既に完了している。マコトが蹴散らして後衛に攻め込むよりも、魔法が発動する方が先だろう。

 

「マコト、頼んだぞ!」

 

「了解した」

 

これに対し、キヨマロ達三人が取った行動は、マコトを前衛へ出し、キヨマロとギンタの二人はその後ろへと下がった。どうやら、ガリアン率いるゾディアック援軍のメイジ隊が放つ魔法攻撃を、マコト一人で対処しようと考えているらしい。

近接戦闘のスペシャリストを前に立てて、一体何をしようとしているのか。ガリアンにはその意図がまるで読めないが、攻撃を止めるわけにはいかない。

 

「放て!」

 

そして、ガリアンの掛け声と共に、マコト目掛けていくつもの魔法が発射される。氷塊を放つ氷属性魔法『アイスドアース』、火属性魔法『フレイムボール』、竜巻をぶつける風属性魔法『ウィンダールヴ』といった魔法が、立て続けに放たれ、迫る中、マコトが取った行動は――――

 

「ハァァァアアアッッ!!」

 

「何っ!?」

 

放たれる魔法に対し、拳を突き出すという方法による迎撃に出たのだ。しかし、ただの拳撃ではない。眩いライトエフェクトを放つ、閃光の拳――ソードスキルである。先行して飛来した『フレイムボール』の魔法三発は、マコトの放った体術系ソードスキルの前に爆砕された。

 

「セイッ!ハァァアッ!」

 

次いで迫るのは、『アイスドアース』の氷塊二つ。対するマコトは、今度は両足にソードスキルの光を宿し、蹴撃によって叩き割る。

 

「ウオォォォオオオ!!」

 

そして、最後に迫る竜巻二つに、手刀で両断し、蹴撃で打ち抜く。五秒にも満たない間に繰り広げられた、マコトによる魔法の迎撃を目にしたイタチとキヨマロ、ギンタを除くプレイヤー達全員が、一様に驚愕に目を剥いていた。

 

「ば、馬鹿な……!」

 

「魔法を……素手で!?」

 

「嘘……だろ……!?」

 

『絶拳』が立てた武勇伝の数々は、ALOに広く知れ渡っているが、流石にこれは予想外過ぎる。迫りくる魔法の数々を、拳撃・蹴撃をもって叩き潰すなど、誰が予測できたものか。

 

 

 

 

 

「イタチ……あれって、ソードスキルなの?」

 

「ああ」

 

「けど、ソードスキルで魔法を迎撃するって……」

 

「理論上は、可能なことだ」

 

目の前に起こった出来事に対して、未だに信じられないとばかりに顔を横に振るユウキの考えを、しかしイタチは否定した。

ALOにおけるソードスキルとは、地水火風光闇の属性ダメージを持つ攻撃であり、システム上は魔法と同じ性質を持っている。故に、魔法をソードスキルで弾くことは、当たりさえすれば可能なのだ。

尤も、飽く迄それは、ソードスキルが魔法に“当たれば”の話であり、実行するのは尋常ではない程に難しい。ALOにおける魔法という現象は、大部分が実体の無いライトエフェクトで構成されており、これを消滅させるには中心部の非常に小さいコアをソードスキルで穿たねばならない。即ち、高速で迫る飛翔体の中にある、視認できないウィークポイントを見極め、システムアシストの作用によって相当な速度と勢いが伴うソードスキルを当てるのだ。これをやってのけるには、相当に優れた動体視力は勿論のこと、ソードスキルを制御し、完璧に使いこなすテクニックが必要となる。

イタチが『魔法破壊(スペルブラスト)』と名付けたこのシステム外スキルを習得したプレイヤーは非常に少なく、歴戦の勇者と目されるイタチの友人であるアスナやリーファ、クラインですら習得することができなかった程の難易度である。発案者であるイタチ自身を除き、最終的に『魔法破壊(スペルブラスト)』を習得したプレイヤーは、先程目の前でこれをやってのけた『絶拳』マコトと、リーファの親友であるランの二人のみだった。

リーファを通して聞いた話によれば、このマコトはラン同様、現実世界においても武術を極めた凄まじい戦闘能力の持ち主らしい。しかも、探偵業を営むランの父親の仕事場で、ラン同様に銃器を手に抵抗する凶悪犯を取り押さえたことがあるらしい。その経験が『魔法破壊(スペルブラスト)』に活かされているのだという。

 

「けど、体術系ソードスキルの連撃って、聞いたこと無いんだけど……っていうかアレ、もしかして……」

 

「七連撃片手剣ソードスキルの『デッドリー・シンズ』、だな」

 

イタチからその言葉を聞かされたユウキは、さらなる驚愕に見舞われた。

 

「ど、どうして片手剣ソードスキルを体術で使えるのさ!?」

 

「片手剣ソードスキルを、体術ソードスキルの『OSS』として登録したからだ」

 

『OSS』とは、その名の通り独自に開発ソードスキル開発を行うために実装化されたシステムである。普通ならば、剣や槍といった武器を使ったソードスキルの開発に用いられるものなのだが、マコトはこれを体術スキル開発のために活用したのだ。

そもそも、体術スキルというものは接近戦における補助的な攻撃手段として用いられてきたものであり、数そのものが少なく、単発技が大半を占めている。故に、体術使いのプレイヤーの基本戦術は、ソードスキルを伴わない打撃の連打を急所へ叩き込むことによる制圧となる。無論、こんな戦法が取れるのは体術に相当優れるプレイヤーでなければ不可能であり、体術使いのプレイヤーの数が非常に少ない所以でもある。

そこで、マコトは既存のソードスキルの連続技を、両手両足を用いた体術で再現し、これを『OSS』として登録する策を考え出した。並外れた動体視力と身体能力を持つマコトにとっては、体術による『OSS』の作成など造作も無いことだったらしく、今では片手剣、両手剣、短剣のソードスキルを一通り体術の『OSS』として習得していた。ちなみに、両手両足を武器として使う関係上、二連撃ソードスキルでも、単純計算で「4×4=16」で十六通りの攻撃手段が編み出されることとなり、結果としてマコトのOSSによる体術の手数は、三桁を軽く超えているのだった。

 

「本人の希望としては、ソードスキルのような小細工は無しで、純粋な体術のみでこの世界で戦いたいと考えていたらしいが……システム的に干渉できない魔法の類をどうにかするには、魔法かソードスキルのどちらかを取らなければならなかったわけだ」

 

「ってことはつまり……その『魔法破壊(スペルブラスト)』をやるためだけに、『OSS』の体術系ソードスキルを作ったってことなの!?」

 

「そういうことだ」

 

「は、はは…………えっと……流石は、イタチの友人って言った方が良いのかな?」

 

「知らん」

 

顔を引き攣らせて苦笑し、どうコメントすれば良いのか、まるで見当が付かないでいるユウキに対し、イタチはしれっとそう答えた。

それより今は、目の前の障害の排除である。マコトとキヨマロ、ギンタが後方の敵を足止めしている間に、自分達はフロアボスの部屋の前に陣取っているゾディアックのメンバーを全員排除しなければならないのだから。

 

「チィッ!野郎ども、かかれ!!」

 

通路の反対側でマコトが繰り広げる常識外れな戦いぶりに、コウガが焦ったように指示を飛ばす。それに従い、ゾディアックの前衛パーティーのメンバーが次々イタチとユウキに襲い掛かった。先程までと同様、刃を受け流し、最優先排除目標である後衛のメイジ部隊へ接近を試みる。しかし、今度はそうはいかない。刃を受け流したその直後に、後衛のメイジから援軍のメイジが放ったものと同様に、『フレイムボール』や『アイスドアース』をはじめとした攻撃魔法が立て続けに放たれ、後退を余儀なくされたのだ。

 

「くぅぅう……やっぱり皆、手強いなぁ……!」

 

「回復薬兼遠隔攻撃役の後衛メイジを先に潰すのは、集団戦闘の定石だ。ましてやゾディアックが、その弱点を押さえておかないわけがない」

 

「けど、やっぱり攻めないことには始まらないよね。それじゃあもう一丁、行ってみようか!」

 

戦場がそれ程広いわけではない通路の上であり、迷宮内故にALO特有の翅を活かした空中戦に持ち込めない以上、取れる手段は先程と同様の正面突破以外に無い。

故にユウキは先程と同様、イタチとともにゾディアックの前衛部隊の中へと斬り込んでいく。対するゾディアックは、先程とは異なる方法による迎撃に出た。

 

「へっ……!何コレ!?プーカのプレイヤーが沢山……!」

 

「プーカが得意とする音楽系スキル『チャームホルン』だな。使い手の幻を複製する、幻属性魔法の性質を兼ね備えたスキルだ」

 

尖った帽子を被り、マントを羽織ったプーカのプレイヤーが多数出現するという予想外の現象が起こったことで、踏み込むことができなかったユウキに対し、イタチが解説を行った。

 

「それじゃあ、本物は?」

 

「スキルを発動している本体のプーカには、影がある。影が無いものが幻影だ」

 

「そっか!なら、本物は…………」

 

イタチのアドバイスに従い、本体を探すユウキ。だが、そこへ――――

 

「わゎぁあっ!」

 

「む……!」

 

イタチとユウキ目掛けて、ゾディアックの後方部隊から魔法が、“分身越し”に放たれた。

 

「分身を使って視界を遮って作った死角から魔法を放り込む、か。マントを着込んでいるのも、布面積を増やして死角を広げるためというわけだ。中々、考えたな」

 

「いや、感心してる場合じゃないでしょ!」

 

『チャームホルン』で作り出した分身は、ハリボテだけで実体が存在しない。しかしその反面、術を解かない限り、攻撃を受けても消滅しない性質を持つのだ。

ゾディアックはこの性質に着目し、分身を陽動用のデコイとして使うとともに、攻撃を確実に命中させるための死角を作り出すために利用しているのだ。

 

「ほらほら!前ばっかりじゃなくて、後からも行くよ!」

 

「そう簡単には、行かせないのニャ!」

 

そして、前方ばかりに注意を払っているわけにはいかない。ここまで斬り込んできた際に置き去りにしてきたゾディアックの前衛部隊が、ジュン、テッチ、ノリの足止めを振り切り、イタチとユウキを襲い始めたのだ。

先行して後退を開始した、先端が球体の形をしたメイスを持つレプラコーンと、鋭い爪を両手に嵌めたケットシーの女性二人による連携攻撃を躱すイタチとユウキだが、次いで分身越しに放たれた魔法を避けるために動いたため、イタチとユウキはさらに押し戻されてしまった。

 

「流石は攻略ギルドだな。一筋縄では突破できん」

 

「だから、落ち着いている場合じゃないでしょ!」

 

ゾディアックの包囲を突破できない状況に置かれながら、相変わらず冷静に構えているイタチに、ユウキが突っ込みを入れる。イタチはイタチなりに現状を打破する方法を模索していることは分かるが、時間が無い。

ともかく今は、戦況をこちらに有利にする必要がある。そのためにはまず、前線に『チャームホルン』の分身を放っているプレイヤーを潰さなければならない。先程のイタチのアドバイスに従い、影の無いプーカのプレイヤーを探し出すべく、視線を巡らせる。

 

「見つけた、あれだ!」

 

「ユウキ、待て!」

 

前線に立ち塞がるプーカの分身の中に一体だけ、影のあるプーカの姿を捉えたユウキの行動は早かった。片手剣を構え、ソードスキルが発する光芒とともに標的のプーカ目掛けて一直線に駆け出していく。発動するソードスキルは、片手剣の単発重攻撃技の『ヴォーパルストライク』。片手剣系ソードスキルの中でも特に強力なこの技は、非常に強力な分、相手に軌道を先読みされるリスクが大きい一面もあった。しかし、イタチ程ではないにせよ、OSSを作り出す程にソードスキルを極めたユウキの一撃は、譬え正面から仕掛けたとしても、カウンターを仕掛ける隙など与えない。

 

「いっけぇぇぇえええ!」

 

目標たるプーカ目掛けて、閃光と化したユウキの刺突が繰り出される。アスナもかくやという速度で動くユウキの姿を、目で捕捉することはできても、行動は間に合わない。一歩、また一歩と確実に距離を詰め、そして、あと一歩で必殺の一撃が炸裂しようという――――その時だった。

 

「えっ………!?」

 

ユウキの視界が……身体が、ぐらりと傾いたのだ。自身を襲う、まるで、右足を泥濘に突っ込んだかのような感覚に戸惑うユウキだが、今更後には退けない。さりとて、右足に起こった謎の異常ゆえに、前へ踏み込むことも叶わない。

 

「てぇぇえいっ!」

 

そんな中、ユウキが取った行動は、突撃を諦めて、剣を“投擲する”というものだった。ソードスキルは、武器を手放してしまえば、即座に発動がキャンセルされてしまう。しかし、敵に炸裂する直前の段階まで発動している状況で、高速で投擲したのならば――――

 

「ぐぁぁぁあああっっ!」

 

ソードスキルのキャンセルは不完全な状態で、敵を貫くこととなる。果たして、ユウキが放った“投擲型の”『ヴォーパル・ストライク』は『チャームホルン』を発動していたプーカのプレイヤーを、刺し貫いた。ソードスキルの威力を殺さず放たれたその一撃は、プーカのプレイヤーのHPを、その一撃にて全損に至らしめた。

 

「いよっし!まずは一人!」

 

厄介なプーカを『チャームホルン』の分身もろとも消滅させたことにガッツポーズで達成感を抱くユウキ。だが、

 

「って!…………う、動けないぃいっ!?」

 

その場から移動し、イタチと合流しようとしたが、足が全く動かせない。ユウキの両足は、流砂のように変化していた地面へと、踝の部分まで沈んでいた。

 

「ハッハッハ!まんまと引っ掛かりやがったな!これでこいつは動けねえ!メイジ隊、こいつを焼き尽くせ!」

 

自身の置かれた状況を理解し、ユウキは遅まきながら、自分が罠に嵌められたことに気付いた。プーカの『チャームホルン』に気を取られて気付かなかったが、その隙を突く形でコウガはノームが得意とする土属性魔法『蟻地獄』を発動していたのだ。

『蟻地獄』とは、一定空間の地面を流砂へと変化させ、敵の足を沈み込ませて動きを封じる、標的の拘束や捕獲に用いられる魔法である。空中戦が主流であるALOにおいては、専ら地上で活動するモンスター相手に使用する魔法だが、飛行禁止エリアであるダンジョンの通路であれば、プレイヤー相手でも多大な効果を発揮する。先程のように、『チャームホルン』の陽動と併用すれば、猶更である。

果たしてその策略は成功し、プーカのプレイヤー一人という犠牲を払いながらも、ユウキを身動きの取れない状況に追い込んだ。そして、作戦を指揮したコウガの命令により、後衛のメイジ隊へ魔法による集中砲火を浴びせかけようとする。

 

「くっ……!」

 

『蟻地獄』の渦中に捕らわれ、身を守る武器すら手に無い勝ちこの状況下では、回避も防御も不可能である。せめてもの抵抗として、両腕で頭部を守る姿勢を取るが、降り注ぐ魔法の前では意味を為さない。コウガが誇ったような嘲笑を浴びせかけてくる中、ゾディアックのメイジ隊の詠唱を開始する。

退くことも進むこともできず、もはや打つ手無し。そんな考えが過り、ユウキはHP全損を覚悟して目を瞑ろうとした。だが、その時――――

 

「だから言っただろう、ユウキ。何事においてもお前は、“先走り過ぎだ”とな――――」

 

「え?」

 

ふと聞こえたその声に、顔を上げようとしたユウキだったが、それは叶わなかった。魔法が衝突するよりも先に、自身の右肩に重い衝撃を感じ、バランスを崩したからだ。次いで気付いたのは、自身を真上から覆う、“黒い影”。それは、ユウキの頭上を一瞬で通過し、じきに魔法が飛来する渦中へとその身を躍らせた。

 

「い、イタチっ!?」

 

ゾディアックのメンバーは前衛・後衛を問わず、全員がユウキ一人に注目していたせいか、ユウキの右肩を足場に凄まじい速度で跳躍した黒い影の正体たる、イタチの存在に気付くのが遅れた。

ユウキを足場に蟻地獄を跳び越え、ゾディアックのメンバーの頭上へと跳躍したイタチは、地上の敵全員の配置を確認する。それと同時に、両手に四本ずつ持っていたピックを次々に投擲する。

右手から二本、左手から二本、次いで再度右手から二本投擲。さらに、腰のポーチに差していたピック二本を抜き、両手に持つ。そしてこれらを、迸るライトエフェクトとともに同時に投擲する。複数の標的目掛けて投擲武器を放つ投擲系ソードスキル『マルチプル・シュート』である。

 

「なっ……!?」

 

「まさか!」

 

「嘘!?」

 

イタチが時間差で投擲したマルチプル・シュートによって放った二本のピックは、先に放った六本のピックへと、空中にてビリヤードのように追突し、当初の投擲した軌道を分岐。投擲された計八本のピックは、それぞれ別方向に存在する標的目掛けて飛来する。

 

「ぐあっ!」

 

「ぎゃっ!」

 

「ぬあっ!」

 

「ひぃっ!」

 

「うわっ!」

 

「きゃっ!」

 

「ぶほっ!」

 

「ぐぅっ!」

 

果たして、投擲されたピック八本全て、イタチが狙いを定めたプレイヤー八人に命中した。ピックが突き刺さったプレイヤーは、ユウキ目掛けて魔法を放とうとしていた後衛のメイジ五人と、前衛のプレイヤー三人。そのいずれもが、ピックの命中とともに、その場に崩れ落ちた。

 

「んなっ……あり得ねぇ!あんな体勢から、あんな数のピックを投擲して命中させるなんて……!」

 

「あんな技、見たことねえぞ!!」

 

イタチの投擲技に驚愕するゾディアックのメンバー達。一般のプレイヤーには到底再現できない離れ業だが、忍としての前世を持つイタチには然程難しい芸当ではない。ましてやうちはイタチは、忍世界において最強クラスの忍であり、先程行ったように複数の標的を同時に狙える程に手裏剣術を極めているのだ。

そんなことを知る由も無いゾディアックの面々は、驚愕に目を剥き、あり得ないとばかり呟く。そしてその隙は、イタチを相手するにはあまりに致命的だった。

 

「なっ……まさか、麻痺毒!?」

 

「察しが良いな。だが……遅い!」

 

前衛プレイヤーの支援の要である後衛と、前衛の主要メンバーの動きを麻痺毒で封じられたことにより、ゾディアックの優勢は大きな揺らぎを見せる。そして、目論見通りに作り出した隙を突き、イタチは着地と同時に指揮官であるコウガを討つべく動き出す。

 

「チィッ!来るなぁあっ!」

 

対するコウガも、負けじと応戦しようとするが、イタチを迎え撃つには距離が短過ぎた。コウガが右手に握る『百足』による伸縮自在の刺突が繰り出されるよりも早く、イタチは懐に飛び込み、ソードスキルを発動する。

片手剣による、水平四連撃ソードスキル『ホリゾンタル・スクエア』である。正方形を描くように、標的を中心に水平四連撃を繰り出すこのソードスキルは、巨体故にパワーがある反面、小回りの利かない弱点を突くには打って付けのソードスキルだった。

 

「ぐぅぅううっっ……嘗めるなぁあっ!!」

 

だが、コウガもただではやられない。四連撃の最後の一撃が脇腹を切り裂いたその時。振り抜かれようとしたその刃を、素手で無理矢理押さえ込んだのだ。

 

「お前等ぁああ!俺もろともこいつをぶっ殺せぇええ!!」

 

どうやら、捨て身の白刃取りでイタチの剣を封じたこの隙を利用し、仲間達に一気に畳み込ませて道連れにしようという魂胆らしい。かなり無茶な作戦ではあるが、数の有利と自身の頑強さを最大限に活かした、現状で取れる作戦の中では最も有効であることは間違いない。HP全損は免れないが、蘇生アイテムがあれば戦線復帰は可能となる。

しかし、デスペナルティーを気にすることなく、即座に自分諸共にイタチを倒すという作戦に出た決断力は、賞賛に値するだろう。ただし、相手がイタチではなければ、の話だったが…………

 

「はぁっ!」

 

「ぐふぉぉっ!?」

 

剣を引き抜くことは不可能と考えたイタチは、柄から手を放してコウガの腹に蹴りを叩き込み、迫りくるゾディアックのメンバー達の前へと突き飛ばして足止めに利用した。その間隙を利用し、イタチはクイックチェンジを素早く発動させて剣を回収する。それと同時に、地面に転がっていたソレ(・・)を拾い上げた。

 

「死ねぇっ!」

 

「くたばれ!」

 

「これで終わりだっ!」

 

そこへ、突き飛ばされたコウガによる足止めを突破してきたゾディアックのメンバーが襲い掛かる。対するイタチは、三名のプレイヤーに一斉に襲い掛かられているにも関わらず、慌てた様子を微塵も見せないまま……

 

「ふんっ……!」

 

両手から二条の閃光を左右両方向へ迸らせ、迫りくるプレイヤー三名の刃を弾き返した。広範囲型二刀流ソードスキル『エンド・リボルバー』である。

そして、それを放ったイタチの左手には、ユウキの愛剣である漆黒の片手剣『ビジュメニア』が握られていた。

 

「次は――――」

 

プレイヤー三名を一蹴したイタチが次に狙いを定めるのは、ゾディアックのレイドの最後部に展開しているメイジ隊である。剣二本を手に突撃姿勢を取ると、ソードスキル発動に伴うライトエフェクトを迸らせながら、力強く踏み込んでいく。

 

「はぁぁぁあああっっ!!」

 

その掛け声と共に駆け出したイタチは、瞬く間に最高速に達して閃光と化し、レイドを突き抜けた。突進型の二刀流ソードスキル『ゲイル・スライサー』である。

アスナが発動する細剣上位ソードスキルの『フラッシング・ペネトレイター』程のスピードと威力は無いが、二刀流で繰り出す技だけに侮れない。事実、イタチの前に立ち塞がっていたゾディアックのメンバーは皆、猛スピードで走行する車両に轢かれたかのような勢いで吹き飛ばされ、紙くずのように宙を舞っていた。

 

「ひぃっ……!」

 

「そ、そんなっ!」

 

弾丸、或いはレーザーのように駆け抜け、後衛へと至ったイタチを前に、ゾディアックのメイジ隊は、驚愕と戦慄に見舞われていた。魔法に特化したステータスを持つメイジ隊にとって、近接戦闘においては明らかに格上のプレイヤーであるイタチは、この上ない脅威である。

 

「終わりだ」

 

「――――!!」

 

静かに告げられた処刑宣告。それと同時に、イタチの両手に握られる刃から、三度の閃光が迸り――――そこから先は、一方的な“虐殺”とも呼べる展開が繰り広げられるのだった。

 


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