ソードアート・オンライン 仮想世界に降り立つ暁の忍 -改稿版-   作:鈴神

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第百十二話 この物語の終わりを告げる音聞かせて

アインクラッド二十七層のフロアボス『ヨルル・ザ・ツートンジャイアント』は、左右に赤・青の二色に彩られた、四本腕に双頭の巨人である。武装は上部両腕に持つ鎖付き分銅、下部右腕に握る斧、左腕に握る大剣の四つ。さらに、赤い右頭部からは火炎弾、青い左頭部からは氷柱を射出する特殊攻撃まで備えた強敵である。

クォーターポイントである二十五層のフロアボスである『ザ・ツインヘッド・タイタン』程強力ではないものの、十分に厄介な部類に入る能力とステータスで、SAO事件当時の攻略組も大苦戦を強いられていた経緯があった。そしてその強さは、イタチ等が今この時に挑んでいる、ALOの新生アインクラッドにおいても健在――否それ以上の強さを誇っていた。

 

「テッチ、あまり奴に近付き過ぎるな!分銅による遠隔攻撃を仕掛けさせろ!」

 

「わ、分かりました!」

 

「ユウキ、次に奴が分銅を振るってきたら、両サイドから仕掛けるぞ!特殊攻撃には気を付けろ!」

 

「オッケー!」

 

そんな、SAO事件当時の比ではない難攻不落のフロアボス相手に、しかしイタチとスリーピング・ナイツのメンバーは怯むことなく、果敢に戦いを挑んでいた。

そして、激化の一途を辿る戦闘が繰り広げられること、約三十分。イタチによる指示のもと、ユウキを筆頭としたスリーピング・ナイツは決死の攻防を続け、二色双頭の巨人のHPは少しずつ、しかし着実に削られていった。

無論、ダメージが蓄積しているのはイタチ等のパーティーも同じこと。回避し切れない範囲型の攻撃を受け、強力な攻撃の直撃から仲間を庇うために前へ出る等の行動を繰り返し、回復する暇さえ無いままに、かなりのダメージを蓄積させていた。

 

「全員一度退け!シウネー、俺が前へ出て引き付ける!その間に皆に回復魔法を頼む!」

 

「分かりました!」

 

短く端的に指示を出した後、パーティーメンバーの回復をシウネーに任せたイタチは、二色双頭の巨人のもとへ向かった。ただし、密着するのではなく、一定の距離を置いている。

そうして前線に出張っていたユウキとジュン、テッチと入れ替わる形で前へ出たイタチは、二色双頭の巨人と正面から相対すると同時に、魔法の詠唱を開始した。

 

「カバババババァァアッ!!」

 

「ギャギャギャァァアッ!!」

 

イタチへと、タゲを映した二色双頭の巨人は、その姿を視認するや、上部右腕を振るった。途端、振るわれた腕に装備されていた分銅が、イタチの頭上から凄まじい勢いで振り下ろされた。

 

「ふっ……!」

 

だが、イタチは一切慌てることなく、分銅の軌道を読み、左右両方向(・・・・・)へ回避した。

 

「カババッッ!!」

 

「ギャギャギャ!!」

 

二人に増えたイタチの姿に対し、二色双頭の巨人は左右の頭をそれぞれの方向に立つイタチに向けると、再度の攻撃を開始した。攻撃は最初と初撃と変わらず、上部両腕に持つ鎖付き分銅の振り下ろしである。左右双方向に断つイタチは、全く同じ動き(・・・・・・)で分銅の攻撃を回避し、巨人を翻弄する。

イタチが発動したのは、『ミラー・シルエット』と呼ばれる幻属性魔法だった。発動した地点から動いた方向とは逆方向に、鏡映しの像のように動く幻影を作り出す魔法である。鏡像の幻影は、本体の動きを鏡向きにトレースするのみなので、本体を簡単に見抜かれてしまう弱点を持つ。しかし、鏡像自体には実体が無く、効果時間が切れるまでは攻撃を受けても消滅しない特性を持つので、モンスターとの戦闘に用いるデコイとしては優秀な性能を持つのだ。

特に今戦っている『ヨルル・ザ・ツートンジャイアント』のように、二つの頭に個別のAIを搭載しているモンスター等を相手にした場合は、その両方のタゲを取ることができる。そのため、タゲが分散されて、攻撃範囲の拡大を防げるリスクを減らせるメリットがあるのだ。

 

「イタチさん!皆の回復ができました!」

 

「ならば、俺が両サイドに敵の攻撃を誘導している間に、背後へ回り込んで攻撃再開だ!ユウキ、先頭に立って向かえ!」

 

「分かった!」

 

幻影魔法を使い、二色双頭の巨人の両頭のタゲを取り、繰り出される分銅攻撃も危なげなく回避する。そしてその隙に、パーティーメンバーであるユウキをはじめとしたスリーピング・ナイツのメンバーを死角へ向かわせ、ダメージを与える。これは、SAO事件当時の攻略においてもイタチが実行していた作戦を再現したものだった。

フロアボス『ヨルル・ザ・ツートンジャイアント』の二つある頭部には、二十五層フロアボスの『ザ・ツインヘッド・タイタン』同様、それぞれ個々のAIを持っている。故に、二カ所にいるプレイヤーを同時に標的として攻撃することができるのだ。

さらに、遠距離の敵には火炎弾と氷柱の乱射、中距離の敵には鎖付き分銅、近距離の敵には斧と大剣と、敵との相対距離によって攻撃手段も使い分ける。しかも、いずれの攻撃手段も範囲が広く、パーティーそのものを対象に大打撃を加えることができるのだ。

そこでイタチが考案したのは、ある程度距離を置いた場所に敏捷性に優れたプレイヤー二人を設置して回避盾を行わせ、その隙にレイドの本隊に死角から襲撃を仕掛けさせるという戦術だった。命中には若干の時間が掛かる上、最も攻撃範囲の狭い分銅の攻撃手段ならば、回避も比較的容易であり、回避時の移動範囲に注意さえすれば、本隊はその動向に気付かれることは無く、接近することができるのだ。ちなみに、SAO事件時には、アスナがイタチとペアになって回避盾役を担っていたが、幻属性魔法を使えるALOにおいては、一人で双頭のタゲを取ることが可能になったのだった。

 

「今だ!皆、行くよ!!」

 

首尾よく巨人の背後から接近することに成功したユウキ率いる、後衛のシウネーを除いた前衛メンバーが畳みかける。片手剣、両手剣、棍、槍のソードスキルが次々に炸裂し、巨人に確かなダメージを与えていく。

 

「カバババァアア!!」

 

「ギャギャァアッ!!」

 

そして当然、攻撃を受けている巨人の方も、黙ってはいない。イタチと鏡映しの幻影に放っていた分銅を手元に戻すと、ユウキ達の方へと振り向き、反撃を試みる。右腕に握る斧にソードスキルのライトエフェクトを灯し、足元に展開する五人へ向けて範囲技『ワール・ウィンド』を放とうとする。初級スキルではあるものの、斧系ソードスキルは一様に攻撃力が高いことで知られている。ましてや理不尽なまでにステータスが強化されている新生アインクラッドのフロアボスが繰り出すのだから、直撃すれば即死はまず間違いなく、防御の上からでも大ダメージは免れない。

 

「皆、一度退いて!」

 

ユウキが撤退指示を出すも、全員が攻撃範囲を抜け出すには僅かに間に合わない。このままでは、重戦士のテッチが大斧の一撃によって両断されてしまう。

 

「カババッ!」

 

「テッチ!早く!」

 

巨人の双頭の内、赤い方が勝ち誇ったような声を上げる。そして、ユウキの悲鳴に近い声も空しく、無慈悲な一撃が繰り出されようとした――その時だった。

 

「――――――ふっ!」

 

「カバァッ!?」

 

「ギャギィッ!?」

 

ユウキ達への攻撃に夢中で、注意が疎かになった巨人の背中に、眩い光を帯びた流星が激突した。しかし、巨人の背中に突き刺さったのは流星ではなく、イタチだった。片手剣上位ソードスキル『ヴォーパル・ストライク』である。予期せぬ一撃を食らった巨人は、その衝撃によって発動中のソードスキルをキャンセルさせられ、バランスを崩してその場に膝を突くこととなった。

 

「今の内に全員、退け!」

 

「ありがとう、イタチ!」

 

この一撃によって、巨人の双頭のタゲが再びイタチへと移った。その隙にテッチを含めた五人の前衛メンバーは全員安全圏へと抜けるのだった。

 

「カバババ!」

 

「ギャギャギャ!」

 

イタチの方へと振り向いた巨人は、足元のイタチを見下ろすと同時に、今度は左手に握る大剣を振り上げた。ソードスキルではない攻撃だが、その分、素早く繰り出せる。

 

「ギャギャァアッ!」

 

「む…………っ!」

 

対するイタチは、ヴォーパル・ストライクの発動による技後硬直から間一髪で抜け出し、側方へと回避した。僅かに掠ったものの、大ダメージには至らず、戦闘続行は可能だった。

 

「カババッ!」

 

「はっ――――!」

 

縦に振り下ろされた大剣を回避したイタチに対し、今度は巨人の右手に握られた斧の横薙ぎが繰り出される。立て続けに繰り出される攻撃に対し、しかしイタチは冷静に対処してのける。地面を蹴ってバク転の動きで距離を取り、その攻撃範囲から離脱する。そのまま剣と斧が届かない範囲に、しかしシウネーが待機している場所には近づかない程度の中距離に退避したイタチは、続いて巨人が繰り出してくる分銅攻撃に対して構える。だが、イタチが警戒した攻撃は、行われることはなかった。

 

「カバババ…………」

 

「ギャギャ…………」

 

巨人はイタチを斧と大剣が届かない距離まで追い払うと、それ以上の追撃を仕掛けることはなかった。唐突に攻撃を止めた巨人は、四本の腕を交叉させて蹲るような姿勢を取り、全身から陽炎のようなものが立ち上らせ始めたのだ。さらには、左右二色に彩られたその身体を真っ二つに割るかのように、縦に亀裂が入り始めたのだ。

 

(あれは…………!)

 

二色双頭の巨人が取ったその行動に、イタチは危険を感じた。SAO事件時代に攻略した『ヨルル・ザ・ツートンジャイアント』は、HPが半分を切った際に分銅が棘付きに変化して威力増強し、斧が炎、大剣が氷を纏って特殊効果が付与されていた。だが、目の前で起こっているのは、イタチの知る行動パターンの変化とは明らかに違う。

 

「皆、ボスから距離を取れ!警戒を怠るな!」

 

ただならぬ気配を醸し出すフロアボスに危険を感じ、警戒を促すイタチ。普段冷静なイタチが鬼気迫る表情で出す指示に、ユウキをはじめとしたスリーピング・ナイツの一同も危険を感じたのだろう。言われた通りにボスとの距離を取って、これから目の前で起こる恐ろしい“何か”に対して身構えていた。

そして、フロアボス攻略に参加していた七人が見つめる中、二十七層のフロアボスたる二色双頭の巨人を包む陽炎がより激しくなり、縦に入った亀裂が腹面・背面を覆い、その身をかち割らんばかりに軋みを上げる。そして、まるで脱皮を前にした蛹のように震える巨人は、陽炎と共に周囲へ衝撃波を撒き散らすと同時に、誰もが予期しなかった、恐怖の変態を遂げる――――

 

「んなっ……!」

 

「これって!」

 

「まさか、そんな……!」

 

衝撃波と陽炎が止んだ、その向こうにある光景を見た誰もが、その目を疑った。旧アインクラッドの仕様と同じく、その手に持つ武装は強化されており、手に握る分銅は棘付きに変化し、斧は炎、大剣は氷を帯びている。だが、そんな武装の強化など些末事に思えるような、もっと大きな変化が起こっていた。

 

「カババババババ!!」

 

「ギャギャギャギャギャギャ!!」

 

ボスが赤と青、色違いの頭部から放っていた特徴的な咆哮は未だに響いている。だが、咆哮を上げていたのは、先程までイタチ等が死闘を繰り広げていた二色双頭の巨人ではない。先程まで一心同体だった赤・青の頭の巨人が、それぞれの身体を持った二体の巨人(・・・・・・・・・・・・・・・・)となって、咆哮を上げていたのだ。

赤色の巨人の頭上には『ブロギー・ザ・レッドジャイアント』、青色の巨人の頭上には『ドリー・ザ・ブルージャイアント』という二体の巨人の名前を示す文字列がそれぞれ浮かび上がっていた。

 

「ボスが二体って……」

 

「嘘、だろ……!」

 

先程の二色双頭の巨人が持っていた武装の強化版を手にした、赤・青色違いの巨人二体が出現したことに対し、スリーピング・ナイツの面々は一様に驚愕を露に身を震わせ、その顔を絶望に染めていた。

 

「こんなのって、アリかよ…………!」

 

「どんなムリゲーですかって話……ですよね」

 

ボスモンスターというものは、追い詰めればその行動パターンやステータスが変化するものだが、これは流石に想定の範囲外過ぎる。一体でさえ、フルレイドでようやく押さえ込める程の――たった七人だけで相手できたことが奇跡に等しい――強力なフロアボスが二体に増えるなど、一体誰が考えただろうか。武装は強化されている上に、身体そのものが完全に分離したボス二体は、七人だけでは、到底押さえ込める相手ではない。

 

「皆、落ち着け!」

 

二体に増えたフロアボスを前に浮足立っているスリーピング・ナイツのメンバーに対し、イタチは冷静になるよう呼び掛ける。

 

「譬え二体に増えたとしても、攻略は振り出しに戻ったわけじゃない!俺達だって、まだ戦える筈だ!」

 

イタチの言葉によって冷静さを取り戻したスリーピング・ナイツのメンバーが、はっと我に返る。確かにイタチの言う通り、形成はやや不利と言わざるを得ないが、攻略そのものは振り出しに戻ったわけではない。

二体に分裂したとはいえ、巨人のそれぞれのHP量は全回復したわけではない。二体の巨人それぞれのHP量は、先程まで相手していた二色双頭の巨人のHP残量を二等分したものの筈である。二色双頭の巨人が分裂した時のHP残量が半分と考えるならば、今目の前で分裂した巨人二体のHPは、二色双頭の巨人の四分の一となる。HPバーが不可視故に確信は持てないが、行動パターンの変化と共にHPが元に戻るような、フェアネスを欠く設定は流石にあり得ない。

そして何より、イタチもスリーピング・ナイツの面々も皆、まだ余力を残している。イタチはフロアボス攻略を行うにあたり、自分達がボスに与えたダメージ量を正確に読み取り、その残量を正確に把握していた。故に、HPの損傷やアイテムの消費は適量でセーブされており、攻略続行は十分に可能なのだ。あとは偏に、皆のモチベーション次第。だが、それも杞憂だった。

 

「イタチの言う通りだよ!ボク達の戦いは、まだこれからじゃない!諦めるなんて、早すぎるよ!」

 

イタチに続き、仲間達を激励するための言葉を発するユウキ。その言葉は、先程まで「もう駄目だ」と絶望に沈みかけて動けなくなっていた皆の心に希望を灯し――そして、再起動させるには十分なものだった。

 

「そう、だったよね!」

 

「うん、そうだ!アタシ達は、まだ戦える!」

 

「余計な事考えてる場合じゃ、ありませんよね……!」

 

「勝とうぜ……この戦い、絶対に!」

 

「そのための作戦を……イタチさん、お願いします!」

 

元より攻略が不可能に等しいことは承知の上での挑戦である。今更難易度が上がったところで、気後れする理由にはならない。ユウキの激励に応え、今回のパーティーの参謀役であるイタチの指示に従い、スリーピング・ナイツのメンバーは、パーティーとして再起動するのだった。

 

「俺とユウキでタゲを取って二体を引き離す!他のメンバーは、先程と同じ要領で、隙を見て斬り込め!」

 

『了解!』

 

メンバー五人に引き続き距離を置いて隙を窺うよう指示を出したイタチは、ユウキと共に二体の巨人へ向かって突撃する。大剣を持つ青の巨人、斧を持つ赤の巨人もまた、迫りくる二人に気付いたようで、各々の武器を振り翳して攻撃を始める。

 

「カバババ!」

 

「ギャギャギャ!」

 

イタチは斧を右手に持つ赤色の巨人、ユウキは左手に大剣を持つ青色の巨人を引き付ける。巨人たちはそれぞれに持つ斧と大剣の他に、空いた片手で鎖付き分銅を振り回しており、隙あら即死級の一撃をいつでも振り下ろせるように構えている。

 

(頭と腕が減ったお陰で、攻撃範囲も手数も当初よりは制限されたが、威力は増強されている。二体を完全に切り離さないと、挟み撃ちにされかねん……)

 

攻撃を仕掛ける位置次第では、巨人二体による挟撃を受ける可能性は十分にある。加えて、現在戦っている二色の巨人のように、複数で現れるタイプのモンスターは、一体が攻撃された場合に他の個体が救援に向かうよう設定されている場合も多い。確実かつ安全にダメージを与えていくならば、巨人二体を十分に引き離すことは勿論、攻撃の開始と離脱のタイミングを見極めねばならない。

 

「ユウキ!」

 

「オッケー!」

 

名前を呼ばれただけだったが、イタチの意図を読み取るには十分だったらしい。ユウキはイタチとは反対方向へと青色の巨人を誘導し、遠ざけようとする。

 

「カバババァアッ!!」

 

「む……!」

 

赤色の巨人が斧を振り上げ、両手斧ソードスキル『グランド・ディストラクト』を発動しようとする。命中率の高い範囲技のソードスキルを、しかも至近距離で放つのだ。如何にイタチでも、完全に回避し切れない。

 

「――――ぉぉぉおおおお!!」

 

そこでイタチが取った手段は、回避ではなく迎撃。片手剣重攻撃技の刺突系ソードスキル『ヴォーパル・ストライク』を発動させ、自身に繰り出されるソードスキルへ自ら飛び込んでいく。

 

「カババガァアッ!?」

 

『グランド・ディストラクト』と『ヴォーパル・ストライク』が正面から激突し、ライトエフェクトが凄まじい勢いで迸る。双方の発動したソードスキルは閃光が掻き消えると同時にキャンセルされ、イタチと巨人の身体が双方向へ弾かれる。

 

「皆、スイッチだ!」

 

「任せとけ!」

 

「一気に行くよ!」

 

空中へ身を投げ出されながら出されたイタチの指示に応え、ジュンやノリをはじめとした援軍が赤色の巨人目掛けて突撃していく。対する巨人は、ソードスキルを弾かれたことによるノックバックでよろめいており、援軍の接近を防ぐことができない。

 

「カババッバァアアッッ!!」

 

四人が放つソードスキルの嵐が、赤色の巨人の身体に多数のダメージエフェクトを刻み込む。HPバーこそ見えないが、巨人の反応からして、確かなダメージを与えられていることが分かる。

 

「ギャギャッ…………ギャギャギャギャギャ!!」

 

しかし、赤色の巨人が袋叩きにされているその様を、片割れたる青色の巨人が放置することはしなかった。イタチの予想した通り、片方が攻撃を受けたことに反応したのか、それまでユウキを攻撃していた青色の巨人が百八十度反転して、赤色の巨人の援護に動き始めたのだ。

 

「ほらほら!そっちじゃないよ!ボクはこっちにいるよ!」

 

ユウキが青色の巨人の無防備な背中にソードスキルを連発してタゲを自身に戻そうと試みる。しかし、青色の巨人は一切振り向くことなく、赤色の巨人の援護へ向かおうとする。OSSのマザーズ・ロザリオか、或いは片手剣の上位スキルを遣えたならば、タゲを確実に戻すこともできたかもしれない。だが、技後硬直で身動きが取れなくなれば、即座に瞬殺されかねない以上、単発型の初級スキルしか使えなかったのだ。

 

「ギャギャギャギャ!」

 

「全員、一旦退け!もう一体の巨人が来るぞ!」

 

青色の巨人の動きを察知したイタチが、赤色の巨人を攻撃中のパーティーメンバーに撤退の指示を出す。しかし、連続技の重攻撃ソードスキルを発動中だったジュンとタルケンの撤退が、僅かに間に合わない。

青色の巨人は大剣を振り上げ、赤色の足元に居るソードスキルを発動しようとしている。そして、それまで攻撃を受けていた赤色の巨人もまた、斧を振り上げて反撃を開始しようとしていた。

 

「チッ……!」

 

このままでは、ジュンとタルケンが巨人二体の挟撃に晒されかねない。そう考えたイタチの行動は早かった。まず、一番近くにいた赤色の巨人の左足目掛けて走り、単発型の水平斬りソードスキル『ホリゾンタル』を発動する。

 

「カババッ!?」

 

赤色の巨人のタゲが自身に移ったことを確認したイタチは、単発型ソードスキル故に短い技後硬直が解けるや、今度は青色の巨人目掛けて走り出した。

 

「ギャギャギャッ!」

 

駆け出したイタチを待ち構えていたのは、両手剣ソードスキル『ブラスト』を片手で繰り出そうとする青色の巨人。水平に薙ぎ払う範囲技である以上、側方へ回避することはできず、後方には赤色の巨人がいるため、退くこともできない。

 

「ならば――――!」

 

避け切れない攻撃ならば、先手を打つのみ。青色の巨人がソードスキルを発動するよりも先に、イタチが水平四連撃技ソードスキル『ホリゾンタル・スクエア』を発動する。青色の巨人が発動したブラストの迎撃を掻い潜ったイタチがまず狙うのは、青色の巨人の左足。一撃目で脛、二撃目で踵に斬撃を放つ。さらに、背後に回り込んだ後、今度は右足へ狙いを定め、三撃目で踵、四撃目で脛を斬りつける。

 

「ギャギャァアッッ……!」

 

両足に攻撃を受けた影響か、バランスを崩して膝を突く青色の巨人。AIによる反応なのだろう。その顔は怒りに歪み、憎悪を宿した目でイタチを睨みつけているようだった。そして当然、タゲもイタチへ移っていた。

 

「カババババ!」

 

そして、技後硬直で動けないイタチ目掛けて、今度は赤色の巨人が迫る。手に持った斧を振り上げ、両手斧ソードスキル『スマッシュ』を発動し、イタチ目掛けて振り下ろそうとする。

 

「させないよ!」

 

それに対し、ユウキが援護に動く。先程イタチが放ったのと同じく、片手剣重攻撃技の『ヴォーパル・ストライク』を放つ。

 

「カババッッ……!!」

 

ユウキの繰り出した渾身の一撃を鳩尾に叩き込まれ、バランスを崩す赤色の巨人。発動しようとしていたソードスキルはキャンセルされ、振り下ろした右手の斧は、何も無い地面に叩き込まれるのみだった。だが、それだけではない。

 

「ギャギャァアアッ……!!」

 

赤色の巨人が振り回していた分銅が、バランスを崩した拍子に青色の巨人の胸部に命中。青色の巨人は再び膝を突くこととなったのだ。

 

「これは…………」

 

青色の巨人の明らかにダメージを受けた様子に、イタチは目を細める。それと同時に思う。「もしかしたら、これは使えるかもしれない」と――――

 

「ユウキ!巨人同士を近づけろ!」

 

「えっと…………了解!」

 

先程までの作戦とは真逆の指示に対し、逡巡するユウキ。しかし、イタチの考えた作戦ならば信用できると考え、すぐさま行動に移した。

 

「他の五人は、今までと同じだ!隙を見せ次第、すぐに畳みかけ、ある程度ダメージを与えたらすぐに撤退しろ!シウネー、お前が指示を送れ!」

 

「分かりました!皆、良いわね!?」

 

『了解!』

 

作戦変更の指示を受け入れたメンバーの返事を聞いたイタチは、ユウキとともに巨人を翻弄すべく動き出すのだった。

 

「ギャギャギャッ!」

 

先程のダメージから復活した青色の巨人が、その右手に持った分銅を振るい、ユウキ目掛けて叩き付けようとする。分銅による攻撃は、直撃は避けられたとしても、地面への衝撃波によって動けなくなる可能性がある。そしてそれは、ボス二体を近づけている今、致命的な隙を生みかねないリスクがある。

 

「――――はあっ!」

 

しかしイタチは、そのようなリスクを見逃さない。攻撃を仕掛けようとした青色の巨人の左膝を足場に、分銅を持つ右腕へと跳躍。右肘目掛けて、片手剣ソードスキル『バーチカル』を発動する。

 

「カババッ!?」

 

イタチの攻撃によって手元を狂わされた青色の巨人の一撃は、赤色の巨人の右足の脛に命中する。そのダメージに、今度は赤色の巨人が膝を突いた。

 

「ユウキ、今だ!」

 

「オッケー!」

 

赤色の巨人の隙を突く形で接近したユウキは、地面に突いた右膝、斧を持った右手へと三角跳びを行い、その右米神へと接近する。

 

「やぁぁあああ!!」

 

赤色の巨人の米神目掛けて、片手剣垂直四連撃ソードスキル『バーチカル・スクエア』を発動する。

 

「カバッバッバァァア……!!」

 

モンスターへのダメージは、プレイヤーのアバターと同様、頭部の方が大きいと相場が決まっている。特定のウィークポイントが設定されている例外も存在するものの、今回の巨人二体は、例に漏れず頭部の方がダメージは大きいらしい。

 

「皆、赤い方へ攻撃を!」

 

「よっしゃ!」

 

「任せろ!」

 

赤色の巨人が頭部を攻撃されてよろめいた隙を突き、シウネーが待機していた四人に対して攻撃指示を出す。

 

「カババッバァア……!」

 

ユウキに続く形で繰り出された攻撃によって次々にダメージを蓄積させていき、呻き声を上げる赤色の巨人。

 

「ギャギャギャッ」

 

それに対し、今度は青色の巨人が援護に動き出す。その動きを察知したユウキは、仲間達に撤退指示を出す。

 

「皆、青色の方が来るよ!一旦退いて!」

 

ユウキに従い、援護部隊四人は赤色の巨人から距離を取る。先程の失敗から学習したのか、今度はタイミングを逃さず、技後硬直で遅れることなく、全員離脱に成功する。

 

「イタチ、今だよ!」

 

「了解した!」

 

赤色の巨人の窮地に注意を逸らされていた青色の巨人の背後に回り込んでいたイタチが、その無防備な背中目掛けて刺突系六連撃ソードスキル『スター・Q・プロミネンス』攻撃を放つ。

 

「ギャギャッ!?」

 

背中を突かれ、ソードスキル発動の勢いも相まって前へとつんのめる青色の巨人。発動した両手剣ソードスキル『イラプション』は、赤色の巨人の身体に叩き込まれた。

 

「カババガァアアッ……!!」

 

青色の巨人の攻撃を受けて苦悶の声を上げる赤色の巨人。一方の青色の巨人は、ソードスキル発動による技後硬直を起こしていた。

 

「うりゃぁぁああ!!」

 

身動きの取れない青色の巨人の右足目掛けて、ユウキが片手剣ソードスキル『サベージ・フルクラム』を放つ。

 

「ギャギャァアッ!」

 

「よし!ほら、こっちだよ!」

 

「カババッッ!」

 

「お前の相手は、俺だ……!」

 

イタチとユウキの連携プレーにより、赤青二色の巨人は翻弄され続けるばかりだった。そして、攻撃を発動する度に、イタチとユウキは巧みにこれを回避し、時には手元を狂わせて同士討ちを誘導し、巨人同士で互いにダメージを与え合う形となっていた。

 

(凄い……イタチってば、これを狙ってたんだね!)

 

二体に分離したフロアボスを、こうも簡単に追い詰める見事な作戦を考案したイタチに、ユウキは内心で驚きとともに感心していた。本来、フロアボス攻略において、フロアボスに付随する中ボスモンスターを相手取る場合、必要な戦力を割り当てて各個撃破するか、フロアボスに回避盾、中ボスに戦力の大部分を割り当てて戦闘能力の低いモンスターから順に撃破する戦法が取られる。いずれにしても、ボス同士を引き離すことが基本とされる攻略手段であり、まとめて相手するなどあり得なかった。

しかしイタチは、敢えてボス二体を引き合わせた。目的は言わずもがな、同士討ちを誘発するためである。ボスモンスターの攻撃力というものは、当然ながら非常に強力に設定されており、同じボスモンスターがこれを受けたならば、相応のダメージは免れない。ましてやイタチ等が今相手している赤・青の巨人は、炎と氷という相克する属性を持っており、同士討ちで受けるダメージは猶更大きい。加えて言えば、ボスモンスターのAIは、プレイヤーが各個撃破を図ることを想定して作られているため、ボス同士の接近や、それによる同士討ちに対応するためのプログラムが行われていないのだ。

 

(この人数だからこそできた戦法、だな……)

 

複数のボスを相手する場合において、非常に有効に思える戦法だが、四十九人のフルレイドで挑戦した場合にはそうはいかない。一人のプレイヤーにタゲを固定できない状況では、ボスの行動を誘導することは至極困難であり、同士討ちを誘発することは困難となるからだ。

それに、フロアボスに有効打を与えられることが現に実証されているとはいえ、これはイタチとユウキだからこそ実行できた離れ業である。ボスの行動に即座に対応するための、常人離れした反応速度と高度な状況判断能力は勿論のこと。僅かな視線や動作を見るだけで、互いの思考を正確に察知し、連携できるコンビネーションが必要となる。

そしてそれは、前に出てタゲを取るメイン二人の間のみに限定した話ではない。時に二人をフォローするべく立ち回る、サポート役五人も含め、パーティー七人全員の間に強い信頼の絆があってこそ可能となる作戦なのだ。

 

「ガ、カバババ…………!!」

 

「ギャギャ、ギャ…………!!」

 

イタチとユウキのツートップと、サポート五人による隙の無い連携に翻弄され、同士討ちを繰り返した巨人二体は、一気に消耗していった。そして、およそ十分が経過したその時、両巨人の攻撃がより一層激しくなった。その行動の変化から、HP残量が危険域に突入していることを悟ったイタチは、勝負に出ることにした。

 

「ユウキ!」

 

「うん!」

 

名前を呼んだだけで、その意図を理解したのだろう。ボスのタゲを取って攻撃を回避しつつ同士討ちを狙っていたイタチとユウキは、互いが居る方向目掛けて一気に走り出し、助走をつけて跳躍した。

空中で二つの黒い影が『X』を描くように交錯し、イタチはユウキがタゲを取っていた青色の巨人へ、ユウキがはイタチがタゲを取っていた赤色の巨人へと突撃した。

 

「「はぁぁぁああああああ!!!」」

 

ボスの胸へと迫った二人は、その手に握る剣に青い光を滾らせ、光芒を描いて振り翳す。ソードスキルの……それも、とびきり強力な絶技の発動である。

右上から左下に向かって五発、そのラインを交叉する軌道でさらに五発。計十発の刺突が描いた十字架の中心を穿つ形で、最後に渾身の一撃を叩き込む。

 

「カババ、ババァアッ…………!」

 

「ギャギャギャ、ギャギャッ……!」

 

二人の繰り出す絶技によって、空中に煌めく十字架が刻まれると共に、二体のボスのHPは全損に至ったのだろう。その肉体は光に包まれ、ガラスが砕け散るような乾いた音を、ボス部屋の中全体へと響かせながら、無数のポリゴン片を撒き散らして爆散した。

 

 

 

(実戦で使うのは初めてだったが、上手くいったな……)

 

青色の巨人をその絶技をもって屠って見事に着地を決めたイタチは、変わらぬ表情のまま、しかし内心では自身の技が見事に発動できたことに安堵していた。先程イタチが発動した十一連撃ソードスキルは、ユウキのOSSでもある『マザーズ・ロザリオ』だった。しかし、イタチが発動したものは、ユウキから受け継いだものではない。ユウキが以前披露したものを参考として、イタチが新規のOSSとして作成したのだ。

前世は他人の忍術をコピーする技能に優れた忍者だったイタチにとって、他のプレイヤーが使用するOSSを他人の技を己のものとして再現することは然程難しいことではなかった。無論、だからといって、イタチとて無闇に他者が作成したOSSを我が物にしているわけではない。マザーズ・ロザリオについては、ユウキの許可を得てコピーし、使用しているのだ。

 

「イタチ!」

 

ユウキから得た絶技を成功させ、フロアボス攻略という偉業を成し遂げたことに、密かに感慨にひたっていたイタチに、共にフィニッシュを決めた相棒から声が掛けられる。振り向いたイタチの視線の先には、当然ながらユウキが立っていた。その表情には、いつにも増して明るい、輝くような笑顔が浮かんでいた。

 

「ありがとう!!」

 

「……ああ」

 

その心からの感謝の言葉に、イタチもまた、微かな笑みを浮かべて答えるのだった。

 

 

 

「おい、あの技って……!」

 

「うん、ユウキの……だよね」

 

イタチとユウキがボスを倒すために発動した、全く同じこのソードスキルに驚愕の表情を露にするスリーピング・ナイツの五人。それもその筈。五人の知る限りでは、この技を使える者は、ALOには今や一人しかいない。公式に実装化されたソードスキルの中には無い、『OSS』――『マザーズ・ロザリオ』なのだから。

 

「ラン…………!」

 

イタチとユウキ、寄り添い合う二人の黒い影を見つめたシウネーは、この場にはいない……かつてのOSSの使い手の名前を、一人静かに呟いた。その名前を聞いた五人の目には、目的を成し遂げたことによる感動とは違う、涙を浮かべていた。未だその輝きを残す十字架の下で向かい合う二人の姿に、皆が見入っていた。どこか懐かしさを感じさせる……この場にいない、もう一人の仲間が帰って来たかのように思える、その光景に――――

 

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