ソードアート・オンライン 仮想世界に降り立つ暁の忍 -改稿版-   作:鈴神

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第百二十一話 踏み出す一歩を導くのは、君がくれた果てしない勇気

後衛のポジションを離れ、ユウキやアスナが戦いを繰り広げる前線へと一歩を踏み込んだエリカ。ステータスウインドウを操作して装備を入れ替えたのだろう。その手に握る武器は、魔法杖から片手剣へと持ち替えており、その他の身に纏う防具、各種アクセサリーものも、後衛を担当していた時のものから様変わりしていた。

 

「ちょっと、エリカ!?」

 

「アスナ達と戦うつもりなの!?」

 

「危ないですよ!」

 

後衛に残るシェリー、ララ、シウネーの三人がエリカを止めようとするが、エリカは振り向かない。そしてそのまま、アスナ達と向かい合うユウキが立つ場所へと歩いて行った。

突然のエリカの登場に、ユウキと向かい合っていたアスナ達は目を丸くしていた。そんなアスナ達の反応を怪訝に思っていたユウキに対し、エリカが声をかける。

 

「ユウキ」

 

「えっ……エリカ!?」

 

「アスナを押さえてちょうだい。他の四人は、私が相手するわ」

 

驚くユウキに対し、有無を言わさず指示を出すエリカ。手短に告げると、ユウキの返答を待つことなく、エリカはアスナの後方に立つリーファ、ラン、リズベット、シリカの四人へ向けて剣を構える。対するアスナ率いる前妻パーティー(仮称)は、一度に四人を相手取ると口にしたエリカに対し、警戒を露にする。

いきなり後衛から前衛へと姿を現し、伝説武器持ちもいる上級プレイヤー四人を相手取るというのは、どう考えても大言壮語である。しかし、武器を構えるエリカには、向かい合うプレイヤーにとって油断できない何かを感じさせていた。明確な根拠こそ無いが、目の前の敵は、一筋縄ではいかない……油断することができないと、直観がそう告げていると、全員が感じていた。

 

「……皆、お母さんを……エリカの相手をお願い。ユウキの相手は、私がするわ」

 

「……分かったわ、アスナ」

 

既にメダカとノリを倒しているが、念には念を入れる必要がある。確実に勝利を掴むためには、不確定要素の多いエリカのようなイレギュラーは、全力で排除しなければならない。一人に対して四人は過剰戦力だが、そうする必要があるというのが、メンバーの総意だった。

 

「それじゃ、ボク等は向こうでやろうか」

 

「そうね……」

 

パーティーメンバーと別れ、別の場所へと移動するユウキとアスナ。後衛メンバーは、ユウキにはシウネーが、アスナにはサチが回復役として随伴していた。残りの後衛メンバーは、エリカ対四人の戦いの援護を行うらしい。

 

「それじゃあ、始めましょうか」

 

「アスナのお母さんでも、容赦はしないからね」

 

「本気で行かせてもらいます!」

 

ユウキとアスナが適度な距離を置いたところで、再び武器を構えて戦闘開始を宣言するエリカ。対する四人もまた、伝説武器、エンシェント・ウエポンを再び構えた。

そして、先に動いたのは前妻パーティー(仮称)の、リズベットだった。

 

「行くわよ!」

 

エンシェント・ウエポンの戦槌『フューチャリズム』を振り上げ、ライトエフェクトとともにエリカ目掛けて振り下ろす。戦槌系ソードスキル『パワー・ストライク』である。

戦槌スキルを完全習得したリズベットの一撃は、エリカのような軽装のプレイヤーがまともに受ければ、大ダメージは必至、当たりどころによっては即死のリスクすらある。しかし、そんな一撃に対して、エリカは慌てた様子は無く、軽くステップを踏んで横へ回避した。

 

「そこっ!」

 

そして、片手剣を両手に持つと、ソードスキルを発動して間もないリズベット目掛けて、カウンターの一撃を放とうとする。

しかし、その動きを待っていたとばかりに、今度はリーファがエリカを狙う。片手剣上位ソードスキル『ヴォーパル・ストライク』の刺突である。リズベットは囮で、本命はエリカがカウンターに動いたところを狙ったリーファの一撃なのだ。上位ソードスキルの『ヴォーパル・ストライク』ともなれば、直撃すれば今度こそ即死は免れない。

しかし……

 

「えっ……?」

 

「見え見えよ」

 

リーファの『ヴォーパル・ストライク』を目視することもせず、屈み込んで回避するエリカ。その姿勢のまま、片手剣を構え、ライトエフェクトとともに横に振り抜く。片手剣ソードスキル『ホリゾンタル』である。

 

「きゃぁああっ!!」

 

無防備な腹部に『ホリゾンタル』の一撃を受け、後方へ吹き飛ばされるリーファ。初級ソードスキル故に大した威力は無いが、攻撃を受けた場所は急所だったために、少なくないHPが削られた。

エリカはここで、リーファに対してさらに追撃を仕掛けるべく、ソードスキルを発動する。先程リーファが発動したものと同じ、『ヴォーパル・ストライク』である。

 

「させません!」

 

しかし、ソードスキルを発動しようとしたエリカのもとへ、ライトエフェクトを伴った短剣が飛来する。シリカが発動した短剣ソードスキル『クイック・スロー』である。これに対し、エリカはまたしても余裕で反応し、技を中止して回避しようとする。

 

「もらった!せいやぁぁああっ!!」

 

『クイック・スロー』の回避に動いたエリカの背後を取ったランが、細剣系ソードスキルの『アクセル・スタブ』を体術OSS版として発動しようとする。

 

「甘いわよ」

 

死角に回り込んでの奇襲だったが、これもエリカにはお見通しだったらしい。飛来してきたシリカの投げた短剣『トリメンダス』を手に取ると、逆手に持って背後のランに目掛けて裏拳のように刺突を繰り出した。

 

「ぐっ……!」

 

ソードスキルは発動していなかっため、大して深くは刺さらなかったが、それでも急所である脇腹目掛けて刺突を見舞うことができた。さらにエリカは、刺突で怯んだランの隙を突き、振り向きざまに剣を振り上げ、垂直斬りの片手剣ソードスキル『バーチカル』を見舞った。

 

「くぅうっ……!!」

 

流れるような、速過ぎる動作から繰り出されるエリカの剣戟に翻弄されるランだが、ギリギリ反応が間に合い、後方へ退いて直撃を避けることができた。

 

(危なかった……まともに入ってたら、ただじゃ済まなかった……!)

 

直撃は免れたが、エリカの剣戟は鼻先と胸部・腹部の正中線を掠めていた。直撃していれば、即死する程ではないにしても、ごっそりHPを持っていかれていたことだろう。

 

「す、すごく強いです、この人……!」

 

「あたし達四人を相手になんでこんなに戦えてんのよ!本当にALO初心者なワケ!?」

 

リズベットのツッコミに、エリカの相手をしていた他の三人全員が内心で同意していた。

実際には、ALOどころかVRゲーム自体が初心者である。にも関わらず、リズベットの先制に始まった、僅か十数秒の攻防の中で、エリカは四人の攻撃全てを次々に捌いて見せたのだ。反応速度といい、並外れたアバターの動作といい、手慣れた武器の扱いといい、とてもではないが、仮想世界に慣れていない人間のものとは思えなかった。

 

「……やっぱり、四人相手は少し辛いわね」

 

口では「辛い」などと言っているエリカだが、焦った様子など全く見られない。今も、自分を囲む四人に対し、警戒を一切解くことなく、全員の一挙手一投足に注意を払っていた。

 

「悪いけれど、こっちも味方を呼ばせてもらうわ」

 

そう言ってエリカが腰のポーチから取り出したのは、二枚の札型のアイテムだった。エリカが投げたそれらは、空中で停止する。そして、と赤と青の二色のライトエフェクトを放ち、その背景の空間がゆらりと陽炎のように歪んだ。

 

「あれって……!」

 

「まさか、モンスターの湧出(ポップ)!?」

 

それは、モンスター……特にボス戦に挑むことが多い面々にとっては、見慣れた現象だった。強力なモンスターが出現する前兆のエフェクトである。四人が驚愕を露にする中、空中に浮かんだ二枚の札を中心として、巨大な影が出現する。

影はやがて、人のような実態を得て戦場へとその姿を見せる。最初に札が発したライトエフェクトと同じ、赤・青二色の体色をした、二体のモンスターである。身長は二メートルほどで、筋骨隆々とした体格で、頭には二本の角が生えているそれは、まさしく『鬼』と呼べるものだった。

 

 

 

 

 

「あれって、まさか……」

 

「『前鬼』と『後鬼』、だよな……アンナも使ってる」

 

デュエルの最中、突如として姿を見せた二体のモンスターに、イタチをはじめとしたメンバー達は、見覚えがあった。『前鬼』、『後鬼』と呼ばれるそれらのモンスターは、闇妖精族『インプ』が召喚・使役できるモンスターである。使役といっても、猫妖精族『ケットシー』のように、テイムして常時傍に置くことができるものではなく、魔法によって召喚して一時的に戦闘に使役できるだけのものであり、一定時間が経過すれば消滅してしまうタイプのモンスターである。

イタチ等の仲間内では、闇妖精族『インプ』の仲間であるメダカのほか、ヨウの現実世界における知り合い――実は婚約者――であるアンナがこれを多用している。

 

「インプじゃないと使役できないモンスターを、どうしてシルフのエリカが使役できるんだ?」

 

「さっきの札型のアイテムか?だけど、『魔法符』は召喚魔法を封じ込めることはできない筈だぞ?」

 

「召喚魔法が使える札なんてアイテム、ありましたっけ?」

 

詠唱を省略できる上、種族適性を無視して召喚魔法を使えるアイテムなど、ALOをそれなりの時間プレイしてきたカズゴやヨウ、アレンでも心当たりが無かった。一体、あの札型アイテムの正体は何なのか……その答えを導き出したのは、イタチだった。

 

「あれは、課金アイテム『式神符』だ」

 

「課金アイテム?」

 

「……まさか、あれが?」

 

課金アイテムとは、その名の通り、現実世界の金銭を支払って購入するゲームアイテムである。アイテムの種類は、武器から使い捨てのものまで多岐にわたり、その中には通常のプレイでは入手できないものも多数含まれている。

『式神符』もまた、その中に含まれるアイテムの一つだった。詠唱を省略した上で、種族適性を無視したモンスターを召喚・使役ができるこのアイテムの性能は非常に高い反面、課金でしか入手できないという制約があり、一般のプレイヤーには広く知られていなかった。しかし、『式神符』の認知度が低い最大の理由は、別にある。

 

「『魔法符』同様、MPの消費も無しに式神を呼べるなら、確かに便利なアイテムだが……」

 

「あんな高性能なアイテムが、あまり認知されていないのは少しおかしいですね」

 

「課金アイテムっていうことは……やっぱり、金の問題なんか?」

 

カズゴ、アレン、ヨウが疑問符を浮かべるとともに、一様にイタチの方へと視線を向けた。他のギャラリーの仲間も同様である。それもその筈。この中で一番、課金アイテムに詳しいのはイタチなのだから。そしてイタチは、溜息と共に課金アイテム『式神符』について語り出すのだった。

 

「『式神符』の値段は……一枚あたり、二千円だ」

 

イタチの口から語られた、『式神符』が広く知られていない所以たるアイテムの値段を聞いたカズゴ等が、驚愕に目を見開く。

 

「二千円って……マジかよ?」

 

「事実だ。呼び寄せることができるモンスターの能力はそれなりに高いが、持続時間は十分間で、魔法や他アイテムによる時間延長も利かない。しかも、個人が持ち歩ける数は六枚が限度と設定されている。その使い所の難しさ故に、金額と性能の釣り合いが取れないことから、誰も使いたがらないということだ」

 

「そんな高価なものを、こんな私事のデュエルで……しかも二枚も使ったんですか?」

 

「俺も流石に、あんなものまで使うとは思わなかったがな……」

 

一枚二千円の式神符を、二枚投入……合計四千円の出費である。ALOプレイヤーの大部分を占める学生は勿論、並の社会人の身では中々手が出せない金額だが、有名大学の教授という、高収入の職に就いている京子ならば、簡単に出せてしまう金額と化すのだ。

 

「そういや、エリカが持ってる剣とか防具って、見覚えの無えものばっかだが……」

 

「もしかして、あれって……」

 

突然のエリカの後衛から前衛への参加や『魔法符』の使用に驚いて気が付かなかったが、エリカの装備はALO上位プレイヤーのカズゴやアレン達でも見た事の無いもので固められていた。上位クラスのプレイヤーですら見た事の無い装備となれば、出所は一つだろう。皆が抱いたその考えを、イタチが肯定した。

 

「ああ。あれら全て、課金アイテム、だな」

 

「やっぱりか……」

 

イタチが口にした予想通りの言葉に、それを聞いていた一同は顔を引き攣らせる。そんな仲間達に対し、イタチはアイテムの説明を続けた。

 

「先程から振り回している片手剣は勿論のこと、両腕に装備している指輪や腕輪、防具にブーツ……いずれもかなりの性能だ。購入にかかった金額は、現実世界の金額で一万や二万どころではない。先程の『式神符』も、確実に上限の六枚は持っているだろう。それに、同様の使い捨てアイテムも多数持っているとなると、さらにその数倍以上はするだろうな……」

 

万単位の金を装備品や特殊アイテムの購入のために惜しげも無く投入するなど、廃人プレイヤーの領域である。エリカの場合、必要な装備をはじめ各種アイテムをゲーム内で揃えるための時間が無かったため、課金アイテムに手を出したのだろうが、それでも投入する金額が半端ではない。

しかし、京子とて人並みの金銭感覚はあり、課金アイテム購入に使用した金額が決して安くないという認識はきちんとある。にも関わらず、これ程までに高価な課金アイテムを惜しげも無く購入して使用できるのは、偏にデュエルを盛り上げるためだった。

 

「そこまでして、イタチに恥をかかせたかったのかよ……」

 

「何だかんだ言っても、母親は娘が可愛いってことなんだろ……」

 

「親馬鹿なだけでなく、大人げない気もしますが……」

 

後妻討ちの目的は、前妻・後妻が壮絶な戦いを繰り広げ、騒動を起こすことで夫の不義理を周囲に知らしめることが目的なのだから、高金額の課金アイテムの使用等、話題になりそうな戦い方をすることは理に適っている。

しかし、娘のために戦場へ赴くだけでなく、金という大人の力間で駆使してイタチを攻撃しようとするその姿勢には、イタチも他の皆も、呆れ果てていた。アレンの言う通り、親馬鹿を拗らせに拗らせたその姿は、大人げないの一言に尽きる。

しかし、そのような行動に駆り立てる原因を作ったのは、他でもないイタチ自身である。本人もそれを自覚しているだけに、頭が非常に痛かった。

 

 

 

 

 

 

 

「さて……それじゃあ、再開しましょうか」

 

『前鬼』と『後鬼』という強力な味方を呼び出したエリカは、再度片手剣を構え直す。四方からエリカを取り囲む前妻パーティー(仮称)のメンバーの間には、緊張が走る。

しかし、一人とそれに随伴する二体に対し、四人が動かず睨み合う膠着状態が長く続くことはなかった。先程の宣言の通り、先に動き出したのは、後妻パーティー(仮称)のエリカだった。斧を持った『前鬼』がリズベットへ、籠手を身に付けた『後鬼』がランへと狙いを定めて襲い掛かる。そして、エリカが狙いを定めたのは、同じ片手剣使いのリーファだった。

 

(速い……!)

 

瞬く間に距離を詰めて来るエリカの握る片手剣には、青色の光が宿っている。片手剣ソードスキル『レイジスパイク』である。その凄まじい速度故に、移動した軌跡には眩い光芒が線を引いていた。

 

「くっ!なんの!」

 

神風の如く迫ったエリカの一撃は、リーファをもってしてもギリギリ反応が間に合うかどうかという程の速度だった。嵐剣『ラファエル』を通じて伝わるその重みは、ソードスキルによるシステムアシストと各種装備による強化だけではない……エリカ自身が持つ剣術のセンスを感じさせるものだった。

 

「なら、これはどうかしら?」

 

「え……っ!?」

 

『レイジスパイク』を弾いたリーファに対して間髪入れずにエリカが繰り出したのは、左手に持った短剣による三連撃刺突系ソードスキル『トライ・ピアース』。三角形の点を描くように繰り出す刺突は、ソードスキルの防御で動きが止まっていたリーファの胴体に全て入った。

 

「隙ありよ」

 

リーファに『トライ・ピアース』を叩き込み、技後硬直に陥った隙を見逃さず、シノンが麻痺効果のある状態異常降下の特殊矢を射る。放たれた矢は、狙い違わずエリカ目掛けて飛来していく。

 

「見え見えよ」

 

しかし、後衛からの援護射撃は、エリカも予測していたらしい。放たれた矢に対し、今度は右手に持った片手剣を振り翳し、ソードスキル『スラント』を発動。斜めに振り下ろす単発技は、シノンの放った矢の鏃を掠め、その狙いを逸らす。そして、

 

「きゃぁっ!」

 

「シリカ!」

 

軌道を外れた矢は、エリカに対して後ろから襲い掛かろうとしていたシリカの方へと突き刺さった。麻痺状態に陥ったシリカは、その場に仰向けの状態で崩れ落ちた。ピナが矢を口に咥えて引き抜いたが、シノンが矢に用いた麻痺毒が強力過ぎて、そう簡単には動けない。

 

「はぁぁああ!!」

 

麻痺に陥ったシリカに対し、エリカが追撃を仕掛けるために振り向こうとした時、リーファがダメージによる衝撃から立ち直り、エリカ目掛けて斬りかかった。対するエリカは、右手の片手剣と左手の短剣で斬撃を軽くいなすと、後方へと跳び退き、リーファから距離を取った。

 

「シリカちゃん、大丈夫!?」

 

「うぅ……ごめんなさい、リーファ」

 

右手に剣を握って油断なくエリカに構えながら、地面に膝を付いて左手に持った状態異常回復アイテムを用いてシリカの麻痺を治療するリーファ。前衛二人が倒されたことで、後衛からこうして前衛へと出てきたエリカだが、その実力は全く油断できない。高性能の課金アイテムを使用しているとはいえ、SAO、ALO、GGOの強豪プレイヤー達を相手にここまで大太刀回りできる剣技と戦略眼は、ALOを始めて一月と経っていない、素人のものとはとても思えなかった。

 

(『レイジスパイク』に『トライ・ピアース』に『スラント』……初級とはいえ、立て続けにあれだけのソードスキルを使えるわけがない。やっぱりあれは、『スキルコネクト』……しかもお兄ちゃんと同じ、両手に違う武器を持っての発動!)

 

(それに、私の援護射撃に対するタイミングも恐ろしいほどぴったりだった。正面で戦っているリーファは勿論のこと、後衛の私と背後から迫るシリカに対する警戒も全く怠らず、全て計算した上での反撃だったわ……)

 

ソードスキルというものは、単発・連撃を問わず、技の発動後には必ず硬直が発生する。故に、タイムラグ無しで連続発動することなど、できる筈は無いのだ。唯一の例外は、イタチが開発した、ソードスキル同士をモーションで繋げて連撃とするシステム外スキル『スキルコネクト』である。

しかし、イタチが実際に行使しているとはいえ、決して容易い技ではない。『魔法破壊(スペルブラスト)』同様、リーファやアスナといった強豪プレイヤー達が挑み、習得できなかった超難易度のシステム外スキルなのだ。両手に異なる武器を持ちながら操るとなれば、発動は猶更に困難を極める。それを難なく発動させるどころか、周囲の敵の動きにも注意を払いながら、ソードスキル発動のタイミングやシステムアシストによる動作の加速等々を見極め、三方からの攻撃全てに対処して見せたのだ。単純に剣技に優れるだけでなく、ソードスキルとスキルコネクトを使いこなし、自身を取り囲む敵全てに対処する戦闘センスには、非常に恐ろしいものがあった。

 

「そういえば、この前アスナさんに聞いたことがあります……アスナさんのお母さんって、昔、剣道の大会で東北地方の代表になったことがあるって……」

 

「……私も、今思い出した。随分前にお祖父ちゃんに聞いたことがあったんだけど……東北の剣道大会で、古流剣術の二刀流を披露した、お祖父ちゃんも一目置くような、『宮城の竜』って呼ばれていた、超一級の美女の使い手がいたって」

 

それは、もう十年以上も前の、リーファこと直葉の記憶において非常に古い話だった。東北地方の宮城県出身の剣道選手の中に、凄まじく強い女性の使い手がいたという。しかもその女性は、マイナーな古流剣術に精通し、二刀流を使いこなしていたらしい。一刀流しか認められていない公式大会では、その技術を披露する場が無かったものの、形だけでなく、非常に実戦に即したものとして再現できたという。

無論、その剣技は一刀流であろうと非常に強力であることには変わらず、剣道の全国大会においては、当時最強と謳われた関西地方出身の『冬木の虎』と呼ばれた選手をして互角と言われておいた。故に、剣道世界においてその女性は、西の虎と対を成す東の竜、或いは出身地にちなんで独眼竜の再来……『宮城の竜』と呼ばれていた――――――

 

「その人の本名なんだけど……確か、下の名前が“京子”って言ってたような……」

 

「まさか、それがアスナさんのお母さんなんですか!?」

 

「成程ね。要するに、血は争えないってワケか……」

 

エリカこと明日奈の母親、京子の驚くべき過去を聞かされ、驚愕を露にするリーファ、シリカ、シノンの三人。シノンに至っては、エリカのずば抜けた実力の理由を聞かされたことで、むしろ納得した様子だった。

SAOにおける『閃光』、ALOにおける『バーサクヒーラー』の異名を持つアスナの剣技と仮想世界への高い適応能力が、母親譲りのセンスだとするならば、エリカの強さも全て納得できる。アスナ率いる前妻パーティー(仮称)のメンバーにとって、エリカは最早、プレイ歴が短いからと油断できる相手ではない。アスナと同等、或いはそれ以上の脅威となっていた。

 

「リーファ、シリカ。エリカを早々に片付けるわよ」

 

リズベットとランは、エリカが呼び出した前鬼・後鬼と、離れた場所で未だに戦闘中である。式神符の発動には十分間の制限時間があるとはいえ、エリカを相手している最中にリズベットとランの合流を期待することはできない。また、エリカの持っている式神符も二枚だけとは限らない。消滅した傍からさらなる増援を呼び出されれば、不利になることは目に見えている。である以上、リーファ、シノン、シリカの三人に残された道は、エリカの撃破以外に無いのだ。

 

「簡単に言ってくれるけれど、そう思い通りにはいかないわよ」

 

薄らと笑みを浮かべながら、左手に持った短剣を鞘に納め、ポーチから新たな式神符を“二枚”取り出すエリカ。それらは宙に放り投げられると同時に、桃色と紫のライトエフェクトと、モンスター湧出の前兆である空間の揺らぎを発生させた。やがて、先程の前鬼・後鬼と同様の現象とともに、二匹のモンスターが姿を現した。

一匹はクラゲやクリオネを彷彿させる、ふわふわと浮かぶ桃色のモンスター。もう一匹は、紫を基調とした毒々しい色合いをした、毒蛾のモンスターである。

 

「『アビスフローター』に『ポイズンゲール』!」

 

「前鬼・後鬼と違って、後衛に特化したモンスター達ね」

 

さらに言えば、この二体のモンスターは状態異常を発生させる技を得意とする。アスナに匹敵する戦闘センスを持つエリカだけに、が繰り出される戦術の脅威は計り知れない。

 

「行きなさい」

 

「フォォオ……!」

 

「ケェエエッ!」

 

エリカの指示に従い、桃色の浮遊体モンスター『アビスフローター』が白い霧を発生させ、紫色の毒蛾モンスター『ポイズンゲール』は金色のライトエフェクトを放つ鱗粉を撒き散らす。白い霧は、鱗粉を巻き込みながら、周囲に広がっていく。

 

「拙い!麻痺作用のある毒鱗粉だわ!」

 

「霧に混ぜ合わせて辺りに撒き散らすなんて……!」

 

「こんな戦術、聞いたこと無いですぅっ!」

 

毒蛾・毒蝶型モンスターの鱗粉、毒性植物型モンスターの花粉といったものは、状態異常の発生率が高い代わりに、有効範囲が狭いことと、風属性魔法で簡単に散らせることが弱点とされていた。だが、アビスフローターのようなモンスターが発生させる霧ならば、周囲に拡散するスピードが風属性魔法に比べて緩やかなため、鱗粉を周囲に拡散させることができるのだ。

アビスフローターもポイズンゲールも、アルヴヘイムにおいて住処が異なるモンスター達であるため、その攻撃が組み合わさることは無かった。加えて、二匹ともモンスターの中では弱い部類だったので、テイムを得手とするケットシーのプレイヤー達ですら、それらの能力を組み合わせることなど考えつかなかった。そして、鱗粉・花粉にせよ、霧にせよ、モンスターのみが使える技であり、現状、プレイヤーが使用できる魔法には同様の効果を有するものは存在しない。

そんな強力なコンボを、エリカは一カ月に満たないプレイ時間で考え付き、式神符によって実現して見せたのだ。エリカが見せた驚異的な戦闘センスには、リーファ、シリカ、シノンの三人は本日もう何度目かになるかも分からない戦慄を禁じ得なかった。

 

「きゃぁあっ!!」

 

「なぁああっ……!?」

 

辺りに広がっていく霧は、エリカと対峙していたリーファ、シリカ、シノンの三人だけでなく、前鬼・後鬼と戦っていたリズベットとランをも呑み込もうと迫る。リズベットはギリギリ反応が間に合い、前鬼との戦闘から離脱して霧を回避することに成功したが、後鬼と殴り合いの近接戦をしていたランは間に合わず、霧に触れてしまった。途端、前妻パーティー(仮称)の視界端に表示されている、ランのHPバーに麻痺のデバフアイコンが灯った。

 

「二人とも、逃げて!あの霧に触れないようにして!」

 

前妻パーティーの形勢をこれ以上不利にさせないためには、麻痺を受けたプレイヤーをこれ以上増やすわけにはいかない。後衛のシノンが飛ばした指示に従い、リーファとシリカは、毒霧から逃れるべく、散り散りになって逃げる。霧はゆっくりとだが、確実に三人を追い込んでいた。

 

(そうだ!空に逃げれば良いじゃない!)

 

戦闘開始時点から地上戦だったため、地面を走っていたリーファだったが、上空に逃げ場所があることに今更ながら気付いた。毒霧の有効範囲は地上二~三メートルであり、普通に飛行すれば簡単に振り切れる。何故すぐに思い付かなかったのかと思いつつも、翅を広げて飛び立った。

だが……

 

「そこね」

 

「んなっ……!?」

 

上空へ飛び立った途端、リーファの足へと目掛けて、白い霧の壁を切り裂きながら、目にも止まらぬ速さの一撃が迸る。リーファを襲った攻撃の正体は、エリカが手に持った先端が鏃のように尖り、返しの付いた『戦鞭』だった。恐らく、毒霧を発生させたのと同時に、クイックチェンジで武器を片手剣から戦鞭に持ち替えたのだろう。数ある武器の中でも、特に長いリーチを持つ戦鞭故に、この霧の中にあっても、上空に姿を見せたリーファを簡単に攻撃することもできたのだ。

戦鞭自体が牽制に用いられる武器であるため、大したダメージにはならなかったものの、エリカが繰り出した一撃が齎したのは、ダメージだけではなく……リーファの視界端に表示されるHPバーに、毒の状態異常を示すデバフアイコンが灯った。

 

(毒!?しかも、HPが減るの速い……!)

 

エリカが振るった戦鞭の銘は『ポイズンテール』。状態異常を起こす課金アイテムの武器の中では、特に強力な毒を有することで知られている。通常の毒が時間経過とともに一定量のHPが削られるのに対し、『ポイズンテール』が与える毒は、経過時間と共に削られる量が増えていく、『猛毒』と呼ばれる強力な毒の状態異常なのだ。

 

(一度離れて、回復しないと……!)

 

このままでは、毒にHPを根こそぎ奪われかねない。それを防ぐために、解毒をするべく距離を取ろうとするが……

 

「わぁああっ!!」

 

後退しようとしたリーファ目掛けて、『ファイア・ボール』と『ダーク・スフィア』が放たれる。後妻パーティー(仮称)の後衛である、ララとシェリーの魔法による援護射撃である。

 

「ララ、反撃の隙を与えないで!」

 

「了解っ!」

 

どうやら二人とも、回復の隙を与えるつもりは無いらしい。後衛二人掛かりの遠距離魔法に晒された状態では、リーファといえども解毒・回復はできない。堪らず、霧が立ち込める地表へと戻るのだった。霧は相変わらず、リーファを呑み込もうとしているが、相手方からの視界も塞いでくれるお陰で、魔法による攻撃に晒される心配は無い。

霧の立ち込めていない場所に着地したリーファは、解毒アイテムと回復アイテムを取り出して治療を行い、態勢を立て直す。上空へ飛べば、毒鞭と魔法の集中砲火を浴びることとなるが、霧を盾にすればダメージは受けずに済む。このまま、式神符の効果が切れるまで地上に退避し、膠着状態を維持していれば、反撃のチャンスは巡ってくる筈であると、リーファは考えていた。

しかし、そんなリーファの考えも、アスナ以上の神算鬼謀のエリカにはお見通しだった。

 

「え……?」

 

仲間と合流するべく、その場から動き出そうとしたリーファの、風妖精族『シルフ』として優れた聴覚が、霧の奥から響いた謎の風切り音を捉えた。途端、エリカがいる方向より、霧を裂いて『ポイズンテール』の尖った先端が迫る。蛇の尾のように撓りながら繰り出された鞭の一撃は、リーファの左肩を穿ち、再びの猛毒を齎した。

 

「嘘っ!?」

 

白い霧に視界を遮られた状態にありながら、性格に繰り出された戦鞭の一撃に驚愕するリーファ。しかし、エリカの攻撃はそれだけでは終わらない。視界端に浮かんだ、毒のデバフアイコンが点滅した自身のHPバーと隣り合う位置に存在する、同パーティーメンバーのランのHPバーに灯る麻痺のアイコンの横にも、同じく毒のデバフアイコンが灯ったのだ。

 

「ランさんっ!」

 

毒霧に呑まれ、麻痺で身動きが取れなくなっていたランもまた、猛毒を受けてしまった。リーファとは違い、身動きの取れないランでは治療はできない。応援に向かおうにも、毒霧の中にいるランのもとへ駆け付ける手立てが無い。結論として、ランのことは見捨てざるを得ないのだ。

 

(どうやって私達をこんなに的確に狙えるのよ……!?)

 

明らかに当てずっぽうではなく、リーファとランの位置を正確に把握しての繰り出された攻撃だった。一体、どうやってこの霧の中で、リーファの居場所を掴んだのかと考えを巡らすリーファだが……その耳が、ある音を捉えた。

 

(空から……?)

 

音源を探ると、どうやら上空らしい。一体何の音かと、霧の無い上空へ視線を向けると……そこには、長い翅を震わせて滞空する、虫型のモンスターがいた。

 

(あれは……トンボ型のモンスター?まさか、使い魔!?)

 

それを視認した途端、リーファの中で全てが繋がった。

上空からリーファを見下ろすトンボ型モンスター『オーガフライ』は、エリカが式神符を使って呼び出した新手のモンスターである。エリカはそれを、魔法で使い魔とすることによって、視界を共有し、上空からリーファとランの位置を割り出し、正確な攻撃を仕掛けたのだ。

 

「早く落とさないと……!」

 

この霧の中にあっては、一方的に居場所を特定して攻撃できるエリカが繰り出す鞭を避けることは不可能である。これ以上、仲間達を毒状態にさせられるわけにはいかないと考えたリーファは、解毒をする間も惜しんで使い魔を落とすことにした。

無数の真空の刃を放つ風属性魔法『ウィンド・カッター』を繰り出し、『オーガフライ』を落としにかかる。だが、繰り出される風の刃は悉く回避される。

 

(どうしてあんなに避け切れるのよ!?)

 

リーファは知らなかったが、トンボ型モンスター『オーガフライ』には、飛行時間に比例してその速度を増す特性を持っているのだ。生半可は攻撃魔法では、簡単に避けられてしまうのは必定だった。

そして、上空に魔法を放つという行為は、自身の居場所を教えることと同義である。その結果……

 

「きゃぁああっ!!」

 

後妻パーティーの後衛であるララとシェリーから、白い毒霧越しに放たれる魔法が、リーファを襲う。相変わらずの『ファイア・ボール』と『ダーク・スフィア』による単調な攻撃だが、魔法が初級故に詠唱が短く、MP消費も少ないため、連射が利くのだ。狙いも大雑把ではあったものの、二人掛かりで連射されれば、リーファも無傷では済まない。

 

「しっかりしなさい、リーファ!!」

 

そんなリーファを援護すべく、シノンが動く。リーファへと迫る魔法を特殊矢で相殺すると、今度は上空にて滞空するオーガフライ目掛けて弓系ソードスキル『スターダスト・エクサ』を発動し、上空から無数の矢を降下させてこれを撃ち落とす。使い魔を始末したシノンは、リーファの手を取り、急いでその場を離れた。

 

「すぐに解毒しなさい!反撃に転じるわよ!!」

 

「は、はい!」

 

シノンに喝を入れられ、自身の解毒と治療を行うリーファ。一方、シノンはこの現状を打破するための特殊矢を手に取る。

 

「強風を発生させる『突風矢』よ。これで霧を吹き飛ばせば、一瞬だけど視界が晴れるわ。その隙を狙って、エリカと後衛二人に『爆裂矢』を叩き込む。これでエリカたちは全滅よ」

 

アイテムの効果に物を言わせた単純な作戦だが、危機的状況を打開する方法は他に無い。これ以上エリカの攻勢を許せば、戦況は完全に覆りかねないのだから。

 

「ララとシェリーはともかく、エリカがこれで仕留められるかは、まだ分からないわ。リーファ、何が起きても良いように備えていて」

 

「りょ、了解……」

 

リーファにそれだけ言うと、シノンは特殊矢『突風矢』を弓に番え、目の前に広がる白い毒霧へと狙いを定めて弓を引き絞り、その向こう側にいる敵目掛けて射た。

途端、『突風矢』の効果により、目の前にできた霧の壁に、文字通りの風穴が開いた。視界が晴れた霧の向こう側には、三人のプレイヤーの姿があった。前衛役のエリカと、後衛のララ、シェリーである。

 

(三人、いるわね……)

 

三人の敵の位置を瞬時に記憶したシノンは、続いてもう一つの特殊矢『爆裂矢』を、一気に三本手に取り、それらを一度に番える。弓系ソードスキルで射ることができるのは、通常の矢のみ。魔法効果等を有する特殊矢の場合は、ソードスキルのシステムアシストを受けることができず、同時に射出することもできないのだ。それを、複数同時にに射るこの技術は、ソードスキルのシステムアシストに依らないシステム外スキルに他ならない。これこそ、シノンが編み出した弓によるシステム外スキル、『三重射撃(トリプルショット)』である。

霧が再び立ち込め、突風矢でできた風穴を塞がれると同時に、先程確認した標的であるエリカ、ララ、シェリーのいる三カ所に狙いを定めて弓を引き絞り、三本同時に射出した。

 

「どわぁあっっ!!」

 

「ぐぅうっ!!」

 

途端、霧の向こう側から巨大な爆発音が二発、立て続けに響き渡る。それと同時に、二人分の……ララとシェリーの悲鳴が響いた。死角からの不意打ちを行うため、霧が再び立ち込めてから射出したが、攻撃の威力が高く、範囲が広い『爆裂矢』のお陰で、後衛二人は狙い通りに倒せたらしい。だが、三発目の……エリカに向けて放った爆裂矢の爆発音が、聞こえなかった。

 

(おかしい……)

 

多少の距離はあったものの、同時に放った以上は、多少の誤差はあってもほぼ同時に爆発音は聞こえる筈。ましてや、エリカは前衛に出ていたのだから、二人よりも早く爆発音は聞こえる筈。にも関わらず、それが聞こえないのは、明らかに不自然である。一体、何が起こっているのか……その原因へ思考を走らせようとした、その時だった。

 

「なっ!?」

 

放たれた三本の矢の内、エリカへ向けて放たれた方向の霧を引き裂き、シノンのもとへ、何かが飛来した。霧で覆われた視界の向こうから飛来したため、反応が遅れてしまったシノンだったが、飛来物の正体を見ることはできた。それは、先程シノンが放った『爆裂矢』だった――

 

「わぁぁああっ!!」

 

突如として霧の向こうから飛来した爆裂矢は、シノンの右肩に突き刺さると同時に爆発。シノンのHPを一撃でゼロにした。さらに、隣にいたリーファも爆風の影響で吹き飛ばされ、地面を転がることとなった。

 

(一体、何が……)

 

爆発の影響で受けた大ダメージを魔法で回復しながら、何が起こったのかを確認しようと周囲を見回すリーファ。幸い、先程の爆風のお陰で視界は幾分か晴れており、後妻パーティー(仮称)のいる場所まで見渡すことができるようになっていた。

敵方のメンバーが布陣する場所へと視線を巡らせる。後衛の二人が居た場所には、二色のリメインライトが揺らめいている。どうやら、シノンの『爆裂矢』は二人を上手く仕留められたらしい。ならば、エリカはどうかと、そちらを見てみると……

 

(あれって……まさか、『カウンター・スタチュー』!?)

 

エリカが立つその場所には、先程までは無かった、一体の石像が立っていた。ギュッと目をつぶり歯を食いしばっているかのような表情が特徴的な、ひょろ長い体格をしたモンスターの石像である。これは、『カウンター・スタチュー』と呼ばれる石像型のモンスターである。その名が示す通り、ソードスキルや魔法による攻撃に反応し、あらゆる攻撃を跳ね返す能力を持っているのだ。チートに聞こえる能力だが、単一の標的に対する攻撃にのみ反応するため、範囲攻撃型のソードスキルや魔法は防げないのだ。加えて、『カウンター・スタチュー』自体が一切の移動をしないモンスターであり、プレイヤーの手で動かすこともできない。

仮に味方にすることができたとしても、非常に使い勝手の悪い盾にしかならないのだ。少なくとも、高価な課金アイテムである式神符で呼び出そうなどという発想は、絶対に浮かばないモンスターである。そんな使い所の難しいモンスターを、辺りが霧に覆われた視界ゼロのこの状況を活用し、見事にシノンを撃破してのけたのだ。

 

「フフ……」

 

「!!」

 

霧の向こう側にて、驚愕に目を剥くリーファを見ながら、艶然とした笑みを浮かべるエリカ。その妖しい笑みに、リーファは背筋が凍るような感覚を覚えた。

それと同時に、リーファの視界端に表示されたパーティーメンバーの一人であるランのHPバーが、毒のダメージによって完全に尽きた。

エリカが前衛に出たことで、HPが全損した前妻パーティー(仮称)のプレイヤーは、これで二人である。エリカ等後妻パーティー(仮称)も、後衛二人を失う痛手を被ったが、戦況は未だにエリカ等の方に分がある。エリカというダークホースによって戦況が覆され、その行く末が混迷を極めながらも、後妻討ちデュエルは続いていく……

 

 

 

 

 

 

 

おまけパロキャラ設定集

エリカが本編で使用しなかった『式神符』一覧

 

スケアメイク・コブラ:

コブラ型のモンスター。猛毒の毒牙を有するほか、巨体を生かした巻き付き攻撃を得手とする。

 

ハングリー・リッカー:

サンショウウオのような姿をしたモンスター。長い舌を武器とし、舐めた対象を麻痺状態にする。

 

スフィア・バット:

蝙蝠型のモンスター。風の刃を連射する遠距離攻撃に優れる。

 

パンプキン・ボマー:

カボチャの姿をした空中を浮遊する植物系モンスター。種の形状をした爆弾をばら撒き、敵を攻撃する。

 

ディスガイズ・マスク:

耳の尖った鼠のぼろ布を被ったアストラル系モンスター。『シャドーボール』や『シャドークロー』といった闇属性魔法を得意とする。


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