ソードアート・オンライン 仮想世界に降り立つ暁の忍 -改稿版-   作:鈴神

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第十六話 死の森

2023年5月24日

 

第二十一層・ボーインは、フィールドの六割以上が密林に覆われた熱帯のジャングルを彷彿させる地形である。生息しているモンスターは、主に植物、虫、爬虫類で、いずれも危険な猛毒を持っている。第二十五層までフロアが解放されている現在でも、攻略組をはじめ多くのプレイヤーが立ち入りを忌避している。

そんな危険地帯を、イタチは一人、隠蔽スキルと索敵スキルを発動させながら、只管に西へと突き進む。

 

(まるで、死の森だな…)

 

 前世の忍世界、うちはイタチの所属した木の葉隠れの里にも、同じような場所があった。中忍試験の二次試験の舞台にもなる、通称「死の森」。毒虫、毒草が蔓延るところなど、共通点は多い。郷愁にも似た思いを浮かべながらも、イタチは今回の捜索対象について考える。

 

(しかし、あの男は一体何を企んでいるんだ?)

 

日が沈む西の方角を睨みながら、イタチはアルゴの報告を思い返していた。黒ポンチョの男と接触していたプレイヤーの名前は、ケイタ。中層で活動する「月夜の黒猫団」なるギルドのリーダーを務めているらしいが、犯罪者プレイヤーとの接点は皆無。短時間で調べたことだが、彼を含めギルメンのレベルや経歴にも何らおかしいところは見られない、至って普通のギルドだ。それが何故、こんな物騒な場所に来るのか、理由は皆目見当もつかない。

 

(何かある筈だ・・・)

 

アルゴが見かけたと言う黒いポンチョを被ったプレイヤーというのも、イタチが探している人物と同一とは限らない。だが、イタチは直感していた。アルゴが見た黒ポンチョのプレイヤーが、自身の探している人物と同一であることも・・・そして、今日この階層で何かを企んでいることを。

 

(どこだ・・・・・?)

 

索敵スキルをにより、周囲のプレイヤー反応を探りつつ、木の影に入って身を隠す。イタチの隠蔽スキルは攻略組の中でも突出して高く、現にこの森に入ってからモンスターとは一度も遭遇していない。太陽が外周の向こうに沈んで見えなくなるのを視線の端に捉えつつ、一時間弱の間、探索を続けていた…その時だった。

 

うわぁぁああああ!!

 

「!」

 

 プレイヤーが出入りを忌避する日暮れの森に、悲鳴が木霊する。イタチは即座に悲鳴のした方を向き、一気に駆け出す。イタチの聴覚は、前世と同様常人以上に鋭く鍛えられている。システム的に音声がシャットダウンされる宿の部屋の中などの音を聞くには、聞き耳スキルが必要になるが、フィールドではその限りではない。イタチは先の悲鳴を聞いただけで、その方向、距離を即座に把握した。

 

(三十メートル……といったところか…だが、あそこは結晶無効化エリアだぞ。)

 

索敵スキルの範囲外にあるが、そう遠くない距離だが、場所が問題である。アインクラッドには、転移や回復といった効果を持つ結晶アイテムが使えないエリアが存在する。これらは結晶無効化エリアと呼ばれており、大幅な制限を課せられる上に、緊急離脱不可能な危険地帯としてプレイヤーに知られていた。二十一層のような危険なモンスターが多数出没する階層ならば、その危険度は他の層の比ではない。

 

(悲鳴……ということは、彼等は被害者だったということか…)

 

 近づいてみれば、プレイヤー反応が五つ。恐らく、黒ポンチョの男に接触したケイタ率いるギルド、月夜の黒猫団なのだろう。暫定的なレッドプレイヤーである黒ポンチョの男と接触したことから、当初は共犯かと疑っていた。だが、アルゴが調べた経歴からは犯罪との関連性は見られず、さっきの悲鳴からしても、彼等は黒ポンチョの男の何らかの計画に巻き込まれた被害者ということになる。

 木々の間を縫うように、一切減速せずに駆け抜けたイタチは、遂に悲鳴を発した当人達がいる開けた場所へと辿り着く。

 

「ぎゃぁぁああ!!」

 

「に、逃げろぉっ!」

 

 イタチの視界が捉えた風景は、さながら地獄絵図だった。五人のプレイヤーが、数十体のモンスターの群れに包囲され、殲滅されかかっていた。五人は皆HPがイエローゾーンに突入しており、そう長くは持たないことは明らかである。状況をすぐさま把握したイタチは、背に吊った片手剣――キアストレートを引き抜くと同時に、モンスターの群れへと突撃する。

 

「……ふっ!」

 

隠蔽スキルを発動した状態で、包囲の薄い箇所目掛けて剣を振るう。死角からの不意打ちに、モンスターたちは反応が間に合わず、急所を刃で一閃されて即死する。その後も、他のモンスターが突然の闖入者であるイタチへと反撃する隙を与えず、ソードスキルを連発して仕留めにかかる。発動しているのは下級ソードスキルだが、イタチは急所を正確に捉えていたのだ。包囲モンスター五体を仕留めたところで、囲まれていたプレイヤー達のもとへ到達した。

 

「大丈夫か?」

 

「き、君は…って、うわぁっ?」

 

「話は後だ。今はこの状況を乗り越える方が先だ。」

 

「わ、分かった!」

 

 突然現れたイタチに驚く、クォータースタッフを持ったリーダーらしき少年――恐らく、ケイタであろう――だったが、イタチの言葉に首を縦に振りつつモンスターに対処する。他のメンバーも、目の前のモンスター群相手に満身創痍も同然の状態だったため、リーダーの意見に異を唱える者はいない。

 イタチは迫りくるモンスターを斬り伏せつつも、共闘するプレイヤー達の装備と体力、そして周囲のモンスターを見渡し、素早く作戦を立てる。

 

「あの一角の包囲は手薄で、モンスターはお前達の武器と相性が良い。前後衛でスイッチを繰り返して突破しろ。後ろの包囲は俺が受け持つ。」

 

イタチが指し示した方向にいたのは、虫の亜人型モンスター、「アント・ソルジャー」。片手剣とバックラーというプレイヤー間でも基本的な装備を携えている。突破のために撃破を要する個体は、およそ四体。

 

「そっちは大丈夫なのか!?」

 

「問題無い。俺よりも、お前達は自分自身の心配をしろ。来るぞ!」

 

「お、おう!!」

 

 槍使いの少年の問いに、しかしイタチは何でもない風に答えた。実際、深夜のモンスターポップが増す時間帯での狩りを散々してきたイタチにとって、この程度の包囲はどうとでもなる。それよりも心配なのは、実際に突破を試みるパーティー五人である。

 イタチは自身の後方で突破を試みる五人のもとへモンスターを通すまいと、剣を手に駆け出す。

 

「……はぁっ!!」

 

「シュルルルッッ!!」

 

イタチが踏み出すと同時に、一番近くにいたユリの花を象った植物型モンスター、「スティング・リリィ」が触手を槍の様に突き出してライトエフェクトを伴う攻撃を仕掛ける。槍系ソードスキル、「ホーネット・スタッブ」である。SAOのモンスターは、亜人型以外でも、一部のモンスターはソードスキルを使用するタイプのものがいる。このスティング・リリィもその種に該当するモンスターであり、触手による刺突系ソードスキルを得手とするのだ。

 

(……そこだ!)

 

 何匹ものスティング・リリィがユリの花のようなラッパ型の頭をイタチに向け、標的目掛けて触手の刺突を繰り出す。だが、イタチはそれらを紙一重で回避し、懐へ飛び込んで手前の三匹の胴体部分の茎をまとめて一閃する。

 

「はぁっ!!」

 

 青いライトエフェクトと共に、水平斬りソードスキル、「ワイド・セクター」が発動する。片手剣・長剣カテゴリにおいて攻撃範囲に優れたソードスキルであり、イタチの繰り出したそれは、前方のユリの茎三つを見事に一閃・両断した。

 

「シュルルルゥゥゥウウ…!!」

 

バタバタと地面に斬り倒されたスティング・リリィ達は横たわり、断末魔の叫びと共にポリゴン片を撒き散らして消滅する。イタチの高レベルステータスと動体視力によるアシストが、最前線付近の階層のモンスターをも一撃で屠ることを可能としているのだ。

 

(残りはざっと四十体…問題はない。向こうは…)

 

 スティング・リリィを倒してすぐ、イタチは後方で血路を開こうとしている五人に目をやる。前衛二人はクォータースタッフとメイス持ちの打撃系ソードスキルで応戦し、後衛の槍使い二人と短剣使いのシーフがスイッチで援護している。だが、思うように敵を退けられずに苦戦している様子だった。見かねたイタチが、モンスターとの戦闘の傍ら、指示を飛ばす。

 

「前衛二人は無理に急所を狙うな!盾に叩きつけてパリィするんだ!」

 

「こ、これで良いのか!?」

 

イタチの指示に従い、メイス使いの少年はアント・ソルジャーの盾に打撃系ソードスキル、「インパクト」を叩きつける。アント・ソルジャーは仰け反り、隙が生まれる。

 

「後衛の槍使いはその隙にスイッチしろ!胴の付け根を狙え!」

 

「わ、分かった!」

 

 女性であろう声がイタチの言葉に応じると共に、槍系ソードスキル、「レイ・スラスト」を発動する。中級ソードスキルとしてそこそこの威力を持つ攻撃が、アント・ソルジャーの腹を貫く。

 

「キシャァァアッッ!!」

 

攻撃を受けたアント・ソルジャーは、そのままHPを削り切られ、ライトエフェクトを爆散させて消滅した。一撃必殺を狙うならば、首を穿つのが好ましいが、この緊急事態にあっては、正確に狙いが定められない。そう考えて胴を狙わせたのだ。だが、上手い具合にモンスターを撃破できた。そのお陰で、メンバーの士気も上がっている。

 

「その調子で攻撃を続けろ!だが、あまり時間は無い!迅速に突破するんだ!」

 

「ああ、分かってる!」

 

 イタチの呼びかけに、リーダーの棍使いは力強く返した。それを聞くと同時に、イタチも血路を開こうとしている五人に襲いかからんとするモンスター群に向き直る。

 

(全てを相手にしている余裕は無いな……毒系モンスターを中心に排除するしかない…)

 

四十体近いモンスターを相手取る以上、どうしても討ち漏らしが出かねない。ならば、危険度の高い毒を持つモンスターを優先的に倒すのがベストであるとイタチは判断した。

 

(まずは、アイツだ!)

 

イタチが真っ先に標的に定めたのは、毒キノコ型モンスターの「トードスツール・メイサー」。頭にキノコの笠を被ったどっぷり太った体型で、手に持ったキノコ型戦槌が武器である。動きは鈍いが、攻撃した際に毒胞子をばら撒くことで恐れられている。イタチは迷うことなく接近し、迎撃の隙も与えず垂直斬りソードスキル、「バーチカル」にて頭頂から股にかけて一刀両断する。初級ソードスキルの短い硬直が解けるや否や、すぐに次の標的へ飛びかかり、毒胞子の効果範囲から離脱する。もう一匹のトードスツール・メイサーが振り下ろす戦槌を危なげなく回避し、同様に一刀両断して離脱する。そこで跳び退いた際、上空に数匹の虫型モンスターを視認する。

 

(ポイズン・ワスプか…!)

 

 第一層および二層に生息する蜂型モンスター、「ウインド・ワスプ」が猛毒を備えたのが、この「ポイズン・ワスプ」である。前者は刺されればスタン程度で済んだが、後者は確実に麻痺か毒状態に陥る、非常に危険なモンスターである。イタチはこれに対処するべく、前方のモンスターの攻撃を回避しつつ、左手で懐からピックを三本取り出す。

 

「ハァッ!!」

 

左手の指に挟んだピック三本を、ライトエフェクトと共に一斉に投擲する。投剣カテゴリの上位ソードスキル、「デルタシュート」である。

 

「シュゥウウッ・・・!!」

 

 イタチの放ったピックが三匹の蜂全てに命中し、空中からの落下と共にポリゴン片を散らして消える。三本全てが、三匹それぞれの急所を捉えて即死させたのだ。本来ならば巨体のモンスター相手に使うのがオーソドックスなソードスキルであり、三匹の小型モンスターに命中させるなど不可能に近い。忍者として手裏剣術を極めた前世を持つ、イタチならではの離れ業である。

 

(まだ突破できんか……)

 

 後方でアント・ソルジャー相手に包囲突破を試みている五人組は、未だに手古摺っている様子だった。飛行モンスターまで出てきている以上、イタチ一人で群れを食い止めるのは限界である。一刻の猶予も無い状況の中、イタチは五人に指示を飛ばしつつも、モンスターを撃破していった。だが、そんなイタチの奮闘を嘲笑うかのように、難敵が現れた。

 

(あれは……ポイズン・カクタス!!)

 

 イタチの前方に現れた、二体の植物型モンスター。ボール状の身体から、無数の棘が生えているその姿は、見紛うことなき「サボテン」。二十一層探索の際、初見のイタチや他の攻略メンバーを苦戦させたモンスター、「ポイズン・カクタス」である。

 

(マズイ……!!)

 

 このモンスターの出現に、イタチは内心で焦る。名前の通り、このモンスターは、全身の針一本一本が毒針なのだ。そして、体当たり攻撃は言わずもがな、もう一つのこの上なく厄介な能力を持っている。

そして二体のサボテンは、今まさにそれを、“全身の針”からライトエフェクトを放ちながら発動せんとしていた。

 

「盾をこっちに向けろ!!」

 

 イタチは咄嗟にそう叫んだが、アント・ソルジャーの応戦に手いっぱいの五人には届かなかった。そして無情にも、ポイズン・カクタスの必殺技が炸裂する。

 

「くっ!!」

 

イタチは目の前のサボテン二体から距離を取り、その攻撃に備える。途端、それはイタチと五人のプレイヤーに襲い掛かった。

 

「ぐぁっ!」

 

「くぅっ!」

 

「あがっ!」

 

(三人……やられたか!)

 

イタチ達六人に向かって放たれたのは、無数の「針」。これこそ、ポイズン・カクタスをこの階層の上位危険種たらしめている所以…投剣系ソードスキル、「ランダム・シュート」。文字通り、投擲武器を乱れ撃ちするソードスキルである。プレイヤーが使う場合は、一度に六から八本が限界だが、ポイズン・カクタスの場合は、全身から全方位計百二十発を放てるのだ。回避は不可能である。一発一発は大した威力は無いが、強力な麻痺毒を持っている。群れで襲われれば全滅必至のスキルであるため、盾持ちの防御役や耐毒ポーションの服用が必要とされる。

だが、この場の盾持ち二人は反対方向のモンスターとの戦闘に気を取られていたせいで反応が遅れ、敵が二体だったためにイタチの剣で全てを捌き切ることはできなかった。結果、三人のプレイヤーが麻痺に陥ったのだ。

 

「ダッカー!ササマル!テツオ!」

 

「み、皆…!!」

 

仲間達が麻痺に陥り倒れた事で、残り二人も浮足立つ。無理もない。ただでさえ危機的状況なのに、こんなアクシデントが起これば、常人では冷静さを保つことなどできなしない。

 

「キシャァァアッ!!」

 

そんな隙を狙って、二人の背後にいたアント・ソルジャーが刃を振り下ろそうとする。

 

「ふんっ!!」

 

「キシャァッ!」

 

 だが、イタチがそれを見過ごす筈も無く、襲いかかろうとしていたアント・ソルジャーの首を刎ねてHP全損に追い込む。続けて今度は、腰からピックとは別のもう一つの投擲武器を取り出し、モンスター群の前線にいたポイズン・カクタスへと投げつける。

 

「はぁっ!!」

 

 ライトエフェクトと共に放たれたのは、円盤型の武器――チャクラムである。イタチはSAOベータ時代より、メイン武器(ウエポン)の片手剣とは別にサブ武器(ウエポン)としてチャクラムを常備している。イタチが投擲したチャクラム、「ヴァルキリー」から発動したソードスキル、「フリスビー・シュート」が、一番手前のポイズン・カクタスの花を穿つ。

 

「シュゥゥウ…」

 

 花弁が散るのと同時に、ポイズン・カクタス本体も萎れてポリゴン片を撒き散らして消滅する。さらに、ブーメランのように空中で旋回したヴァルキリーは未だにライトエフェクトを振りまきながら、もう一体の花も散らし、装備設定がされているイタチの左手に戻ってきた。

 

「負傷者に解毒ポーションを使え。麻痺が抜けないうちは、肩を貸してやれ。走るぞ!」

 

「分かった!」

 

「う、うん!!」

 

 リーダーらしき棍使いの少年と、槍使いの少女にそう言うと、イタチは目の前のモンスターの群れ目掛けて「煙玉」を投げつけた。途端、群れを覆う様に煙が噴き出し、煙幕が展開される。煙玉は隠蔽スキルの補助を行うためのアイテムであり、主に不意打ちや逃走を図る際に使われる。だが、煙で視界を覆うということは、自分も相手の姿を確認できなくなることを意味する。索敵スキルを用いても、プレイヤーやモンスターの位置を掴むのが限界なのだ。しかも、目晦ましであるが故に、視覚以外の感覚を持つモンスターに対しては効果が薄いのだ。

イタチが包囲を突破するのにこのアイテムを使わなかったのも、敵のモンスターは大半が視覚を持たない植物型モンスターが占めており、尚且つポイズン・カクタスのような危険な毒および能力を持つモンスターを警戒してのことだった。姿が見えなくなれば、先手を打つこともできなくなるし、最悪の場合はモンスターが放った攻撃を一方的に食らって全滅しかねないと考えたのだ。

だが、今はもうそれどころではない。三人が麻痺に陥ってしまった以上、一刻の猶予もない。このゲームでは解毒ポーションを飲んでも、麻痺はすぐには解消しない。解毒結晶が使えない以上、麻痺が残る体に鞭打って離脱してもらうほかないのだ。煙幕は植物系モンスターには効果が薄いが、虫や爬虫類系モンスターの足止めには幾分か効果がある。これで群れの二、三割は足止めができる筈だ。目晦ましが効かない植物系モンスターも、大概は敏捷が低く、追い付いてくるのには時間がかかる。ポイズン・カクタスのような飛び道具を持つモンスターも、群れの最前列にはあれ以上確認されなかった。群れを突破するならば、今しかない。イタチはそう思った。

 

「結晶無効化エリアはもうすぐ抜ける!後ろを振り向かずに走れ!」

 

 イタチは五人にそう指示を飛ばすと、包囲突破ポイントにいた残りのアント・ソルジャーを撃破する。遂に開けた突破口から、棍使いの少年を筆頭とする五人が必死で包囲を抜け出す。その両サイドから襲い掛かる残りのモンスターは、イタチがキアストレートを振るい、ほぼ一撃で屠る。真後ろから迫る群れには引き続き煙玉を食らわせて足止めし、煙幕を抜けて接近してきた植物モンスターは、ピックとヴァルキリーによる遠距離攻撃で仕留めた。四十体近くいたモンスターの群れ相手に、イタチは五人を護りながら孤軍奮闘に近い状態だった。

 

「よし………結晶無効化エリアは抜けたぞ!」

 

 敵を倒す傍ら、マップを確認していたイタチが五人に結晶無効化エリア脱出を告げた。それまで生きた心地のしなかった五人の顔に、一様に生気が宿る。あの絶望的な包囲から脱出したのだ。その歓喜は推し量れるものではない。後方には未だに二十体近くのモンスターが追いかけてきているが、転移結晶を使ってしまえば問題は無い。

 

「油断するな。転移には場所を言ってから数秒の時間が掛かる。モンスターは俺が足止めするから、先に離脱しろ!」

 

「最後まですまない!」

 

リーダーの棍使いはそう言うと、青いクリスタル型アイテムをポーチから取り出す。他の四人も同様にアイテムを手に持っているのをイタチは確認すると、ほっと一息吐く。すぐに離脱できるのを確認すると、イタチは改めて群れに向き直る。それと同時に、五人は転移先の街を口にしようとする。

 

「転移!ボー」

 

 二十一層主街区の「ボーイン」と叫ぼうとしたのだろう。だが、その声は途切れてしまった。

イタチがモンスターの群れを足止めしようと向かっていたのと反対側の方向、五人のすぐ近くの空間が、“歪んだ”のだ。不吉な気配に振りかえったイタチは、それをみて目を大きく見開く。それは、攻略組に所属している人間ならば誰もが一度は目にしたことのある現象。

 

(まさか……!!)

 

 空間の揺らぎは拡大し、やがて巨大な影が滲みだす。漆黒の影は、やがて実体化し、三メートルはあろう巨体を露にする。全身がごつごつした木の幹で覆われ、右手には巨大な棍棒を持っている。片や頭の部分には、まるで針地獄を描くように、枝が無秩序に飛び出していた。巨樹がいきなり現れた、そんな感じがしたのだが、それがただの木ではないことを、イタチは既に認知していた。

 

「退がれぇっ!!」

 

 そう叫んだイタチの声は、しかし五人には届かなかった。巨樹の天辺に、六段のHPバーと共に、その巨木の正体を示す文字列が浮かび上がる。その名は―――

 

『The Woody Giant』

 

 直訳すれば、『木の巨人』。定冠詞を持つそれは、紛れもないボスモンスターだった。

 




イタチの武器ですが、前世の自分の“声”に従って選んだというわけではありません。
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