ソードアート・オンライン 仮想世界に降り立つ暁の忍 -改稿版-   作:鈴神

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第十八話 月夜の黒猫団

 第二十一層のフィールドでの死闘から生還した十六人のプレイヤー達は、転移結晶を使って主街区へと一時帰還した。その後、フィールドで群れに襲われていたギルド、月夜の黒猫団に事情聴取するために、彼等のホームとしている第十一層、タフトにある宿へと向かうこととなった。その場には、イタチの他にも、救援要請を受けて出向いたという攻略組三人と、風林火山の計十名はもちろんのこと、彼等に依頼を出した当事者も姿を現したのだった。

 

「…やはり、クラインやカズゴをよこしたのはお前だったのか、アルゴ。」

 

「にゃはは。でも、呼んでおいて正解だったろウ?」

 

 イタチの目の前にいるのは、フードを被った小柄な女性プレイヤー。ヒゲを模した顔のフェイスペイントが特徴的な情報屋、鼠のアルゴである。要請を受けて救援に来たというクラインの言葉から、イタチは目の前の人物の差し金であろうことは薄々気付いていた。

 

「いや~、苦労したんだヨ。イタっちが危険な所に行くって言って、嫌な予感がしたから二十五層のレストランで食事していたコイツ等に声かけて、出向いてもらったんだかラ。」

 

「全く…無茶が過ぎるんですよ。最初から僕たちにも声を掛けてくれればよかったものを…」

 

「本当だぜ。水臭えったらありゃしねえ。」

 

「ま、結果オーライだろ。皆生きてんだ。オイラはこれで良かったと思うよ。」

 

「ああ、感謝している。お陰で犠牲者が出なかったことだしな。あとでしっかり礼もさせてもらう。」

 

「いらねえよ、んなもん。俺達が勝手に引き受けただけだ。恩に感じることなんかねえよ。」

 

 レッドプレイヤーと接触する可能性があると言ったことが原因らしい。心配したアルゴが、最前線の迷宮区攻略から帰ってきたカズゴやクライン達に、イタチが言った二十一層へ出向いてもらうよう要請したとのことだ。無愛想だが面倒見の良いカズゴだけでなく、痩せの大食いであるアレンまでもが食事を放りだして来てくれたのだから、相当心配をかけたらしい。イタチの内心は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。ここは素直に頭を下げて、謝ることにした。

 

「皆、迷惑かけて済まなかった。」

 

「よせよせ、オイラ達は仲間じゃんかよ。」

 

「そうですよ。同じベータテスターとして、前線で戦った仲です。助け合うのは当然でしょう。」

 

「…だが、俺はビーターだ。あまり関わり過ぎるのは…」

 

「んなもん、気にしてねえよ。」

 

イタチの言葉を遮ったのは、カズゴだった。相変わらず目つきの悪い顔で、しかも眉間に皺を寄せながらイタチの方を向いて口を開く。

 

「ビーターだか何だか知らねえが、俺はそんなことはどうだっていい。大体、誰もお前にそんなこと頼んでねえんだ。お前一人で何でもかんでも背負おうっていう考えは気に入らねえな。」

 

 口は悪いが、カズゴなりの優しさなのだと、イタチは感じていた。ベータテスターとして、このゲームを作った当事者の一人として、全プレイヤーの憎しみを一身に受ける覚悟で攻略を続けてきたが、カズゴやアルゴは接し方を変えようとはしなかった。それは、皆がイタチを仲間として認めてくれている何よりの証拠だった。

 

「カズゴも素直じゃねえなぁ…ま、オイラも気持ちは同じだ。」

 

「そうですよ。イタチ一人で背負うことなんて、ないんです。僕達がいつだって力になりますよ。」

 

 カズゴに続き、ヨウとアレンも共感し、しかし笑みを浮かべながらイタチに話しかける。そんな三人の優しさに、イタチは居た堪れなくなる。茅場晶彦のゲーム開発に尽力し、このような暴挙を未然に食い止める立場にあったものの、現実から逃避しようとうする気持ちがあったがために、目の前の三人を含めた一万人ものプレイヤーを死の牢獄へ閉じ込めてしまったのだから。そしてだからこそ、今の在り様を変えてはいけないとも、イタチは思う。

 

「…気持ちは嬉しいが、これは俺なりのケジメだ。お前達をこれ以上巻き込むわけにはいかない。」

 

 イタチの言葉に、一同は溜息と苦笑を浮かべる。ここ半年の攻略で、皆イタチの性格を理解しつつあったのだ。そして予想通りの、自己犠牲的な発言。仕方ないと言わんばかりに、皆肩を竦めた。

 

「ったく、お前えは最初に会った時から変わんねえなぁ…なら、こっちにも考えがあるぜ。なあ、アレン。」

 

「そうですね。イタチが協力を求めないなら、僕達の方から関わることにするよ。」

 

「アルゴから話は聞いてんだ。レッドプレイヤー絡みの厄介事なら、攻略組としても放っておけねえ。助けてやった手前、話を聞くくらいはいいだろ?」

 

 どうやら、クラインやカズゴ達は今回のレッドプレイヤー絡みの騒動に関わる気満々らしい。イタチとしては、事と次第によってはプレイヤー同士の殺し合いに発展する可能性のある案件なだけに、これ以上の詮索はしてほしくなかったが、助けてもらった手前断れない。渋々、同席を認める事となった。

 

「話はまとまったみたいだナ。それじゃ、隣の部屋で待たせてる五人のところへ行くヨ。」

 

 アルゴがそう言うと、イタチ含め五人の元ベータテスター達は、隣の部屋で休ませていた、ギルド・月夜の黒猫団の五人に会いに行くべく席を立った。

 

 

 

 

 

夜の闇に包まれた第十四層郊外の森の中。普段、一般のプレイヤーが立ち入らない場所にあるモンスターの出ない安全地帯。野生のモンスターが現れることのない空間、そこに三つの影があった。

 

「ヘッド、さっき黒鉄宮に行った奴にメッセージ送って確認したんだけど、えーと…月夜の黒猫団、だったっけ?名前に横線は入ってなかったってよ。」

 

「Um…あのパーティーが、群れを突破できるとは考えられねえな。俺の動きを事前に察知して阻止した奴がいたってことだ。」

 

ブーツ、パンツ、レザーアーマー、身に纏うもの全てが黒一色で、頭には頭陀袋のようなマスクを被った男が無邪気に話す。それに対し、膝上までを包む艶消しの“黒いポンチョ”を纏い、フードを目深に被った男は熟考した様子で答える。

 

「あなたの、邪魔を、した…何故、だ?そして、何者、だ?」

 

 今まで黙っていたやや小柄な男が、黒いポンチョを纏った男に問いかける。切れ切れの言葉で話すその男は、頭陀袋を頭に被った男と同じく全身黒ずくめだが、全身にびっしりと襤褸切れのようなものを下げ、顔には髑髏を模したマスクをつけている。眼窩の奥には、赤く光る両眼が覗いている。

 

「俺のファン…じゃねえことは確かだな。だが…そう、第二層で強化詐欺プランを吹き込んでから、だったな。鼠の女を通じて、今も俺のことを探っているそうだ。」

 

「それって、半年前じゃなかったっけ?何でヘッドのことをそんなに追いかけようとするのかなあ?」

 

「鼠の、女…捕まえて、吐かせる、か?」

 

 髑髏マスクの奥に覗く赤い瞳が、剣呑な空気を纏い始める。黒いポンチョの男性が命じれば、恐らく地の果てまでもその女性を追いかけて捕らえるであろう雰囲気だ。だが、当人は手を翳してそれを制した。

 

「それには及ばねえ。あの包囲を突破したってことは、間違いなく攻略組…それも相当な実力者だ。それに、俺に会いたがっているんだ…望み通りにしてやろうじゃないか。」

 

 フードの奥に不気味な笑みを浮かべながら、黒いポンチョを纏った男性はそう締めくくった。そして、その場にいた髑髏マスクの男と頭陀袋の男に背を向けてその場を立ち去ろうとする。

 

「ヘッド、どこに行くんだ?あ、分かった!連中が上手いこと死ななかったから、直接手を下しに行こうってんでしょ!?なら、俺も行っていい!?」

 

「俺も、行く。」

 

 黒いポンチョの男と同行を希望する二人の黒ずくめ。だが、言い寄られた当人は苦笑しながら首を横に振った。

 

「そんなんじゃねえ。俺はもう、そいつらには興味がない。それとは別に…ちょっとした仕込みに行くのさ。お前達は、ここで待ってな。」

 

 頭陀袋の男の問いかけに、黒いポンチョの男は不敵に答える。残された二人は、若干不満そうにしていたものの、言われた通りに森の安全地帯に居残ることにした。

 

(第二層攻略以降、俺を探しているプレイヤー…)

 

 その人物の存在を知ったのは、一カ月ほど前のことだった。鼠のアルゴを通して自分を探している男は、隠密に調べてほしいと頼んでいたようだ。お陰でこちらは、約四カ月もの間、自身を探している人間がいることには気付けなかった。人探しをするならば、アインクラッドにて刊行している新聞の人探しコーナーに応募する方法もあった筈だ。なのに、アルゴ一人による隠密捜査という非効率的な手段を講じている。自分の特徴をあまり知らなかったことが原因だとしても、何故捜索していることを隠そうとするのか。

 

(恐らく、俺がどんな存在かを知っている……いや、理解している…!)

 

 考え抜いて至った結論が、それだった。デスゲーム開始以降、自分はこの世界を自分が正しいと認識している在り様へと導こうとしている。だがそれは、世の倫理から外れた思考故に、簡単に受け入れられる道理ではない。故に自分は常に水面下で動き、その目的が露見しないよう細心の注意を払ってきた。にも関わらず、第二層で行った強化詐欺斡旋の事件で、その男は自分の目論見を看破したのだ。そして、その思考の危険性、自分の実力等、全てを理解しているからこそ、隠密に捜索を試みていたのだ。他のプレイヤーが関与しないように。

 

(一度も顔を合わせたこともなく、そこまで見抜くとは…恐らくそいつは、相当な切れ者…そして、“俺と同類”。)

 

だからこそ、自分の動向を察知できたのだと、結論付ける。そこまで考えると、男の口元が歪んだ。それはもう、これ以上面白いことなどないと言わんばかりに、フードの奥の薄暗い闇の中に、笑みが貼り付けられている。

 

(Wow…まさか、攻略組にそんな奴がいたとはな…)

 

 予想以上に、この世界は楽しくなりそうだ。闇に包まれた森の仲を直進する男は、そう感じた。そして、誰にでもなく、一人呟いた。

 

「It’s show time.」

 

 

 

 

 

 二十一層でモンスターの襲撃から生還した五人のプレイヤー、中層ギルド、月夜の黒猫団に対する聴取は、三人の攻略組プレイヤー立ち合いのもと、イタチとアルゴが主導で行っていた。

 

「それで、中層フロアで主に活動していた君達が、何故あんな最前線近くのフィールドにいたのか、話してもらえるか?」

 

「あ、ああ……二、三日前のことだけど…僕達、月夜の黒猫団は、ホームを買うためにクエストをこなす日々を送っていたんだ。けど、報償の良いクエストは、どれも要求レベルや条件が厳しくて……装備の点検や日々や生活費で出費も嵩んで、なかなか資金が集まらなくて…」

 

「まあ、プレイヤーホームはかなり値が張るからナ。ホームを購入しているプレイヤーは、攻略組でもごく少数、それも大型ギルドだけなのが現状ダ。」

 

 アインクラッドのプレイヤー達の事情を大凡把握しているアルゴは苦笑しながら付け足した。最前線で活動するプレイヤー達にとって、拠点の確保はほぼ共通の優先事項と言える。単純な理由としては、寝食をする場所や予備のアイテムを保管するスペースの確保、仲間内で集まるための場所として活用することなどが挙げられる。また、どれだけ大型の拠点を確保できるかで、ギルドの格が決まるということもある。月夜の黒猫団の場合は、単純にギルメン全員で利用するためのホームが欲しいというだけの話だが。

 ともあれ、今回の騒動の大元は、ギルドホーム購入のための資金調達にあるらしい。月夜の黒猫団のリーダー、ケイタの話は続く。

 

「それで、もっと効率よく稼ぐために、最前線に近い階層で狩りをしようってことになったんだ。でも、俺を含めて皆、安全マージンが足りなくて…レストランで話し合って、やっぱり無理だって結論に至ったんだけど…そこに、すぐ横の席で食事をしていたプレイヤーが、「上手い儲け話があるぜ」って、言ってきたんだ。」

 

 話が核心に迫った、とイタチは感じた。顔を若干上げると、目線の先にケイタをしっかり捉え、真剣な声色で問いかける。

 

「そいつに何を言われたのか、あとそいつの容姿について、聞かせてくれるか?」

 

「ああ。それで、資金調達に行き詰っていた俺達は、そいつの儲け話について聞いてみることにしたんだ。それで、そいつが言うには、二十一層のフィールドに、大量のコルを落とすモンスターが出現するスポットがあるって聞かされて…」

 

「乗せられて、行ったのか。」

 

「ああ~、気持ちは分からねえでもないな。」

 

「詐欺だとか、疑わなかったのカ?オイラは攻略組はじめ、多くのプレイヤーの間で情報のやり取りをして、攻略済みの階層についての情報も集めてるが、そんな話は全く知らないゾ。」

 

 呆れを含んだイタチとアルゴの言葉に、月夜の黒猫団の面々は居た堪れない気持ちになる。ギルドのリーダーであるクラインは同情しているものの、今になって思い返せば、上手すぎる話しだった。詐欺をはじめとして、あらゆる犯罪行為に手を染めるプレイヤーが実際に現れていることは、デスゲーム開始以来幾度となく報告されている。用心が足りなかったと言われても、文句は言えない。

 

「勿論、最初は皆戸惑ったんだ。何せ、二十一層は最前線付近で、しかも毒系モンスターばかり現れる階層だってことは俺達も知っていた…けど、そいつの話では、大金を落とすモンスターは、一月に一度か二度程度だってことだし、他のプレイヤーに見つかるのも時間の問題だから、急いだ方が良いって言われたんだ……それに、」

 

「それに?」

 

「狩りには、その人も一緒に行ってくれるって言ったんだ。流石に、同行する以上は危険を共有するわけだし、大丈夫だろうって思って……でも、あの人は…アイツは、途中で僕達にここで待てって言って、先行したまま戻らなくて…それで気付いたら、モンスターの群れに囲まれていて……」

 

「明らかなMPKだナ。」

 

 MPK、正式名称「モンスター・プレイヤーキル」。それは、強力なモンスター、または群れを標的のプレイヤーのもとへ誘導することで、自分の手を汚さずにプレイヤーを殺す手段である。プレイヤーの死と共にその場にドロップするアイテムを手に入れるために行われる、従来のMMORPGにおいて忌み嫌われるマナー違反行為だが、このSAOにおいては今や窃盗目的の殺人に等しい行為である。SAOにおいて、プレイヤーを攻撃した犯罪者プレイヤーは、頭上のカーソルがグリーンからオレンジへと変色する。だが、MPKはその限りではなく、直接手を下すのがモンスターであるため、プレイヤーのカーソルは変色しないのだ。まさに、自分の手を汚さないプレイヤー殺害手段である。

 だが、イタチはそれ以上に、実行した人物のことが気になった。

 

(あの時、俺は索敵スキルを使用しながら森の中を探索していた…にも関わらず、そいつを捕捉できなかったということは、俺の索敵を欺く隠蔽スキルを持っているか、或いは反対側の森を抜けたことになる…)

 

 月夜の黒猫団が放置された結晶無効化エリアは、イタチが探索を行っていた場所とは反対側に向かって広がっている。つまり、そのプレイヤーは、月夜の黒猫団にMPKを仕掛けた後、結晶無効化エリアを突破して森を抜けたことになるのだ。

 

(二十一層の密林は、毒虫、毒草のモンスターが蔓延る危険地帯……攻略組すら忌避するその場所は、生半可な隠蔽スキルでは抜けられない。結晶を使えない状態で森を突破したと言うことは……そのプレイヤーは、攻略組に匹敵する…いや、それ以上の実力の持ち主ということになる…!)

 

 それは、非常に恐ろしい推測だった。攻略組を上回る実力者が、犯罪者プレイヤーにいる。今回はMPKだったが、その気になれば、フィールドで全員を血祭りに上げることだってできた筈なのだ。生還できたのは、僥倖としか言えない。

 イタチは内心で冷や汗を流しながらも、いよいよもって聞かねばならなくなった、元凶たるプレイヤーについての情報をケイタから聞こうとする。

 

「それで…そのプレイヤーは、どんな奴だったんだ?」

 

「ええと…黒エナメルの、雨合羽みたいなフーデッドマントをすっぽり被って、顔を隠した男で…そうだ、それから、喋り方も特徴的だった。」

 

「特徴的な、喋り方…?」

 

「どんな風にお前達に話しかけていたんだ?」

 

「何て言うか…綺麗な笑い方だった。それで、話を聞いている内に、僕達も笑ってて…最初は無理だろうって言ってた話の流れが、やれるんならやってみようって言う雰囲気に変わったんだ。」

 

 月夜の黒猫団を危険なフィールドに引きずり出した男の特徴、そして人の心を巧みに誘導する話術…否、洗脳術は、イタチの中で、探していた人物の特徴に完全に合致するものだった。MPKを仕掛けた点からしても、自身の予想が全く外れていなかったことを悟った。

 

「……それで、その男の名前は?」

 

「パーティーを組んでいたわけじゃないから、確認はできなかったけど…僕達には、“PoH(プー)”って、名乗っていた。」

 

 『PoH』…ユーモラスな名前だが、あるいはだからこそ、人を惹きつけ、変えてしまう、ある種のカリスマを持っているのだろう。第二層で強化詐欺を働いたプレイヤーからの証言でもそうだったが、PoHと呼ばれるプレイヤーは、人心を操る『洗脳』という名の、最凶のシステム外スキルをコンプリートしているのは間違いない。プレイヤーの倫理観、危機管理能力のレベルを落とし、犯罪や危険行為に走らせているケースが実際にある以上、放置することはできない。何より、人心を操るカリスマを持っているということは、『ギルド』のリーダーになれる素質を持っているに等しい。

 

(もし奴が集団…組織を作り上げたとすれば、それは間違いなく最悪な事態を招く…)

 

 イタチが考える、PoHをのさばらせることによって引き起こされる最悪のケース…それは、PoHを筆頭とする、SAO初の『殺人ギルド』の結成である。未だPoHの目立った活動はないが、だからこそ、水面下での組織作りをしていると考えられる。或いは、既に結成されている可能性もある。

 

「……その、PoHという男については、他に何か知っていることはないのか?」

 

「ああ…これ以上は、何も知らない。俺達も、狩りを提案された時と、当日の合流時にしか会ったことがないんだ。」

 

「そうか…」

 

予想通りの返答に、イタチは内心で溜息を吐く。プロの犯罪者プレイヤーが、そう簡単に自分の足取りが付く証拠を残すとは考え難い。こうなってしまっては、これ以上PoHを追う手掛かりは無い。イタチは頭を切り替え、今すべきことを考えることにした。

 

「イタチ、お前これから、どうすんだよ?」

 

「…PoHの行方が分からない以上、捜索は無理だ。アルゴに今後手掛かりを探して貰う事にする。」

 

「レッドプレイヤーであることが分かった以上、料金は増額するヨ。」

 

「構わない。それで、月夜の黒猫団だが…」

 

 イタチの視線を戻した先には、深刻な顔をするリーダーのケイタを筆頭として、残り四人も蒼白な顔をしていた。プレイヤーの悪意によるMPKに遭い、命からがら逃げてきたのだ。無理もない。だが、イタチはそんな彼らに対しても、飽く迄いつも通りの冷静な口調で話しかける。

 

「MPKに遭った以上、この後犯人が接触を試みる可能性が少なからずある。」

 

「そ、そんな…!」

 

 月夜の黒猫団の面々が再び驚きと共に怯える。たった一人の女性プレイヤー――サチに至っては、今にも泣きそうな顔をしている。

 

「そのため、今日はここにいる面子の内、俺を含む何人かが残って、護衛をする。異論は?」

 

 PoHによる再度の接触を警戒しての提案に、しかし攻略組十人は一切反論しなかった。

 

「俺は良いぜ。」

 

「オイラも手伝うぞ。」

 

「僕も大丈夫ですよ。」

 

「俺んとこも大丈夫だな。明日ぐらいまでだったら、護衛しても良いぜ。」

 

ベータ時代からのソロプレイヤー三人と、クライン率いる風林火山は、イタチの提案に従い、護衛に参加することとなった。攻略組の腕の立つプレイヤーが護衛してくれると聞いて、月夜の黒猫団五人の顔にも安堵が浮かぶ。

 

「アルゴ、お前にはこれから、今回の件を軍や他の攻略組ギルドの幹部に伝えておいてほしい。それと、新聞にも今回の一件を載せておいてくれ。」

 

「了解したヨ。新聞の方は、良いネタだし、今回は依頼料を取らないでおいてあげるヨ。」

 

 レッドプレイヤーの捕縛を試みるならば、第一にアインクラッドの治安維持に努めているアインクラッド解放軍への通報が必須である。また、相手が攻略組に匹敵する実力の持ち主である以上、それに対抗し得る戦力を揃える必要がある。他の一般プレイヤーへの通知に関しては、アルゴが発行している新聞を利用すれば良い。

 

(予想通りの人物像だったが、遂に行動に移してきた……恐らく、これは始まりに過ぎない…)

 

イタチの中でS級危険人物指定されているPoHが、中層プレイヤーのMPKのみで満足する筈が無い。今後は、イタチが考えている、あるいはそれ以上の凶行が、彼とその仲間達の手により繰り広げられ、同時にそれを討伐するためのプレイヤー同士の血で血を洗う戦いが勃発することすら予想される。

窓の外に広がる、未だ日の出には遠い夜の闇は、これから辿るプレイヤー運命を暗示しているかのようだった。

 

 

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