ソードアート・オンライン 仮想世界に降り立つ暁の忍 -改稿版-   作:鈴神

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第七十二話 重なる力

「メイジ隊、遠距離魔法用意!」

 

「近接部隊、突撃用意!ガーディアンを近付けるな!」

 

 世界樹内部のドーム。グランド・クエストのゴールたる天蓋の石扉を守護するガーディアン達の猛攻を前に、SAO生還者で構成されたレイドがインプの女性プレイヤー・メダカとケットシーの男性プレイヤー・シバトラの指揮のもと奮闘していた。SAOのフロアボス攻略で鍛えた指揮力は凄まじく、倍以上と形容するには生温い兵力による圧力にも屈することなく、向かってくる敵全てを叩き伏せている。

 

(凄い……これが、SAO生還者(サバイバー)……!)

 

 ALOプレイヤーとして古参のリーファですら息を呑む程の激戦。その光景が目の前に広がっている。百や千では収まらないガーディアンの群れを恐れず、リーダーの指示に忠実に従って応戦する。一人一人が強力なプレイヤーというだけではない。レイドメンバー同士互いの信頼を置いているからこそできる連携プレイ。死と隣り合わせの世界にあって、命懸けの戦いを生き抜いてきた者達だからこそできる戦いがそこにあった。

 リーファの知る限りでは、ALOで繰り広げられてきた戦いの中で規模もレベルも最高のものだった。ALOのプレイヤーでは辿り着けない、極限の境地と呼べるだろう。

 

「リーファ、俺達も行くぞ!」

 

「分かった!」

 

 だが、見ているだけというわけにもいかない。敵は人間サイズのガーディアンだけではないのだ。先程サスケが頂上付近に接近した事で湧出した巨大ガーディアンもいるのだ。数だけのガーディアンと一線を画すこのガーディアンは、攻撃の威力も桁違いで、手に持つ剣の一薙ぎでレイドを壊滅させかねない危険分子なのだ。現在五体がポップしているが、幸いそれ以上は増える様子は無い。ならば、レイド本隊が雪崩のように襲ってくるガーディアンの群れに対処している間、サスケやリーファのような高レベルプレイヤーがタゲを取ってレイド本隊から遠ざけねばならない。

 

「リーファ、俺がタゲを取る。お前は頭を狙え!」

 

「了解!」

 

 巨大ガーディアン目掛けてサスケとリーファ、二人揃って突撃する。対するガーディアンは、二人掛かりの連携飛行に翻弄され、狙いが定まらない。如何に強大なステータスを持っている敵であろうと、攻撃が命中しなければ脅威になり得ない。

 

「はぁあっっ!」

 

 サスケの放つ斬撃が、ガーディアンの兜に叩きつけられる。斬撃は頭部を両断するには至らなかったが、そこそこのダメージを与えてタゲを取るには十分である。

 

「せいぃぃい!」

 

 そして、ガーディアンの注意がサスケへと反れたところで、リーファによる死角からの一撃がガーディアンの背中を直撃する。リーファの不意打ちで仰け反るガーディアンの隙を、今度はサスケが狙う。

 

「おぉぉぉおおお!」

 

 ガーディアンの頭部、首の隙間を狙い、サスケの強烈な刺突が放たれる。急所を狙った一撃によって痙攣するガーディアンに対し、サスケは容赦なく突き刺した刃を左側へ振り抜き、再度勢いよく今度は右側へと剣を振るった。

 

「りゃぁぁああっ!」

 

 サスケの頭部攻撃に始まり、リーファの奇襲、そして装甲の薄い首に喰らわされた刺突・斬撃によって、三段あったHPバーが一気に削られる。そして遂には、その全てが完全に尽きると共に、巨大ガーディアンはポリゴン片を撒き散らして爆散した。

 

「次だ!」

 

「うん!」

 

 巨大ガーディアンの一体を潰したサスケとリーファだったが、それで終わりではない。巨大ガーディアンは数こそ少ないが、倒される度にポップされるのだ。コイル率いるスプリガンとメダカとシバトラが率いてきたSAO生還者の攻略レイド本隊が態勢を立て直すまでは、絶対に近付けることはできない。

 

「イタチ殿、加勢するでござる!」

 

「ケンシンか……頼む!」

 

 サスケのもとへ援護に駆けつけたのは、かつてアインクラッドで起きた解放軍の内部抗争時に共闘した元ベータテスター、ケンシンだった。攻略組ではなかったものの、ベータテスターであることを加味しても余りある実力を持ったプレイヤーであったことから、サスケはエギルを通して救援要請を出していたのだった。

 ケンシンが加勢に加わったお陰で、僅かな間だが戦線を離れてレイドとガーディアンとの戦況を見ることができるようになった。

 

(メダカとシバトラさんが駆けつけてくれたものの……やはり戦況は動かんか……)

 

 千単位でポップするガーディアンを相手にしながらの部隊の立て直しに加え、巨大なボス級ガーディアンの相手までしなければならないのだ。雪崩のように押し寄せるそれらを相手に踏みとどまるので精一杯なのだ。いくら歴戦の勇者達が剣を振るっているといえども、反撃を仕掛ける余裕などある筈が無い。

さらに言えば、SAO生還者達は武器を手に持っての接近戦が主体なのだ。SAOのスキルをそのまま引き継いでいるとはいえ、魔法スキルばかりは付け焼刃にも劣る習得度しか得られていない。ソードスキルがあれば、強力な攻撃を放つことで遠隔攻撃や火力の不足を補えただろうが、ALOにはソードスキルは実装化されていない。

 

(このまま硬直状態が続けば、いずれこちらがジリ貧でやられる……何としても早急に突破せねばならん、か……)

 

 援軍が到着したお陰で、上空へ近づくのは容易にはなった。だが、ガーディアンの軍勢が分厚い肉壁を形成しており、突き崩すにはそれ相応な勢いをもって突撃する必要がある。それも、闇雲に単身で突っ切るだけでは頂上には到達し得ない。包囲の穴を空けるには、ある程度までガーディアンを減らす必要がある。それには、サスケやここにいるレイドだの力だけでは未だに足りない。

 スプリガンの攻略レイドに加え、SAO生還者の攻略組で構成された大規模レイドが戦っているにも関わらずクリアできないこの尋常ではない難易度。システム管理者にして黒幕である須郷伸之の悪意が働いていることがひしひしと感じられた。

 

「お兄ちゃん……無理だよ、こんなの……!」

 

「弱音を吐くな……!」

 

 圧倒的な兵力差に根を上げかけているリーファへ喝を入れるサスケだが、現状を打開する策は全く無いのだ。既にこの攻略には、これ以上出せない程の戦力が投入されている。最早手の尽くし用が無いのだ。そしてこの攻略が失敗したならば、スプリガン領主であるコイルの信頼は失墜し、今回以上の戦力を持つレイドを作ることはできないだろう。加えて、須郷の魔の手が明日奈へ及ぶことは避けられない。

 

(ここまで……なのか!?)

 

最前線に立って頂上を目指すサスケですら八方塞なのだ。既にリーファだけでなく、レイドの中にも挫けそうな心境のプレイヤーが多数いることは間違いない。このままいけば、プレイヤー全員は体力的にも精神的にも限界を迎えて、レイドは壊滅するのも時間の問題である。万事休す……サスケを含め、誰もがそう思った、その時だった――――

 

「シルフ隊、魔法攻撃開始!」

 

 グランド・クエストの戦場たるこのドームへと通じる扉の外から響き渡る、声高らかな攻撃命令。これを発しているのは部隊を指揮するリーダーに他ならない。

 

「!」

 

「これは!?」

 

そして次の瞬間、上空に展開するガーディアンの群れへと強烈な魔法が炸裂する。発動したのは風属性の真空刃であり、命中した途端にガーディアンを細切れにしていく。これ程強力な風属性魔法を発動できるメイジを擁するレイド、それを所有する種族はALOにおいてただ一つ。

 

「サクヤ!?」

 

「遅くなったな、リーファ!」

 

 下方の扉から駆けつけたパーティーを率いていたのは、サスケやリーファ、ランの予想と違わない人物だった。サスケはつい最近見知った、そしてリーファとランはALO開始の頃から付き合いのある、着流しの和服に身を包んだシルフ領主のサクヤだった。その後ろには、エンシェントウエポン級の装備に身を固めた、総勢五十人は下らないシルフのレイドが伴われている。

 

「サクヤ……どうしてここに?」

 

「助けが欲しいと言ったのはそちらだろう?それに、駆けつけたのは私だけではないぞ」

 

 サクヤがそう得意気に告げた途端、サスケやリーファのいる場所を通過して上空へと飛び立つ影が複数現れた。プレイヤーにしては大き過ぎるそれは、巨体相応な雄叫びと共にガーディアンの群れへ攻撃を仕掛ける。

 

「ドラグーン隊、ブレス攻撃開始!」

 

 中央を飛ぶ影の背中から飛ぶ、攻撃開始の指示。途端、横一列に並んだ巨獣の口から、これもまた巨大な火球が放たれる。火球の威力は凄まじく、着弾点を飛んでいたガーディアンを十数体単位で焼き潰して消していく。

 

「飛竜……!」

 

「ケットシーの秘蔵戦力か!」

 

 猫妖精族・ケットシーの特技はモンスターのテイムである。そして、ケットシーには最終兵器としてスクリーンショットにすら流出しない秘蔵戦力が存在する。それこそが、このグランド・クエストに駆けつけた竜騎士(ドラグーン)隊なのだ。SAOをはじめとしたRPGにおいて、一般的に竜とそれに連なる眷族は強力なモンスターとして位置づけられている。このALOにおいてもその法則は変わらない。加えて、ケットシーがテイムし騎乗している竜は鎧で武装しており、そのステータスは野生のモンスターの比ではないことは明らかである。

 

「いやはや、どうにか間に合ったようで良かったヨ~。スプリガンの彼、サスケ君の紹介状のお陰で、レプラコーンの鍛冶師からこんなに高級な装備を格安で、しかも特急で用意してもらえたんだからネ~」

 

「アリシャさん!」

 

 竜のブレスでガーディアンを掃討したところで、騎乗したままリーファのもとへ来たのは、水着に似た戦闘スーツを身に纏ったケットシー領主のアリシャ・ルーだった。

 シルフ=ケットシーの二種族連合が、サスケやリーファの加勢のためにこのグランド・クエストに駆けつけたのだ。

 

「しかし、そちらも随分と強力な面子を揃えたものだな。スプリガン=レプラコーン同盟で、攻略レイドはスプリガンが中心となることは聞いていたが……あの混成パーティーもかなりの実力だぞ」

 

「でも、まだ押されているみたいだネ。ひょっとして私達、良いところに来タ?」

 

 千単位でポップするガーディアンと巨大なボス級ガーディアンの群れを相手に奮闘するも、反撃に移れずに膠着状態にあるスプリガンとSAO生還者のレイドを見て、アリシャがそんなことを漏らした。その見解は見事に的中しており、彼女等が率いてきたレイドは現在の戦況を覆すための戦力として足るものだった。

 

「お話し中のところすみません」

 

 グランド・クエスト最中に関わらず、普段の如く呑気な会話をしていたシルフとケットシーの領主の元へ、新たな人物が現れる。猫背のスプリガン領主、エラルド・コイルである。

 

「はじめまして。私はエラルド・コイルと申します」

 

「ほう、お前が噂に聞くスプリガンの領主か」

 

 スプリガン領主の名乗った人物に対し、興味深そうな視線を送るサクヤ。アリシャも同様である。弱小種族として知られていたスプリガンの財政を立て直して領主に君臨し、レプラコーンとの同盟を結んでグランド・クエストへの挑戦を実現した、『名君』と呼ぶに相応しいプレイヤーが、どんな人物だったのか、二人とも気になっていたのだ。だが、当然今はそんなことを話している暇は無い。

 

「サクヤさん、アリシャさん。領主同士で積もる話もありますが、それは後にしましょう。今はグランド・クエストの攻略が優先です」

 

「そうだったな……それで、現在の総指揮はお前が取っているのか?」

 

「はい。最前線で混成種族のパーティーを指揮しているメダカさんとシバトラさんがガーディアンの相手をしている間に、後方で私のスプリガンレイドの立て直しを行っていました。既に態勢は整えたのですが、未だに戦力が足りず立ち往生していたところです。協力していただけますか?」

 

「勿論だヨ!ケットシーもシルフも、今回の攻略でかなりお金使っちゃったからネ~……グランド・クエストをクリアしないと、大損なんだヨ!」

 

「全くだな。そういうわけだから、色々と簡略化するが……ここにシルフ=ケットシー=スプリガン=レプラコーンの四種族同盟を結成したい。グランド・クエストクリア後の報酬や今後の貿易では、それなりの待遇を要求させてもらうぞ」

 

「念を押されるまでもありません。勿論、あなた方二種族には相応の報酬を用意いたします」

 

「やったネ!それじゃあ、指揮はキミに任せるから、早く指示を送ってくれるカナ?」

 

 領主三名の意見がまとまったところで、コイルをリーダーとしてシルフ=ケットシー同盟を加えてレイドを再編し、共闘することが決定した。コイルをリーダーとして、領主二人は指示を仰ぐ。

 

「それでは不肖、エラルド・コイルが皆様の指揮を揮わせていただきます」

 

「承知した!」

 

「分かったヨ!」

 

 指揮権の譲渡を承ったコイルの言葉に、サクヤとアリシャは自信満々に頷く。コイルとは初対面だったが、弱小種族と認知されていたスプリガンをグランド・クエスト攻略に乗り出せる程に強化し、実戦においては指揮官としての手腕を発揮してレイドを纏め上げ、千単位のガーディアンと応戦してきた目の前の成果から、信用に足る人物であると認めていたのだった。

 

「サクヤさん率いるシルフ隊は私のスプリガンレイドと合流し、最前線にいるメダカさんとシバトラさんの二人が率いるレイドと交代してください。ケットシーの竜騎士隊は、ブレス攻撃による援護の用意をお願いします。サスケ君とリーファさんは、私達と共に前線へお願いします」

 

「分かった!」

 

「了解した」

 

 コイルの指示のもと、連携してガーディアンに応戦していく、三種族の攻略レイドとSAO生還者達。始めて轡を並べて戦っているとは思えない程に絶妙な連携で、上空から雪崩れ込むガーディアンを徐々にだが押し返していった。

 

「メダカさんとシバトラさんは、巨大ガーディアンの相手をお願いします。少数精鋭で、一体倒すごとに交代して仕留めにかかってください。世界樹頂上を目指すレイドには近付けないようにお願いします」

 

 スプリガン・シルフ・ケットシーの三種族がドーム中央に展開し、最前線に立つ。シルフがメインで攻撃、スプリガンがST系・回復魔法やアイテムによる後方支援を行い、ケットシーの竜騎士隊がタイミングを見計らって火球を叩き込むことで、ガーディアンの群れを中央から崩していく。群れの奥から現れてレイドに大規模攻撃を仕掛ける巨大ガーディアンについては、メダカとシバトラを筆頭としたSAO生還者の強豪プレイヤー達が対処する。適材を適所に配置した、完璧な指揮だった。

 

(行ける……これなら!)

 

 先程までの硬直状態が嘘のように、破竹の勢いでガーディアンを蹴散らして上昇を開始するレイドに、サスケやリーファをはじめとしたプレイヤー達はグランド・クエスト攻略の実現を確信する。ALO内で本来競合する筈の種族四つが力を結集している上、SAO生還者というゲーム開始から上級プレイヤーに匹敵するステータスを備えたプレイヤー達が加勢しているのだ。

種族の二つ三つが同盟したところでクリアすることは敵わないと高をくくっているであろうシステム管理者の悪意を打ち砕く過剰戦力が、今ここに結集している。ALOメイジ隊の魔法攻撃が、武器持ちのプレイヤー達が繰り出す武器の刃が、竜の火炎ブレスが、ガーディアンの群れがその身で作り上げた分厚い肉壁を抉り削る。そして、雪崩寄せるガーディアンの群れを中央から突き崩して行くことしばらく。遂にガーディアンの群れの隙間から、天街の光が見え始める。

 

「行くぞ、皆!」

 

「分かった!」

 

 突破口さえ見えればこっちのもの。パーティー全員で突撃を仕掛け、道を作るのみである。サスケを先頭に、リーファ、ランが続き、さらに後ろをレコンとシルフの近接部隊が追随する。

 

「油断するなよ」

 

「お兄ちゃんもね!」

 

 互いに背中を任せ合い、道を塞ぐガーディアンを連携して斬り捨てていく。いずれもほぼ一撃で仕留め、それが無理な場合は一方が武器をパリィしてもう一方が止めを刺す。二人で死角を補い合う完璧なチームワークをもって、傷一つ負うことなく世界樹の頂上へと近付いて行く。

 

 

 

 一方、二人揃ってガーディアン相手に無双を繰り広げていたサスケとリーファに続く形で飛んでいたレコンとランは、その姿に圧倒されていた。

 

「二人とも凄い……あんなに息がぴったりなんて……」

 

「ふふ、当り前よ。あの二人は兄妹なんですもの。リーファちゃんがサスケ君のこと“お兄ちゃん”って呼んだの聞こえたでしょう?」

 

「そ、そうなんですか!?」

 

「まあ、そのあたりは後で聞くといいわ。それより今は、二人の援護をするわよ。良いわね、レコン君」

 

「は、はい!ランさん!」

 

 常々疑問に思っていたサスケの正体が、リーファこと直葉のリアルの兄であるという事実をランから聞かされ、驚愕するレコン。だが、今はグランド・クエストの攻略真っ只中なのだ。後方支援を行うレコン達も余計なことに思考を割いている暇は無い。矢による遠隔攻撃を仕掛けるガーディアンを潰していかねばならない。

 

「ランさん、魔法攻撃で弓兵ガーディアンを落とすので、下から二人に近づくガーディアンを叩き潰してください!」

 

「任せて!」

 

 レコンの要請に従い、サスケとリーファに下方から接近してくるガーディアンを叩き落としていくラン。レコンは遠隔型の風魔法を弓兵達へ放ち、機先を制して遠隔攻撃を阻止していく。

 

(さっきは足を引っ張っちゃったけど、今度は絶対にそうはさせない!)

 

 SAO生還者のレイドが到着する以前に犯した失態を挽回するべく、人一倍気合を入れて援護に励むレコン。相変わらず随意飛行ができず、補助コントローラーに頼りきりのぎこちない飛行だが、発動した魔法はいずれも狙い違わず弓兵ガーディアンに命中し、これを撃ち落としている。

 

(リーファちゃんには、絶対に手出しさせない!)

 

レコン自身、グランド・クエストの攻略には、攻略の主体がスプリガンだったことなどから当初あまり乗り気ではなかった。だが、好意を寄せているリーファが本気になって挑んでいる姿を見て、力を尽くそうと思うようになっていた。

そして、協力する以上は彼女に格好の悪い姿は見せられない。今はまだ、サスケのようにリーファと並び立って飛ぶことは敵わず、こうして後ろから追いかけることしかできないが、だからこそ死力を尽くさねばならない。未だ自分の手の届かない場所を飛ぶ少女に少しでも追いつくためには、持ち得る全てを賭けて挑む以外に手段は無いとレコンは考える。

 

「リーファちゃんに、近づくなぁぁあああ!!」

 

 レコンの放つ風の矢が、次々弓兵ガーディアンへ命中していく。魔法を乱発し過ぎる故に、ガーディアンのタゲがレコンに多数移るが、本人は自分に襲い来るガーディアンなどお構いなしに魔法を唱え続ける。

HPが減ろうが斬撃が降り掛かろうが関係ない。そんなものは恐れるに足らない。デスペナルティーなど知ったことではない。未だ到達し得ない場所を目指す少女の行く手を守ることこそが、今の自分の全てなのだから。

 

「レコン君、ナイス!これならきっと、サスケ君とリーファちゃんも頂上へ行けるわ!」

 

 既にサスケとリーファは、ガーディアンの密集壁を八割近く食い破っている。既にガーディアン達が並び立つ隙間からは天蓋の光が先程よりはっきり覗いて見える。もう十体程度倒せば、頂上へと抜けられる筈。

 

「リーファちゃん、頑張って!」

 

「サスケ君、行って!」

 

 レコンとランからの声援を受けると同時に、より一層勢いの増した突撃を仕掛けて群れを一点突破しにかかるサスケとリーファ。そして、目の前に立ち塞がるガーディアン三体を横一文字に一気に切り裂いた時、ガーディアンで覆われて見えなかったグランド・クエストのゴールたる天蓋の石扉が見えた。

 

(行ける……遂にやったんだ!)

 

 数千のガーディアンの群れを突破し、難攻不落と呼ばれたグランド・クエストの扉に到達した。未だALOの誰もが到達できなかった境地へ、自分の友達が至ったのだ。常日頃から好意を寄せていたリーファが、一際輝いて見えると同時に彼女の友人でいることに誇らしさを感じることができた。

 だが、最後のガーディアンを潰し、いざ頂上に通じる扉へサスケとリーファが飛び立とうとしたその時……異変は起きた。サスケとリーファの前方、開けた天蓋付近の空間に陽炎のような空間の歪みが“三つ”発生したのだ。

 

「まさか……ここまで来て!?」

 

 それは、ALOでリーファと並んで古参プレイヤーに数えられるレコンも幾度となく見た現象だった。主にボスモンスターの出現する場所において頻繁に起こる現象。陽炎の如き歪みから影が生まれ、そこから新たな異形が姿を現す――――モンスターのポップである。

 レコンの予想と違わず、サスケの前方に発生した歪み三つから、同数のボス級の巨大ガーディアンが姿を現した。

 

(拙い!このままじゃ……)

 

 巨大ガーディアンのポップ場所が天蓋付近であることは既にサスケから聞いていたが、五体以上ポップする事は無く、それが一度にグランド・クエストに出現する最大数であると考えていた。だが、実際には頂上への接近に応じて追加でポップされる仕様だったのだ。ガーディアン達は出現と同時に剣を構え、振り下ろそうとしている。サスケとリーファの翅は既に限界飛行時間が近づいている。巨剣の振り下ろし三連撃全てを回避することは不可能だろう。

 

(こうなったら……)

 

 ここまで来て、全てを無にしてなるものか。何より、既にリーファにはこれがゲームという概念は無い。事情は知らないが、とにかく必死なのだ。このまま彼女に絶望を与えてはいけない。そう思ったレコンは、二人のもとへ最後の力を振り絞って飛んでいく。この剣はリーファに捧げたと誓ったように、この身もまた愛する人のために捧げるのだ。出し惜しみはしない。そう心の中で誓い、レコンは捨て身の覚悟で飛んで行くのだった。

 

 

 

 頂上到達を目前に立ち塞がる巨大ガーディアン三体の出現に、リーファの顔は絶望に染まっていた。自分より前の方に立つサスケも、表情こそ見えないが内心では舌打ちして冷や汗をかいていることだろう。攻撃態勢に入っている三対のガーディアンは、しっかりこちらを狙っている。回避しようにも、翅が言う事を聞かない。

 

(せめて、お兄ちゃんだけでも……!)

 

 振り下ろされる剣の二撃目までならばギリギリで回避できる筈。ならば三番目に繰り出される刃は自分がサスケを横へ突き飛ばして回避させれば良い。自分は直撃を貰ってHP全損は免れないだろうが、リメインライトはランやレコンが回収してくれる。巨大ガーディアン三対は残るが、サスケならば頂上を抜けられる。そう考え、身を呈して兄の行く道を守る決意を固めたリーファだったが、視界の端に高速で通過する影を捉えた。新手かと考えたが、そうではない。緑色のおかっぱ頭のパーティーメンバー、レコンである。

 

「レコン!一体何するつもりなのっ!?」

 

「呪文を唱えているようだな……しかしあれは……」

 

 高速で通り過ぎたレコンの周囲に展開していたのは、魔法を唱える際に出るスペルのライトエフェクト。そして呪文を僅かな間に聞いたサスケは、その魔法が何なのかを知っていた。

 

「闇属性の自爆魔法だな。しかも、威力が強大な代わりに多大なデスペナを伴うタイプのものだ」

 

「それじゃあ、レコンは……」

 

 突如後方から飛び出してきた仲間の真意を悟り、悲痛な瞳でその後ろ姿を見つめるリーファ。止めようにも既に呪文は完成していた。レコンを取り巻く複雑な光の紋様が一瞬にして凝縮。そして次の瞬間には、レコンを中心に強烈な光がドーム全体に迸る。

 

「きゃっ!」

 

「ぐっ……!」

 

先行と共に降りかかる、サスケとリーファも思わずたじろぐ程の爆音と衝撃波。頂上の石扉前、ガーディアンが密集している中心点から降りかかる重圧に、二人だけでなくガーディアンの群れすらも圧迫される。

 

(これ程までなんて……レコンは!?)

 

 激しい閃光が治まった先に見えたのは、先程と変わらぬ光を発する天蓋と固く閉ざされた石扉。爆心地近くにいた巨大ガーディアン三対は上半身が消滅し、残る下半身も白色のエンドフレイムと共に焼け落ちて行く。そして、闇魔法による自爆が起こった場所には、緑色の炎が揺らめいていた。

 

「レコン……」

 

 シルフのカラーである緑色の炎の正体は、言うまでもなくレコンのものだった。巨大なボス級ガーディアンを、密集していたとはいえ三対全て屠る程の強大な闇魔法である。HP全損はもとより、デスペナルティーとして相当量のスキル熟練度を犠牲としたことは間違いない。レコンがこのALOで費やした努力と時間、その全てをもって放った一撃だったのだ。

 仲間の壮絶な最後に呆然とするリーファ。だが、サスケだけは立ち止まることをしなかった。天蓋の石扉目掛けて飛び立ち、宙に浮かぶ緑色のリメインライトをその手に取る。

 

「リーファ、レコンを頼む!」

 

「!」

 

 手に取ったレコンのリメインライトを素早くリーファのもとへ投擲する。サスケの急な行動に驚いたリーファだったが、投擲姿勢に入ると同時に反応することに成功する。サスケの投剣スキルによる補正も相まって凄まじい速度で飛来してきたそれをキャッチしたリーファは、サスケの方を見て黙ったまま頷く。サスケはリーファが首を縦に振ったのを確認すると、そのまま頂上の石扉目がけて飛び立った。リーファもまた、サスケに背を向けて急降下していく。

リメインライトの蘇生猶予時間は一分である。間に合わせるには、レイド達をより先に世界樹のドームから脱出せねばならない。

 

「リーファ!」

 

「サクヤ、コイル!サスケ君は行けたわ!撤退指揮をお願い!」

 

「承知した!全員反転、後退!」

 

「メイジ隊は防御魔法による支援をお願いします。近接部隊は退路を確保することに専念してください。メダカさんとシバトラさんは、引き続き巨大ガーディアンの陽動をお願いします」

 

「心得た!」

 

「了解!」

 

「アリシャさん、竜騎士隊にも追撃を仕掛けてくるガーディアンへの攻撃指示を出してください」

 

 リーファからサスケが頂上に到達したことを聞くや、指揮を預かるコイルやサクヤ、アリシャが素早くレイド全体へ指示を行き渡らせる。攻勢に出ていた時と同様、一糸乱れぬ連携で後退していくその様子を視界の端に捉えていたリーファは、領主三人やSAO生還者のリーダー格等の見事なまでの指揮力に下を巻いていた。この分ならば、ドーム脱出までに犠牲が出る心配もあるまい。

 

(お兄ちゃん、頑張って……!)

 

 自分達にやれることは全てやった。あとは兄がこのグランド・クエストの果てに待ち受ける世界の真実を暴くことを祈るのみ。兄の話によれば、世界中の頂上にいるとされる妖精王・オベイロンの正体はシステム管理者とのこと。一プレイヤーであるサスケがどれだけ規格外の実力の持ち主でも、敵う筈も無い相手である。だがそれでも、サスケならば目の前に現れる障害全てを撥ね退ける筈。

 

(その時は……きっと帰って来てくれるよね、お兄ちゃん!)

 

 SAO事件を真の意味で解決することができれば、仮想世界に置き去りのままの心が帰ってくる。そうすれば、もっと心を通じ合わせることができる。そして、その瞬間はきっとやってくる。そう確信したリーファは、兄の勝利を願いつつも一足先に戦場を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 レコンの捨て身の特攻によって開かれた血路を抜けたサスケは、レコンのリメインライトをリーファへ渡した後、そのままの勢いを殺さず飛び続け、遂に世界樹頂上へ通じる石扉へと剣を突き立てるに至っていた。当然ながら、サスケが石扉に触れても開きはしない。

 

「パパ、この扉はシステム管理者権限によって閉ざされています」

 

「やはりか」

 

 ユイから知らされた事実は、予想はしていたことだったが、悪辣の一言に尽きる所業だった。須郷の暗躍を知っていたサスケだから良かったものの、苦労して辿り着いた他のプレイヤーが同じ目に遭って閉め出しを食らったのならば、気の毒程度の話では済まない。

 ありもしない空中都市の空想に踊らされ、時間を無にしているプレイヤー達が真実を知ったならば、どれだけ嘆く事だろうか。それを天から見下し、嘲笑っているだろうオベイロンこと須郷の姿は、想像しただけでも虫唾が走る。顔を顰めつつも、当初の予定通りに扉を開けるべくユイに管理者用のアクセスコードを手渡す。

 

「ユイ、こいつで扉を開けてくれ」

 

「はい、パパ」

 

 ユイがカードに触れると同時に、その箇所から放射状に青い閃光のラインが走る。そして次の瞬間には、ゲートそのものが発光を始めた。そして、先程まで固く閉ざされていた石扉が四方へ開いていく。

 

「コードを転写します!パパ、掴まって!」

 

 その言葉にサスケは頷くと、ユイが伸ばした小さな右手に触れる。それと同時にサスケとユイの身体は透過し、光溢れるゲートの向こうへと粒子となって吸い込まれていった。

 

(明日奈さん、今行きます……!)

 

 未だこの世界に囚われている明日奈を含めたSAO未帰還者全員を解放すると共に、須郷の野望を打ち砕くことを改めて誓いサスケは黒幕が待ち構える場所へと乗り込んで行くのだった。

 

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