ソードアート・オンライン 仮想世界に降り立つ暁の忍 -改稿版- 作:鈴神
2025年12月1日
都内某所の喫茶店。屋外に設えられた席の一つに、和人は座っていた。若干寛いだ様子でコーヒーを飲む和人には同行する人間はおらず、彼は一人静かに佇んでいた。SAO事件当時はビーターとして他者を寄せ付けない雰囲気を纏っていた和人だが、事件が解決した現在では、明日奈をはじめ複数の友人と行動することが多くなっている。彼を一人にしようとしない人間に囲まれているとも言えるが。
ともあれ、和人がこうして一人で、しかも通学路から外れた場所にある喫茶店で一人コーヒーを飲むことは普段あまり無かった。彼がこの場所にいるのは、自発的な意思ではなく……ある人物に呼び出されたことが理由であった。そして今、和人は待ち合わせの相手より先に到着し、予め指定された席に座ってコーヒーを飲んで一服していたのだった。
「和人!」
コーヒーカップを片手に一人の時間を堪能していた和人だが、自身の名前を呼ぶ声を聞き、声が聞こえた方へと視線を向ける。そこには、和人と同年代の少年が一人いた。その顔は、SAO事件当時から見知ったものだった。
「新一か」
「お前がこんなところにいるなんて、珍しいな。もしかして……お前も呼ばれたのか」
和人のもとまで歩み寄り、後半の内容を小声で尋ねる新一に対し、和人は静かに頷いた。
「やっぱそうだったか。となれば……お前のところにも、あれが届いたのか?」
「その様子では、お前もそうらしいな」
二人の間でしか分からない、短く端的なやりとりで、この場所に呼ばれた仔細について確認し合う二人。SAO事件当時から、探偵や忍と呼ばれてきた二人が揃うことに関して、ここ最近の事情で思い当たることはただ一つだった。物騒な雲行きになってきた、と感じ始める二人。そこへ、新たな人物が現れた。
「お待たせ致しました、和人様、新一様」
「お気になさらず、ワタリさん」
背中から向けられた、見知った初老の男性の声に、和人は振り向きながら答えた。そこにいたのは、ノートパソコンを小脇に抱えた、白い髭に白い髪の毛の老紳士。かつて、和人がSAO未帰還者達を解放するために共闘した、協力者の一人である。
「やっぱり、竜崎はSAOの時同様に、姿を現さないか……」
「はい。彼の顔は、公の場所で顔を晒すわけにはいきませんので」
ワタリの返答は、和人と新一も予測していたものだった。ワタリが公式の場に立つことでサポートしている、竜崎と呼ばれる人物は、世界最高の名探偵――Lである。世界を股に掛け、数々の難事件を解決した事で知られる、実質上裏のトップと称されるべき人物。だが、その性別、年齢、国籍をはじめとし詳細は、何もかもが謎に包まれているのだ。事件を依頼する警察や政府関係者との交渉の場には、サポート役であるワタリが通信機能付きの電子機器を持って赴いている。その、極度なまでの外部に対する閉鎖性は、犯罪者に対して顔が割れることを防ぐために他ならない。
しかし、そんな竜崎ことLにも、過去に難事件を解決するために顔合わせをした人物はいる。和人もまた、その数少ない例外の一人だった。和人が、Lとしての竜崎と共闘した事件とは、今や知らぬ人など一人としていないとまで言われている、SAO事件に次いで発生した、未帰還者三百名を人体実験に供したとされる凶悪事件――ALO事件である。SAO生還者でもあった竜崎は、事件当時に顔合わせをした数少ない協力者プレイヤーから、事件解決に有力かつ信頼のおける人物として和人を選び出したのだ。そして、顔合わせをした上での共闘を申し込んだ経緯があった。和人はこれを承諾し、『サスケ』という名のもと、『イタチ』のステータスを引き継いで事件を解決に導いたのだ。
そして、竜崎からより一層厚い信頼を得た和人が、今こうして再び竜崎に呼び出されている。世界的名探偵たるLが、ALO事件を共に解決した好の和人を呼び出す理由となれば、一つしかない。
「また、VRゲーム関連で何か事件が発生したのでしょうか?」
「はい。まさにその通りです」
和人と新一の予感は、正しく的中していた。新一だけが呼ばれたならば、何らかの事件の捜査協力で間違いないのだろうが、この場には和人もいる。和人もまた、新一に劣らない切れ者で、卓越した推理力を持つが、それ以上に仮想世界における高い適性や、SAO事件の中で発揮した非常に高い戦闘能力が際立つ。その潜在能力を頼るとするならば、その舞台はVRゲーム……それも、戦闘メインのRPGに限られてくる。今度は一体、どこのゲームで何が起こったのか。現時点では不明だが、二人の助けが必要な事件であることを前提に考えると、SAOとALOに匹敵する難事件であることは間違いない。
「それでは、竜崎に繋ぎますので、少々お待ちください。」
「お願いします」
ともあれ、まずは竜崎ことL本人から話を聞くことにする。ワタリがノートパソコンを開き、スピーカーやカメラといった通信機器を起動するのを待つこと数分。ワタリが和人に対して向けたパソコンの画面には、お馴染みのクロイスターブロックフォントで記された『L』の文字が浮かんでいた。
『お久しぶりです、和人君。それに、新一君』
「久しぶりだな、竜崎。それで、早速だが、俺を呼び出した理由について聞かせてもらえるか?」
「はい、勿論です。それではまず、こちらをご覧ください。ワタリ」
「承知しました。」
パソコン越しの竜崎の声に応え、ワタリはバッグからタブレット端末を取り出して操作した後、それを和人に差しだす。和人はそれを受け取ると、画面に表示された情報に目を通していく。
画面に映し出されていたのは、ある二人の人物の個人情報だった。写真、名前、年齢、住所……だが、そんな基本的な個人情報よりも、気になる文字を見つけた。『死体発見日』と『死亡推定時刻』。“死亡”の二文字が示すのは、つまりこの二人の男性は既に他界しているということである。やや物騒な臭いがしてきたところで、さらに読み進めて行くと、死因は両方とも心不全らしい。そして、どうやら死亡推定時刻にこの男性はとあるVRMMOにダイブしていたらしい。ゲームタイトルは『ガンゲイル・オンライン』。
さらに……これは竜崎が追記した情報のようだ。ゲーム内でそれぞれの死亡時刻寸前に銃撃事件が発生したという。いずれの事件も『死銃』を名乗るプレイヤーが、中継中の番組『MMOストリーム』に出演中のアバターが映るモニター、またはアバター本人に向けて発砲したらしい。
「成程……ゲーム内の銃撃事件と現実世界の死亡事件。お前はこの二件の出来事の間に、何らかの関連性を疑っている。そういうことか、竜崎?」
『話が早くて助かります、新一君。ちなみに、この事件は既に仮想課も目をつけています。あなたはどうお考えですか?和人君』
事件性の有無について、今度は和人に尋ねる竜崎。SAO内ではレッドギルドの殺人トリックを次々暴き、遂にGMである茅場晶彦の正体まで看破した和人である。新一に匹敵する名探偵ばりの推理力に対し、竜崎だけでなく新一までもが期待し、参考にしようとしていた。果たして和人は、その問いに対して然程時間をかけず答えた。
「これが殺人事件だとすれば、殺害方法のロジックについてはいくつか思い浮かぶ。だが、これを実行した犯人は、相当な計画性を備えた知能犯だ。単純に、仮想世界と現実世界の区別がつかなくなった人格破綻者の仕業とは考えにくい」
ゲームの中で、プレイヤー同士の殺し、殺されるといった事態は日常茶飯事である。それを推奨しているゲームもある程であり、和人が日常的にプレイしている『アルヴヘイム・オンライン』もそこに含まれる。だがそれは、プレイヤーが何度でも復活するゲーム内でのこと。一度死亡すれば絶対に蘇ることは無い、現実世界での殺人に踏み切るには、精神的障壁がどうしても邪魔をする。
勿論、仮想世界と現実世界の境界が曖昧になった末に現実世界で暴走して事件を起こす人間はいる。VRゲーム内のトラブルが原因で現実世界における傷害・殺人が起こるケースが報道されることもざらである。だが、それらのケースはVRゲームの他にドラッグが絡むなど、正常な思考を失った末に発生しているのだ。
一方、竜崎や仮想課が注目している死銃による銃撃事件は――殺人事件と仮定すると――その銃を撃てば相手が死ぬということを理解した上で引き金を引いている。その上、和人が思い付いた殺害方法が実行されていると考えたならば、その精神状態は『現実世界』と『仮想世界』の区別がつくだけの思考を残していることは明らかである。
現実と仮想の境界が曖昧となり、常識が破綻してもなお、正常に機能する思考をもって殺害に及ぶ人間。このような人間の存在は、ある意味の矛盾を孕んでいる。そしてそれは、竜崎も理解していたようだった。
『私もそれは同意見です。仮想世界での殺人と、現実世界での殺人は全くの別物です。仮想世界と同じ感情で殺害に臨んだとしても、後悔や罪の意識で二件目以上の犯行には及べないのが、人間心理というものです。無差別殺人に及ぶ例外もありますが……それらはもれなく、常識が破綻した人物です。
しかし、『死銃』と名乗るプレイヤーが仮に殺人を犯していたとすれば……彼はただの猟奇殺人犯ではありません。正常な思考を保ちながらも人を殺すことに躊躇いが無く、その精神は人間の常識から著しく逸脱しています。銃撃時に、『偽りの勝利者』や『裁き』、『本当の力』などと口にしていることからして、仮想世界の死イコール現実世界の死という非常識を具現化し、それを正義と認識していることからも明らかです』
「その通りだ。これが殺人事件だとすれば、実行している人間の精神は常軌を逸していながらも知性を残している。この矛盾の裏には、実行犯を操る黒幕の存在を感じる。そして恐らくそいつも、『仮想世界』と『現実』……この両方の世界で、“同時に”人を殺すことに慣れている……」
「やっぱりそこに行き着くよな。なら、これをやった奴等の犯人像を特定するのも、そんなに難しくはないよな……」
殺人を躊躇わない程に倫理が崩壊した人間が、知性的な計画犯罪を行うことなど不可能である。故に一連の事件には、裏から糸を引いて実行犯を操る黒幕がいる。それが三人の出した結論だった。そして、実行犯を操る人物の正体についても、互いに察しがついていた。
「ほう……やはり君達も、そう思うのですか」
と、そこへ新たな人影が現れる。銀髪に眼鏡をかけた、知的な雰囲気を漂わせる男性。顔立ちも端整で背も高い、容姿端麗と呼ばれる部類に入る風貌である。エリートという単語がよく当て嵌まるこの人物に、和人は面識があった。
「明智警視……どうしてここへ?」
「おいおい、俺もいるぞ!」
新たに現れた二人眼の人物を目の当たりにし、内心で驚きの表情を浮かべる和人。彼の身に纏っている服は和人と同じく、SAO未帰還者のために作られた学校の制服だったからだ。
彼の名前は、金田一一。和人と同じく、SAO生還者の一人であり、同学校に通う間柄である。そして、有名な名探偵の孫でもある。警視庁刑事部捜査一課に所属する警視である、最初に現れた人物――明智健悟と協力し、今まで数々の難事件を解決した実績を残し、警察関係者の中で一目置かれている人物でもある。
ちなみに、和人が一と知り合ったのはSAO内であり、明智と面識を持ったのは、ALO事件が解決してからである。明智は和人が銃撃に依る昏睡状態から目覚めた頃に和人を尋ね、SAO事件未帰還者に名を連ねていた一の救助と警察関係者としての立場も兼ねて感謝を述べに来た時に言葉を交わした経緯があるのだった。
「一まで……竜崎、お前が呼んだのか?」
『はい。二人とも、今回の事件にはある関係を持っておりますので、予め私のことや死亡事件の諸事情について私から話し、同席をお願いしました』
突然現れた明智と一の姿を見た和人と新一は、ここに来た時に抱いていた不安が、的中していることを悟り始めた。片や警視庁のエリート、片や高校生探偵である。竜崎ほどではないにしろ、いくつもの難事件を解決に導いた経緯のある彼等をこの場に呼び出したことを考えるに、竜崎は先程話した事件が殺人事件であると確信していることは間違いない。しかも、裏で意図を引いている人物の正体を、既に掴んでいることは明らかだった。
「私がここに来たのは、竜崎君の要請でもありますが、どうしても君達に見せたいものがありましてね」
「見せたいもの?」
そう言って明智が取り出したのは、大き目の箱だった。和人と一、竜崎の視線が集中する中、明智はその蓋に手をかけ、そして開いた。
「私のもとに届いたのですよ」
「!」
箱の中身を見た途端、その場に居た三人に緊張が走った。中に入れられていたのは、関節を不自然に折り畳まれて収納されたマリオネットだった。ピエロの格好をしたそれは、薄気味悪い瞳を大きく見開いて、虚空を見つめている。その不気味な人形に、細部こそ違うが全員見覚えがあった
「差出人は不明でした。しかし、あなた達ならば既に見当はついているのではないですか?」
「『地獄の傀儡師』、だな」
和人の口からその名前が出た途端、一同の目が厳しくなる。そんな中、和人と同じく表面上はほとんど表情が変わった様子の無い竜崎が、口を開いた。
『地獄の傀儡師……プレイヤー名『スカーレット・ローゼス』。SAOのレッドギルド『笑う棺桶(ラフィン・コフィン)』の幹部にして、PoHと並び立つ殺人者ですね』
竜崎が口にした言葉を聞いた和人と一は揃って神妙な顔つきになる。竜崎の説明は、SAO事件当時に討伐隊をはじめ全プレイヤーで共有していた情報である。だが、実際に相対した経験のある和人と一には、それだけの言葉では説明できないものを感じていた。
『地獄の傀儡師』……その名前がアインクラッドに浸透したのは、後に圏内事件と称される事件が解決して間もない頃。全プレイヤーから恐怖と狂気の象徴として敵視されていた殺人(レッド)ギルド『笑う棺桶(ラフィン・コフィン)』のトップスリーの一人であるジョニー・ブラックが、同事件で拘束されたことがきっかけだった。その空席を埋めるために、PoHが勧誘した人物。それこそが、『地獄の傀儡師』の二つ名で恐れられたレッドプレイヤー、『スカーレット・ローゼス』だった。百発百中の毒ナイフ投げの名人として、ジョニー・ブラック以上に数々の名だたるプレイヤーを屠ってきたローゼスだが、その真骨頂は『殺人教唆』にこそあった。
『傀儡師』とは、人形使いを意味する言葉である。『地獄の傀儡師』を冠するローゼスは、恨みや憎しみを抱いた人間達に完全犯罪のシナリオを提供し、人形のように操り殺人に駆り立ててきた犯罪コーディネーターとしての一面が、直接的な殺人者としての印象よりも強かった。彼が開発した、芸術犯罪と称するシステムの裏を突いた数々のPKロジックは、PoHと並び立つ脅威として認識されていた。
笑う棺桶の討伐戦にも参戦していたが、既に組織を抜けていたPoHと揃って、SAOクリアまで拘束されるに至ることは無かった。ギルド壊滅後も、犯罪コーディネーターとしての活動を続けていた。その中で、和人ことイタチも毒牙にかかりかけたことがあったのだが、例の如く返り討ちにした経緯がある。
「奴が攻略組プレイヤーだった俺やハジメに挑戦状として送ってきたマリオネットによくに似ている。ほとんど同一のデザインの人形を明智警視に送りつけたとなれば、間違いないだろうな」
『やはり、そうでしたか。地獄の傀儡師……本名『高遠遙一』。SAOではスカーレット・ローゼスと名乗って殺人および殺人教唆を重ねていたようですが、彼の犯罪コーディネーターとしての活動はSAO事件が初めてではありません。マジックを得意とする犯罪者として、これまで似たような事件に黒幕として関与してきた記録があります』
「俺と明智さんも、奴とは現実世界で何度か対決したことがあったんだが……流石に、SAOにいたと知った時にはかなり驚いたぜ」
地獄の傀儡師、スカーレット・ローゼスこと高遠遙一の恐ろしさを、目を鋭くしながら語る一と明智。和人自身、ローゼスに出会った当初は、SAO内で初犯の殺人者とは到底思えなかった。殺人とその教唆に対する躊躇いは一切なく、自らが実行する手口も、他者へ提供する手口も非常に高度なものだった。明らかに手慣れ過ぎている、というのが和人の印象だった。それに、SAO事件で対決する中で薄々感じてはいたが、やはり一と奴には、現実世界以来の因縁があったらしい。だが、今となっては因縁があるのは一と明智の二人だけではない。レッドプレイヤーとの戦いにおいて、最前線に立ち続けてきた和人と新一にも、この犯罪コーディネーターとの間には、避けられない因縁が形成されている。
「それに、奴が送りつけてきたのは、そこにある人形だけじゃない。俺には、こんなものが送られてきたぞ」
そう言って和人がカバンの中から取り出したのは、一枚のA4用紙。白地の紙には、ある名前を列挙した表がプリントされていた。それを見た一は、驚きの声を上げる。
「和人もだったのか!」
「その様子だと、お前のところにも送られていたようだな、一」
「新一まで……やっぱり、こいつが届いていたのか?」
和人に続き、新一と一もまた、一枚の紙を取り出した。和人が取り出した紙を並べると、そこには同一の内容がプリントされていた。その内容に視線を移した明智は、眼鏡のずれを直しながら呟く。
「これは……VRゲームのタイトルを列挙した表、ですか?」
「その通りです。恐らくこれは、地獄の傀儡師こと高遠遙一が、これから起こす事件の場所として相応しい仮想世界をリスト化したものです。そして同時に、俺達への挑戦状でもある――」
そう言うと、和人はリストの中のある一行を指さす。そこ記されていたタイトルは、『ガンゲイル・オンライン』……死銃と呼ばれるプレイヤーが不審な行動を取り、その直後と思しき時間帯に不審な死亡事故が起こったVRゲームである。
『成程……これで全て、繋がりましたね』
「ああ。最早疑う余地も無い。この二つの不可解な死亡事故は、間違いなく奴が意図して引き起こしたものだ。それにこれは、恐らく序章……奴の計画は、これから本格的に動き出す筈だ」
緊迫した空気が立ち込める中、和人がそう締めくくる。同時に、目の前の人形を贈りつけてきた存在へ対抗するために、四人は互いに協力することを暗黙の了解とした。
そして、その瞬間――――
『サア、探偵諸君。始マルヨ……恐怖のマジックショーガ!』
『!』
変声機で歪められた音声が発せられるとともに、ギ、ギ、ギと機械的な音を立てて動きだす箱の中のマリオネット。和人、竜崎、一、明智は身構えながら席を立ってテーブルの上に置かれた人形と距離を取る。そして、人形を中心に花火が噴出し、小さな爆発を起こす。人形は爆破の衝撃で飛ばされ、周囲の建物の屋根の上にある煙突付近へと落下した。
(あれは……!)
屋根の上、人形が吹き飛ばされた煙突の影から、唐突に現れる黒い影。おそらくは人間で間違いないそれは、徐々に身体を起き上がらせていく。そして現れたのは、目元に星や水の雫のデザインが施されたゴムマスクを被った道化師だった。
「地獄の傀儡師……!」
「高遠遙一……!」
屋根の上に立つ、SAO事件当時に『地獄の傀儡師』として和人や一の前に姿を見せた時と変わらぬ姿に呆然としながらも、一と明智はそう呟いた。対する道化師は、和人達四人を見下ろしながら会釈する。再起動した明智が確保のために建物へと走るが、初動が遅かった。明智が建物へ突入しようとした途端、屋根の上に立つ道化師の目の前の煙突から、無数の薔薇の花弁が飛び出したのだ。屋根一面を覆わんばかりに溢れ出た花弁は、道化師の姿を覆い隠し、数秒後にはそれまでそこにいた道化師は完全に姿を消していた。
「瞬間消失マジック、だな。これではっきりしたな。奴は、途方も無い殺人計画を企んでいる!」
「高遠遙一……奴はこの手で捕まえてみせる!名探偵と呼ばれたジッチャンの……そして、俺の名にかけて!」
屋根の上から姿を消した道化師――地獄の傀儡師こと高遠と対決し、これを打ち倒す決意を新たにする新一と一。そして、SAO事件以来の最凶最悪の敵との戦いに臨むことを誓ったのは、彼だけではなかった。
『イタチ君。ガンゲイル・オンラインにログインし、地獄の傀儡師の野望の阻止に、協力してもらえますか?』
「無論だ」
竜崎からの改めての協力依頼に、和人は何の迷いも無く即答した。その表情は、既に普通の高校生、桐ヶ谷和人のものではなかった。かつてSAOで殺人集団『笑う棺桶』を相手に、殺し殺される戦いへ身を投じた『黒の忍』――前世のうちはイタチのものへと戻っていた。
2025年12月8日
地獄の傀儡師・高遠遙一からの宣戦布告が為されてから一週間後。和人の姿は現在、住所である埼玉県の川越から離れた東京の街の一角にあった。天気は雨模様。左手に傘を持ちながら目指す先には、既に何度か通ったことのあるオフィスビル。この日だけ唯一違うのは、車による出迎えではなく、徒歩で向かっていることだけだった。そして、空いている右手にはスマートホンが通話状態で握られている。
『あれから一週間……短期間とはいえ、和人君には十七ものスコードロンを潰して貰いましたが、死銃が接触する気配はありませんか』
「ああ。巷では『死剣』などという字が付けられる程になったが、こちらに接触する気配すらない」
通話の相手は、和人が一週間前に依頼を受けたクライアント。竜崎と名乗る世界的名探偵、Lだった。和人や竜崎の間で死銃事件と仮称されている変死事件が、地獄の傀儡師の暗躍によるものであると断定した和人は、その翌日から早々に捜索を開始していた。捜査のためには、死銃との接触が必須。そのための足掛かりとして、和人は事件の舞台となったVRMMOFPS『ガンゲイル・オンライン』にログイン、プレイしていたのだった。
「元々、簡単に現れてくれるなんて期待はしていない。スコードロン狩りをしていたのは、GGOの銃撃戦に慣れることが目的だったんだ。お陰で、あの世界に流通している武器の性能やプレイヤーの能力は大体把握できた。これで、本命のBoBも十分勝ち進めるだろう」
和人がガンゲイル・オンラインにログインして手始めに行ったのは、スコードロン狩りだった。和人が積極的な交戦に臨んだのには、主に二つの目的がある。
一つ目は、高遠遙一の人形として殺人を犯していると思しきプレイヤー『死銃』への接触。天才犯罪者として名高い高遠に操られている以上、その所在を突き止めるのは至極困難である。そこで和人は、ゲーム内で名うてのスコードロンを積極的に狩ることで強力なプレイヤーとして名を売り、自身の存在を知らしめることにしたのだった。死銃に銃撃されたプレイヤー二名はいずれもGGOにおいて強豪の部類に入る有力プレイヤーだったため、示威行為によって自身が強豪であることをアピールし、死銃の方からの接近するよう誘導しようと考えたのだった。
そしてもう一つの目的。それは、GGOの世界における戦闘経験を積むことだった。剣の世界であるSAOにおいては無類の実力を発揮したイタチこと和人だが、銃の世界となれば勝手が異なる。うちはイタチの生きた忍世界にも、火薬を用いて飛翔体を発射する装置は存在していたが、対人戦闘に用いる飛び道具は手裏剣、クナイ、千本が主流である。この世界で発達した銃器を相手に、不覚を取らないとも限らない。そのため、死銃に自らの存在を知らしめて接触を促すための示威行為に、目的である死銃が確実に現れるであろうBoB参加への予行演習を兼ねたスコードロン狩りを行っていたのだった。
(尤も、それも杞憂だったが……)
銃弾という未経験の武器を相手に、どこまで自分の戦闘が通用するかと身構えていたが、存外苦戦することは無かった。考えてみれば、当然である。前世で跳び道具として主流だった手裏剣やクナイにしても、上忍クラスの忍者が使用すれば、銃弾と同程度の速度で飛来することはザラなのだ。しかも、忍術を付加して破壊力を強化し、追尾性を付加することもある。それに比べれば、音速に相当する速度で放たれるとはいえ、一直線にしか進まない弾丸はいくら殺傷能力や破壊力が高かったとしても、忍の前世をもつ和人の脅威にはなり得なかった。
それでも油断できないと考えたのは、一月に起こった銃撃事件で負傷し、生死の境を彷徨った経験故だった。忍の前世を持ち、二度も死を経験している和人は今更死ぬことに対する恐怖は持ち合わせてはいない。だが、それがもとで直葉をはじめとした家族に多大な心配をかけたことに深い負い目を感じていたのだった。
(だが、今回の敵は仮想世界だけではない。奴と対決するとなれば、命懸けの戦いになる事は必定……)
忍術こそ使えないが、忍としての前世の力を十全に発揮できる仮想世界での戦いならば、譬え自分と同様に忍の前世を持つ人間が相手であろうと、正面戦闘で負けない自信がある。だが、現実世界ではそうはいかない。
この世界における桐ヶ谷和人の戦闘能力は非常に高い部類に属すが、忍術が使えないことに加え、身体能力についても前世のうちはイタチ時代より下方修正されていることは間違いない。現実世界での実戦経験に乏しいこの状況下で、前世と同じ要領で戦闘に臨むのは危険だろうと和人は考える。人を殺すことに慣れた犯罪コーディネーターと相対するとなれば、尚更である。
しかし、和人とて命のリスクは承知の上。この期に及んで逃げ出すつもりは無い。地獄の傀儡師・高遠遙一との直接戦闘を想定し、竜崎等と協力して準備を整えているのだ。
「ともあれ、BoB予選当日までは精々名を売ることにする。GGOは今や『死剣』の噂で持ち切りだ。連中が動きだす本戦までには、必ず俺に接触する筈だからな」
『頼みましたよ、和人君。それから、新一君も片手間ではありますが、こちらの事件の情報収集に協力してくれています。こちらの事件に協力できないことに負い目を感じていたようですね』
「それこそ、あいつが負い目に感じることは無いだろう」
地獄の傀儡師・高遠遙一に関する情報収集のために集まったあの日、捜査に協力することを誓った新一だったが、死銃が本格的に犯行に及ぶであろうBoB開催日には、別件で捜査の協力要請が警察から入ったのだ。故に、和人や一の進言も相まって、高遠の事件からは手を引くこととなったのだが、本人はそのことに負い目を感じているらしく、自分の時間を削ってまで情報収集に協力してくれていたのだ。
「そもそも、あの有名な怪盗二人を巻き込んだ三つ巴の戦いだ。片手間でやれる程甘い相手じゃない。あちらの事件に集中するべきだ」
『同感です。怪盗キッドはともかく、ルパン三世は私もこれまで手を焼いてきた怪盗です。新一君には、そちらに集中するよう進言しましょう』
「俺もそうする。二兎追う者は一兎も得ずと言う。複数の敵を相手に立ち回るための仲間でもある。俺が言えた義理じゃないだろうが……もっと仲間を信用するべきだ」
『……そうですね。では、後ほど』
「仲間を信用する」という言葉を聞いた竜崎の声は、ほんの僅かだが喜色を帯びているように感じられた。そして、その言葉を最後に、竜崎との通話は切れたのだった。和人はスマートホンを上着のポケットへしまい、竜崎の待つビルへ向けて歩みを進めるのだった。
(竜崎の基地へ到着した後は情報交換を行い、GGOにダイブ。カンキチとボルボの話では、今日はこれから数時間後に対人スコードロンがフィールドに出る。今から行けば、十分先回りは可能だな)
歩行者用の信号が赤信号で立ち止まる傍ら、竜崎の待つ基地に到着した後の予定について脳内で確認する。やがて信号が青に変わり、交差点の向こう側へと歩き出す。目的のビルへ近道するために、近くにあった商店街へと足を踏み入れた、ちょうどその時……あるものが目に入った。
「わり、朝田。あたしらカラオケで歌いまくってたらさぁ、電車代なくなっちゃったぁ。明日返すから、こんだけ貸して」
「…………」
学校からの帰り道、買い物をしていたところを二人掛かりで取り押さえられ、路地裏へと連れて来られた途端に放たれたこの言葉に、彼女――朝田詩乃は表情をほとんど変えず、しかし内心ではほとほと呆れかえっていた。目の前で飴を咥えながら話す同じ学校の女子生徒、遠藤からこうしてカツアゲ染みた方法で金を要求されるのは、これが初めてではない。
かつては友達のように振る舞い、詩乃に近づいてきた遠藤はじめ三人の同級生。だが、遠藤達が詩乃に対して友達のように振る舞っていたのは、一人暮らしである彼女の住居を都合の良い遊び場所にするための口実でしかなかった。その行動は日に日にエスカレートし、遂には合鍵を要求され、見知らぬ男まで連れ込まれたのだった。ここに至って遠藤達の真意を知った詩乃は、警察に通報。これに逆上した遠藤達は、詩乃が今まで隠していた、ある“過去”を全校へリークしたのだった。そして今現在に至っても報復は終わらず、一人になった詩乃を獲物に定めてこうして恐喝することもしばしばだった。
「……そんなに持ってるわけない」
「じゃあ、下ろしてきて」
以前は手持ちが無いからと言って切り抜けたが、今回は同じ手が通用しそうにない。言い逃れができない以上は、取れる手段は一つだけ。そう考えた詩乃は、意を決して口を開いた。
「嫌」
「……は?」
「嫌。遠藤さん、あなたにお金を貸す気は無い」
真剣な表情で明確な拒絶の意思を示す詩乃。このような態度を取れば、遠藤達が逆上するのは詩乃も承知している。だが、それでもこのような脅しに屈し、言いなりになることは、絶対に許せなかった。遠い過去から今に至るまでずっと引きずっている“弱い自分”を表に出すこと、それだけは絶対にしてはならない。それが、詩乃の中にある揺るぎない決意だった。
「手前ぇ……ナメてんじゃねえぞ」
目元を引き攣らせながら、威圧するように放った遠藤の言葉に、しかし詩乃は目もくれず踵を返してその場を後にしようとする。後方に控えていた取り巻き二人も遠藤と同様、タダで返す気は無いらしく、路地を出ようとする詩乃を妨害しようとする。
「もう行くから、そこをどいて」
すぐ後ろで激昂している遠藤のことなど完全に無視して取り巻き二人に強硬な態度で道を開けるよう要求する。これ以上恐喝を続けるようならば、詩乃とて手段は選ばない。表通りに聞こえるくらいの悲鳴を上げてやろうかとも思っていた。卑劣な行動ばかりする遠藤達だが、警察沙汰にだけはしたくない筈。警察に通報されかねないようなことをすれば、必ず諦めるだろう。詩乃は、そう考えていた。
だが…………
「くっふ……」
嫌な笑みを浮かべ、詩乃のもとへ背後から迫る遠藤。今度は何を言うつもりなのだと、苛立ちを露に振り返る詩乃。だが、そこにあったのは……
「ばぁん!」
「!」
握った拳から親指と人差し指を突き立てた……拳銃を模した形の手。発砲を彷彿させる効果音を口にしながらの、子供がよくやるそのポーズに……しかし詩乃は、硬直してしまった。
「は、…………あ、あぁ……」
足が震える。焦点が合わない。平衡感覚が揺らぐ。幻覚なのか、視界に映るもの全てがぐにゃりと歪んで見える。全身の力が抜け、立っていることすらできない。手に持っていた傘と鞄は地面に落ち、バランスを崩した末に膝を突いてしまった。
「ぐ…………うっ……!」
地面の水溜まりが撥ね、降り頻る雨が背中に降り頻る。恐怖によって精神が蝕まれ、過呼吸に陥りかける中で、懸命に保とうとした詩乃。だが、身体はそれすら許さない。遂には、込み上げてきた吐き気にすら耐え切れず……胃の中にあったもの全て、嘔吐してしまった。
「オイオイ、こいつゲロりやがったぞ!」
「きったねーな!まるで酔っ払ったオヤジみてえだ!」
嘔吐して尚、雨に濡れながら蹲って恐怖に震える詩乃を見て、遠藤やその取り巻きは嗜虐的な笑みを浮かべて見下ろしていた。そこには、先程まで強硬的な姿勢で遠藤達を拒絶していた姿は欠片も無く、弱々しく泣く少女がそこにいるのみだった。
「こいつはいいや!指鉄砲でコレなら、今度はウチの兄貴が持ってるモデルガンでも持ってきてやろうか?」
「い……いや…………!」
追撃を食らわせるように放たれた遠藤の言葉に、詩乃の顔がさらなる恐怖に歪む。頭を抱え、咽び声を上げる詩乃の姿に、遠藤は満足した様子で詩乃のバッグへ手を伸ばす。
「ま、とりあえずは今持ってる分だけでいいや。相当具合悪いみたいだしな」
そう言うと、遠藤は詩乃が落としたバッグの物色を始める。過呼吸に近い息遣いで蹲る詩乃には、最早自分の財布がどうなるかなど気にする余裕は無かった。今はただ、目の前にある……存在するように見えている脅威が消えることだけを願い、震えることしかできなかった。
(助けて…………誰か、助けて……!)
蘇る過去の光景、その恐怖に手も足も出ずにまるで動けない詩乃は、ここにはいない誰かが助けに来ることを祈った。
そう……あの日、詩乃の前に現れた、真の強さを持つその姿を求めて――――
「そこまでだ」
そんな時だった。詩乃の耳に、遠藤とその取り巻き以外の人間の声が聞こえたのだ。地面に蹲っている詩乃には見えなかったが、声色からして男性だろうか。
「なんだお前?」
「そこに倒れている奴の知り合いだ」
「ハッ!しゃらくせえ。正義の味方かなんかのつもりか?」
突然の闖入者の出現に胡散臭そうな声を発する遠藤。それもその筈。傍から見れば、『苛められている女子高生を助ける勇者』という構図になるのだろうが、今時このような酔狂な真似をする人間は全くといっていいほどいない。
「女だからって、あたしらをナメてんのか?あぁ!?」
「調子こいてんじゃねえぞ、コラ!」
遠藤の取り巻き二人からも、威圧するような声が発せられる。だが、新たに現れた男性がたじろぐ気配は無かった。それどころか、遠藤達のもとへと歩を進めてきた。雨粒が地面に落ちて弾ける音が幾つも聞こえる中、ゆっくりと近づいてくる足音だけが、やけに大きく聞こえてきた。
「二度は言わない」
途端、男性の声色が変わった。先程までの無感情な声から一転、明確な敵意が込められた。
「今すぐ、ここから立ち去れ」
さもなくば、殺す――――そう続けたとしてもおかしくないような雰囲気で放った言葉に、地面に蹲っている詩乃は背筋が凍るような感覚に陥った。
「な……なんだよ……!……クソッ!」
蹲っている詩乃ですら震え上がるような殺気が放たれたのだ。真っ向からこれを受けた遠藤達は、さぞ戦慄したことだろう。悪態を吐きながら、取り巻きを引き連れて路地裏の奥へと走り去る音が、詩乃には聞こえた。
「……大丈夫か?」
先程と同じ、しかし殺気は一切感じられない声が、詩乃へと掛けられる。声が聞こえたのは、すぐそこだった。空から降り注ぐ雨粒が身体を打つ感覚が消えたのを感じる。恐らく、差していた傘で詩乃が濡れないようにしてくれているのだろう。声を掛けられて一瞬ビクッとしてしまった詩乃だったが、恐る恐る顔を上げる。そこにあったのは、記憶のかなたに見知った顔。大人しいスタイルの黒髪に線の細い顔。そして、かつて詩乃が求めた、強さの一端を垣間見た少年――――
「久しぶりだな、詩乃」
「…………和人?」
期せずして果たされた再会。しかし詩乃は驚く間も無く、次の瞬間には視界が黒く染まっていくのを感じると共に、完全に意識が途絶えるのだった。
雨の路地裏で起きた、高校生同士のトラブル。その一部始終を、表通りからじっと見つめる視線があった。
雨で濡れた地面に蹲る、意中の少女。彼女の傍で片膝を突きながら介抱する見知らぬ少年。本来ならば、その少年の立ち位置は自分のものだった。なのに……介入するタイミングで先を越され、そのポジションを奪われてしまった。
その事実に、言い表せない程の怒りが込み上げてくる。今、ここに彼女が居なければ……
すぐにでも、殺していたかもしれない――――
そう思える程に、内心では怒り狂っていた。だが、今はその時ではない。そもそも、この男が何者であろうと自分には関係無いのだ。何故なら、自分が今関わっている計画が遂行されたのならば、彼女は真の意味で自分の物となるのだから――――
だから、今は手を出す時ではない。今は雌伏の時……彼女と一緒になるためにも、自分は“傀儡”を演じ続けねばらならないのだ。
そんなことを考えていたところへ、狙い澄ましたようにメールの着信が入った。内容を確認すると、予想通りの人物からだった。
『次のターゲットが決まりました。
具体的な日時については、後日改めて知らせます。
あなたの想いが叶う事を祈り、こちらも力を尽くさせていただきます。
Good Luck、死銃(デス・ガン)』
いつも通りの決まり文句で終わっているメールを確認すると、一人ニヤリと笑みを浮かべる。遂に、あの計画が本格的に始動する……これで、自分も伝説になれる。そんな、狂気にも似た想いを抱きながら、路地裏への入り口に背を向け、踵を返す。
異常なまでの執着。それを滾らせながら、路地裏の入り口に佇んでいた“狂気”は、人ごみの中へと紛れていくのだった――――