「こ、これは一体どういうことなの!?」
私は、目の前の状況に頭が追いつかなかった。
私だけじゃない、協力関係にある魔術師たちも戸惑っている。
当初の予定として、こちらに引き込んだ白龍皇の協力で奇襲作戦を行い、
和平会談に現れた各勢力のトップ共を一網打尽にするはずだった。
憎っき現魔王の一人、サーゼクス・ルシファーの妹、
リアス・グレモリーの眷属の持つ時間停止の力を用いて、何も出来ないまま殺すはずだった。
当初は予定通りに時間停止が発動し、私たちがそれに合わせて奇襲。
これで動けない奴らを一方的に倒せるはず・・・だった。
なのにこの状況はなんなの!?私たちが奇襲をかけた瞬間、時間停止が解除されたのだ。
まるで私たちが来ることを知っていたかのように、待っていたかのように。
「まさか白龍皇が裏切ったというの!?」
そんなバカな!現白龍皇は、自他ともに認める戦闘狂。
闘いの場を用意するという言葉で、簡単に仲間になるほどの戦い好き。
ならば、戦う機会を捨ててまで裏切る理由が無い。
なら、この状況はなんだ?どうして私たちが圧されている?
こんな状況になるなど、あちらに情報が漏れているという他に理由が無い。
ならばあの堕天使総督のせいか?だが堕天使勢力だけじゃない。
現悪魔も天使たちも、私たちの奇襲を知っていたように布陣だった。
「なぜ、なぜ、なぜ?どうして私たちが圧されている!?
どうして?どうして!?どうしてぇぇぇぇえぇ!?」
「カテレアちゃん・・・」
混乱する私に声がかけられた。
声の方を見れば、私から先代の名を奪った憎き魔王、セラフォルー・レヴィアタンだった。
セラフォルーは、装飾の施された衣装を纏っていた。
衣装を飾る装飾には、豹とグリフォンの翼が描かれている。
「セラフォルーゥゥゥゥゥ!私から先代の名を奪った偽物の魔王!
貴様さえ、貴様さえいなければ、私が『レヴィアタン』の名を受け継いだというのに!」
「カテレアちゃん、私は・・・!」
憎悪を込めて叫ぶ私を、セラフォルーは悲痛な顔で見返す。
おのれ!私をどこまでも、どこまでも私を憐れむか!虚仮にするか!
「そんなに私から名を奪ったことが嬉しいか!私の全てを奪ったお前を、私は絶対に許さない!
この場でお前を殺し、『レヴィアタン』の名をもう一度取り戻す!」
私は懐から小さな瓶を取り出す。
その中には、奇襲前に借り受けた、無限龍の力が宿っている。
そして私は躊躇なくそれを取り込む。
その瞬間、私の身体に魔力が、力が満たされるのを感じた。
「カテレアちゃん!一体何をしたの!?」
驚くセラフォルーの顔を見て、私は少し溜飲を下げた。
その顔よ、その顔を見たかったのよ!
今まで私を見下してお前のその、私に恐怖を抱く顔。それが見たかったのよ!
「一部とはいえ、無限龍の力を取り込みました。
どんな手を使おうと、私は貴女に勝つ!そして奪われた物を取り戻します!」
「カテレアちゃん!」
さあ来なさいセラフォルー・レヴィアタン!
貴女に勝ってこそ、私はようやく私(レヴィアタン)になれるのよ!
私と憎きセラフォルーがぶつかり、そして・・・
「あらあら、ようやくお目覚めかしら?」
その澄んだ油の切れたような声に、私は意識を取り戻した。
「私は・・・」
未だ微睡みの中にいるような感覚が頭に残る。
それに感覚もぼやけているせいか、目の前の人影をはっきりと視認できない。
誰かが椅子に座って私を見ていた。
「お前は・・・一体誰なの?」
「さあ、誰かしらねぇ?」
目の前で椅子に座っている人影の、まるで私を小ばかにした言い方。
私に対する無礼な言い方に、すぐさま殺してやろうとして気付かされた。
私の身体が動かないことに。
「なんで、私の身体が・・・?」
必死に身体を動かそうにも、まるで身体が石になったかのように、うんともすんとも動かない。
「動かそうとしても無理だよ。
まだ分かっていないようだから言っておくが、君の身体は拘束されている」
「な、何を言って・・・!?」
少しずつだが視界が戻ってきたこともあって、私は首を動かし自分の姿を見た。
私の身体は、四方から伸びる鎖に縛られていた。
「こ、こんなもの、魔力で簡単に・・・!?」
おかしい、魔力が使えない。まるで栓をされたかのように、魔力が出てこない。
「解ったと思うが、君の下にある魔法陣は、私が少し弄った特別製。
魔力と膂力を奪う効果は、今も体験しているから言わなくても良いわよね?
あ、そうそう、鎖も同じ効果を組み込んでいるから、
力で引き千切ろうなんて無駄のことは止めておいて方が良いわよ」
私は目の前の人物に目を向ける。
「だったら今すぐ、これを外しなさい。そうすれば命だけは助けてあげるわ」
「あら恐い怖い。そんな目で見つめられてしまうと、私の心は恐怖に打ち震えてしまうわ」
「いいからさっさと外しなさい!私を誰だと思って「カテレア・レヴィアタンでしょ?」
まるでどうでもいいかのように、目の前の人影は私の名前を言った。
「だったら解るでしょ?
私は誇り高きレヴィアタンの末裔にして、レヴィアタンの名を受け継ぐ者。
今すぐに私を解放しなさい。でなければ・・・」
私の言葉は続かなかった。
何故なら、目の前の人物が急に笑い出したのだから。
「何がそんなにおかしいのですか!?」
「そりゃおかしいわよ。捕まっている貴女が、私を脅迫するんだから。
こういうの、普通は逆がやるものじゃないかしら?
それに、まだ私が解ってないみたいだしねぇ。
私が誰か解っていれば、そんなの意味ないって解るのに」
そう言うやいなや、人影はローブを脱ぎ捨てた。
ファサリと椅子に被さるローブから目を外し、私は人影の正体に、両目を見開いた。
なぜ、どうしてお前がいるの!?
「キアラ・ダンタリオン・・・!」
「お久しぶりねぇ、カテレア・レヴィアタン。それとも、ただのカテレアでいいかしら?」
紫の髪を腰にまで伸ばし、吸い込まれるような真っ黒の瞳の女悪魔が、
私を笑顔で見つめていた。
「なぜお前がここに!?そもそもここはどこです!なぜ私はこんな姿に!」
私の目の前で、カテレア・レヴィアタンが叫んでいる。
全く、貴女だって馬鹿じゃないんだから、状況くらい解るでしょうに。
それとも、感情が理解を拒んでいるのかしら?まあ、どちらでも良いけどね。
私は溜息を吐き、言葉を紡ぐ。紡ぐ呪文は沈黙の効果。
「!?」
「すこし静かにしてくれないかね?黙れば少しは頭も冷えよう」
突然声が出せなくなって驚くカテレアを見ながら、私は説明することにした。
「さて、順を追って説明しようか。
どうして君がそんな恰好なのかの答えは簡単、君が負けて捕まったから」
「!?」
カテレアの目が見開く。
そんなはずがない!と訴えているのは、わざわざ調べなくても解る位に。
「次にここはどこか?だったかな」
私はカテレアに歩み寄り、彼女の目の前まで近づく。
「ここは、ある目的の為に拵えた私の部屋だよ。
しいて言うなら、ある目的の為に作らされた部屋でもあるんだけどね」
カテレアは何かを叫ぼうとするが、声を出させないようにしたので、口からは何の音も出ない。
「そして最後、どうして私がここにいるのか?だったわよね?
私が言わなくても分かっているんじゃないかしら?それとも理解を拒否しているのかしら?
まあでも、答えなきゃダメよね」
私は少しカテレアから離れるように移動し、くるりと彼女に顔を向けて答える。
「それは私がダンタリオンだから、と言えば解るんじゃないかしら?」
「!!」
私の言葉の意味が分かったのか、カテレアの顔が青ざめる。
「その様子だと、解ってくれたみたいね。
貴女の考えている通り、私が呼ばれたってことは、つまりそう言うこと。
解ってくれて嬉しいわぁ」
私は一歩ずつ、カテレアの方へと歩く。
カテレアは、動かない身体を必死に動かそうと足掻き、
その目は少し泣いているのか、滲んでいるように見えた。
私は暴れる彼女に歩み寄り、激しく振るう彼女の頭を両手で押さえる。
そしてその頭を私の胸にもっていき、彼女の頭を抱きしめ、
安心させるように、彼女の頭を撫でる。
しばらく撫でた後、私は彼女の頭を胸から外し、彼女の顔を見る。
あらあら、カテレアったらまだ泣いてるじゃないの。
私は指で涙を拭う。うん、これで安心ね。
そして彼女の耳元に囁く。
「じゃあ、洗い浚い喋ってもらおうかしら。
私はキアラ・ダンタリオン、私の前ではあらゆる秘密は意味をなさない」
そしてしっかりと彼女の頭を押さえ、
「そして貴女の感情さえも、私にとっては思うが儘」
彼女の目を見つめ、彼女を安心させるために口元をあげて、
「だから、抵抗しない方がいいわよ?」
笑うことにした。
「はい、これが資料よ」
「ありがとう。助かったよ」
私は手に持っている資料を、サーゼクス・ルシファーに渡す。
サーゼクスの方も、思いのほか嬉しそうに受け取った。
資料に書かれているのは、カテレアから聞き出した、彼女の知る禍の団のメンバーだ。
取りあえず、サーゼクスに頼まれた仕事を終え、私は出された紅茶で喉を潤す。
やっぱりメルアの紅茶の方が美味しいわね。
「やはり、旧魔王派は禍の団と手を組んだということだね」
資料に目を通しながら、サーゼクスが言う。
「その資料を見る限りわね。
でも、それはあくまでカテレアが知ってる情報でしかない。
だから、それが全てだとは思わないでほしい。
私はあくまで、その人物が知っている情報を抜き出すことしか出来ないんだから」
私はサーゼクスに一言言っておく。
「解っているさ、クレア。一応、参考資料として受け取っておくよ」
一通り目を通したのか、彼は資料をテーブルに置く。
「それにしても、よくカテレアを捕まえられたわね。
実力は君たちよりも低いとはいえ、それでも魔王の末裔に申し分ない力だったのに」
それと記憶を見るに、無限龍の力を使ったみたいだしね。
たとえ力の一部とはいえ、最強の龍の力が宿ったカテレアって、
それこそアザゼル匹敵するほどに危険じゃなかったかしら?
「それは君のおかげだよ。
君が事前に情報をくれたおかげで、私たちも準備が出来ていたからね。
そのおかげで、こちらも対処が出来たんだ。アザゼルやミカエルも君にお礼を言っていたよ」
「一応素直に受け取っておきましょうか。
ミカエルはまだしも、アザゼルは皮肉交じりに言ってたでしょうね」
あの堕天使総督のことだ、苦虫を噛み潰したような顔をしていたに違いない。
私はクククと笑う。
しばらくの談笑した後、屋敷に帰ろうとした私を、サーゼクスが尋ねた。
「それで彼女は?」
「あら、気になるのかしら?それは感傷?それとも不安?」
私の言葉に、サーゼクスは「両方さ」と答える。
私は表情を変えずに答えることにした。
「なら安心していいわ。カテレアは死んだから」
私はさらりと答えることにした。
「そうか、彼女は死んだのか」
「ええ、死んだわ」
私はサーゼクスの目を見る。
「だからセラフォルーにも伝えておいて。
思うところがあるなら、私に会いに来なさいって」
そう言うと、私は屋敷へと跳んだ。
「それで、一体これはどういうことですか、お嬢様?」
「だから言っているじゃない。
最近何かと誰彼が家やってきて、かなり賑やかになってるでしょ?
だからメルアも人手不足かなぁ・・・って思って」
私はメルアの視線から目を逸らしつつ、なんとか言い返す。
「だからと言って、事前に連絡もなしにつれてくるのは些か急すぎます。
こちらも色々と準備と言うものがあるのです。
お部屋はあると言いましても、この方のために何かと用意しなければなりませんのに」
ちらりとメルアは彼女を向く。
彼女はびくりと身体を震わすも、その顔はどうにか体面を保っている。
「分かりました。
お嬢様が連れてきたということは、一応信頼できる方だと思います。
それでは私について来てください。お部屋にご案内いたします」
メルアは彼女を一瞥すると、彼女についてくるように言う。
彼女は、まるで縋るような目で私を見るが、私は笑うことしか出来ません。
そんな私を見て何かを察したのか、彼女は青ざめた顔でメルアの後に続いてく。
奥の部屋へと案内されていく彼女の後姿を見ながら、私は溜息を吐く。
「さて、思いつきでやっちゃったけど、これからどうしようかしらね・・・」
私は、彼女が案内された部屋から聞こえる悲鳴を聞きながら、
これからのことを考えるのであった。
「先生、誰か来たんですか?」
「そうねセイウェル。しいて言うなら、新しいメイドさんかしら」