まるで火山が噴火でもしたかのように、地面を揺るがすほどの轟音が響く。
一直線に光が走り、その光に触れた木々たちは、灰すらも残らずに消える。
空を見れば、薄暗い闇の中を、白い光と赤い光が飛び交っている。
その光たちが数回交わる度に、その中心から溢れた暴風が雲をかき消し、
そこから覗く星の光が、辺り一面を明るく照らす。
「あの子たちも元気ねぇ」
その光景を、私は屋外に置かれた椅子に腰を下し、紅茶や茶菓子と共に見守っている。
観客は私だけではなく、テーブルを挟んだ向こう側では、
オーちゃんも椅子に座って、メイド長お手製のクッキーを頬張っている。
私の隣には、メイド長と新人メイドが控えており、メイド長はいつも通りの無表情。
一方で、新人メイドは、目の前で起っている光景に呆然としている。
ちなみに私たちがいるのは、私の屋敷の庭であり、
大惨事が起っているのは、私の領地内の出来事である。
私の屋敷の周辺は森で囲まれており、その一部を遊び場にしたのだ。
取りあえず、防音や魔力洩れ防止といった結界をこれでもかと敷き詰めたので、
余波による轟音や暴風の類いが外に洩れることはまずない。
もちろん、民の皆を危険な目にあわせる気は毛頭ないので、何かあったら私が止めるつもりだ。
時折、紅い方から放たれた大きな火の玉、白い方から放たれた無数の光、
暴風にあおられて巻き上げられた木々などが、何度かこちらに向かってくることもある。
と言っている内に、風で舞い上がった一本の木が、こちらに向かってくる。
そこまでは大きくは無いにしろ、人を潰すには十分な太さの幹だ。
「シッ!」
その声と共に、その木は方向を変え、私たちと屋敷を逸れて地面に刺さった。
「ありがとうね」
「滅相もございません」
既に隣に戻ったメイド長に、私はお礼を言いつつも、紅茶を口にする。
やはり、美味しいわ。
そんな中、リスのようにクッキーを頬張っていたオーちゃんは、
彼女の為に置かれていた紅茶を飲んで、ふぅと息を吐く。
「我、クッキーに満足」
「ありがとうございます」
オーちゃんの言葉に、ぺこりと頭を下げるメイド長。
ふむ、オーちゃんもだいぶ、私たちに馴染んできたようだ。
少し前までは、週に数回、気まぐれのようにやって来たのだが、今では毎日こちらに来ている。
昼ごろにやって来ては、セイウェルと一緒になにやら遊び、夕暮れになると帰っていく。
もはや私の屋敷に来るのが日課みたいなものだ。
一方で新人の方は、まだ私たちと一線を引いているみたいで、まだまだ棘が残っている。
私と目を合わせて会話をしてくれない上に、何かと私を避けている。
私としては、いい関係を結びたいと思っているのだが、そうそう上手くは行かないものだ。
まあ、彼女の経緯からすらば、当たり前ではあるのだがね。
「お嬢様」
メイド長の声に促され、私は空へと目を向ける。
すると、どうやら決着が尽いたらしく、紅い光が一直線に地面へと降下し、そのまま激突した。
一方、上空の白い光は、ゆっくりと降下していく。
「さてメイド長、冷たい飲み物とお菓子を用意してちょうだい。
多分、二人ともお腹が空いていると思うわ」
「承知しました」
メイド長は踵を返し、屋敷へと入っていく。
途中、メイド長は未だ呆然としている新人メイドに声をかける。
新人の方は、「なぜ、私がそのようなことを」と愚痴を零すも、
メイド長の目が鋭くなったことに気付くと、冷や汗をかきながらメイド長の後に続いた。
メイドたちが席を外すこと数分、
大惨事が起きた場所から、二人の人影がこちらに向かってくる。
二人の内、長い髪の方は泥だらけに砂まみれで、髪は所々でボサボサで、衣服はボロボロだ。
「先生!私、負けちゃった!」
私は泥だらけのセイウェルを抱きしめ、よしよしと頭を撫でる。
言葉とは裏腹に、彼女の顔はとても嬉しそうに笑っている。
どうやら、随分と楽しんだようだ。
「なに、セイウェルが楽しめたならそれでいいさ。それに、これからの課題も見つかったからね。
基礎は出来てはいるが、逆に基礎に倣い過ぎていると言ったところかね」
頭を撫でられ、気持ちよさそうなセイウェルを見つつ、私は今後の問題について考察する。
なにぶん、基礎を徹底的に教え込んだ訳だが、これからは臨機応変さを学ばせるか。
そう考えつつ、私はセイウェルに身体を洗うように言い、
洗い終わったらお菓子を用意してあるわ、と言っておく。
一目散に屋敷へと駆けて行くセイウェルに、その幼さを苦笑しつつ、嬉しくもあった。
「それで、貴方からの感想はどうかしら?」
私は、もう一方に声をかける。
「発展途上といったところか。お前の言う通り、基礎は出来ている。
が、それが足を引っ張っているとも言える。
躱すことは容易かったが、こちらの攻撃は寸でのところで防がれる。
責め手には苦労した」
「そう」
そしてオーちゃんの方にも顔を向ける。
「セイウェルはまだ未熟。でも、我は楽しみにしている。
いつか、本気の我と遊んでくれることを」
「セイウェルにも言ってあげてくれないか。きっと喜んでくれるさ」
そう言うと、オーちゃんはパタパタとセイウェルを追って、屋敷へと駆けて行った。
うむ、仲良きことは良いことだ。
『ダンタリオン、一体どういうつもりだ?今回の件は、我としても理解出来ぬ。
急に我らに頼みごとするのもそうだが、なぜ我らと奴を戦わせた?』
「暇つぶし、って言ったら?」
私の言葉に、空気が少し冷たくなる。
『誤魔化すのはよせ。貴様のことだ、何か見えているのではないか?』
訝しむ声に、私は肩を竦める。勝手について回った悪名も考えものだわ。
私は自分の範囲で出来ることをしてきただけだというのに。
「半分は正解で、半分は見当違いよ。
今回の件は、我が愛弟子の成長を知るためのいい機会だっただけ。
それ以外には理由はないわ。」
私は溜息を吐く。
「それにこんな辺境のいる、『純血』だけが取り柄の十派一絡げの悪魔が、
いったい何を考えるっていうのだ?旧魔王派のように、クーデターをするとでも?
考え過ぎるのも大概だよ」
私はそう言って話を切りあげ、セイウェルの方へと足を運ぶ。
クッキーを食べるセイウェルに、私は微笑むのだった。
「お嬢様、お休みなさい」
「ええ、お休みなさい。私はもう少し本を読んでから休むわ」
「そう言って、最後まで読もうとして朝を迎えたこともありましたね」
私は飲んでいた紅茶に咽る。
「お嬢様、御身を軽んじることは止めてください。私は・・・」
「解っているわよ、メルア。無茶をすることはしないわ」
パタンと扉を閉めるメイド長を見ながら、私は苦笑する。
メルアを心配させる自分自身に、辟易というものだ。
しばらく本を読んでいると、不意にランプの灯りが揺らぐ。
私は本を読む手を止めず、来訪者に声をかけた。
「それで、今日の二人の遊びを見てどう思ったかしら?」
「恐ろしい、というのが正直な感想です。
貴女のせいでこうなった私が言うのもなんですが、上には上がいることを理解させられました」
「それで、貴女はどうしたいの?」
「正直に言えば、今ココで貴女を亡き者にしたところで、もはや意味はない。
ならば新たな私として、一から築き上げるのも悪くはないかもしれません」
「そう」
私は読んでいたページにしおりを挟み、本を机に置く。
「ならば私に、貴女を一から築き上げる手伝いをさせてちょうだい。
私とて、こうなった責任は取るつもりよ?」
「かのダンタリオン卿が、私に手伝いをさせてほしいと頼むのですか。
それはどういう魂胆ですか?」
少し警戒を抱いている彼女に、私は苦笑する。
「あら、家族を応援するのは同然じゃないかしら、カレン?」
「貴女は本当に食えない人です」
そう言ったカレンの顔は、少し赤らめていた。