「さて、レーティング・ゲームとはなんだろうね?」
外へと足を運びながら、私はソーナ嬢へと尋ねる。
「数の少ない悪魔たちを、来るべき戦いのために少数精鋭として鍛えるために導入された競技ではないのですか?」
ソーナ嬢の答えに私はうんうんと肯く。
「そうね。付け加えるならば、チェスを弄り回して作り上げたルールに則って行われる、爵位や地位を賭けたゲームね。うんうん、ちゃんと勉強してるのね、及第点よ」
「あの、及第点・・・ですか?」
私の言葉に、ソーナ嬢は言葉に詰まる。私はソーナ嬢の戸惑いを気にすることなく、目的地へと歩を進める。私たちが訪れたのは、屋敷の裏にある大きく開かれた場所。周りは木々に囲まれているのに、その場所だけがまるで抉り取られたかのように木が一本も生えていない。
「この場所はいったい・・・?」
「私たち家族のちょっとした遊び場よ。私の愛弟子が友達と遊びたいっていうから作ったのよ。前はこんなに広くなかったのだが、愛弟子も友人もつくづくやんちゃが過ぎてね。今ではこんに広くなったのよ。でもほら、逆に広々として開放的でしょ?」
私の答えに、言葉に窮するソーナ嬢たち。
「まあ、今は気にしないでいいわ。ではレーティングゲームについて本質はなにか?って言葉だけど、答えは先ほど聞いたわね。
私は確認のためにもう一度ソーナ嬢に尋ね、彼女はおずおずと首を振る。私の口元が歪む。
「私はそうは思わないわね。私からすれば、レーティング・ゲームなんてのはどう取り繕ったところ結局は
「・・・っ」
ソーナ嬢の顔が歪む。それは私の言葉に対する驚愕か、それとも私個人への嫌悪感か。まあ、知ったことではない。
「ただ、これは私個人が抱いている感想という話よ。別に貴女の意見を否定する気はないわ。貴女は貴女の意見を大切にしなさい」
私の言葉はただの意見。それについてどう思うのか、どう受け取るかなんてのは、結局のところソーナ嬢たち個人が勝手に考えるだけ。別にすべてを話すつもりはないし、そんな義理もない。それに、知らない方が幸せと言うのもある。
『あってないようなお飾りのルール』『平等と言う名の不条理や理不尽な条件下での試合』『お偉い方の寵愛を受けた上級プレイヤー』『決まりきった結果の八百長』『いまだに明かされていない悪魔の駒と言う
それなのに、それ政治が振り回され、それによって爵位が決められるのだから、笑えてしまうというものだ。本当にこの世界は
「じゃあ実際にやってみましょうか」
「え・・・?」
私の言葉に、ソーナ嬢を含めて驚きの声が漏れる。私は彼女たちを向いて首を傾げる。
「何をそんなに驚いているのかしら?ただ実際にレーティングゲームをしましょうと言っているだけよ?それがそんなに意外なことかしら?」
「それはその、急にそんなことを言われるとは思ってもみませんでしたので・・・」
ソーナ嬢の戸惑いに私はクスリと笑う。
「そんなに深刻に考えなくていいわよ。これは単なるお遊び。私と貴女たちのレーティング・ゲームよ。もちろん非公式のだから戦歴に載ることもないわ」
私は未だに戸惑っているソーナ嬢たちを置いて、さっさと話を進める。
「ルールはそうね、こういうのはどうかしら?」
私は足もとに、私一人が入れるだけの円を描く。一歩でも動けば外に出てしまうほどの大きさの円。それを不思議そうに見ている彼女たちに私は言う。
「君たちは私をこの円から出せたら勝ち。私は君たちを戦闘不能にしたら勝ち。単純でしょ?」
「待ってください。そもそもいきなり試合をしようなど言われましても、その意図が解りません」
「そんな深刻に考えなくてもいいわ。言ったでしょ、ただの遊びだって。それとも怖いの?もっとハンデが必要かね?」
私はソーナ嬢たちを嘗め回すような視線で見渡し、わざとらしく大きなため息を吐く。
「レーティングゲームの学校を作るのでしょう?なら実力を示さなきゃいけないわ。だからその第一歩として私が試してあげると言っているのだが。それとも貴女の言葉はその程度?」
「ですが「やってやろうじゃねぇか」匙・・・!?」
ソーナ嬢の言葉を遮り、匙少年が私に向かって吠える。その顔は傍目でも怒りに染まっているのが丸分かりだ。私は口元が歪むことを押し留める。
「おや君はたしか・・・そうだ匙元二朗君か。なにかな?私はソーナ嬢に話しているのだが」
「そんなのは知ったことか!さっきから会長を見下した言い方しやがって!俺は会長の夢を馬鹿にした、お前等みたいな貴族が許せないんだよ!力を試してやる?円から出したら勝ちだって?馬鹿にするのもいい加減にしろ!」
「匙!いい加減に・・・!?」
「会長?」
なぜかソーナ嬢は、なぜかその先の言葉が出ないことに戸惑い、それに気づいた眼鏡をかけた長髪の女性が声をかける。だがそれに気づかない者もいる。ぶっちゃけ目の前で怒り心頭の彼が顕著だ。
「おや?これは私からしたら良かれと思っての行動なのだが。それともお節介だったかしら?」
「ハンデなんていらねぇ!俺がてめぇを倒して、会長の夢を認めさせてやる!」
匙少年の言葉に、私は自然と口が三日月のように歪む。
「そうかそうか、なら話は早い。さっそくはじめようじゃないか。メイド長、ソーナ嬢たちを安全な場所まで下がらせてくれ」
「解りました」
「いつの間に・・・!?」
私は後ろに立っているメイド長に声をかける。ソーナ嬢たちの方は、突如現れた私のメイド長に驚く。
「では皆様、お嬢様が仰られた通り、ここから少し離れましょう。別に私は貴女方どうなろう知ったことではありません。しかし、万が一貴女方になにかあればお嬢様に迷惑がかかりますので」
「メイド長」
「申し訳ございません、つい本音が出てしまいました」
私はメルアに呆れつつも咎める視線を送る。ほら、ソーナ嬢たちが呆けているじゃない。メイド長は変わらずの無表情のまま、ソーナ嬢たちを俵のように抱える。
「待ってください!私はまだ認めていません!匙!あなたも落ち着きなさい!」
なんとかメイド長の拘束を解こうともがくソーナ嬢。だがメイド長の拘束は解けず、そのまま少しずつ離れていく。ある程度距離を取ったところで、私はパチンと指を鳴らし、私と目の前の匙君を囲うように結界を作る。おっと、ソーナ嬢が「待ちなさい匙!あなたは何をしているのか解っているのですか!?」と必死に結界を叩いている。生憎だが、これはセイウェルやオーちゃん等用に拵えたものだ。壊すには相当の力が必要だよ。
「安心してください会長!俺は勝ちます!会長の夢を馬鹿にしたこいつをぶっ飛ばしてやりますから!」
「匙!あなたは何を言ってるのですか!夢のことなら私は気にしていません!ダンタリオン卿もやめてください!」
「悪いが、了承をしたのは彼だ。それにこのままでは、色々と納得出来ないだろう?あと実を言うと、私は売られた喧嘩は買う主義でね」
ダン!ダン!と結界を叩く音が響く。少しうるさくなってきたので、私は結界に防音を施す。これで中も外も音が漏れることはない。
「待たせてしまって悪いね」
「俺は別にいいぜ。てめぇが無事な時間が短くなっただけだからな」
ふむ、彼の方は準備万端と言うことか。私は彼の漲る闘志を見つめ改めてルールを確認をする。
「ルールは二つ、君は私を円から出したら勝ち。私は君を戦闘不能にすれば勝ち。良いかしら?」
「ああ問題ねぇぜ」
彼の確認を取ると、私は懐から鈴を取り出す。
「ではこの鈴が地面に落ち、音が鳴った瞬間からゲーム開始とする。問題は?」
私の問いに、匙君は首を横に振るう。では、と私は鈴を上へと放り投げた。くるくると小さな鈴は上へと昇り、そして重力に惹かれるように地面へと落ちていく。そして、チリンッと音を奏でた。
「先手必勝だぁ!くらえぇぇ!」
そう言うと、彼は片方に黒い何かを現す。ふむ、どうやら彼は神器保有者だったのか。それにその黒い色と形状は・・・。私が記憶の中からそれを思い出そうとすると、その黒い神器から勢いよく何かが飛び出し、私の方へと飛んでくる。そしてそれは私の右腕に絡みつくように何重と巻きついた。
「そうか、これは黒い龍脈(アブソーブション・ライン)か。解体されたヴリトラの一部を君が持っていたなんてねぇ」
「へっ!俺を、会長の兵士(ポーン)、匙元士郎を甘く見たこと後悔させてやる!」
すると、私の腕に絡んだ舌がドクンと音を立てる。そして身体に感じる疲労感。ああ、これは私の力を吸収しているのか。私は取りあえず絡んでいる舌を指で突っついてみる。まるでゴムのようにな弾力を感じる。おお、ブニブニしてるぞ。これは面白い。
「切ろうとしても無駄だ!それはちょっとやそっとじゃ千切れない!てめぇがぶっ倒れるまで吸収し続けるぜ!」
私の行動を、なんとか剥がそうともがいていると思ったのか、匙君はそう叫ぶ。そうか、これはそう簡単に壊れないということか。そうかそうか、それはそれはなんて・・・
「
私は知っていたことを保有者の言葉から再確認し、口元を歪める。その間にも、黒い龍脈を通して私の力は吸収され続けている。
「ああ困った、これでは私の力が吸収され続け、いづれは倒れてしまうなぁ」
「だったら諦めて降参しな!会長の夢を馬鹿にしたことを会長に謝るんだ!」
「すまんが、それは出来ん。生憎、私は間違ったことを言ったと思っていないのでね」
「だったら、お前を倒して謝罪させてやる!」
保有者の怒りに影響されたのか、吸収する力が強くなった気がする。ちらりとメイド長らの方を見れば、メイド長がこちらをじっと見ている。その瞳を受け、私はため息を吐いた。
「匙元士郎くん」
私はまっすぐは視線で彼を見つめる。
「なんだよ、降参するのか?」
そんな彼の言葉を無視し、私は右手に絡む舌に左手を添え、
「耐えて見せろ」
力を流し込んだ。
それは当の匙元士郎も、それを見ていたソーナ・シトリーたちも理解できなかっただろう。キアラ・ダンタリオンが匙元士郎の神器、黒い龍脈にゆっくりと左手を添えた。その瞬間、匙元士郎の身体から一斉に血が噴き出たのだから。まるで水圧に耐えきれなくなったゴムホースのように、空気を詰め過ぎた風船のように、彼の身体は破裂したのだから。全身から真っ赤な血が迸り、そのままゆっくりと倒れる匙元士郎に、ソーナ・シトリーたちは叫ぶ。一方、キアラ・ダンタリオンとそのメイド長メルアは、そんな彼を冷めた目で見つめるのだった。