あの婚約解消をかけたレーティング・ゲームから数日後、
私は応対室にある自分の椅子に腰を下し、今朝の新聞を楽しんでいた。
「どうぞお嬢様、紅茶を淹れました」
「うん、ありがとう」
メイド長の淹れてくれた紅茶を口に運びながら、私は娯楽欄に目を通す。
今、私の屋敷にいるのは私とメイド長だけだ。
セイウェルは、私とメイド長との朝食を終えると、直ぐに外へと出かけていった。
なんでも、オーちゃんというお友達が出来たらしく、
今日はその子と一緒に町を探検するらしい。
うむ、部屋に籠ってばかりでは駄目だ。子供は外へ出て世界を知るべきだと私は思うぞ。
一応、お昼には帰ってくるようには伝えておいた。
それに、そのオーちゃんという友達も一緒に呼んでも構わないよ、とも。
ま、まぁ、オー『ちゃん』というのだから、その子は女の子なのかもしれない。
だがしかし、だがしかし!仮に男の子であった場合は、
私がく・ま・な・く!そして、徹・底!して『視る』必要がある。
愛弟子のことを思うのは当然のことだ。
そのことをメイド長に言ったところ、「馬鹿ですか?」とぶった切られました。
失礼、話が逸れてしまったね。
私は、娯楽欄にでかでかと書かれている内容に、呆れを持った溜息を零した。
「あーあ、結局はこうなったのね。
全く、シスコンもここまで来ると害悪だと気付きなさいよ」
「お嬢様、今朝の新聞に何か面白いことでも?」
「面白いかは別としてね。メルアもこれ、読んでみる?」
「お嬢様、私はただのメイド長です。その名で呼ばないでください」
「良いじゃない。今この部屋にいるのは私とメルアだけよ。
この場にいるのは、貴族のお嬢様でもメイド長でもないわ」
「その言い方は・・・卑怯ですよ」
私の言葉に、メルアは何かを堪えるようにして、言葉をこぼす。
根負けしたメルアは、私が差し出した欄の内容に目を通す。
「『今代の赤龍帝、囚われの姫君を助けに結婚式に乱入』ですか。
そう言えば、キアラ様に結婚式の招待状が送られてきましたが、お出かけになりませんでしたね」
「まぁね、色々と理由をつけて断っておいたよ。
私のような者があの場に行ってしまうと、他の貴族が口うるさいからね」
「キアラ様・・・」
「それにしてもメルア、相も変わらず私を様付けなのね。
キアラで構わないって言ってるのに」
「これが私が出来る最大の譲歩です。
キアラ様を呼び捨てなど、私には恐れ多くて・・・」
「貴女の真面目さは美徳だけど、生真面目過ぎるのも考えものよ?
もっと気を楽に生きなさいな」
「生憎、これが私の性分ですので」
顔を少し赤らめ、私を睨みつけるメルアに、私は面白さと申し訳なさが入り混じって苦笑する。
「それにしてもキアラ様、先ほどの漏らした言葉はどういう意味でしょうか?」
「なんてことないわ。
これは妹離れが出来ないサーゼクスが、起死回生に行った『奇跡』よ。
赤龍帝を使ってのね」
首を傾げるメルアに私は語る。
「こうなったのは、サーゼクスの介添えでしょうね。
そう考えれば、色んな疑問が解決するのよ。
それこそ、どうやって赤龍帝が結婚式の場に現れたのかしら。
どうやら彼、自分で転移出来るほどの魔力すら無いらしいじゃない。
それに赤龍帝とライザー・フェニックスが戦うことになったのは、サーゼクスの口添え。
文を読めば書かれているけど、余興として赤龍帝を呼んだみたい。
そんな話は、事前の打ち合わせでは無かったらしいのに。まさに、サプライズ企画。
流石に魔王様のお言葉に逆らう愚者なんて、あの場にいなかったでしょうし。
まあでも、これはただの予想でしかないから、真実なんて分からないけどね」
渇いた喉を紅茶で潤す。
「結果は赤龍帝が勝利し、妹君の婚約は見直し。すべては彼の思惑通りってことなのかしら。
それに、妹君と赤龍帝に華々しい経歴が着いたわけだしね。
『姫君を救った素晴らしい眷属』だの『無敗を打ち破った期待の新人悪魔』だの。
これなんて特に面白いわ、『主と眷属の麗しき愛の勝利』」
書かれている記事に、私は渇いた笑いが浮かぶ。
そして直ぐに、溜息を吐く。
「でも、サーゼクスは気付いているのかしら。
この結婚式騒動の影響は、良いものだけではないってことに」
「それはどういう意味ですか?」
「婚約に関しては、以前からグレモリー家とフェニックス家で結ばれていたもの。
そして今回の婚約騒動に関しては、フェニックス家のおぼっちゃんが先走りしたが、
レーティング・ゲームで決着を決めるというのは正式なもの。
それも、魔王様直々に取り決めたものよ」
「ええ、それは確かにその通りです。
そしてリアス・グレモリー様は敗北し、結婚式を挙げることになりました」
「その通り。でも、その結婚式はぶち壊された。
リアス・グレモリーの眷属である赤龍帝によってね。
しかも、それを魔王様が補佐した可能性がある。
さて、問題。
誓約に則って行われていた結婚式ですが、それを直前で破談にされました。
しかもそれが、相手側による一方的な言い分な上に、それを支援したのが魔王様という可能性。
そして魔王様の実家は、今回の件で一方的に破談したグレモリー家。
さて、他の貴族たちはどう思うでしょうね?」
私は残った紅茶を飲み干して、深い溜息を吐く。
「サーゼクスだって馬鹿ではないわ。でも今回の件は拙かったとしか言えないわね。
まあでも、やってしまったことはもうどうにもならないし、あとは野となれ山となれ、ね」
私は彼の妹君、リアス・グレモリーについて思い出す。
今回の件で、彼女は世間から注目されるだろう。
『無敗を打ち破ったルーキー』『赤龍帝を従える紅髪の滅殺姫』
『魔王ルシファーの妹君』『情愛のグレモリー』などなど、多くの賞賛を浴びて。
願わくばその賞賛が、彼女の破滅に繋がらないことを願うばかりだ。
天狗にならないと良いわね。
私はふと、レーティング・ゲームで見た赤龍帝が頭を過った。
私は彼のことを『面白い』と評した。
確かに、洋服破壊(ドレスブレイク)といった技は面白勝ったと言える。
あの後すぐに、人形に鎧を着せて同じようなことをしようとし、
それを見たメルアが顔を真っ赤にして怒ってきたのだが。
あの時、私が『視た』赤龍帝は、はっきり言って『歪』だった。
まるで、三文役者が舞台で必死に役を演じているような、そんな歪さだ。
それに加え、何やら赤龍帝以外の何かを感じたと言っても良い。
それこそ、何か身の丈にあっていない何かを持っているような。
まあでも、サーゼクスのことだ。
先ほども言ったが、彼だって馬鹿ではないのだから、
私の言葉の意図を見抜いてくれるだろうさ。
それに、赤龍帝が私に対して無害ならば、こちらから喧嘩を売る気もない。
うむ、平和が一番。
そう思っていた私は、部屋の空気が重苦しくなっていることに気が付いた。
しまった、自分の勝手な予測を語ったせいで、空気が重い。
は、話を変えてこの空気を変えなければ!
「そ、そう言えば、セイウェルがお友達を連れてくるかもしれないと言っていたな!
いやぁー、楽しみだなぁ!どんな子を連れてくるんだろうなぁ!」
「キアラ様、声が震えていますが大丈夫ですか?」
「ええ、もちろんですとも!私はキアラ・ダンタリオン。
ダンタリオン家の当主にして、あらゆる情報をぶち抜く悪魔よ?
ええ、徹底的に調べて、もしもセイウェルを騙していたなら、
地獄よりも地獄を見せてあげなければね」
「お嬢様、正気に戻ってください!」
メルアのお盆攻撃が私の頭に直撃!私は正気に戻ったぞ!
痛む頭を擦りながら時計を見れば、もうすぐ正午をさしそうな時間。
そして噂をすれば、入り口の扉が開く音が聞こえ、「ただいまー!」というセイウェルの声。
「お帰りなさいセイウェル。まずは手を洗ってうがいをしなさい」
「はーい!」
「はいは一回ですよ、セイウェル様」
うがいと手洗いをしたセイウェルは、私とメルアの二人へとやってくる。
「あのね先生、私、お友達を呼んできたんだけど、いいかな?」
「何をいうんだセイウェル。言っただろ、お昼を一緒にどうだい?と。
私もセイウェルの言う、オーちゃんを『視て』みたいからね!」
「お嬢様、字が違ってますよ」
「本当に!?良かった!じゃあ呼んでくるね!」
そう言うと、セイウェルは入り口へと声を張り上げる。
「入ってきていいよー!」
ほう、入り口にいるのだな?
さてオーちゃんとやら、その姿をじっくりと調べ上げてやらねば!
「我、セイウェルの友人」
ちんまりとした背丈のゴスロリ少女が入ってきた。