ガンゲイル・オンライン 〜ピンク色のチビと影を好む死神〜   作:人類種の天敵

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どうもお久しぶりです。エタってすみませんっしたー。
アニメGGOが始まりましたね!レンちゃんがとても可愛いんですがどうすれば良いでしょうか?そしてシャーリーも可愛いです!しかし自分としては早々にSJ3にて嫁のMP7が見たいです!

あ、リアルでもコン電のMP7を買いました!可愛いです。毎日ぺろぺろしたいです。GATEの外伝に出たMP7みたいにサプレッサー やらホロサイトやらレーザーサイトやらでドレスアップしたいです、ハイ


香蓮と藍香

 

 

その日、小比類巻香蓮は彼女にしては珍しいことに体調を崩して病院に来ていた。

生まれてから今日まで風邪や病気の類に掛かったことはない香蓮だが、身体に強く覚える怠気に病院へ行くことを決意したのだ。

ならば善は急げと最寄りの病院へ向かい、事務の人からの「身長高っ!」という視線を素知らぬふりで流し、診察してもらう。

 

「お薬を処方しておきますね。小比類巻さん」

 

「あ、はい。ありがどうございます」

 

幸か不幸か、軽い風邪だったようで、いくつかの風邪薬を処方して貰った香蓮は用も終えてそそくさと周りの好奇の視線から退散することに。

 

「あれ?」

 

その時香蓮の足に何かが当たった。

視線を床に向けると、そこには小さなボールが。

ふと横を見ると、1つの病室の扉が開いており、そこからボールが転がって来たのだと分かった。

香蓮は足元のボールを取ると、その病室の中へ入っていく。

 

そして自分が入るだけの扉を開けた、その時だった。

ザァァァァ、と風が香蓮の短い髪の毛を攫った。

 

「わっ」

 

刹那の突風に香蓮は目を細め、右手を腰だめに、左手で顔を遮る。

それはまるで突発的な至近距離からの銃撃戦にヘッドショットだけは防ごうとした姿で、右手のピンと伸びた人差し指が引かれる。

 

本当に一瞬の動作だが、人は想定しないことが起こると、日々習慣づけられた行動が咄嗟に出てしまう、そのお手本のような光景だ。

 

ハッ、と自分の行動に気が付き、香蓮は恥ずかしいやら死にたいやらの気持ちでいっぱいになった頃、

 

「え?」

 

「……」

 

そこに、少女がいた。

 

純白のベットの上、窓の外を眺めるその少女。

 

肩の上でバッサリと切られた黒髪、身長150あるかないかのその華奢な身体つきは、香蓮が強く抱きしめるだけで壊れてしまいそうなくらいに儚い様相を漂わせていた。

 

そしてなによりも香蓮の心を揺さぶったのは、

 

「…………………………『レン』?」

 

その少女が、GGOで小比類巻香蓮が使うアバター『レン』と瓜二つの外見をしていたからに他ならない。

 

「………」

 

少女は喋らない。

窓に向けていた顔を香蓮に合わせて以降、何一つ身動ぎせず香蓮を見つめている。

そして香蓮は不思議な感覚に駆られていた。

 

(レン……?でも違う。だってレンは私の、GGOのアバターだから)

 

少女は言ってしまえば現実世界のレンだった。

ただし、香蓮がGGO内でレンを使ってなりきってみせるような元気で快活で幼くて愛くるしい……それとは全く正反対の姿。

 

儚く、虚で、静で、脆い。

 

その少女とレンを重ねて、香蓮は息を呑んだ。

 

「………ラン?どうかしたのか」

 

「っ!」

 

後ろから声が聞こえた。

慌てて振り返ると、そこには香蓮の背丈とさほど変わらない男がいた。

黒尽くめの格好、瞳に、立ち姿に、鋭利さを見せる男に、香蓮はまたも息を呑んだ。

 

おかしな事に、GGOでの経験がレンに目の前の男が強者だという予感をひしひしと感じさせていた。

 

「あ………どなたですか?」

 

「え、あ、えと」

 

今度はまた違う意味合いで香蓮の鼓動が早まる。

身長というコンプレックスからだんだん人と話すことをしなくなった香蓮にとっては、初対面の人と話す事になると緊張してしまう。

 

それは相手が自分の背丈を見て引かれてしまうのではないか、とか、そういう類の、彼女自身が溜め込んで来たコンプレックスから来る他人との関わり合いの苦手意識なのだが。

 

ともかくしどろもどろになった香蓮がわたわたと慌てていると、レンに似た少女はスッと白い肌色の指を香蓮の手元へ向ける。

 

「ラン?……あぁ。なんだ、そういうことか」

 

そうして男も納得するように頷き、香蓮に対する視線を幾分か緩めて手のひらをそっと香蓮の手元のボールに向けた。

 

ーーレンにとっては目の前に突きつけられた銃口を下ろしてもらって、警戒されなくなったように思えた。

 

「それ、あの子の持ち物なんです。拾って…下さったんですよね」

 

「あ、えと。はい」

 

そこで香蓮も自分が持っていたボールに目を落とし、これ幸いと男に手渡すことにした。

すると男は随分と柔らかい笑顔でそれを受け取り、ベットの手前で腰を落とすと、少女の膝の上にボールを乗せた。

 

「はい、ラン」

 

無表情にボールを見つめる少女と少女の頭をそっと撫でる男。

 

男はゆっくりと立ち上がると、少し外に出ませんか、と香蓮に提案した。

 

最初の印象は鋭く尖っていて怖い……そんな男のイメージも、困ったように眉を八の字にへこませて笑う男を見てると、香蓮の心からたちまちに霧散した。

では、と前置きをして香蓮と男は少女のいる病室を抜けた。

 

「僕は小鳥遊柊。〝小鳥と、遊ぶ、柊〟と、書いて柊。漢字はヒイラギなんですけど、読みはシュウです。……って、なんだか変ですよね」

 

ああ、この人も名前の読み方で苦労してるのだ、と、香蓮は思った。

やはり困ったように自分の名前を教えてくれた男に、香蓮もまた困ったような表情を浮かべて、

 

「わたしは、小比類巻香蓮です。〝小さく、比べる、類いに、巻いて、香る蓮〟で、香蓮です。わたしは、苗字が珍しいと、よく言われました」

 

なるほど、目の前の男もーー柊も小比類巻という苗字を知らなかったのか、目を丸くして数秒。

香蓮と柊は互いに顔を見合わせてくすりと笑みをこぼした。

おかしくて声を上げないように含み笑いをしたのは香蓮と柊が病院内でのそういう常識を持ち合わせているからだろう。

 

珍しい名前を持ち、困った顔でそういう所にも気を使う柊に、香蓮は好感を持てた。

 

「さっきはあの子の落し物を拾ってくれてありがとうございます。小比類巻さん」

 

「あ、香蓮で良いですよ。ーーそれで、『ラン』ちゃん、ですよね。小鳥遊さん」

 

あのレンに似た少女を思い浮かべて香蓮は聞いた。

 

「はい。僕の妹で、小鳥遊藍香。奇遇ですね、あの子も〝藍の香り〟で藍香、なんです。それと、僕のことも、良ければ柊と呼んでください」

 

確かに奇遇だ。

どちらも名前に花を冠し、二文字で、片方に関して全く同じというのだから。

これだけでも彼女を更にレンに似て考えてしまう香蓮は、似た者同士という、不思議な感情を抱いてしまった。

 

「本当に奇遇ですね。それに良い名前。藍香ちゃんに似合ってると思います。私と違って」

 

ついつい言ってしまった本音、ただそれは香蓮が長年に渡って感じて来た本音だ。

長身ノッポの自分に、苗字が唱える小さいなんて言葉は、とてもじゃないが似合わない。

 

「そうですか?似合ってると思いますよ。香蓮。とても可愛いと、そう思います」

 

「ひょえっ!?」

 

彼の勘違いしたフォローに香蓮の口から思わず変な声が漏れた。

可愛いなど、友人や家族親戚を除けば現実の自分に言ってくれる皆無だったので柊の不意打ち気味の言葉は香蓮に効果覿面といえた。

可愛い、その単語を聞いて、理解して、耳に、脳に、反芻して、香蓮は思わず病院内では不適切とも言える抑えきれなかった、うわずった裏声を上げてしまう。

 

「ど、どうしました?あれ?なんか僕、まずいこと言いましたか?」

 

そうではない、そうではないが。

 

(は、恥ずかしいぃ……で、でも、嬉しい……?)

 

顔を覆いたくなるほどの羞恥心と身長以外のことで可愛いと言ってもらえた嬉しさ(?)に板挟みにされた香蓮は両手で頰を抑えて口角の緩みを阻止し、そのまま腰を下ろした。

 

その香蓮に慌ててフォローしようとする柊を傍目から見れば病院内でイチャイチャするバカップルに見えることだろう。

 

 

 

 

結局その後少し話をして香蓮は自宅に帰った。

それでも、柊から香蓮に初対面なのに藍香が懐いてるいるのだと聞いてまた会いに行く旨の話をした。

 

会う口実を作るだけでも、香蓮にとってはイカジャムをもう2度程潜り抜けたような労力である。

 

「男の人と初対面であんなに話したの。いつ振りだったっけ。緊張したなぁ……」

 

今日の出来事を親友に話しても良かったが、そういう類の話が好きな趣向の持ち主なので、しつこい程に根掘り葉掘り聞かれるのは予想出来る。

なのでまたいつか話の肴にでもすれば良いかと考えることにして夕食の準備を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

あたり一面を覆う暗闇に、白か黒か、明暗を繰り返す星空が浮かんでいる。

そして地上、照らされては闇夜に消えるフィールドを2人の男が散策していた。

とは言っても、その速度は呑気な散歩を思わせ、周りへの安全確認することもせずひたすら目の前だけを見つめているため、遠方から狙撃銃で狙われれば驚くほど簡単にキルされてしまうだろう。

 

その中で2人のうちの大男ーーー名をいっしーと呼ぶーーーのプレイヤーがM60E4を肩に担いで悠々と歩きながら傍の全身黒ずくつめの男ーーーシュープリスーーーへ話しかける。

 

「なんか機嫌良いな?女でも出来たか?」

 

「そんなんじゃない。あの子にとって良い話し相手ができたーーーそれだけだ」

 

シュープリスのリアルは小鳥遊柊である。

そしてプレイヤーいっしーはシュープリスとリアルでも交友のある人物で、その歴史はSAO以前からと、今更リアル割れを気にする間柄でもない。

その為、シュープリスはなんでもない風に答えた。

 

「へえ!ランちゃんの。そりゃなんともまあ。……女か?」

 

直ぐに下世話な話に移ってしまういっしーにこれ見よがしのため息をつきながら「そういう類の話はしない」ときっぱり断った。

しかしいっしーは、わははははははは、と笑いながらシュープリスの背中をバシバシと叩く。

 

「わりーわりー!そういうことじゃなくてよ!!もし女の子の、それもとびっきり美人だったらお前とくっつきゃいーのに!って思っただけだ。気ぃ悪くすんな!なにせランちゃんとも気が合うんならお前にとっても都合が良いだろ?」

 

「……」

 

それもそうか?いや、そういう話か?ーーーシュープリスは一度その言葉を飲み込み、彼の妹と言葉少なくとも話をしていた彼女の、香蓮と言ったあの女性の横顔を思い返してみた。

 

……スッとした顔立ち、長い睫毛、艶やかな黒髪、形の良い眉毛、理知的な会話、妹を見る目ーーーシュープリスのリアルの小鳥遊柊から見た香蓮は今まで見たことがないほどに美しいと思える女性であり、妹藍香を見る目もとても好ましいと思える。

 

「お、マジで女でマジで可愛いのか」

 

「……」

 

いっしーの野次にギロリと不機嫌そうに睨みつけるシュープリス。

しかしいっしーはそれを受けてなお鼻歌交じりに笑って彼を指差すのだ。

 

「お前、色々と顔に出過ぎ」

 

「……」

 

指摘されて、シュープリスは頭を僅かに伏せて思考する。

 

(俺はあの時以来。そういう考えが顔に出るって言われたこと、無かったんだけどな)

 

あの事件の、柊とその妹の藍香を巻き込んだ事件から、彼は表情という表情を捨て去ったつもりだった。

表情を消し、感情に蓋をして、SAOで禁じれたタブーを犯し続けた彼にとっては表情も、感情も、心さえ在ってはならないものだった。

 

ーーー1つ残らず忘れなければならないものだった。

 

何故なら、それらは彼の妹が忘れてしまった大切な心だから。

 

「別に忘れていることを忘れるなって言ってるわけじゃねえぞ?なんだ……ただの、揶揄いジョークってやつだ。バカ」

 

やっちまった、という素振りで頭を掻き、気まずさにそっぽを向いてぶっきらぼうに長年の友は言う。

 

「今更だけど、悪りぃな。こんなゲームに誘っちまってよ」

 

「別に。俺にとっては割りの良いゲームだ。それに、お前が居なかったらランは生きてなかったかもしれないし。あの子にとって良い環境を作ることも出来なかったさ。感謝してるよ」

 

いっしーの気遣いと照れ隠しに返事を返しながら、同時に彼の謝罪に感謝を返す。

 

その言葉にいっしーは怒り、悲しみ、後悔、それらの複雑な表情を浮かべ、「ほかに、何か方法があれば、よかったんだけどよ」と呟いた。

 

「お前は良い奴だよ。連れ合いが長いってだけの腐れ縁とその妹に、ロストから守ってくれて、こうして現実世界の金稼ぎまで教えてくれたんだ」

 

たしかに、GGOでは他のゲーム媒体との違いとしてVR世界で手に入れた仮想通貨を現実のお金に換金することができる。

それこそがランに設備も防犯対策もこれ以上ない環境を与えることが出来、兄妹がこれまで生き続けることが出来た手段でもある。

 

「眠ることすらできない今が、か?」

 

いっしーの問いに、シュープリスは答えない。

 

その姿に、やはりこんなゲーム教えるんじゃ無かったといっしーは思った。

 

現在柊が送っている現実世界での生活は半学生兼半ゲーマーのようなもの。

 

現実世界ではSAOサバイバーと呼ばれる悪魔のゲームことSAOから生還することができたプレイヤー達のための学校に通い、帰宅してからはGGOの仮想世界で時にはモンスターと、時には他のプレイヤーと殺し合いを続けている。

 

いっしーもSAOに巻き込まれた人間としては稀有なゲームに殺される瀬戸際を体験してもなおゲームにのめり込んでしまった人間だが、一応現実と仮想世界の区別は付いている。

 

それも、VRをするのは平日は12時まで、休日は徹夜ーーーという区別だが、それでも尚彼がゲーマーと言われれば納得のできることかもしれない。

 

「お前、今。一体いつ寝てるんだ」

 

朝は学校へ行き、帰ってからは次に外に出るまでゲームの中で過ごす。

信じられないことに、彼は帰宅する途中でランの世話をする以外は全てゲームをしているのだ。

 

そして、いっしーの問いかけに、自嘲気味に口元を歪ませた男は。

 

「眠れないんだ。もう、ずっと。……あの時から」

 

 

ーー俺が殺した奴らが目を閉じた瞬間耳元で囁く。

 

ーーお前に安寧の日々など訪れないと。

 

ーーヒトゴロシのオマエに日常などイラナイと。

 

ーー死神に眠る事など到底許されない。

 

 

シュープリスはスリングで固定したサプレッサー付きMP7のグリップを手繰り寄せ、コッキングレバーをゆっくり引いてから弾いた。

いっしーが彼の視線を辿ると、そこには死神に目をつけられた哀れなプレイヤーたちが6人、ここは戦場だというのに周囲への警戒もしないままギャハハハハと笑い続けている。

2人にとってはこれ以上ないカモーーーもとい“お客さん”だった。

 

「今日は土曜日。どうせ付き合ってくれるんだろ?ーー落ちんなよ」

 

「へいへい。もしぶっ倒れたらその横っ面ぶん殴って起こしてやるよ」

 

 

 

 

黒い死神と獰猛なジャガーノートが戦場を駆る。

 

パララララ、プシュプシュプシュと銃撃音が数10秒ほど続いて、その後、夜の荒野は静かに冷えた。


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