誕生日が楽しいなんて誰が決めた?   作:月白弥音

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大切なもの(希誕)

彼女は幼い頃から運が良かった。

おみくじを引けば絶対大吉が出るし、商店街の福引きを引けば必ず二等以上が出る、といった具合に。

彼女は自他共に認める運がいい女の子だった。

 

 

 

 

 

 

その日は雪が降っていた。

その影響からか、交通手段は軒並み麻痺し、道路は渋滞しほとんど動いていなかった。

彼女たちはラブライブ! の最終予選に臨んでいた。

彼女たちのうち3人は生徒会の仕事があり、学校に行っていた。

そのためほかの6人は先に会場入りし、学校にいった3人を待っていた。

「穂乃果ちゃんたち、間に合うかな?」

窓から雪降る外を見ながら彼女はそっと呟いた。

「大丈夫よ、希」

「えりち」

絵里が窓辺にいた彼女、希に声をかける。

「音ノ木坂のみんなも協力してくれてるみたいだし、ね? 穂乃果たちを信じましょ」

絵里がスマホの画面を見せながら希に言う。そこに書いてあったことを読んで希はようやく、そうやね、と安心したように笑顔を見せ、頷いた。

しばらくたって、音ノ木坂にいた生徒から学校にいた三人――穂乃果たちが走って移動し始めたという連絡を絵里が受けた。

「もうすぐ穂乃果たちがこっちに来るって! 私たちも途中まで迎えに行きましょ!」

絵里の音頭で会場にいたμ'sのメンバーが会場から飛び出し、穂乃果たちを迎えに行くために外に出て駆け出す。

先ほどまでまるで吹雪のようだった雪も、今は少し弱くなり、音ノ木坂の生徒全員で雪かきをして作ってくれた道を駆けてくる穂乃果たち。

––みんなが協力してくれてる

自分の小さな希望(のぞみ)を叶えてくれたμ'sを学校の生徒みんなが支えてくれている。

それを思うだけで希は胸がいっぱいになりそうだった。

「穂乃果!」

「絵里ちゃん!」

絵里が3人の一番前を走っていた穂乃果を呼び腕を広げる。

そして、その胸に穂乃果は飛び込んだ。

「寒かったよ、怖かったよ!」

絵里の胸の中で子供のようになきじゃくる穂乃果。

「これで終わりなんて嫌だったんだよ〜この9人でできるのはこれで最後だから、みんなで最高の結果を残したかったんだよぉ!」

「穂乃果……」

二人のやりとりを聞きながら微笑ましく思ってた希は

「ったく、こんなことで泣きそうになってるんじゃないわよ」

にこに言われて初めて自分の目に涙が浮かんでいることを自覚する。

「にこっちだって……」

「わたしは泣いてない!」

仕返しに希もにこが涙を浮かべていることを指摘すると、にこは希から顔をそらせた。

三年生たちだけではない。時間通りに三人が到着したことにμ'sのメンバーだけでなく、雪かきを手伝った生徒たちも安堵していた。

だからこそ、誰も気がつけなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白い魔物がすぐそこに迫ってきていることに。

 

 

 

 

 

 

 

魔物は先ほどまで高速で動いていた。本来ならそれはゲートを出た瞬間に改めなければいけなかったが、操獣者もきっと焦っていたのだろう。

故に、対応が遅れた。すぐに止まれと指示をしても魔物は急に止まることはできない。さらに雪という環境要因で止まるまでにさらに時間を要するだろう。

 

 

 

 

 

魔物の接近に最初に気がついたのは希だった。

「えりち! 穂乃果ちゃん!」

希の声で初めて事態に気付いた二人だが、もう逃げられる余裕は残されていなかった。

「穂乃果!」

「絵里ちゃん!?」

咄嗟に絵里は穂乃果を突き飛ばした。

そして……

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、白い魔物は絵里の体を食らった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雪によって白くなっていた道路が赤く染まった。

「え、えりち……?」

おぼつかない足取りで絵里に近づく希。絵里の横にまで行くと崩れ落ちるように膝をついた。

「えりち、ねえ、えりち……!」

希は呼びかけながら絵里の体をゆする。

「え、絵里ちゃん……」

突き飛ばされた穂乃果はショックを隠せないようで、呆然とその場に座り込んでいる。

この非日常的な状況で一番最初に我に返ったのは真姫だった。

「希、一回離れて。それをやる方がもっと出血が増えるから。あと誰か救急車! それと会場から救急セット持ってきて!」

真姫の冷静な指示でその場にいた全員が行動を始める。

真姫は絵里の体を一通り診て思っている以上に悪い状態であることを知る。

直接ぶつかった左腕は折れた骨が突き出し、腹はかなり張っていて内臓破裂を連想された。他にも骨折しているであろう部位が何か所もあり、頭部からの出血によりきれいなブロンドの髪は赤に変わっていた。

真姫は出血部位を押さえ懸命に止血を試みるがとめどなく血があふれ真姫の制服をも汚していく。

「希! 絵里の手を握って! 何度も呼び掛けて!」

大きな目に涙をいっぱいためていた希は真姫に呼ばれ絵里に近づく。

「えりち……えりち! 死んじゃやだよぉ……私はえりちがいないと……えりち!」

似非関西弁で演技なんてできる余裕はなかった。彼女の本心が言葉に乗って紡がれる。

「私、まだえりちとお話したいことたくさんあるの! それにまだラブライブ!優勝してないでしょ! だから……だから……!」

彼女の魂の声は紡がれる。

そして――

 

 

 

 

 

 

――その魂は奇跡を起こす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「の……のぞ、み……?」

絵里が意識を取り戻す。

「えりち!」

「ライブは……?」

「まだだけど……その体じゃ無理よ……」

「ほ……か、は……?」

「穂乃果ちゃんは大丈夫。えりちが守ったおかげ。でも……」

「よかった……希、たちはい……って? ごほっ! セ、センターが、いれば、ライブはできる、はず……」

血を吐きながら最終予選に出るように言う絵里。

「無理だよ!えりちがいないと……だってμ'sは9人なんだから!」

頑なにそれを拒む希。

「みんなの、μ'sの、夢を、ここで……」

「ここで? ここで何!? えりち、えりち!」

絵里は再び目を閉じた。

そして交通網が麻痺している中ようやく救急車が到着し、絵里を引き渡す。

「同乗されていかれる方はいますか?」

一斉に顔を見合わせるμ'sのメンバー。

「いいえ、大丈夫です」

『え?』

にこが申し出を断った。

「絵里はライブに出ることを願って穂乃果を守った。ならにこたちは最高のパフォーマンスをして、絵里が本選に出れるようにするべきじゃないの?」

「そうね、それに私たちが行ってもやることは何もないし。にこちゃんの言う通りかも」

にこの意見に真姫も賛成する。

「そう……だね。あんな風になって穂乃果を助けてくれたんだもん、期待に答えなきゃ……」

「そうやね……えりちが自分からそう言ってきたんやし。うちらはえりちの期待に答えよ」

穂乃果の言葉に希も同意する。普段のようにふるまってはいるが、希の声にいつものような優しさと余裕は感じられなかった。

「希ちゃん、大丈夫?」

「大丈夫、うちは平気や」

「ならいいけど。絵里ちゃんがあんなことになっちゃったし、つらかったら言ってね」

「ありがとね、ことりちゃん」

普段通り強がった希だがことりはきちんと気が付いていた。だが、彼女の優しさゆえに聞き出さずに放置した。してしまった。だから希の苦しみは蓄積される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女たちはこの逆境の中精一杯のパフォーマンスを見せた。

だが、彼女たちは本選に進むことはできなかった。

当然のことだった。

絵里のことを気にかけて集中できていない状況では、前回大会優勝者であるA-RISEになど勝てるはずがない。

『残念だけど、あなたたちのライブは今までで最悪だったわ。何があったのかはわからないけど中途半端な決意であの場にいてほしくなかった』

A-RISEのリーダー綺羅ツバサからは酷評され、スクールアイドルのホームページでは同情する声と心配する声が目立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ以来、希は絵里のお見舞いに毎日向かっていた。

集中治療室、ICUには家族しか入ることができないため、希は絵里の横にいって声をかけることができない。ICUで管だらけになりながら機械で生かされている絵里を見るだけしかできないが、それだけでも少し心が満たされる気がした。

毎日、絵里の目が覚めることだけを祈り通いつづける希。だが、彼女はすでに気が付いていたのかもしれない。

彼女が望んだ希望(未来)なんてもう二度とこないことを。

それでも彼女は通い続ける。

ほんの一握りでも可能性があると信じて。

毎日、家に帰ってから何度も何度もタロットカードを広げた。

だが、結果はどれも悪いものばかり。自分が一番信頼し、よく当たるといわれていたからこそ、このカードたちが示す未来が彼女をより不安にさせた。

だんだんやつれていく希を見た他の七人はなるべく一人の時間を作らないように気を付けていた。

なるべく彼女の苦しみを和らげるために。

彼女の苦しみを共有するために。

だが、彼女は嘘に慣れ過ぎていた。自分の本心を話すことなく、ただ周りを安心させる。

そんな嘘をつき続けていたから。

その嘘に気づいていながら誰も彼女の心に深く関わろうとしなかったから。

 

 

 

 

ついに希は学校に来なくなってしまう。

それほどまでに追い詰められていることを知ったメンバーは放課後練習を行わず、希の家に向かう。

しかし、そこに希の姿はなかった。

希の家を飛び出した7人は、にこと真姫と花陽、穂乃果とことり、海未と凛の3組に分かれ、希を探す。

家の周りーー

「希ちゃーん!」

「希ー!」

「はぁはぁ……ったく、どこ行ったのよ、希……」

秋葉原ーー

「希ちゃーん! どこにいるのー!?」

「どこにもいないよ。どうしよ、穂乃果ちゃん……」

「きっと見つかるよ、もっと探そう!」

神田明神

「希、きてませんか?」

「今日は彼女、来てないね。最近元気なさそうだったけどなんかあったのかい?」

「海未ちゃん、どうしよう……」

「すみません、今、ちゃんと説明している時間はないんです。とにかく希を探しましょう、凛」

どこにも彼女の姿はない。

絵里の入院する病院にも連絡を取ったが、今日は絵里のお見舞いに来ていないという。

これ以上彼女の行き先に心当たりは……

グルーブ間で電話で相談をするが、今まで探した場所以外にいそうな場所が思いつかない。

そうしていううちに

「学校は……?」

誰ともなくそんな声が漏れた。

その言葉を聞いて他のメンバーもはっと息を飲む。

誰も考えていなかった。

今日、希は学校を休んだのだから。

だから気が付かなかった、彼女が絵里との思い出の場所として真っ先に選ぶであろう場所に。

曇り空の下、彼女たちは駆ける。自分たちが先ほどまでいた学校へ。そこに希がいることを信じて。

それぞれが形容し難い不安を胸に抱え、全力で走る。

そして、7人は校門で合流。息を整えることもせずに学校内に入る。

「あれ? 屋上に誰かいるにゃ……もしかして希ちゃん?」

とにかく手あたり次第探そうとしていた彼女たちに発された凛の言葉。それに他の6人はつられて上を見る。

そこには確かに長い髪を二つ結びにしているシルエットがあった。

「まさか……!」

真姫が何かに気が付いたように屋上に向かって走り出す。わけがわからないほかのメンバーも一瞬顔を見合わせ、とりあえず真姫に後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

真姫の予想、それは真姫自身が一番あってほしくないと考えたものだった。

 

 

 

 

 

ーー自殺の可能性

 

 

 

 

 

 

 

 

できれば当たってほしくないと思っていた予想。

だが、彼女の予想は当たっていた。

希は絵里との思い出が詰まったこの場所で死のうと考えていた。

もう自分がいてもやることはない、絵里という居場所がなくなった自分にはもういられる場所なんてない、そう考えて。

 

 

 

 

 

「さようなら……」

 

 

 

 

 

 

 

まさに体を投げ出そうとした時、

「希! はぁはぁ……まさかあなた、自殺しようなんて考えてないでしょうね……?」

屋上の扉が乱暴に開かれ、真姫の鋭い視線が刺さった。

 

 

 

 

 

彼女は運がよかった。

 

 

 

 

 

 

 

屋上から飛び降りる前に彼女を心配する仲間が助けに来てくれたのだから。

「ええ!? そうなの!?

希ちゃん、死んじゃだめだよ! きっと絵里ちゃんだって目が覚めるよ!」

「もう無理だよ……何度やってもそんな未来、カードは教えてくれない……」

「だったら、そんな未来変えてみようよ!」

「え……?」

「ライブをやろうよ! 絵里ちゃんを応援するためのライブ。穂乃果たち、今までずっと歌の力で何とかしてきたじゃん! だから、絵里ちゃんだってきっと……」

あいかわらず、穂乃果の思い付きは突拍子もない。

だが、それゆえにμ'sはここまでやってきた。

だから今回も。

もしかしたら奇跡を起こせるのではないか。

絵里というよりどころを失っていた希にとって彼女の言葉は唯一の救いになる。

「それに希を入れてμ'sなんです。自分から入ってきたんです、勝手にいなくなろうなんて許しませんよ?」

『9人や、うちを入れて』

そう、希は少し強引にμ'sに入った。その時の言葉がリフレインする。

「でも、もうμ'sは……」

「9人じゃないから活動できない……?」

そう確かに彼女の居場所は絵里だけではない。むしろμ'sの方が最近では彼女の居場所になっていたかもしれない。

だが、絵里がいないから、9人じゃないからμ'sまでもが希の居場所として失われるてしまう。

少なくとも彼女はそう思っていた。

「ふざけるんじゃないわよ……!」

そんな彼女ににこは静かな怒りを爆発させる。

「絵里がいないから、9人じゃないからってμ'sすら活動できないって? いい加減にして。人数なんて関係ない。私たちはスクールアイドル、アイドルが他のメンバーの回復を願ってライブやるのはよくあることよ。

それにね……

いつまでそうやってふさぎこんでるつもり!

話しなさいよ、あんたのこと。話すだけでも随分と楽になるもんよ。絵里があんなことになってみんな辛く思ってるの。希だけじゃないわ。

希、あんたの話聞かせて。一人で背負えないならみんなで背負えばいいじゃない。希にはそういう仲間がいるんだから」

冷たい言い方、それなのにどこか温かみのある言葉。

とてもにこらしい言葉に冷たく閉ざされていた希の心が溶け出す。

「……えりちが、あんなことになったのに、私、わたし!……何もできなくて。毎日お見舞いに行ってもガラス越しで声をかけてあげることもできなくて……

ぅ……なんでえりちだったの……? なんでわたしじゃ……」

「辛かったわね、今は私たちしかいない。だから、存分に吐き出しちゃいなさい」

「うっ、うぅ……にこっちぃ……」

希はにこに抱かれ、子供のように声をあげて泣きじゃくる。

そして、身体中の水分の一緒に溜め込んでいたものを全て吐き出したように泣きやんだ時、雲の間から一筋の光が差し込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絵里の応援ライブはすぐに準備が行われた。

場所は今まで一番よくライブを行っている音ノ木坂の講堂。

披露する曲はもともとラブライブ本選で披露するつもりで練習を続けてきたKira-Kira Sensation! とBiBiの曲、ラブノベルス、そして急遽作った新曲、Happy maker! の三曲だ。

突然決まったライブだったが、久しぶりのライブとあって講堂は満員になり、立ち見の人も出ていた。

「みんな、ぶつけよう。絵里ちゃんが早く良くなりますようにっていう気持ちを!」

『うん(はい)!』

決意を新たに彼女たちはステージに上がる。

まずは新曲、Happy maker!

ボンボンを使い、まさにチアリーディングのようなパフォーマンスで絵里の応援をするかのよう。

実際に応援歌のような歌詞なのだが

「レッツスマイル! レッツスマイル!」

その歌詞は絵里だけでなく、自分たちも応援しているかのようだった。絵里のことでふさぎ込んでいるのではなく、笑顔で待っていよう。そんな思いが伝わってくるようだった。

二曲目のラブノベルスは本来絵里が入る場所に希が入るという変則的なユニット編成で披露された。

「がんばらねーばネーバネバギブアップ」

歌詞自体は笑いを誘うものだったが、そこの歌詞は彼女たちの決意を込めたものであることに間違いない。

希もいつも通り、とはいかないものの、笑顔でパフォーマンスを行っていた。

一度、衣装替えのための間があり、最後の曲、Kira-Kira Sensation!

本来ならラブライブ本選で集大成として見せる予定だった曲は会場は違えど今持てる最大の力でパフォーマンスを披露する。

誰もがこの時だけは笑顔だった。

今できる最高のパフォーマンスを。

「僕と君でーきーたーよーここまでー」

 

そして、最後の曲が終わる。講堂に一瞬の沈黙が広がる。

次の瞬間には大歓声が上がった。割れんばかりに響く観客の歓声に圧倒されながら穂乃果は最後の挨拶をして、彼女たちはステージを降りていく。

『アンコール! アンコール! アンコール!』

歓声はいつの間にかアンコールに変わり、さらなるパフォーマンスを求められる八人。

悩みはなかった。呼ばれるがままに再びステージに上がった彼女たちは始まりの曲を披露する。

僕らのLIVE君とのLIFE。

希と絵里の二人が入って初めて披露することができたこれは彼女たちにとって特に思い出深い曲だ。

絵里との思い出を思い出しながらライブを続ける彼女たちの目にはいつの間にか涙が浮かんでいた。

この経緯を知っている誰もが感動を覚え、彼女たちのパフォーマンスに熱中する。また彼女たちもライブに集中していた。

だからこそ……誰も気がつかなかった。ライブの開始当初から不吉な音がしていたことに。

「探す、ことが、ぼくーらーの……ふえ?」

 

 

 

 

天井で何かが切れる音がした。

 

 

 

 

 

ーーガシャン!! ドーン!!!

 

 

 

 

 

 

大きな音をたて、ステージの上から光を伴って何か大きなものが迫ってくる。その様子は先刻の絵里の事故を彷彿とさせた。

咄嗟のことで逃げようがなかった、フラッシュバックしてすくんでしまった。理由はどうであれ、彼女たちはなす術なく大きなものに押しつぶされた。

視界がクリアになった瞬間、教員がすぐに救助に向かう。

そこで彼らが見たのは血の海を形成している()()

そう、七人だったのだ。一人だけ、難を逃れた人がいた。

 

 

 

 

 

希。

 

 

 

 

彼女は運が良かった。

 

 

 

 

 

 

偶然彼女は照明と照明の間に入り、怪我1つしていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぇ……? み、みん、な……?」

希は下敷きになっている他のメンバーに声をかける。だが、彼女の呼びかけに反応するものは誰もおらず、教員たちの必死の救助の音が響くだけだった。

「い、いや……もうこんなのいや!!」

恐怖に震えて叫ぶと希は意識を失い、倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めた彼女は、自分が病院にいることを知った瞬間パニックに陥った。

管だらけで機械に生かされている絵里。

照明に押しつぶされ血だらけになっていた他のメンバー。

病院にいるという状況がそれらの記憶を連想させ、パニックを引き起こしていた。

スクールアイドル。ラブライブ。講堂。車。道路。

何もかもが彼女の記憶をフラッシュバックさせた。

通常の生活などもはやできなかった。目の下にはクマができ、まるで生きている死体のようになっていた。

彼女はほとんど眠れていなかった。

目を閉じればまぶたの裏に張り付いた絵里と7人の記憶が写し出される。

耳をふさいでも彼女たちの悲鳴やうめき声が聞こえる。

ゆえに彼女は目を瞑ることができず、疲労を癒すために眠ることもできない。彼女は精神的だけでなく、身体的にもだんだん蝕まれていく。

あの事故の被害状況を見ると、彼女の無傷はあまりにも不自然だった。それゆえに、この事故が希が引き起こした事件である可能性を考えた警察は希に任意の事情聴取を行った。

もちろん、彼女は無実で、むしろ被害者だ。そのため、すぐに事情聴取は終わったが、むりやり事故の時のことを思い出させられた彼女のこころに負った傷は甚大なものだった。

誰とも会うことはなく、引きこもっている彼女には以前のような面影はなく、もはや道ですれ違ったとしても誰も気づかないだろう。

あのライブ以来、彼女がメンバーのお見舞いに行ったことはなく、絵里の元にすら行っていない。自分の治療のために病院に通うことすらなくなり、病院からの電話にも出ることはなかった。

いつの間にか彼女は消え、彼女を含めμ'sのことは時間の流れに消えていった。

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