百花繚乱クロニクルセブン-僕らのセカイとキミのミライ-   作:白鷺 葵

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大舞台は整った

 ノーデンス・エンタープライゼスの会議フロアは3階にある。ナガミミに案内された会議室には、2人の人物が待ち構えていた。

 

 鮮やかなローズピンクの髪に、シャープな楕円淵眼鏡をかけた麗しきキャリアウーマン――CEOのアリー・ノーデンスと、おしゃれなブランド服を身に纏い、無精髭を生やした男性――技術主任のジュリエッタだ。

 前者のアリーは天を仰ぎながら、目を半開きにしている。紫の瞳はどこか遠い場所を見つめているかのようだ。後者のジュリエッタはぐったりしていて、酷く疲れ切った様子だった。精根尽き果てたという言葉が似合う。

 

 しかし、2人はイノリたちの姿を確認するや否や、人当たりの良い態度で4人を迎え入れた。

 

 

「初めまして、アタシはジュリエッタよ」

 

「ノーデンス・エンタープライゼスの技術主任さんで、会社のナンバー2ですよね?」

 

「あら。貴方、アタシのことを知ってるの? 嬉しいわ」

 

 

 イノリが彼の肩書を諳んじれば、ジュリエッタは嬉しそうに目を細めた。そして、ゆっくりとソウセイに視線を向ける。藤色の瞳には、明らかな警戒の色が見えた。

 何かを察したソウセイが、納得したように「ほう」と零した。それきり、2人は無言のまま火花を散らし合う。この2人に因縁らしき因縁はないはずだ。

 ……あるとするなら、セブンスエンカウントでソウセイがハッキングをしたくらいだ。あのときソウセイは何かと攻防を繰り広げていたが、もしかしたらその相手は――。

 

 

「あんたの実力は、しかと見せてもらったよ。流石はノーデンスの頭脳だ」

 

「……それは、どうも」

 

 

 イノリの予想を肯定するかのように、ソウセイは言葉を紡いだ。どこか楽しそうな口調に、ゆるりと細められた紫苑の瞳。その眼差しには、純粋な尊敬が湛えられている。

 それを見たジュリエッタは、鳩が豆鉄砲を喰らったように目を瞬かせる。その様子からして、てっきり喧嘩を売られると思っていたのだろう。彼は何とも言い難そうに礼を述べた。

 

 

「ちなみに、本名は渡真利(トマリ)十郎太(ジュウロウタ)だよ☆」

 

「ンギャアアアアアアアアッ! ダメ! その名前は忘れて頂戴!!」

 

 

 ジュリエッタが頭を抱えてアリーを怒鳴る。彼は自分の本名に、何か嫌な思い出があるようだ。

 対して、「良い名前なのに」とアリーはぶすくれた。彼女はジュリエッタの本名を気に言っているらしい。

 話を続けようとするアリーを遮るようにして、ジュリエッタはアリーを紹介する。

 

 

「こっちがアリー・ノーデンス。こんな成りだけど、一応我が社の社長なのよ」

 

「ご無沙汰しています、ミス・アリー。東雲財閥(ウチ)主催のパーティで、兄や兄の役員たちと話しているのをお見掛けしました。僕のこと、覚えていますか?」

 

「勿論! 東雲財閥の末息子、東雲リヒトでしょー? まさか、キミがS級能力者だとは思わなかったよー☆」

 

「ええええええええええええええ!?」

 

 

 会話の流れで、リヒトはさらっと自己紹介する。東雲財閥の末息子――御曹司であることを知ったジュリエッタとミオが絶叫した。

 前者は業務提携を結びたいと思う会社の経営者一族、後者にとっては雲の上のような存在だ。驚くのも当然のことだろう。

 

 ――そして、“東雲財閥の経営者一族である”という事実には、もう1つの意味がある。

 

 

「ってことは、リヒトは……」

 

「はい。第13代目社長にしてムラクモ13班に所属していた東雲雅春(マサハル)氏は、僕の祖父です」

 

「なんてこと……」

 

 

 ミオの問いに、リヒトは穏やかに微笑んだ。

 その横で、ジュリエッタがへなへなと崩れ落ちる。

 折角なので、イノリたちも自己紹介することにした。

 

 

「私は渡来イノリと言います。暁学園3年生で、来年からISDFの訓練所に行くことが決まってます。因みに私の祖父母は、ムラクモ13班に所属していた渡来神影(ミカゲ)と渡来結依(ユイ)です。祖母の旧姓は近衛ですね」

 

「俺は風間ソウセイだ。暁学園3年生で、じいさん同様“戦う技術者”を目指している。俺のじいさんもムラクモ13班に所属していた。元は4班、通称技術班に所属していたらしい。名前は■■良介(リョウスケ)という」

 

「ほ、ホントに……!?」

「……オイ、嘘だろ……? コイツ等が、嘗ての英雄の後継者だと……!?」

「え、英雄たちの系譜を継ぐ、ガチモンのサラブレッドじゃない……!!」

 

 

 ミオとナガミミが呆けたような声を上げ、ジュリエッタは天を仰ぐ。彼は「とんでもない相手をスカウトしてしまったわ」と、消え入りそうな声で呟いた。

 会議室ないが騒然とする中で、ニコニコ笑っている強者はアリーだけだ。「まるで運命みたいだねー☆ ロマンチックなのも大好きだよ☆」と、愉快そうに目を細める。

 

 そこで、ジュリエッタは何かに気づいたように目を瞬かせた。この場にいるべき人間の姿を探しているかのように、周囲を見回す。

 

 

「……あら、ナガミミ。ブンイチは?」

 

「あのダブルワーカー・パートタイマー社員なら、『メインの仕事が入った』って早退して行きやがったぜ」

 

 

 疲れ切ったナガミミの言葉を聞いた途端、ジュリエッタの顔が般若になった。

 

 

「はあ!? これから本格的に忙しくなるってときに、あいつ何考えてやがる!!?」

 

「ジュリエッタ、口調がオッサンに戻ってるぞー」

 

「あ、あらやだ。ごめんなさい」

 

 

 アリーから指摘を受けたジュリエッタは、取り繕うように咳ばらいした。本来は男らしい口調のようだが、本人はそれを表に出すことを是としないようだ。

 

 

「まったく……アリー。どうしてアンタ、ブンイチみたいな扱いづらい事故物件をスカウトしたの?」

 

「いや、彼だってS級能力者だからね。……そりゃあ、ジュリエッタの精神崩壊でCode:VFDが頓挫するかと焦ったけど」

 

 

 アリーは遠い目をしながらため息をついた。後半はぼそりと呟く程度のため、よく聞きとれなかったが。

 そんな会社のTOPとNo.2の様子を一見したナガミミは、別の仕事を片付けるために会議室を去って行った。

 

 

「とりあえず、説明して頂けませんか? 貴方方がS級能力者を集める理由を」

 

「ここはただのゲーム会社ではないんだろう? 何が目的なんだ」

 

 

 リヒトとソウセイが、会社の権力者たちに問いかけた。前者の場合、顔は笑っているのに目が笑っていない。後者は鋭い眼差しを向けている。

 先程、ナガミミから説明はされていた――実際は、説明よりもブンイチに対する愚痴の方が多かった――けれど、イノリたちにしてみれば理解できないことが多すぎる。

 唯一分かっていることは『ノーデンス社は戦う力を求めて能力測定器(セブンスエンカウント)を作り、適性値を叩きだしたイノリたちをスカウトしようとしている』ことだけだ。

 

 

「あら、ナガミミから説明は受けてないの?」

 

「一応聞いたけど、話の大半がブンイチって子の愚痴ばっかりで……」

 

「……ナガミミ……可哀想に……」

 

 

 イノリの言葉を聞いた途端、ジュリエッタは目頭を押さえて天を仰いだ。連鎖反応するかのごとく、アリーがそっと視線を逸らす。彼女から後ろめたさそうな気配を感じたのは何故だろう。

 ナガミミの気苦労に関する話題を打ち切るかのように、ジュリエッタは服の袖で目元をこすった。本題に入ると言わんばかりに、彼はぱんぱんと手を叩く。アリーもこちらに向き直った。

 

 

「とりあえず、テキトーに座って頂戴。アナタたちとビシネスの話をしたいの」

 

 

 

***

 

 

 

「イノリたちなら、2020年とその翌年に発生した竜戦役のことは知ってるよね?」

 

「おじいちゃんから聞いたことがあります」

「はい。祖父や大叔母様が、いつも語って聞かせてくれました」

「勿論だ。じいさんから聞かされている」

 

「その様子だと、当事者たちがしっかり話を聞かせてくれたみたいだねー。じゃあ、竜の脅威については、この時代に生きている人間の中でも『よく知っている』と言えるわけだ」

 

 

 イノリたちはアリーの質問に即答した。自分たちの眼差しを見て満足したのか、アリーは嬉しそうに微笑んで頷く。

 

 

「じゃあ、ミオは?」

 

「よく分かりません。『80年前に起こった災害で、ムラクモ13班と呼ばれる異能力者集団が活躍したらしい』ってくらいしか……」

 

「オケオケ。じゃあ、ミオに分かるように説明するねー☆」

 

 

 対して、完全に一般人であったミオは、申し訳なさそうに肩をすくめた。アリーは笑みを崩さぬまま、朗々と80年前の近代神話を語り始める。

 

 西暦2020年に、宇宙から第3真竜ニアラが来訪した。世界は美しき葬送花・フロワロに飲み込まれ、人類は滅びると思われた。しかし、人類は屈しない。各国の異能力集団に所属するS級能力者たちが中心となり、反撃の狼煙を上げた。中でも、唯一制竜権を有したのが、東京に本部を置く特務機関“ムラクモ機関”であり、ムラクモ13班である。

 国家権力である自衛隊や対立組織であるSKYとの軋轢と和解、組織の長である日傘(ナツメ)――後の人竜ミヅチの裏切りという問題を超えて、渡来ミカゲ、近衛ユイ、東雲マサハル、東雲ヒイナたち13班はニアラを撃退することに成功した。

 

 しかし、竜災害は翌年にも発生する。次に来訪したのは第5真竜フォーマルハウト。前回の竜戦役の後遺症で力を発揮できなかった13班は、フォーマルハウトの紋章に倒されてしまう。東京は強力な毒性を持つ黒いフロワロに覆われる。

 2代目総長桐野(キリノ)礼文(アヤフミ)が瘴気の影響で片腕を失い戦線離脱、アメリカの異能力集団・SECT11との軋轢と和解、人類の拠点である国会議事堂をフォーマルハウトに襲撃されて多数の死者を出す等の難題を乗り越え、新戦力である■■リョウスケ、那雲四海(ヨツミ)、那雲白雪(シラユキ)らを加えて反撃に出る。

 後に、エメル総長代理が現代に復活させたルシェクローン・マリナの力を使って、最強の対竜兵装――所謂竜殺剣を生み出した。最強兵装の担い手となった渡来ミカゲがフォーマルハウトにとどめを刺し、その真竜を完全消滅させるに至る。――そうして、その戦いから、今年で丁度80年の時間が経過したというわけだ。

 

 

「竜災害は、真竜と呼ばれる竜の襲来。そして、それに伴う美しき葬送の毒花、フロワロの繁茂で始まるの。フロワロに包まれた星は真竜に喰われ、すべての生命と文明を失い、無機と化す……」

 

「おじいちゃんが言ってました。『実際に、真竜の襲来によって星を喰われ、流浪の民となった種族がいる』って。その人はおじいちゃんの親友の恋人さんだったそうです」

 

 

 イノリの補足に、ジュリエッタは目を見張った。その人物についての特記事項を付け加えると、彼は遠い目をする。

 英雄のサラブレッドが知る事実は、彼のキャパシティを軽く超えてしまったらしい。隣にいたミオはますます置いてけぼりだ。

 

 

「話を戻すわよ。この宇宙には、そんな真竜と呼ばれる種族が7体いるらしいの。嘗てこの星は2度の襲撃を受けて、世界中がフロワロに沈みかけたわ」

 

「それを2回とも撃破したのは、さっき説明したムラクモ13班だったんだ☆ 旧政府で言うS級能力者であり、竜を狩る者」

 

「――じゃあ、本題に入るわ」

 

 

 アリーの言葉を引き継ぎ、ジュリエッタは話を切り出した。真剣な双瞼がイノリたちに向けられる。

 

 

「その竜災害で得られた真竜検体からは、竜の構造や生態……それはもう膨大なデータを解析できたの。アタシたちはその解析データの集合体を――」

 

「“ドラゴンクロニクル”だよね。日傘ナツメや、エメル総長代理が解析したもの」

 

 

 ジュリエッタの説明を、イノリが引き継ぐ。それに同調し、リヒトとソウセイも頷いた。

 

 

「前者が人竜に至るため、後者が竜殺剣を生み出すために必要としたものですね」

 

「因みに、後者は俺のばあさんが帝竜検体で作り出したものだ」

 

「ワアー、サスガエイユウノサラブレッドー。エイユウタンノショウサイヲ、ノゾンデモイナイノニオシエテクダサルー」

 

「ジュリエッタ、しっかり!」

 

 

 ジュリエッタが白目を剥いた。アリーが鬼気迫るような表情で彼をゆする。程なくして、ジュリエッタの意識が現実に帰還した。

 彼は己が取り乱していたことを思い出すと、取り繕うように咳ばらいした。アリーは安心したように息を吐く。ジュリエッタは説明を続けた。

 

 

「アタシたちノーデンスの真の目的は、『より多くの真竜検体を集めてドラゴンクロニクルを完全解明する』ことなのよ」

 

「でも、何のためにそんなことを?」

 

「――7番目の真竜、VFDを倒すためだよ」

 

 

 ミオの問いにアリーが答える。物々しい空気に影響されたのか、弧を描いていた彼女の唇はゆっくりと引き結ばれていく。それでも、彼女の表情は、ぎりぎりで「笑っている」と言える程度で崩れなかった。

 

 

「第7真竜、VFD……?」

 

「そう。平和に見えるこの東京に、7番目――最後の真竜が目覚めようとしているんだ。――……そして、その真竜が出現するとき、この星は終わりを迎える」

 

 

 アリー曰く、それは創造と帰滅を司る真竜のことらしい。ノーデンス上層部はその真竜のことをVFDと呼んでいるそうだ。

 何故、ゲーム会社の社長と技術主任が、そんなことを知っているのだろう。イノリの脳裏に、そんな疑問が浮かんだ。

 疑問に思ったのはイノリだけではない。リヒトも、ソウセイも、ミオも、訝し気に眉をひそめる。瞳には、明確な困惑の色。

 

 待ってましたと言わんばかりに、ジュリエッタはくすりと笑った。そうして、説明を続ける。

 

 

「知ってる人は知ってるのよ。ISDF……国際自衛軍や政府のお偉いさんのことだけど」

 

「ああ、成程。情報統制か。ハッキングすれば大体どうとでもなるが」

 

「そうだね。最近やたらとISDFの制服着た人が巡回していたり、竜班病という致死率100%の奇病が発生してその患者が爆発的に増えたり、異常気象やプレートの消滅が発生しているという噂がまことしやかに囁かれているのって、やっぱり竜災害の予兆だったんだ」

 

「社交界で会う軍人や役人たちがひそひそ話してるのを耳にしました。報道を見る度、正直、『よくもまあこれで誤魔化せるもんだ』と思いましたよ」

 

「……あなたたちが優秀すぎて、なんだか空恐ろしくなってきたわ……」

 

 

 ソウセイ、イノリ、リヒトの言葉を聞いたジュリエッタは、説明を先回りされてしまうことに不安を感じ始めたのだろう。いや、どちらかというと脅威だろうか。

 因みに、リヒトやシキの場合は社交界で話題を拾い上げてくる。前者は財閥の息子、後者は世界救済会の役員の娘として、交流の場に顔を出すためだ。

 その通りだとジュリエッタは頷く。補足として、アリーが竜班病患者の初期症状を語った。風邪と同じ症状のため、なかなか分かりにくい病なのだ。

 

 

「まあ、帝竜の瘴気が原因の病は、竜班病だけじゃないんだけどね。英雄の系譜を受け継ぐ貴女たちなら分かるでしょう?」

 

 

 ジュリエッタの問いに、イノリたちは迷うことなく頷いた。――そしてそれは、いずれイノリたちも発症する可能性が高い病であることも。イノリは言葉を紡いだ。

 

 

黒呪(こくじゅ)病……第5真竜フォーマルハウトとの戦いの場にいたムラクモ13班全員が発症した、謎の奇病だね」

 

「原因は、第5真竜フォーマルハウトがまき散らした瘴気。症状としては、『身体的および精神的な老化現象が発生しなくなるが、一定時期が経過すると、体の機能が著しく下がって衰弱死する』というのがセオリーらしいな」

 

「そして、その因子は母子感染と遺伝で発生します。『ムラクモ13班の系譜を引き継ぐ人間は、確実に発症する』とも。勿論、僕らも例外ではない」

 

「隔離遺伝や母子感染の場合は、発症した時点で外見年齢はストップする。けど、いつ発症するかも、発症した後にセカンドステージ――急激な衰弱死に移行するまでにかかる時間も不明だって言われてるね。大半の13班員やその子孫は、セカンドステージに移行したことが原因で命を落としてるみたい」

 

 

 イノリの説明をソウセイとリヒトが引き継ぐ。そして、最後にイノリが黒呪病の説明を締めくくった。リヒトはうんうん言いながら、ちらりとミオに視線を向ける。彼女は小さく咳き込みながら、何とも言い難そうに視線を彷徨わせていた。

 現在、4人――イノリ、リヒト、ソウセイ、シキの中では、黒呪病は『まだ』発症していない。同時に、いつ発生するかも不明である。そのため、竜班病患者の存在は他人事とは思えないのだ。症状が違えど、真竜の瘴気が原因なのだから。

 

 黒呪病の説明を聞いたジュリエッタは頷く。

 その表情が、ほんの一瞬曇った。

 ――まるで、消えぬ痛みを抱え込むかのように。

 

 

「……そうね。病気を抱えていたとしても、天寿を全うできるというのは幸せよね……。“あの人”のように、志半ばで理不尽に命を奪われるよりは、ずっと……」

 

「ジュリエッタさん?」

 

「ああ、ごめんなさい。昔、お世話になった人のことを思い出してね。その人も黒呪病を患っていたのだけれど、セカンドステージに移行する前に不慮の災難で亡くなっちゃったのよ。……“表向きは”、ね」

 

「湿っぽい話はここまで。話題を元に戻そうねー」

 

 

 この話はお終いとばかりに、ジュリエッタとミオの間にアリーが割り込んだ。

 

 アリー曰く、もうすぐ政府の情報統制が意味を成さない事態になるという。世界中にフロワロが咲き乱れ、竜が闊歩し、星の死の果てに――第7真竜VFDが姿を現すらしい。

 地球の終焉を回避する方法はただ1つ。真竜検体を手に入れて、ドラゴンクロニクルを完全解明するしかない。出現する全段階から凶悪な予兆を発生させる最後の真竜だ。

 実際に7番目の真竜が現れれば、この星は成す術もなく滅ぶという。真竜情報と膨大なエネルギーの集積であるドラゴンクロニクルこそ、未来を繋ぐ希望なのだ。

 

 

「ドラゴンクロニクルを解明できれば、竜班病や黒呪病を撲滅することだってできるんだよ☆ ……過去と未来の狭間に居るキミたちには、それができる」

 

 

 話題の重さに反比例するかのように、アリーは柔らかに微笑んだ。

 

 

「ドラゴンクロニクルを解明するためには、キミたちのようなS級能力者――狩る者の力が必要不可欠なんだ。だから、アリーたちの計画――Code:VFDに、是非とも協力してほしいのよ~!!」

 

 

 彼女の眼差しは、イノリを射抜く。――いいや、イノリだけではない。リヒトやソウセイも含まれていた。

 突拍子もないことを告げられ、困惑しないわけがなかった。3人は思わず顔を見合わせる。

 

 

「真竜検体を手に入れると言われてもな……」

 

「第5真竜は旧13班が倒しましたが、検体は手に入らなかったとありました。結晶化して消えてしまった、と」

 

「他の真竜の居場所なんて分からないよ。それに、いつ地球に襲来するかの予測だってできないし……」

 

「――その話は、アリーたちの計画に協力してくれるって前提なの?」

 

「うん」

「はい」

「ああ」

 

 

 身内で井戸端会議を始めかけたイノリたちに、アリーは首を傾げる。イノリたちは、彼女を見返してしっかりと頷き返した。

 

 ノーデンスという企業のことを全面的に信用したわけではない。だが、世界の裏で蠢く竜の気配を知りながら、野放しにしておくこともできなかった。下手をしたら、自分たちの思い描く未来や志を無に帰される可能性だってある。

 滅びを受け入れることなど許容できない。ましてや、真竜による脅威は近づいてきているのだ。いつか必ず、VFDは目覚め、この星の命と文明を喰い尽くす。そのいつかは、自分たちの目前に迫っているのだ。

 

 確かに、嘗ての祖父母――ミカゲやユイと同じように、竜災害に挑むということに対する高揚感はある。同時に、それがどんなに無茶苦茶なことかも。

 ……いや、竜戦役での地獄を体感したことのない自分が、覚悟を語るのはおこがましい。自分が未熟であることは、自分自身が1番知っている。

 でも、だからこそ、イノリは思うのだ。嘗てのムラクモ13班員が願ったように、「未来を守りたい」、「今、自分ができることを精一杯したい」――と。

 

 

(そうして、おじいちゃんの想いに応えるために)

 

 

 イノリは目を閉じる。浮かぶのは、イノリを守るために命を差し出した祖父・ミカゲの背中だった。

 イノリたちのことを「俺の希望」と語り、自分自身を引き換えにして守り抜いた彼の最期を、瞼の奥に描く。

 

 

『お前が居てくれるなら、お前たちが居てくれるなら、きっと大丈夫だ』

 

 

 英雄譚を語り終えた後、柔らかに笑った祖父の笑みに応えるかのように。

 イノリはまっすぐアリーを見返す。自分たちの返答を確認したアリーは、嬉しそうに破顔した。

 

 

「よーし、3人は決まりだねー☆ それじゃあ、キミは?」

 

「えっ!? わ、私……!?」

 

「貴女には、ナビゲーターとしての素晴らしい才能があるわ。アタシたちに、力を貸してくれるかしら?」

 

 

 アリーから名指しされ、ミオは目を丸くする。ジュリエッタもミオへと微笑みかけた。

 藤色の瞳には、大きな期待が込められていた。ミオはおどおどして視線を彷徨わせる。

 ……ややあって、ミオは俯いたまま首を振る。

 

 

「すみません。……あの、やっぱりわたし、帰ります。自信、ないし……」

 

 

 「自分は体が弱いから、ナビをすることはできない。足手まといになってしまう」――ミオはそう言って、ノーデンスへの協力/Code:VFDの参加を辞退した。彼女はみんなに一礼すると、背中を向けて去って行く。リヒトはミオの背に手を伸ばしかけたが、悲しそうに俯いた。

 

 戦うことを選ぶ人間が居る傍ら、それを選択しない人間だっている。

 当たり前のことだと、イノリの頭の中では分かっていた。

 

 

『おじいちゃんのお姉さんはな、全能力A級能力者(生まれながらの秀才)だったんだ』

 

『お姉さんは、S級能力者が如何に特別な存在なのかを叩きこまれながら生きてきた。それは、『全能力A級(秀才)でしかない自分が、自分よりも優秀なS級能力者(生まれながらの天才)を率いる』というコンプレックスを肥大化させる原因になった。……それを拗らせた結果、過激な能力主義者になってしまったんだ』

 

『おじいちゃんは、そんなお姉さんを止めてやれなかった。S級能力者(生まれながらの天才)のくせに、彼女に何もしてやれなかった。力を持つ者を有無を言わさず戦場に放り込んだり、S級能力者じゃない人を捨て駒にする作戦を決行したり……最後には、力を欲した挙句、沢山の人を喰らって人竜になってしまった』

 

 

 寂しそうに、哀しそうに、あるいは懺悔するかのように。己が手にかけた怨敵――日傘ナツメ/人竜ミヅチのことを語る祖父の姿を、今でもはっきりと思い出せる。

 

 

『……あの人はただ、誰かから認めてほしかっただけなのにな』

 

『努力しても報われないんだって事実が辛くて、苦しくて、絶望して、『何をやっても無駄ならば、全部壊せばいい。誰も自分を認めてくれないなら、みんないなくなればいい』という結論に行きついてしまった』

 

『確かに、あの人がしたことは到底許されることじゃない。……でも、おじいちゃんは思うんだよ。あの人の絶望を打ち砕くことができたら、あんな悲劇は起きなかったんだって』

 

 

 祖父から見た日傘ナツメは、厳しくも優しい指導者であり、並々ならぬ努力家で、漫才と厚焼き玉子が大好きな女性だった。都庁奪還時の祝賀会では、当時はまだナツメの補佐官だったキリノと一緒に漫才を披露していたという。

 そう語る祖父から当時の映像を見せてもらったが、はたしてそこには、祖父の言葉通りの女性がいた。柔らかく微笑みながらキレのあるボケをかまし、相方のキリノからびしりと突っ込まれて笑う、日傘ナツメの姿があった。周囲から響く笑い声からして、2人の漫才が好評であることも伺えた。

 

 もし、普通の人々がこの映像を見たら、誰もこの女性を日傘ナツメ――人竜ミヅチと結び付けることはできなかっただろう。人類の裏切り者という存在からは、漫才で見事なボケ役に徹したナツメの姿なんて想像つかない。閑話休題。

 

 

『あなたには戦う力、ひいては世界を救うための力があるわ。戦場に出て戦うことは、力ある者の義務であり、責務なのよ。そこには、一切の疑問の余地はない……分かるわね?』

 

 

 2020年の竜戦役で、祖母のユイたちはなし崩し的にムラクモ13班に所属することになったそうだ。戦うことを選んだのは本人たちの意志だったそうだが、当時のムラクモ総長だったナツメは、既に13班に所属していたミカゲ以外の面々をこう説得したらしい。

 最初は乗り気でなかった祖母も、力ある者の責務とあればと納得して戦いに参戦したという。当時は致し方のないことだが、冷静に考えてみると、一種の脅迫である。ナツメは暗に「力があるくせに逃げるのか? そんなの許されない。戦え、問答無用だ」と言ったも同義なのだ。

 切羽詰っていた2020年代とは違い、ひたひたと近づいてくる脅威を感じる程度のU.E.77年(現代)には若干の余裕がある。そのため、よっぽどのことがなければ、『本人が嫌がっているにもかかわらず、強制的に徴兵される』という事態は起こりにくい。それは、ノーデンスという企業にも言えることだった。

 

 

「残念ね。でも、戦う意志のないコを戦場に引きずり出すことはできないわ」

 

 

 ジュリエッタは深々とため息をつく。そうして、彼は静かに目を閉じて、呟くような声色で言った。

 

 

「『力に固執すると、自身が道を踏み外してしまったり、それに巻き込むような形で他人の人生を狂わせてしまうことに繋がる』もの」

 

「ジュリエッタの尊敬するセンセイの格言だね☆」

 

「厳密に言えば違うわよ。この言葉をアタシに贈ってくれたのは、恩師の叔父さんにあたる研究者。アタシにとっては雲の上のような人よ。……その人も、『友人からの受け譲りだよ』って笑っていたわ。だからこれは、又聞きの又聞きってワケ」

 

 

 ジュリエッタはどこか懐かしむように遠くを見つめた。すかさずアリーが補足を入れる。それは不完全だったようで、ジュリエッタ本人から修正が入った。

 ジュリエッタの言葉を聞いた3人は、思わず目を点にした。学園で行われたOB・OGの講演会で、似たような格言を引用して話をしていた人物がいたことを思い出したからだ。

 自分たちの記憶が正しければ、その格言を引用していた人々は“渡来ミカゲの授業を受けた”という共通点があった。そして、キリノに次いで彼と懇意にしていた研究者の筆頭は――。

 

 

「もしかして、その人――」

 

 

 イノリたちがその人物の名前を挙げようとしたとき、突然爆発音が響いた。大地を揺るがすかのような振動に、思わずイノリたちは身を伏せた。戦闘訓練の賜物である。

 爆発音に紛れ、重低音の唸り声が耳障りだった。ぞわり、と、得体の知れぬ感覚が背中を撫でる。怨敵が降り立ったことを伝える、本能的な警笛だ。

 

 

「何!? 今の音……」

 

「オイ、ヤバイことになった!!」

 

「ぬおおおおお!? ナガミミッ!? お前、どこから!」

 

 

 突然姿を現したナガミミに驚いたジュリエッタが、野太い悲鳴を上げてのけぞった。オネエになる以前の彼のことが気になる態度であるが、今はどうでもいい。

 

 

「ジュリエッタ、まーた顔と声がオッサンに戻ってるゾ☆」

 

「あ、あらいけない。……というか、あんたはこんなときでも平常運転なのね……」

 

 

 アリーの指摘を受けたジュリエッタは、取り繕うように顎に手を当てた。爆発と振動にも笑顔を崩さない社長の様子に、技術主任はげんなりとした様子で肩をすくめた。

 あの爆発音の正体を知っているのはナガミミだった。切羽詰った声で、マスコットは何があったかを報告する。ノーデンス社のエントランスにドラゴンが出現したらしい。

 しかも、単騎ではない。群れだ。奴らは傍若無人にこの地を踏み荒らしているという。その話を聞いた途端、イノリの中から何かが沸々と湧き立ってきた。

 

 狩らなければならない。竜を狩らねばならない。

 “すべての竜を狩り尽せ”――この衝動を、何と言おう。

 

 

「こんなの、予測よりずっと早いじゃない! ねえ、アリー!!」

 

 

 ジュリエッタは悲鳴に近い声を上げた。藤色の瞳は、縋りつくかのようにアリーに向けられている。それを真正面から受け止めたアリーは、考え込むように顎に手を当てて思案した。

 

 真面目な顔になったのはほんの一瞬。

 次の瞬間、彼女は緩く笑いながら状況を確認する。

 

 

「ナガミミ、ISDFは? こんなときのための国際自衛軍でしょ?」

 

「こっちに向かっているみたいだが、到着するにはまだ時間がかかるだろうな」

 

「オケ。すぐ入り口を封鎖して。対処はISDFの到着を待とう」

 

「待って!」

「待ってください!」

「ちょっと待て!」

 

 

 2人の会話に割って入るように、イノリたちは声を張り上げた。まさか3人一緒に同じような行動をするとは思わなくて、イノリたちははたと顔を見合わせる。

 金色の瞳も、紫苑の瞳も、イノリと同じ想いを滲ませている。2人もまた、イノリの想いを受け取ったのだろう。満足げに頷き、アリーたちへと向き直った。

 

 

「ISDFの到着を待っていたら手遅れになるよ! セブンスエンカウントに遊びに来ていた一般人はどうなるの!?」

 

「ドラゴン襲撃に対しての措置が避難誘導だけでは不十分です。奴らを食い止めないと……!」

 

「犠牲者を減らすためにも、このまま手を(こまぬ)いて見ていることは得策ではないだろう」

 

「何言ってるのよ!? 中途半端な戦力じゃあ二次被害の恐れがあるわ。それに、ノーデンスに雇われた人間が武器を持って外に出ようものなら、即座に逮捕されちゃう。ISDFの規定を知らないわけじゃないわよね?」

 

 

 詰め寄るように、イノリたちは言葉の機関銃を唸らせる。その勢いに気圧されながらも、ジュリエッタは屹然と言い返した。

 

 ISDF以外に武力を有する民間組織は幾つかあるが、数はそんなに多くない。民間組織が武力を有するためには、ISDFに許可を申請しなくてはならない。厳しい審査基準を超えて特別許可を勝ち取ったとしても、次に待っているのはISDFからの監視である。

 活動内容の報告と購入・開発した武器の内訳を逐一書類に記入して提出しなければならないし、定期的にISDFの臨時検査が入る。「最近は予告なしの抜き打ちで行うため、常に気を張っていなければならない」と頭を抱えていた、世界救済会の役員の姿を思い出した。

 個人が自衛手段として武器を有するのは良いが、ISDFの許可を得ない民間団体に所属する人間が武力を有しているのは、あまりよろしくない事態だ。場合によっては、その民間団体が厳しく罰せられたり、その民間団体が開発した技術が軍に徴集されることもある。

 

 アリーやジュリエッタが「ISDFの到着を待つ」と頑なになるのは、ISDFにノーデンスの計画――ドラゴンクロニクルの完全解明/Code:VFDを勘付かれたくないのだろう。人類を救うための希望を、軍事利用されることを恐れているのかもしれない。

 

 

「アンタたちはCode:VFDの要なんだから、自分の価値を考えた行動をして頂戴!」

 

 

 藤色の双瞼が、空色、金色、紫苑の瞳と派手に火花を散らす。

 誰一人として、己の意見を譲ろうとしない。

 

 

『――大丈夫』

 

『おじいちゃんが、守ってやるから』

 

 

 イノリの脳裏に浮かんだのは、眩しいものを見るかのように笑った祖父の姿だった。

 紫苑の瞳に宿るのは、揺るがない意志と覚悟。――そうして彼は、死んでいった。イノリたちを守るために。

 

 先の大戦で亡くなった命を痛んでいた祖父の背中を、失われてしまった命を想う祖父の言葉を、イノリは誰よりも近い場所で見てきた。

 命の優先順位に従って、ムラクモ13班を守るために死地へ赴いた人々の話を、何度も聞かされた。自分は英雄ではないのだと、皮肉気に笑う姿を見てきた。

 13班が人類の希望であるために、誰かの命を踏み台にした。だから、歩みを止めることは絶対にできない。それは、彼らに対する裏切りと冒涜になる。

 

 “キミは力があるから、キミは希望だから”――そんな理由で、目の前で築かれていく屍の山を許容しなければならないのか。

 犠牲を『仕方がないこと』だと割り切らなければならないのか。諦めなくてはならないのか。……そんなの、嫌に決まっている。

 

 

「――『みんな、居なくなるんだ』」

 

「え?」

 

「『“ムラクモ13班は人類の希望だから”って、みんなみんな、俺たちのために死んでいくんだ。俺たちには、そんな大層な価値なんてないのに』」

 

 

 祖父の言葉を諳んじる。

 

 

「……おじいちゃんは、いつもそう言ってた。いつも、そのことで悩んでた。……最も、そう言ってた張本人は、その人たちと同じように、希望(私たち)を守って死んじゃったけど」

 

 

 イノリの言葉を聞いたジュリエッタは、はっとしたように目を見開いた。

 「あなたは」と、酷く震えた声で言葉を紡ぐ。イノリは口元を歪ませた。

 

 

「もう、あんなことは嫌なんだ。“力があるから、希望だから”――そんな理由で、目の前で築かれていく屍の山を、手を拱いて見ているしかないのは」

 

「――ええ、そうですね」

「――ああ、そうだな」

 

 

 血反吐を吐くような心地で紡いだイノリの言葉に、リヒトとソウセイは頷いた。自分たちの決意が伝わったのか、ジュリエッタの藤色が揺らぐ。

 次の瞬間、会議室のモニターに、ノーデンスの入り口広場が映し出された。白い翼竜の群れが、我が物顔でエントランスを蹂躙していた。

 パニックに陥った人々が我先にと逃げ出す中、見覚えのある若芽色の髪の少女――ミオの姿が映し出される。彼女は頭を抱え、身を震わせながら蹲っていた。

 

 つい先程別れたばかりなのだ。ドラゴンの襲撃に巻き込まれている可能性も視野に入れるべきだった。

 リヒトが大きく目を見開く。普段は落ち着いていて穏やかな青年の顔は、焦燥に染め上げられた。

 

 

「っ、ミオ!」

 

「ああ、リヒトくん!」

 

 

 彼はイノリの制止を振り切るようにして駆け出した。

 

 

「ちょっとだけ、待ってくれるー?」

 

 

 それに続こうとするイノリを、アリーが引き留める。

 振り返ったイノリとソウセイを見たアリーは、満足げに微笑んだ。

 

 

「――うん、イイよ。その意志に従って、やってごらん」

 

「ボス!?」

 

「キミたちが本物の“狩る者”であるなら、誰もキミたちの意志を止められないよ」

 

 

 まるで、母親が子どもを慈しむかのような眼差しが向けられる。初めて顔を合わせたときの天衣無縫な空気は成りを潜め、気高く美麗な慈母が佇んでいた。

 

 一瞬、ここにいるアリーは先程のアリーと同一人物なのかと疑いたくなった。驚いたのはイノリとソウセイだけではない。

 この場に居合わせたジュリエッタやナガミミも同じ気持ちだったようで、2人は惚けたように上司を見上げていた。

 幾何かの間を置いて、ジュリエッタはやれやれと言わんばかりにため息をつく。それは一瞬のことで、彼はすぐに力強く笑ってみせた。

 

 

「……成程。お手並み拝見、ってコトね。まっかせなさい! ――それなら、腹括ってサポートするわよ!」

 

「わかったよ。なら、コレを持ってけ」

 

 

 ナガミミはぶっきらぼうに何かを放り投げてきた。時計を模した端末であり、ホログラムにはナガミミやジュリエッタ、アリーの3人が浮かび上がっている。

 

 

「こいつは、オレ様たちと会話できる夢の通信機器だ。便利なんだからダセエとか言うなよ?」

 

 

 これはノーデンスが開発した特別な通信機器――ノーデンスウォッチだ。この端末を介して、3人はイノリたちのバックアップを行うという。

 他にもあると言って、ナガミミは薬品類を並べた。暁学園の戦闘訓練実習で配られる薬品類――メディカやマナ水である。

 悪態をつきながらも、ナビゲーターに立候補したのはナガミミだ。やはり、口は悪いが悪人ではないらしい。むしろいい人の部類だった。

 

 イノリとソウセイは顔を見合わせた後で、3人に礼を述べた。

 そうして、先に駆け出してしまったリヒトを追いかけて、会議室を飛び出した。

 

 

 




今回も、構成以外は改訂版と殆ど変わりません。暫くはこの調子で進むと思われます。
ただ、『未完のユウマ』を経ているので、「ISDFがフォーマルハウトの検体を持っている」という事実をイノリたちはまだ知りません。
改定前の設定では、「旧ムラクモ機関がISDFに吸収された際、検体もISDFに所有された」となっていました。
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