百花繚乱クロニクルセブン-僕らのセカイとキミのミライ- 作:白鷺 葵
ISDFがアトランティカの調査を終えたのはつい先日のことである。ISDF兵士の話やジュリエッタのボヤキを聞く限りではあるが、待機命令が終わるのはもうすぐらしい。現在、ジュリエッタは新しい座標軸の調整に躍起になっているそうだ。
次の場所はアトランティス帝国の地下都市だという。それ以上は教えてもらえなかったが、ナガミミ曰く「明日までには終わらせる。そのときにゆっくり説明する」とのこと。栄養ドリンクの買い出しを頼まれたマスコットは、愚痴愚痴言いながらも買い出しへ向かった。
「要するに、今日が休暇最後の日になるってことか」
そう言って、ミカゲはのんびりと周囲に視線を向けた。13班のレストルームはがらんどうになっている。
今日も面々は、それぞれの用事で出払っていた。部屋に残っていたのは渡来一家だけである。
穏やかな時間が流れていく。何もない、静かな日常。しかし、これが最後の休日になるのだ。このまま何もせずにはいられない。
「ねえ、おじいちゃん」
「んー?」
「折角だから、3人で遊びに行かない?」
イノリは、のんびりと窓から景色を見つめるミカゲとユイに声をかけた。
『遊びに行く、って……この前も買い出しで街を歩いたんじゃなかったっけ?』
「あのときは日用品を買い集めるので手一杯だったもん。ゆっくり街を見て回るようなことはしなかったじゃない」
「あー、そういやそうだったなぁ」
「それに、復興した東京を、ゆっくり見てもらいたいんだ」
「ね?」と念押しすれば、ミカゲとユイは顔を見合わせた。2人は何とも言い難そうに顔を見合わせている。
思えば、ミカゲは自ら進んで街へ飛び出していくタイプではない。ユイはミカゲとは違って外へ出ていく方だが、ミカゲと一緒にいる方が好きなようだった。
幾何かの間を置いて、ユイが微笑んだ。『折角誘われたんだもの』と言う祖母の言葉に、祖父は2つ返事で頷き返した。イノリもほっと表情を緩ませた。
3人で遊びに行くのは、実に9年ぶりであった。祖父母と孫――この3人で遊びに行く機会が再び訪れるだなんて思っていなかったため、イノリは堪らず口元を綻ばせる。
『ふふっ。ミカゲくんとデートするの、久しぶりね』
「でっ、で、でででで、デート!?」
『あはは。ミカゲくん、顔真っ赤。この年になっても照れ屋なままなのね』
ユイが口元に手を当てて微笑んだ。菫色の双瞼はどこまでも優しい。ユイの言葉を聞いたミカゲは顔を真っ赤にして狼狽えた。
ミカゲは相変わらずのまま。男女間のアレコレに対する反応が初心一直線である。からかう祖母に対し、祖父は観念したように肩をすくめた。
「おばあちゃん。私、お邪魔かな?」
『そんなことないわよ。家族水入らずだもの』
2人の世界を作り始めた祖父母に対し、イノリはおずおずと問いかけた。ユイは苦笑した後、イノリの頭をぽすぽすと撫でる。
菫色の眼差しはどこまでも優しい。ミカゲも咳ばらいした後、イノリに微笑みかけた。折角の家族水入らずである。
幽霊騒ぎ防止のため姿を消しているとはいえ嬉しいことだ。3人は意気揚々と繁華街へと繰り出した。
***
東京の繁華街は人でごった返している。長期休みの最中ということで、学生たちを中心とした若者で賑わっていた。
イノリはミカゲと共に街を歩く。その背後には、イノリたちにのみ視認できるレベルで実体化したユイがついて来ていた。暫く歩いたためか、なんだか足が重かった。
歩き疲れた3人は、近場のベンチに腰かけた。街路樹がベンチを覆う傘のように聳え立っており、丁度いい日影が出来上がっている。吹き抜けるそよ風が心地よい。
空を見上げれば、雲1つもない快晴が広がっている。遠くの方には、渋谷に生い茂る大樹が見えた。あそこの奥地はマモノが出現するため、無力な一般人は立ち入り禁止である。
『改めてみると、東京も随分と復興してきたんだね』
「うん。と言っても、まだ異界化したままの区画も多いけど」
『それでも、人が生活できる建物、買い物できる場所、遊べる場所が増えたように思うなあ』
「だな。目の前の屋台群とか、まさしくそれだ」
ユイはゆるりと目を細めた。ミカゲも、目の前に並ぶ出店を眺めながら頷く。ムラクモ13班が駆け抜けた時代は、生き抜くための環境整備が重要視されていた頃だ。彼らが生きていたときよりも、異界化したままの区画は確実に減ってきている。
日本列島の完全復興までには1世紀以上かかると言われているため、イノリたちが生きている間には見れないだろう。……まあ、だからといって、現代に生まれたことには満足しているのだが。イノリが“ここに生まれ落ちたこと”自体が奇跡みたいなものだし。
人は出自や生まれた環境を選ぶことができない。自分が持ちうる/背負ったものを駆使し、運命を切り開いていかねばならないのだ。自分が生まれ落ちた時代、出自、環境が揃っていなければ、出会えない人々だっている。渡来一家はそれを人一倍理解しているつもりだ。
ミカゲとユイが、2020年に試験監督とムラクモ候補生として出会わなければ、イノリは生まれなかった。
今こうして生きていなければ、リヒト、ソウセイ、シキたちと友人になることもなかった。
セブンスエンカウントでミオやナガミミたちと知り合うこともなかったし、ユウマと出逢うこともなかっただろう。
(ユウマさん……今、どこで何をしてるんだろう)
イノリはそんなことを考えながら、出店に視線を向けた。民間主催の物産展が開かれているため、日本各地の料理が並んでいる。その他にも、祭りの屋台で並びそうな料理もあった。美味しそうな香りが漂ってくる。
「丁度いい時間帯だし、昼飯でも食おうか」
「そうだね。何食べる?」
ミカゲの提案に乗ったイノリが屋台の方を向いたときだった。丁度、イノリが見ている場所に、ISDFの制服を身に纏った軍人が飛びこんできた。
黒い上着を羽織り、青い制服を身に纏った青年。彼の隣には、上官と思しき厳つい壮年の男性と、銀髪の女性が同伴している。彼らのことを、イノリは知っていた。
イノリが声を上げるよりも先に、青年がイノリたちの方向を向いた。彼はイノリを見つけたのだろう。表情を綻ばせ、こちらに向けて手を振った。
「イノリ!」
「ユウマさん!」
ユウマに応えるように手を振り返せば、彼は小走りでこちらへ駆け寄ってきた。
一歩遅れてヨリトモとユマがミカゲを見つける。ミカゲは合図するように手を挙げた。
「こんなところで会うなんて珍しいですね。巡回ですか?」
「ええ。イノリは?」
「街で遊んでたんです。家族水入らずで街を歩き回るのは久しぶりだったので」
「そうですか」
「今から昼食を食べるところなんですよ」
不思議だ。ユウマと話していると、気持ちが弾む。楽しくて楽しくて仕方がない。勿論、友人たちと一緒にいるときも楽しいし、気持ちは弾んでいる。
けれども、その中でも1番、ユウマは“特別”だった。うまく説明はできないが、酷く甘い心地がするのだ。もっと一緒に居たいとすら思う程に。
だが、ユウマの隣にいたユマを見た途端、浮かれていた心に冷や水がかけられた。2人の邪魔をしてはいけない。イノリは慌てて声を上げた。
「あ、ごめんなさい! 邪魔してすみません」
「待って!」
ユウマに背を向けようとしたイノリだが、それは叶わない。ユウマがイノリの手を反射的に掴んだためだ。
「待ってください」と紡いだユウマの声は、ほんの僅かであるが震えている。翡翠色の双瞼は、鬼気迫る色を湛えていた。
「なんで、逃げるんですか」
「だ、だって、ユウマさんはユマさんと……」
イノリは思わずユマへ視線を向けた。急に矛先を向けられたユマは、「私?」と言う代わりに己自身を指さして首を傾げる。普段はぱっちりとしたアーモンドアイは、三白眼に近いものになっていた。
彼女はあからさまに表情を歪める。ユウマと一緒にいるところを邪魔され、不機嫌になっているのだ。それに、ユウマとユマが仲睦まじく寄り添っている姿を想像すると、こちらがいたたまれない気持ちになる。
正直、ここに居続けると精神的に辛いものがあった。逃れようと身じろぎしたイノリであったが、こちらを射抜く翡翠色の双瞼に捕らわれる。逃さないという意志よりも、逃げないでほしいという懇願の方が強かった。
その眼差しは、イノリを惹き付けてやまない。
「俺は、キミと話がしたいんです」
他の誰でもないイノリと話がしたいのだと、ユウマは言う。その言葉に、イノリは思わず目を見張った。
イノリはてっきり、ユウマはユマと一緒の時間を過ごしていたと思っていた。だから、邪魔をしてはならないと思っていたのに。
イノリは思わずユマに視線を向ける。空色の瞳と海色の瞳がかち合った。イノリが大丈夫かと問うよりも早く、ユマが肩をすくめるほうが早い。
表面上は朗らかな笑みを浮かべたユマは、祖父と談笑していたヨリトモに声をかける。
「提督。そろそろ昼食の時間ですよね」
「いや、我々にとっては少し早いような――」
「昼食の時間ですよね?」
ヨリトモの言葉を遮るかのように、ユマは有無を言わさぬ笑みを浮かべた。彼女は何も語らないが、その笑顔は雄弁に語る。「私に話を合わせろ」と。
部下の発言が何を意図しているのかを、ヨリトモは数歩遅れで理解したようだ。厳しい横顔を緩ませて頷く。
「そうだな。折角だし、屋台で食べていくか」
「じゃあ、俺がおごろうか?」
「せ、先生!? いや、そんな……」
「いいからいいから。気にするなって」
ミカゲは子どもみたいな笑みを浮かべた。どこか得意げな笑い方である。祖父の財布の中には、Azが隙間なく入っていた。かなりの大金である。
「足りなければ換金するかな」と言ったミカゲは、鞄の中から様々な素材を取り出す。どれもU.E.77年の東京では珍しいものばかりだ。
今持っている素材を売れば、Azは財布に収まらなくなるだろう。財布の中を見せられた教え子とその部下は目を剥く。
呆気にとられる2人を置いて、ミカゲはすたすたと屋台へ向かっていく。その背中からは、有無を言わさぬオーラが滲み出していた。
ヨリトモとユマは顔を見合わせた後、助けを求めるようにユイを見る。3人は顔を見合わせていたが、苦笑してベンチに腰かけた。
ユウマと話ができるのは、とても嬉しい。そして、それ以上に楽しかった。できればでいいのだが、ユウマも、“イノリと話をしていて楽しい”と思ってくれたら嬉しい。その気持ちをひっそりと抱え込みながら、イノリは微笑んだ。
「もしよろしければ、一緒に食べませんか?」
「いいですね、それ。……ああ、ちょっと待ってください」
ユウマは二つ返事で答えようとして、何かを思い出したように言葉を切った。彼は振り返る。提督、という呼称を口に仕掛けたユウマだが、彼は止まった。
視線の先には、たい焼きを口に突っ込まれたヨリトモと、今川焼を頬張りながら、右手にアイス、左手にクレープを持ったミカゲの姿があった。何とも言えない顔をしたユマの手には、今川焼とたい焼きが山ほど入った紙袋を持たされている。
彼が屋台へ向かったのは数分前だったように思う。たい焼き屋と今川焼屋は反対方向に店を構えていたし、それなりに人も並んでいる。アイスクリーム屋とクレープ屋も然りだ。祖父はいつの間に買い込んできたのだろう。
「先生、いきなり何をするんですか!?」
咳き込んだヨリトモが恨めし気にミカゲを見上げる。教え子の反応を見たミカゲが目を細めた。
「“今川焼よりたい焼き派。特に、オーソドックスなもので、中身の具はつぶあん一択。白たい焼きや、カスタードみたいな小洒落たものは好きじゃない”」
「――!」
「“クレープやアイスクリームのような洒落たものは、自分が食べるのはあまり好きではない。でも、他の人が食べている図は悪くないと思う”。――だろ?」
「……覚えていたんですか」
「すまん。実は、今しがた思い出した」
「ご冗談を」
懐かしさと親しさを込めた紫水晶の瞳は、自分の記憶が間違っていないことを確認したかのようだ。それを聞いたヨリトモが苦笑する。しかし、どこか嬉しそうに見えたのは気のせいではないらしい。
ユマが意外そうに目を瞬かせる。夫と夫の教え子の様子を見守っていたユイも苦笑した。菫色の瞳には、惜しみない愛情が滲んでいる。妻と教え子の眼差しを受け止めたミカゲもまた、嬉しそうに目を細めた。活き活きした横顔に、イノリも自然と口元が綻ぶ。
ユウマは物珍しそうにヨリトモたちの様子を眺めていたが、用事を思い出して手を叩く。彼はヨリトモに「イノリと昼食を食べたいが、構わないか」と問いかけた。ヨリトモはポカンとしたようにユウマを見たが、2つ返事で頷いた。
上司から許可を得たことで安心したのだろう。ユウマは表情を綻ばせながらイノリの方へ向き直った。
「許可がもらえました。それじゃあ、何を食べますか?」
「そうですねえ……あそこのパン屋さんとかどうでしょう? 私の行きつけなんですよ」
ユウマに問われ、イノリは販売用の車を指さす。以前からイノリたちが贔屓にしていた、美味しいパン店であった。
長蛇の列はなかったが、車の周辺にある食事スペースには沢山の人で賑わっていた。ユウマは物珍しそうに周囲を見回している。
店主は忙しそうにパンを売っていたが、イノリの存在に気づくと笑って手を挙げた。
「いらっしゃい、イノリちゃん! 今日は何にする?」
「“いつもの”でお願いします」
「オーケー、“いつもの”ね!」
イノリの注文を聞いた店主は2つ返事で頷くと、棚から2つのサンドイッチを取り出した。
1つめは、新鮮な野菜――真っ赤なトマトや歯ごたえのあるレタス、甘い玉ねぎ等をふんだんに使い、ハーブとスパイスで味付けされた鶏肉を挟んだベーグルチキンサンドだ。
2つめは、新鮮な果物――マンゴー、バナナ、苺、キウイフルーツに、ホイップクリームと濃厚なカスタード――バニラビーンズが入っている――を使ったフルーツサンドである。
イノリはいつもこの2つのサンドイッチを頼む。前者は食べごたえがあり、充分なボリュームがある。後者は午前中に頑張った自分へのご褒美であり、午後からの活力になるのだ。
店主からベーグルチキンサンドとフルーツサンドの包みを受け取り、代金を支払う。ユウマは呆気にとられたようにイノリのサンドイッチを見つめていた。
「隣のお兄ちゃんは何を食べるんだい?」と店主に問われたユウマは、ショーウィンドウに並ぶサンドイッチを一通り眺めているようだった。
「……俺も、彼女と同じものをお願いします」
散々迷った後で、ユウマはぎこちなく注文した。程なくして、店主からベーグルチキンサンドとフルーツサンドを手渡される。
「あ、そうだ。私が払いますよ」
「え?」
「貴方に助けてもらったお礼、何も返してませんから」
精算しようとしたユウマの手を止める。きょとんとこちらを見返した命の恩人は、イノリの言葉を理解しているようには見えなかった。
イノリが代金を払おうとした現場を見て、ようやく合点がいったのだろう。酷く焦った様子で、「待ってください」と引き留められる。
ユウマは割り込むようにして財布から代金を支払った。呆気にとられるイノリを横目に、店主はユウマから代金を受け取った。
「気にしないでください。俺は、当然のことをしただけですから」
ISDFの若きエースは、爽やかな笑みを浮かべて言い切った。何て眩しい笑みなのだろう。どうしてか、謙虚で礼儀正しい好青年の姿が、大きな壁のように思えた。
イノリは暫し代金を握り締めて所在なさげに佇んでいたが、仕方がないので財布にしまう。何とも言えない気分になり、思わず俯いてため息をついた。ユウマは気づいてない。
自販機で飲み物――イノリがミルクティー、ユウマがコーヒー――を購入した後、空いたテーブルへと腰かけた。……向かい合う形で、だ。
「…………」
「どうかしましたか?」
「あ、なんでもないです」
イノリを真正面から見つめて首を傾げたユウマから逃げるようにして、イノリはベーグルチキンサンドの包み紙を外した。そのままの勢いでかぶりつく。
ベーグルのもちもちした食感を堪能する。直後、野菜の甘さとジューシーな鶏肉の油が口の中一杯に広がった。自然と口元が綻ぶ。
「…………」
真正面から視線を感じて、イノリは思わず顔を上げた。視線の主は、イノリを興味深そうに見つめるユウマである。
「どうかしましたか?」
「あ、なんでもありません」
イノリの問いに、ユウマは曖昧にはぐらかした。そのまま、彼もベーグルチキンサンドにかぶりつく。その動作がどこかぎこちないように見えたのは何故だろう。まるで、イノリの食べ方を手本としているみたいだった。
暫くサンドイッチを咀嚼していたユウマだったが、纏う気配が変わった。ぱああ、という擬音がつきそうな勢いで、彼の表情が輝く。どうやら、このサンドイッチは彼のお気に召したらしい。イノリは内心安堵の息を吐いた。
サンドイッチを食べ進めながら、イノリはちらりとユウマの様子を確認する。彼は美味しそうに食べ進めていた。見ていて気持ち良い食べっぷりである。イノリは思わず目を細める。ISDFのエースは、意外と子どもっぽい一面があるらしい。
程なくして、イノリはベーグルチキンサンドを食べ終えた。ミルクティーで口直しをしつつ、次はフルーツサンドの包みを外す。そのまま一口。果汁とクリームの甘さが、じんわりと体に沁み込んでいく。イノリは口元を綻ばせ、ほうと息を吐いた。至福のときである。
イノリより一歩遅れて、ユウマはベーグルチキンサンドを食べ終えた。コーヒーで口直しをした後、イノリの真似をするようにしてフルーツサンドへ手を伸ばした。包装を外し、おっかなびっくり気味にかぶりつく。また、彼の表情は一段と明るくなった。
「……美味しい……」
ユウマは噛みしめるようにして呟く。自分の知っている以上のものに出会えた――翡翠の双瞼は、その事実に対する驚きと歓喜で満ちている。つられてイノリも微笑んだ。
「よかった。喜んでもらえて何よりです」
自分たちの間に和やかな空気が漂っている。周りに花の雨が降ってきそうな雰囲気だ。ああ、本当に楽しい。
飲み物を煽りながら、イノリとユウマはとりとめのない話をする。と言っても、この店のメニューに関する話が中心だったが。
「イノリ」
「? なんですか?」
「先程言っていたお礼の件ですが、“この店を教えてもらった”ということで充分ですよ」
ユウマは穏やかに微笑んだ。どうやら、市街地の巡回で外食する機会は多くないらしい。東京中を巡回しているけれど、こういった外食関連の知識は疎いのだとユウマは語る。効率重視のため、携帯食に頼ることが多いそうだ。
「提督とユマの分も購入してきます」と言って、彼は再び車へ向かった。店主と言葉を交わしたユウマは、2種類のパンを2つづつ購入した。1つは先程食べたベーグルチキンサンドだった。もう1つは、砂糖をまぶしたあんドーナッツである。
そういえば、先程ミカゲが「ヨリトモは洋風の甘味をあまり好まない」と言っていたか。あんこもつぶあんが好みらしい。確か、あの店のあんドーナッツはつぶあんとこしあんの2種類を取り扱っていた。
戦利品を抱えたユウマが戻ってきた。イノリも椅子から立ち上がり、ミカゲたちの方へと向かう。ユイとユマを含んだ4人は、先程と同じ休憩スペースに座っていた。
気のせいか、ミカゲから物々しい気配が漂っているように思う。対して、ヨリトモとユイは脱力したように肩を落としつつ、困ったように顔を見合わせている。ユマに至っては天を仰いでいた。
「提督。イノリが美味しいパン屋を紹介してくれたんです。提督もいかがですか?」
「あ、ああ。貰おう」
いきなり話しかけられたためか、ヨリトモが動揺した。しかし、次の瞬間には普段通りの表情に戻る。先程の表情は、イノリの見間違いだったのだろうか。
ヨリトモはユウマからベーグルサンドとドーナッツを受け取る。まずは主食――ベーグルサンドにかぶりついた。暫し咀嚼していたISDFの提督は、感心したように頷いた。隣にいたミカゲが「お」と声を漏らす。
次の瞬間、ヨリトモはつらつらとベーグルサンドの批評を始める。評価基準は栄養価にウエイトを置いているようだ。その様は、坊主の読経と言っても過言ではない。要約して結論を言うと、ベーグルチキンサンドは彼のお眼鏡に叶ったらしい。
逆に、評価基準が味に傾いたのがあんドーナッツ(つぶあん)であった。これも要約すると、「甘さ控えめのつぶあんと砂糖の甘さが合わさり、丁度いい」らしい。しかし、大量摂取は体に悪いという結論が出た。逆転ホームランで負けた感じだ。
そんなヨリトモの様子を見たユイとユウマが目を丸くする。見られていたことに気づいたヨリトモは、何とも言い難そうな表情を浮かべた。
対して、ミカゲは口元を抑えて噴き出した。肩が小さく震えているあたり、笑いを堪えている様子だ。
「昔からお前、変わらないのなあ」
結局笑いを堪えられなかったのだろう。ミカゲは楽しそうに呟いた。紫水晶の瞳は、どこまでも慈しみに溢れている。
そんな恩師の眼差しを受けて、ヨリトモは照れくさそうに視線を彷徨わせる。上司の珍しい姿を目の当たりにした部下2人は目を白黒させた。
「提督もそんな顔するんだなあ」と言いたげに、ユマとユウマはヨリトモを凝視した。居心地が悪くなってきたのだろう。ヨリトモは咳払いした。
暗に「これ以上追及するな」と主張している。部下2人は察しが良いようで、上司の主張を組むことにしたらしい。わざとらしく話題を変えた。
「ユマの分もありますよ」
「あら、気が利くのね」
ユウマから手渡されたサンドイッチとドーナツを受け取り、ユマは優雅にかぶりついていた。2人揃って並ぶ姿は、やっぱりお似合いだと言えるだろう。仲睦まじい2人の様子を見ていると、余計にそう思えてならなかった。
例えるならそれは、完成された芸術品のようだ。そこに横槍を入れることなど許されない。ユウマとユマの姿を見ているのが辛くて、イノリはそっと視線を逸らす。やはり、自分は邪魔者なのだ。踏み出していた足を後退りさせる。
胸が、痛い。けれど、それを誰かにぶつけることは、どうしても憚られた。
■■■
「なあ、トウゴくん」
「……何でしょう?」
ミカゲに名前を呼ばれたヨリトモは、たい焼きを飲み込んでから返事を返した。ミカゲの方に向き直る際、ヨリトモはイノリたちから視線を逸らす形となる。ミカゲは教え子が見ていたと思しき場所を一見した。
移動販売車の近辺にある食事スペースで、イノリとユウマは昼食を食べ進めている。幸せそうな表情でベーグルチキンサンドを食べるイノリと、目を輝かせてベーグルチキンサンドを食べ進めるユウマの姿があった。
「旧ムラクモ13班は、様々な方面で、常に矢面に立たされてきたんだ」
いきなり投げつけられた言葉に対し、どう返事をすればいいのか分からないのだろう。ヨリトモは怪訝そうに眉をひそめた。それは彼の部下であるユマも同じらしく、眉間に皺を刻む。
『ミカゲくん?』
「守るべき人類から『お前等が脅威だ』と難癖をつけられたり、背後から足を引っ張られたり、あらぬ嫌疑をかけられたこともある」
首を傾げたユイを敢えて無視して、ミカゲは言葉を続けた。脳裏に浮かぶのは、2021年の国会議事堂で行われた証人尋問だ。反ムラクモ派の議員たちによって、あわや吊し上げにされそうになったことは今でも覚えている。
竜戦役の後も、相変わらず反ムラクモ派議員は自分たちに攻撃を仕掛けてきた。予算問題から前総長・ナツメに関することまで、内容は多岐にわたる。その度、親ムラクモ派議員が助け舟を出してくれた。
その矢面に立っていたフジタ議員とアリアケ議員に何度助けられたことだろう。堂島
「だから、俺たちに対する畏怖とか、敵意のこもった眼差しには敏感なわけだよ。他者が他者へ向ける感情も、うっすらとだが察する自信はあるぜ?」
「っ!?」
ミカゲは一気に間合いを詰めた。間合いと言っても物理的な方面ではなく、心理的な方面である。言葉と態度という名の刃を、ヨリトモの心に突きつける。
ヨリトモは一瞬たじろいだが、ぎりぎりで踏み留まろうとしていた。険しい顔を崩さぬまま、口を真一文字に結ぶ。職務に忠実な模範的軍人だ。
答えないということは、ヨリトモが感じている“他者への畏怖”は、ISDFの機密事項に関わることなのだろう。
「トウゴ」
鋭く研ぎ澄ませた眼差しを教え子へ向ける。妙な行動をすれば、ミカゲは容赦なく刃を振るう心づもりでいた。と言っても、言葉と精神的な手段として、だが。
もう一度、彼の名を紡ぐ。自然と声のトーンが下がった。ミカゲの声に込められた感情を理解したのだろう。ヨリトモは苦い表情を浮かべて視線を逸らした。
彼の畏怖が何に起因するかは察しがついていた。直属部下――ユウマ関連であり、畏怖の対象者はミカゲの孫であるイノリだ。眼差しを見ていれば、それくらいは分かる。
元々、
眼差しで語るタイプの人間であるともいう。同時にそれは、口下手の弊害であるとも言えた。
「…………」
「……ふーん」
ヨリトモは口を割らない。どうしても言えないのだと、彼の瞳は悲鳴を上げている。成程、この話題を突き詰めることは不可能らしい。ミカゲは標的を変えることにした。
「そういえば。それを踏まえたうえで、おたくにちょっと訊きたいことがあるんだけど」
ミカゲはユマへ視線を向けた。まさか自分が標的になるとは思ってもみなかったのだろう。海色の瞳は驚いたように見開かれる。
しかしそれも一瞬のことだ。ユマはアルカイックスマイルを張りつけてミカゲを見返す。「なんでしょう?」と言った彼女の声は、どこか固い。
ぼろを出さぬよう、出したとしても最小限で取り繕おうとしているかのように見える。
華奢な身体に見合わぬ何かを背負い、隠そうとしているような印象を抱いたのは気のせいではない。
伊倉ユマという女性が気を張る理由は分からないものの、そこに滲む感情は、うっすらとだが察知できた。
「なんでキミは、那雲夫婦に対して怯えるんだ」
「!?」
「ヨツミンも、シラユキも、お前さんを害そうなんて思っちゃいないのに」
悲しそうに微笑む年上の親友、そしてその伴侶の横顔が浮かんでは消えていく。シラユキと瓜二つのルシェから拒絶されるのは、あの夫婦にとってかなり堪えることだった。
「あの2人、凄く落ち込んでたぞ。『私たちが彼女を不快にしてしまったのではないか』って。で、どうなの? 実際のところ」
「……どう、とは?」
「あの2人に何かされたの?」
「……いいえ。特に何も」
ミカゲの問いに、ユマは返答する。彼女の声が僅かに震えたように思ったのは、気のせいではない。
「何もされていない」というユマの言葉は本当だろう。だが、その言葉の裏側には、何か別の意味が込められている。
ユマの言葉に隠された真意がどのようなものか、現状から紐解くことは不可能だ。ミカゲは深く息を吐いた。
例え追求したとしても、ユマはあの手この手で煙に巻こうとするだろう。教え子と師匠という繋がりによるイニシアチブがない分、ユマの方が圧倒的に有利である。
成程、この話題も突き詰めることは不可能らしい。ミカゲは標的を変えることにした。話題の相手は、孫と一緒にランチと洒落こんでいる。真に腹立たしい。
「お前の部下。あの優男さあ」
「ユウマがどうしたんですか?」
「なんかあいつ、アンバランスだよなあ。ヒトとして何かが未熟というか、外見に合わず情緒が未発達というか、歪な感じがする」
「方向性は違うが、“昔の俺”みたいだ」なんて言いながら、ミカゲは探るような眼差しでユウマを見つめる。視界の端で、ヨリトモが弾かれたようにこちらを見た。
蒔いた餌に食いついてくれたらしい。ミカゲは笑みを深くしてヨリトモの方に向き直った。ここでようやく、ヨリトモは「自分が墓穴を掘った」ことに気づいたようだ。
ヨリトモは、嘗てミカゲが“何のために”生きていたかを知っている。だから、ミカゲの言葉が何を意味しているかも分かっているはずだ。ミカゲはヨリトモへ視線を向ける。
だが、割り込むように言葉を濁したのはヨリトモではなかった。ヨツミの話題に沈黙を貫いていたユマである。
「渡来センセ。いくら貴方が旧世代の英雄にしてISDF設立時の重鎮だったとはいえ、今は一般人ですよね?」
「……ははあ、成程。ISDFの機密事項故に、一般人には御手を振れないでいただきたいということか。結構結構、軍人特有のクソ真面目根性は嫌いじゃない」
ユウマの出自を隠そうとする海色の眼差しは、もっと別の何かを隠そうとしているように思えてならない。ISDFがきな臭い組織であることはよく知っているため、立ち塞がるように声を上げたユマの反応はかえって逆効果だ。
威嚇する猫のような振る舞いからして、さながら彼女は“秘密の番人”と言ったところか。――同時に、己自身がその秘密の中核を握っていると主張しているも同然だ。内心、ミカゲはひっそり苦笑する。かえって逆効果だぞ、と。
「だが、残念ながら、おかげで確証は得られたよ。お前が発言してくれたおかげだ」
「え……」
「竜戦役から80年の歳月が流れ去っても、生体兵器を用いようという考えは変わらなかった。
やれやれ、と、ミカゲはこれ見よがしに肩をすくめた。
ミカゲの言葉を聞いたユマはぎょっとしたように目を見開く。ユウマに隠された地雷を踏みぬくための言葉は、ユマにとっても武器と成り得た。
「
切り崩す活路が見出せたのは事実である。教え子とその部下は、一体何を抱えているのであろうか。
「……ユウマは……あいつは、“特別な出自”なんです」
幾何かの沈黙の後、ヨリトモは重々しく息を吐きだした。弾かれた顔でユマがヨリトモを見返す。
咎めるような海色の瞳を制して、ヨリトモは粛々と言葉を続けた。
『“特別な出自”?』
「詳しいことは言えません。機密事項に抵触してしまいますから」
首を傾げたユイに対しても、ヨリトモは口を割らなかった。恩師や初恋の相手よりも機密事項漏洩を防ぐことを選んだ教え子は、文字通り模範的軍人だと言えた。
……最も、大なり小なり“抵触しない程度の情報”を零すというのは、ミカゲの追及に観念したようなものだが。ヨリトモは険しい面持ちのまま言葉を紡ぐ。
「ただ……あいつが生きてきた年月の中で、あいつに“人間らしさ”を求められたことはありませんでした。むしろ、“人間性は切り捨てるべきもの”だとされてきたんです。“役目”を果たすために」
『そんな! “人間性が必要ない”って……』
「……成程ねえ。方向性は違えど、本質は“昔の俺”と同じ訳か」
納得したミカゲが零した言葉に、ユイがすべてを察してヨリトモを見返す。菫色の瞳は驚愕と悲しみが滲んでいた。
ミカゲの伴侶は、ミカゲの出自を知り、当人以上にそのことを悲しんでくれた人である。“ミカゲの焼き直し”と言えるような存在を目の当たりにして、胸を痛めないわけがない。
ヨリトモがイノリを脅威と認識する理由は、“如月ユウマが“渡来ミカゲの焼き直し”である”ことに起因している。彼が口にできない機密事項が根底にあることは明らかだ。
『英雄の系譜は、揃いも揃って私の邪魔をするのか』
頭の中で誰かの声がした。声色からして壮年の男性。吐き捨てるような響きを伴う声だった。その声に聞き覚えがあるような気がして、ミカゲは思い出そうと思案する。
上等なスーツを身に纏い、ふてぶてしい態度を崩さなかった食わせ者。残忍な眼光は、自分の前に立ちはだかる相手をあの手この手で排除してきたという自信があった。
自分が絶対的な正義なのだと、信じて疑わない眼差し。野心を燃やす男の背中を、ミカゲは知っていたはずだ。――なのに、肝心の顔が思い出せない。
シルクハットを被ったウサギの姿が脳裏をよぎる。無茶に無茶を重ねたミカゲの魂は、変なところで記憶を擦切らしてしまったようだ。しかも、肝心要なところで。
苛立たしさを誤魔化すようにして、ミカゲはクレープにかぶりついた。濃厚なマスカルポーネとやや渋めのコーヒーパウダーが絶妙に合わさる。自然と頬が緩んだ。
丁度、イノリとユウマはフルーツサンドを食べ終わったらしい。2人は楽しそうに談笑している。いつの間に、あの優男は孫と仲良くなったのか。イライラしてきた。
「俺は、あいつの方が脅威だと思うね」
「ユウマがですか?」
「俺の孫とあんなに仲良くなって……しかも近い! イノリを助けてくれたことには感謝するけど、結局は赤の他人だろ。なのに近いんだ、近いんだよ。赤の他人のくせに、赤の他人のくせに!!」
彼氏、結婚、嫁入り……ああ、考えるだけで頭が痛くなってきた。ミカゲの発言を聞いて戦々恐々した様子のヨリトモだったが、続きを聞いた途端、何とも言い難そうな顔をして脱力した。隣にいたユマも同様である。
「なんだ、そっちか……」
「どうしてかしら。なんだか物凄く、頭痛くなりそうだわ」
『ごめんねトウゴくん。ユマちゃんも』
「いえ、大丈夫です」
3人がそんな会話をしていたのと同じタイミングで、ユウマが戦利品――先程自分が食べていたベーグルチキンサンドと、店主との話し合いの結果購入した揚げパンを抱えてヨリトモの元へとやって来た。
別な方向に意識を向けていたためか、ユウマに話しかけられたことで目を白黒させる。動揺を押し殺したヨリトモは、部下からサンドイッチと揚げパン――否、つぶあんのあんドーナッツを受け取った。
■■■
渡来一家と別れて横須賀基地へ帰投する途中、神妙な顔をしたユウマに声をかけられた。
どこか鬼気迫る様子からして、ただ事ではなさそうである。翡翠の双瞼には、ユマに対する強い疑念が滲み出ていた。教え子からそんな眼差しを向けられる理由は思い当たらない。だが、奴の瞳ははっきりとユマを責めている。
ユマに身に覚えのないことでユウマから文句を言われることは、よくあることだ。正直面倒くさいことこの上ないのだけれど、御年12歳であるお坊ちゃまの御機嫌取りをすると考えれば、仕方のないことであろう。
誠に遺憾ではあるが、ユマはユウマからの文句を甘んじて受けることにした。大型犬気質を地で行く如月ユウマは、一通り吼えないと満足しない。……なんて言ったら、今は亡き“彼”はどんな顔をしてユマを見たのだろうか。閑話休題。
「何か?」
「キミ、イノリに何かしましたか?」
藪から棒に、何を言っているんだコイツは。軍帽の下に押し込んだ狐耳が、不快感を感じてぴくついた。
ユマはユウマを睨み返す。しかし、ユウマも怯むことなくこちらを睨んでいた。とんだ冤罪である。
伊倉ユマは、身に覚えのない罪を着せられて黙っていられるような性格ではない。意味不明な疑いをかけられるのは堪ったものではないため、謂れなき汚名を雪ごうと口を開く。
「……そう思った根拠は?」
「俺と話しているときは普通です。ですが、キミが現れた途端、イノリは意図的に、俺ごとキミを避ける傾向があります」
この男、自信満々に口にしているが、渡来イノリと言葉を交わしたのはほんの僅かな間だけだ。それなのに、ユウマはイノリのことを“長い付き合いの相手”と同列に語る。
短期間の間に、ユウマはイノリに対して心を許しているらしい。しかも、絶対に近しい信頼を抱いている。……おそらく、本人が無自覚であることは間違いない。
「どうして断言できるの? 貴方、イノリとはつい最近知り合ったばっかりでしょう? 会話という会話も、ノーデンスで数回した程度じゃない」
「それは……」
反論しようと口を開いたユウマが言葉を詰まらせる。そうして、彼は首を傾げた。
業務に差し支えない程度の人間関係さえ築ければ、あとは頓着しないような男なのだ。だのに、イノリのこととなると、
その理由を察したユマからすれば、ご両人を思いっきり茶化してやりたい気持ちに駆られた。口の端が自然とニヤついてしまう。どうしても止められない。
しかし、高みの見物と洒落こめない気配も察していた。ユマを見たイノリの反応、ユウマとイノリの仲睦まじい姿を見たミカゲの反応を思い出し、そっと目を逸らす。
前者からはとんでもない誤解を抱かれているし、後者からは厄災を齎されそうな気配がする。実際齎すつもり満々だったから恐ろしい。
ユマたちの上司であるヨリトモは、教え子という立場のせいでミカゲに強く出られないのだ。力関係上、こちらが不利であることは決定的である。
(……あーあ。本当に、やれやれねぇ)
自分に降りかかってくる災難と、自分が抱えることになるであろう気苦労を想像し、伊倉ユマは乾いた笑みを浮かべて天を仰ぐ。
空は忌々しい程の快晴。燦々と照り付ける真夏の太陽は、どこまでも容赦がない。自分が干からびてしまうのも、時間の問題のように思えた。
スランプに陥ったのと、息抜きで他の話を書いていたのと、とあるゲームのイベントに参加していたのと、リアルが忙しかったんです。更新ペースは暫くこの調子だと思われます。
さて、今回も日常パート。イノリとユウマの青春に巻き込まれる面々に、ちょこちょこフラグが建ちました。最後のユマとユウマのやり取りは、改訂版で加筆した場面です。
ユマさんに、ギャグ方面でのSAN値直葬イベントに関する伏線が張られました。現時点ではイノリとユウマに関する者ですが、伏線はもっと増えていく予定。流れ弾です。
幕間のお話はこれで終了です。次回からはChapter2へと突入します。改定前のお話に近づいてきました。加筆修正しつつ、じりじりと進めていく所存です。