百花繚乱クロニクルセブン-僕らのセカイとキミのミライ-   作:白鷺 葵

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・この時点で、本来覚えていない技を使って戦っています。ご注意ください。


運命の火種、想いの灯火

 ふと気づくと、そこは紫の花が咲く平原だった。心地よい風が吹き抜ける。甘くやわらかな香りが鼻をくすぐった。

 自分は今まで何をしていたのだろう。ウィータはそれを思い出そうと首をひねったが、靄がかかったように霞んでしまう。

 

 

(ここは一体、どこなんでしょう……?)

 

 

 ウィータの故郷・アトランティスには、こんな花は咲いていない。見たこともない花だ。けれども、ウィータがよく知る花よりは美しく、可憐で、優しい香りがする。おそらく、陸に咲く花なのだろう。

 ニアラが攻めてくる以前は、アトランティスにも綺麗な花が咲いていた。その平原はもうない。星晶石の守りが失われたことが原因で、大地ごと海の藻屑と化した。残されたのは下層区クラディオン、首都アトランティカ、最後の海洋宮となったベルク海洋神殿のみだ。

 

 一面に広がる紫の花を見ていると、心が安らぐ。こんな気持ちになったのは久しぶりだ。ウィータたちは、アトランティス玉砕を掲げた王族たちの意見に反対し、ドラゴンやマモノたちとゲリラ戦を繰り広げている。

 

 ウィータは屈み、紫の花を摘んだ。甘い芳香に、ゆるりと目を細める。

 ざわり、と風が哭いた。星の聲が聞こえてきたような気がして、ウィータは思わず顔を上げる。

 紫の海をかき分けるようにして、誰かがこちらに近づいてくる。人影は、若い青年だ。

 

 しかし、彼の耳は尖っていなかった。肌の色も色白で、ウィータ達――ルシェ族とは違う者だ。身に纏う洋服も、ウィータ達――海の民の纏う服ではない。レンズのようなものを目にかけ、髪の色は薄い栗色。けれど、こめかみ付近の髪の色は退紅色だ。

 そういえば、聞いたことがある。陸の民は、動物の皮を鞣した服を身に纏っているらしい。ウィータはその現物を見たことがないが、おそらく、今目の前にいる青年がそうなのだろう。ウィータはまじまじと彼を見つめた。彼もまた、ウィータを見つめる。

 

 

「――はじめまして」

 

 

 青年は、ふわりと微笑んだ。先程までは惚けたような表情だったのに、今は柔らかな笑みを浮かべている。

 

 彼はウィータに好意的だった。星占術師としてのウィータの第6感も、この青年が敵ではないと告げている。だから、ウィータはそれを信じることにした。

 ウィータも微笑み返し、「はじめまして」と答えた。青年はそんなウィータを見返し、ゆるりと目を細めた。不意に、ウィータの胸の奥がざわめく。

 

 これは、予感だ。星占術師としての能力が、“運命が回り始める”のだと告げている。以前、星詠みの力で“竜殺剣の真の担い手が現れ、ニアラを討つ”という託宣を受けたときと同じような確信だった。

 伊達に、星占術師の卵として王宮勤めをしてきた訳ではないのだ。今は亡きウィータの師匠も、ウィータのことを「絶望と因果を断ち切り、運命を超えて希望を紡ぐ星占術師となるだろう」と言っていた。

 

 

「……貴方は、誰ですか?」

 

「僕はナ・サイラスリヒト・シヴィラティカ。エデンのプレロマで、星学者をやってます」

 

「え? ええと……」

 

「名前が長いんで、サイラスと呼んでください」

 

 

 青年――サイラスは、にへらと笑った。外見からは想像できない、どこかふわふわした口調だった。

 ウィータは一瞬驚いたが、こういう人もいるのだと納得する。外見と口調が一致していない例は、弟のモルスにも言えたためだ。

 

 

『モルスは、黙っていれば麗しい殿方なのですがね』

 

『わかる。口を開くと、途端に残念になるよな』

 

 

 自警団の同僚からよく言われた言葉だ。ウィータもそう思う。一たび口を開けば、弟はお気楽なお調子者だからだ。閑話休題。

 

 サイラスが自己紹介を終えた段階で、強い風が吹いた。星の声が聞こえる。ウィータはハッと目を見開いて、サイラスと名乗った青年を見返した。

 託宣だ。彼はいずれウィータと出会い、ウィータ達が竜を討つための力となる。しかし、その託宣以上に、ウィータは別の予感も感じ取っていた。

 しかしながら、それを口に出して言うのは憚られる。心臓が荒れ狂うように鼓動を刻む音が鮮明に響いてきた。落ち着かせるように、ウィータは胸の前で手を組む。

 

 サイラスは何も言わず、ウィータの様子を見守っている。

 まるで、ウィータの託宣を待っているかのように。

 

 

「……“遥けき楽園に待つのは、奇妙な出会いと見知った人々との別れ。希望と絶望の果てに、汝は竜の謎に触れるであろう”……」

 

「成程。今のが、古代文明アトランティスの星占師が持つ、星詠みと託宣の力なんですねー。……ふむふむ、興味深いです」

 

 

 何が面白いのか、サイラスは興味深そうにウィータを見つめた。鳶色の眼差しは、穏やかな海を思わせるが如く澄み渡っている。奥底から溢れるのは、尽きることのない探究心。その眼差しに、ウィータは酷く惹きつけられた。

 なんとか落ち着かせたはずなのに、また心臓がざわめき始める。高鳴る鼓動が何を意味しているのか、ウィータは重々理解していた。同時に、それが相手に伝わることがないということも。わかっているのに、酷くもどかしい。

 次の瞬間、世界がぶれるような感覚に見舞われた。紫の花畑にいたはずなのに、咲き誇る花が形を変える。可憐な花は、ウィータがよく知る毒花――フロワロへと姿を変えた。見知った毒々しい赤色とは違う、薄い桃色の花。ウィータはぞっとした。

 

 あの花は、命の選別をする花だ。多くの命をふるいにかけ、価値ある者だけを生かす。

 

 

(“揺るぎのない、絶望”――!!)

 

 

 ウィータがそれを本能的に理解した途端、頭の中に不明瞭な光景が浮かんだ。命の選別を担う花が咲き乱れた大地、倒れ伏して動かない人々。誰が倒れているのか、ウィータには全く分からない。

 しかし、その光景は断線し、いつの間にか、紫の花が咲く花畑に戻っていた。得体の知れぬ恐怖に、身体の震えが止まらない。一体何が起きたのか。そのとき、誰かに両肩を掴れ、引き寄せられた。

 

 顔を上げる。そこには、至極真面目な表情のサイラスがいた。彼の双瞼はウィータをしっかりと映し出している。また、心臓がざわめいた。

 彼はじっとウィータを見つめていたが、ウィータがサイラスに釘付けになったことを察した途端、へにゃりと微笑んだ。不思議な笑い方である。

 だが、彼の笑みを見ていると、なんだか勇気づけられるような気がするのだ。……それもまた、サイラスという青年の魅力なのだろう。

 

 

「大丈夫ですよ。どんな絶望が待ち受けようとも、僕が貴女の力になります。貴女たちの道を切り拓く力になります」

 

 

 顔はへにゃりとした笑みのままなのに、サイラスの眼差しはどこまでも真っ直ぐだった。力強い眼差しに、引きこまれそうになる。魅せられて、目が離せなくなるのだ。

 

 次の瞬間、サイラスは至極真面目な表情になった。

 ウィータは思わず息を飲む。そうして、サイラスは力強く笑った。

 

 

「だから、安心してください。この命に代えても、僕が、貴女たちを勝利へと導いてみせましょう!」

 

 

 「エデンの頭脳の名に懸けて」と、サイラスは締めくくる。彼の瞳には、一切の迷いも躊躇いもない。嘘もなかった。

 それ故に、ウィータの背中に悪寒が走る。サイラスはこの宣言通り、ウィータ達の戦いを勝利に導くためなら、命を懸ける覚悟でいるのだ。

 再び、少し前に浮かんだ“絶望”がフラッシュバックした。飛び散った残骸、倒れた躯。あそこにいたのは、誰だったのか。

 

 それを問う間もなく、強い風が吹いた。ウィータは思わず身を庇う。サイラスの纏う外套が風に揺られた。彼は無邪気に微笑む。

 刹那、ウィータは何かに引っ張られるような感覚に見舞われた。紫の花畑と、サイラスとの距離がぐんと遠くなる。

 

 

「ま、待って! 私、まだ、貴方と――」

 

「待っています、ウィータ。貴女の言う、“遥けき楽園”――エデンで会いましょう」

 

 

 ウィータは慌ててサイラスに向かって手を伸ばした。サイラスは穏やかに微笑み返す。途端に、世界は白く染め上げられた。

 

 

***

 

 

 ――欠けた夢を、見ていたようだ。

 

 ウィータ・クリュティエはがばりと身を起こす。武装自衛団の仲間たちが、泥に浸かるかのように身を横たえていた。

 周囲からはうめき声が聞こえてくる。怪我をした者の声だ。徹底抗戦を唱えた者たちが集まるクラディオンは、完全にジリ貧である。

 

 

(……戦況は、絶望的)

 

 

 ウィータは静かに目を閉じる。星の聲に耳を傾けた。

 

 金色の竜を討つのは、時を超え、彼方より来る異邦人。かの者たちもまた、“竜を狩る者”。

 陸の民と海の民が手を取り合いしとき、“竜を狩る者”たちは青く輝く剣を以てして、絶望を吹き払うであろう――。

 

 首都アトランティカにいた頃、ウィータが得た託宣。内容は、何も変わらない。玉砕なんてしなくても、未来を切り開く可能性は存在しているのだ。なのに、王族や役人たちはそれに耳を貸さなかった。王ですら扱えなかった竜殺剣を、異邦人が扱えるはずがないと切り捨てた。玉砕しかないのだと主張した。

 特に、事実的な玉砕推進派の筆頭である叔父は「あの託宣を取り下げろ。お前を逆族にするのは心苦しい」とウィータを脅してきた程だ。あまりにも弱気な脅迫が、かえってウィータの決意を固くしたのだが。『叔父上なんて大嫌いです』と叫んで、ウィータはアトランティカから飛び出した。

 首都を追放された者は、下層区へと流れた。特にクラディオンには、元親衛隊所属の騎士や優秀な占星術師が集まった。親衛隊長であったエーグルがいて、自警団を作ったという話を耳にしたためである。因みに、ウィータの場合は、生活の基盤をクラディオンへと移していたモルスを頼る形でここに転がり込んだ形となる。閑話休題。

 

 

(同じアトランティスの人間として、私は彼らに同意することはできません。私たちのすべきことは、命を繋ぐため、未来を手にするために戦うことではないのですか……?)

 

 

 ウィータは祈るように手を組んだ。勿論、返事はない。ここには、玉砕派の人間なんてどこにもいないからだ。

 クラディオンには徹底抗戦を唱えたものしかいなかった。玉砕派の人間たちは、生きたいという思いを握り潰している。

 

 死相を手繰る星占術師は、死に敏感だ。ウィータも、ずっと死の気配を感じ取っている。その気配は濃く、じりじりと近づいてきていた。

 

 それでも、諦めることはできない。それ故に、抗う。

 ウィータはサイスを強く握りしめた。

 

 

(私の託宣が正しいならば――)

 

 

 濃くなった死の気配と同じように、眩いばかりに輝く命の気配が近づいてくる。

 

 死の気配に敏感な星占術師は、同時に、生の輝きにも敏感であった。命の放つ気配を、正しく把握できた。

 それ故に、ウィータは感じていた。死に飲まれかけた海の国に、生に満ち溢れた光を宿す異邦人が足を踏み入れた気配を。

 煌めく命の輝きが、クラディオンに近づいてくる。もうすぐ、もうすぐだ。逸る気持ちで、ウィータは星晶石を見つめた。

 

 

「姉上。エーグルから連絡だ。“クラディオンに侵入者の陰あり。緊急事態だから、戦う準備をしとけ”ってさ」

 

 

 明るい声に振り返る。ウィータの弟であるモルスが、得物である短剣をくるくる回転させ、弄んでいた。淡く輝く光が、侵入者を滅するという意志を現している。ルーンナイトの剣が放つ、命の光だ。

 クラディオンはマモノとドラゴンの襲撃をやり過ごしているにすぎない。集落を守る星晶石の力は日に日に衰えていく一方だ。しかも、上流階級の連中は、ここの石も玉砕用の特攻兵器として使うつもりでいる。

 

 誰もが未来を諦めていた。諦めないと決めても、絶望が延々と広がるだけである。諦めた人間たちの気持ちも、ウィータは分からなくはない。退路は既に封鎖され、進むべき道は破滅以外にない――そんな状況の中で、異邦人の命の光が眩く輝くのが見えた。

 

 

「――ついに、運命が動くのですね」

 

「運命……」

 

「おそらく、ここに足を踏み入れようとしている者たちが、“狩る者”たちでしょう」

 

 

 確証を持って、ウィータは託宣を告げた。それを聞いたモルスは、弾かれたようにウィータに視線を向ける。揺らぐことのないウィータの眼差しを真正面から受け止めた彼は、目を瞬かせた。

 姉の言葉を確認するように、弟は駆け出す。ウィータも彼の背中に続いた。程なくして、クラディオンに繋がる洞穴付近にたどり着く。自警団の面々が、岩陰から侵入者の様子を伺っていた。

 見たことのない衣を纏った者たちが、何かを話し込んでいる。自分たちの力を示すために転がしておいたドラゴンの死体にも物怖じする様子はない。むしろ、自分たちの実力に感心している様子だった。

 

 男の耳は尖っていないし、女の耳は頭の上にない。あれが、地上の民。上流階級の連中が野蛮と称した国から来た、異邦人だ。

 ウィータは、彼らが遠い時を超えてやってきた異邦人であることを知っている。絶望を吹き払う、命の眩い輝きを知っている。

 

 

(彼らとの戦いに、私たちは負ける)

 

 

 そして、そこからすべてが始まるのだ。絶望をひっくり返し、命を繋ぐ戦いが。

 

 ウィータはその託宣を口に出さない。口に出してしまえば、かえって逆効果になるためだ。陸の民と手を取り合うという選択肢を潰してしまいかねない。

 ルシェ族は、戦いになると血気盛んな一面がある。武人気質が強く、名誉を重んじる節があるためだ。敗北を示されたなら、玉砕覚悟で挑むような面もある。

 現に、アトランティスの上流貴族や王族たちは、その誇りによって滅びようとしていた。誇りを持って抗うことを選んだ自分たちが、彼らと同じ轍を踏むわけにはいかない。

 

 

「“どうか、示して。運命は変えられるのだと”」

 

 

 誰にも気づかれぬほどの声で、ウィータは呟く。それと同時に、エーグルとモルスが異邦人の前へと進み出た。

 

 

 

■■■

 

 

 

 岩陰から現れた青年たちの様子に、違和感を覚える。イノリは思わず目を瞬かせた。

 

 夕焼け色の髪にバンダナを巻いて、青の装束に身を包んだ青年の手には、銛が不自然な形で握り締められていた。“今にも投擲しようとしたが、結局投擲することが叶わぬままだった”と言わんばかりの体勢だ。こめかみからは嫌な汗が流れている。

 心なしか、彼の隣にいた青年――白銀に近いペールグリーンの髪を束ね、薄緑の装束に身を包んだ方――も、“台詞を忘れた役者がアドリブで取り繕おうとしたら、収拾がつかなくなった”かのように視線を彷徨わせていた。どちらにも、挙動不審という共通点がある。

 気のせいでなければ、岩場の裏で何かがこそこそと引っ込んでいく姿が見えたように思う。あの格好は、王都で見かけた衛兵と同じ装備だ。ルシェ族の兵士たちはひそひそと話し込んでいる。彼らはイノリたち異邦人――特に、陸から来たルシェであるシキに向けられていた。

 

 

「あれが、ウィータ様が仰っていた“ニアラを討つ者”なのか?」

 

「あの同胞、私たちとは違う服を着ているわ」

 

「陸の国から来たルシェらしい。アトランティスから陸に向かうなんて、変わってるよな」

 

 

 ルシェたちの会話に耳を傾ける。異国で暮らす同族/那雲シキの存在は、アトランティスの民からしてみれば珍しかったのだろう。

 他の場所からも視線を感じて、イノリは別な方向へと目を向けた。そちらの方でも、兵士たちがひそひそと会話している。

 

 

「……好き好んで陸に上がったわけではないのだけれど」

 

 

 兵士のひそひそ声を耳にしたユマが呟いた。憂いに満ちた海色の瞳は、どこか暗い色を湛えている。俯きがちな横顔からは、彼女が何を考えているのか読み取ることはできない。

 勿論、現地住民のルシェたちには、ユマの呟きなど聞こえるはずもなかった。陸からやって来たルシェを見る眼差しは、好奇心と猜疑心が複雑に絡み合っている。

 しかし、中には別の方面に注目している者たちもいた。彼らの視線は矢面に立つ青年2人に向けられており、どこか困惑しているようにも見える。……どうしたのだろう?

 

 

「なあ、どうするんだ? エーグル団長とモルス、あの体勢のまま前に出たぞ?」

 

「……そりゃあ、さ。異邦人と言えど、同胞から“ああいうこと”を言われたらなあ」

 

「今まさに、我々は“異国の同胞”の言うド屑になろうとしていた訳か……」

 

 

 イノリはほぼ反射的にシキへと視線を向けた。幸か不幸か、彼女には兵士たちの話は聞こえていないらしい。深緑の瞳は、青装束を身に纏った青年へと向けられていた。

 

 青年たちはイノリたちの存在に警戒している様子だった。相手の出方を伺うように、じっとこちらを見返している。

 青装束を身に纏った騎士も、薄緑の装束を身に纏った騎士も、いつでも得物を構えて攻撃を仕掛ける体勢を取っていた。

 しかし、シキの眼差しに込められた想いは伝わっているのだろう。彼らが得物に添えた手が、ほんのわずかだが震えていた。

 

 重苦しい沈黙の中で、イノリは一歩前に出た。

 押しつぶされそうになるのを踏みとどまるようにして、第一声を紡ぐ。

 

 

「初めまして。私はノーデンス・エンタープライゼスの特務部署・13班に所属している渡来イノリです」

 

「俺はISDF極東本部特殊戦術部隊所属、如月ユウマです。ノーデンス・エンタープライゼスの13班とは、作戦行動を共にしています」

 

 

 重苦しい空気の真ん中に、大きな風穴が空いたような感覚。この場に流れていた空気が一変したのを肌で感じとる。やや遅れるような形で、ユウマがイノリの自己紹介に続いた。彼の言葉を引き継ぐようにして、イノリは自分たちがこの地に足を踏み入れた理由を告げる。

 

 

「真竜ニアラ打倒のため、アトランティスの滅びを覆すため、私たちは東京――陸の国からやって来ました」

 

「なんだと……!?」

 

 

 青装束を身に纏った青年が眉間に皺を寄せた。彼の言葉を皮切りに、洞窟中に動揺が広がっていく。イノリたちを値踏みするような眼差しが、あちこちから突き刺さってきた。

 内心、とても居心地が悪い。しかし、イノリは真っ直ぐ青年たちを見返した。自身の実力はミカゲやユウマには遠く及ばないが、この意志だけは誰にも負けていない。

 

 

「みなさん、武器を収めてください。彼女たちこそ、託宣に提示された“狩る者”――竜殺剣の担い手となる勇者たちです」

 

 

 そのときだ。岩場の奥の方から、1人の女性が姿を現した。

 

 海岸の波打ち際を思わせるような蒼と白の髪が揺れる。金色に輝く瞳は、イノリたちを――ひいては希望そのものを、揺らぐことなく見据えてきた。

 アトランティカで出会った神官が身に纏っていたローブとは違い、白と水色を基調にしたワンピース風の巫女衣装にマントを羽織っていた。

 兵士たちの中でも、彼女が身に纏っている服は人一倍技巧が施されている。下層区に流れ着く前は、それなりの地位と身分を有していたことが伺えた。

 

 短剣を得物にしている騎士たちと違い、彼女の得物は大きな鎌だ。不気味なそれは、死神を連想させる。

 神秘的な雰囲気を纏う女性に、イノリたちの眼差しは釘付けだった。

 

 

「それは本当か? ウィータ」

 

「はい」

 

 

 青装束を身に纏った騎士の問いに、女性――ウィータは迷うことなく頷いた。彼女の名前には聞き覚えがある。首都で出会ったアトランティスの民が口にしていた名前だ。

 文官や兵士から様付けで呼ばれていたし、執政官のタリエリも彼女の名前を口にしていた。特に後者は、ウィータという人物に対して、強い感情を抱いているようだった。

 イノリがそんなことを考えていたとき、ウィータはこちらに視線を向けて会釈した。柔らかな微笑みには一切の敵意がない。イノリたちを味方と認識し、信頼している。

 

 

「私はウィータ・クリュティエ。嘗て、アトランティスの王宮に仕えていた占星術師(フォーチュナー)です」

 

占星術師(フォーチュナー)?」

 

「はい。星の聲を聞きとることで、未来を見通す力を有する術師たちの総称です。戦場では鎌を携え死相を操って、味方の死を覆し、敵の命を刈り取ります」

 

 

 柔らかな態度を崩さぬまま、ルシェ族の占星術師(フォーチュナー)――ウィータ・クリュティエは、己の得物を指し示した。彼女の手には不気味な大鎌が握られている。死を手繰るという言葉からして、物騒な気配がした。

 

 丁寧な物腰と不気味な大鎌――なんともミスマッチな光景である。

 ウィータは穏やかに微笑みながら、自分の前に立つ青年たちを紹介した。

 

 夕焼け色の髪に青装束を身に纏った騎士はエーグルといい、クラディオンの私兵団を束ねる団長だという。つまり、後ろの方で転がっているドラグメガマウスを狩った兵団の代表者だ。その実力は計り知れない。

 対して、ペールグリーンの髪に薄緑色の装束を身に纏った騎士はモルスといい、ウィータの弟らしい。彼もまた、私兵団に所属してドラゴンと戦っている。平和だった頃は鍛冶師見習いとして修業に明け暮れていたという。

 

 

「では、集落の長の元へ案内しま――」

 

「待ってくれ、ウィータ。その前に、どうしても確かめたいことがある。……こいつらが本当に、ニアラを狩る者なのかを」

 

 

 イノリたちを案内しようとしたウィータを、エーグルが引き留めた。言葉にはしていないものの、モルスも同じ気持ちらしい。眼差しで姉へと訴えていた。

 ウィータは一瞬不安そうに表情を曇らせたが、二つ返事で頷き返した。「構いませんか?」という彼女の問いに、イノリは2つ返事で頷き返す。

 “イノリたちが本当に、託宣で示された英雄なのか”――そう疑問に感じるのは当然のことだ。戦いになることは想定済みである。

 

 戦いの形式は、代表者による一騎打ち。アトランティスの騎士たちが行う決闘の形式だという。武装私兵団の代表はエーグルとモルスだ。

 

 つい数刻前の会話を思い出し、イノリはシキへと視線を向けた。シキも迷いなく頷き返し、前に出る。

 “代表者=チームのリーダー”でないことに驚いた/不満なのか、エーグルの眉が怪訝そうに吊り上げられた。

 

 

「お前は?」

 

「ノーデンス・エンタープライゼスの特務部署・13班に所属している、那雲シキよ。陸の民の代表として、陸のルシェの代表として、貴殿との一騎打ちを所望するわ!」

 

「……分かった。クラディオン自警団団長として、海の民の代表として、その申し出、受けさせてもらおう」

 

 

 堂々とした態度を崩さぬシキに、エーグルは真剣な面持ちで頷いた。

 

 その向こう側では、モルスとユウマが対峙している。どうやら、ISDF側からはユウマが一騎打ちに挑むらしい。イノリの視線に気づいたのか、ユウマはゆるりと目を細めた。

 「自分は大丈夫」と、翡翠の眼差しは自信満々に告げる。イノリも微笑み、頷き返した。ユウマなら大丈夫だろう。茶化すように声援を送るユマを横目に、イノリはシキへと視線を戻した。

 シキとエーグルが対峙する。ユウマとモルスの審判役は、自警団に所属する騎士だった。シキとエーグルの審判役はウィータだ。戦闘開始の合図と共に、4人が勢いよく駆け出した。

 

 

 

■■■

 

 

 

 金色の竜を討つのは、時を超え、彼方より来る異邦人。かの者たちもまた、“竜を狩る者”。

 陸の民と海の民が手を取り合いしとき、“竜を狩る者”たちは青く輝く剣を以てして、絶望を吹き払うであろう――。

 

 ウィータの予言を思い出しながら、エーグルは目の前の少女――シキと戦いを繰り広げていた。

 

 陸からやって来た、異国の同胞。短剣にマナを纏わせ戦う騎士/ルーンナイトとは違い、シキは己の拳にマナを込めて打ち込んでくる。陸の国に伝わる武術なのだろう。

 短剣と拳がぶつかり合い、派手に火花が散った。エーグルは即座にシキの拳を撃ち払うと、勢いそのままに彼女を斬り付けた。彼女の表情が痛みに歪む。

 しかし、次の瞬間、シキが笑みを浮かべた。まるで、獲物が罠にかかったことに喜ぶ漁師の表情――エーグルがそれに気づいたときにはもう遅かった。

 

 

「その程度ッ!?」

 

「ぐッ!?」

 

 

 みぞおちに一撃が入った。エーグルの体がぐらりと傾く。迫る追撃をなんとか躱して、エーグルは態勢を整えた。

 

 素早さではエーグルの方が上だが、シキの一撃は重く侮れない。しかも、彼女の武術は“後手に回ることを前提にした”攻撃も持っている。

 迂闊に攻撃すれば、即座に反撃の餌食になるのだ。この攻撃の存在だけで脅威である。陸の国に伝わる武術も、アトランティスに伝わる武術とは引けを取らない。

 

 

「拳に気を……続けていくから!」

 

 

 シキは一撃叩きこみ、その勢いのままもう一撃を喰らわせた。辛うじて直撃は避けたが、身体に違和感を覚える。マナの流れが乱されたような感覚だ。

 彼女が嗜む武術は、身体を巡るマナを自在に操ることができるらしい。自身の傷をそうして治療したように、それは敵味方に適応される。

 再び打ち合いを再開させた。刃と拳がぶつかり合い、火花を散らす。いくら傷ついても、シキは決して止まることはない。逃げることなく喰らいついてきた。

 

 陸の民たちは「ニアラを倒しに来た」と言う。ウィータもまた、「彼女たちがニアラを倒す者だ」と断言した。

 しかし、エーグルにはどうしてもそうは思えなかった。シキの一撃をいなし、エーグルは距離を取った。

 

 

「今の打ち合いで、よく分かったぜ。――少なくともお前は、ニアラの尻尾にも触れねえってことがな!」

 

 

 エーグルは躊躇うことなくマナを解き放つ。シキは次の一撃が必殺技であることを察知したのだろう。表情をこわばらせた。勿論、エーグルは止まらない。

 

 

「――これで引かなきゃ、死ぬぞ」

 

 

 警告と共に、短剣に己のマナを収束させた。マナに呼応して、この場に吹雪が舞い始める。シキは逃げない。逃げようとすらしなかった。

 むしろ、真正面から受け止める覚悟を固めたようだ。深緑の瞳はエーグルから逸らされることはない。

 

 

「そんなの、やってみなければ分からないわ」

 

 

 ――彼女の声が、やけに鮮明に響いた。

 

 思わずエーグルは目を瞬かせる。

 拳を構えて、シキが不適に笑い返した。

 

 

「貴方の想い、全力で受け止める! それが、淑女の嗜みというもの……!!」

 

 

 一瞬、その眼差しに引きこまれたような心地になったのは何故だろう。深緑の双瞼に魅せられる。揺らぎかけた己を律しながら、エーグルは得物を掲げた。

 

 

「おおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

 

 エーグルのマナを纏った短剣は、青く透き通った槍へと姿を変える。穂先から冷気が解き放たれた。シキの姿は、あっという間に吹雪に飲まれる。

 吹雪が晴れた先には、巨大な氷塊が鎮座していた。それ目がけて、エーグルは槍を構えて突進する。勢いそのまま、その一撃を氷塊へと叩きこんだ。

 

 

(他愛もない)

 

 

 自分の勝利を確信し、エーグルは戦闘態勢を解いた。陸の民の代表者であるイノリが表情をこわばらせている。

 

 この場を覆い尽くしていた冷気の白煙が晴れていく。そこに広がっていた光景に、エーグルは思わず息を飲んだ。

 立っていた。冷気で肌を焼かれ、氷によって刻まれた裂傷から血を滴らせ、荒い呼吸を繰り返しながらも、シキは健在だった。

 

 

「……危なかった……!」

 

 

 満身創痍になりながらも、シキは戦う姿勢を崩さない。よろめいても、ボロボロになっても、深緑の瞳に宿る輝きは陰っていなかった。

 いや、それよりも、ニアラの尾にすら触れられない少女が、エーグルの奥義に耐え抜いたのだ。一体全体、何が起こったのだろう。

 

 

「お前、オレの奥義をどうやって!?」

 

「そんなの、気合に決まってるじゃない……!」

 

 

 根性論? そんなもので、エーグルの奥義に耐え抜いたというのか。この少女は。

 

 

「拳に気を……!」

 

 

 次の瞬間、シキが大地を蹴る。呆気に取られていたためか、エーグルの反応が遅れた。

 

 

(しまっ――!)

 

「――ここで決める!」

 

 

 防御する前に、シキの一撃がみぞおちに叩きこまれた。ただの正拳突きではなく、暴力的なマナを込めた正拳突きだ。

 堪らずエーグルは体勢を崩す。勿論、シキは足を止めない。次の瞬間、彼女が己のマナを解き放った。

 シキとエーグルの立場が逆転する。今度は彼女の攻撃が炸裂する番だ。防御しようにも、シキを止めることなど不可能である。

 

 

「我が想いを拳に込めて――ッ、てやあああああああああああああッ!!」

 

 

 何発も何発も拳を叩きこまれる。そうして最後に、シキは容赦なく頭突きを喰らわせた。

 もろに喰らったエーグルは吹っ飛ばされ、大地に叩き付けられる。その衝撃を最後に、意識が断線した。

 

 

 

***

 

 

 

「――ああ、気がついたのね?」

 

 

 ぼんやりとした視界が、だんだんと鮮明になっていく。木漏れ日を連想させるような金と緑の色合いが、エーグルの視界いっぱいに広がっていた。

 一歩遅れて、何とも言えない甘い香りが漂い始める。何の香りだろう? こういうものは上流貴族の嗜みで、下層民には縁のないものだ。

 ウラニアやウィータが何かを話していた気がするが、話半分で聞き流していたか。それを悔いる日が来るなんて思わなかった――。

 

 そこまで考えて、自分の視界いっぱいに広がるものの正体を理解する。女性の顔だ。つい先程まで相対峙していたはずの、決闘の相手――シキ。エーグルがそれを理解した途端、自分の感覚器官が膨大な情報を提供してきた。

 

 ここは民家だ。クラディオンの集落にある、エーグルの自室。シキとの戦いで気を失ったエーグルは、そのまま集落へと運び込まれたらしい。多分、ここを教えたのはウィータであろう。シキ以外の人々は、ここには居ない様子だった。

 頭部を支える柔らかなものの正体は、シキの膝である。俗にいう、膝枕だ。少し視線をずらせば、眩いばかりに白い脚が視界に飛び込んできた。真正面から顔面を殴られたような心地になったのは何故だろう。エーグルの頭は爆発寸前だった。

 

 

「え? は、な……え!?」

 

「急に動かないで。体に、どこか不調は無い?」

 

 

 飛びあがって逃れようとしたエーグルだが、シキに引き留められた。彼女はごく自然な動作で、エーグルの表情を覗き込む。

 

 近い。近い近い近い。色白の肌には程よく赤みが差していて、やけに艶っぽく見える。金色の髪がきらきらと光を放つ。まるで、太陽の日差しのようだ。

 戦いでは苛烈に燃え上がっていた深緑の瞳は、今は惜しみない慈愛で満ちていた。似たようなものを、エーグルはどこかで見たことがある。

 宝石の類が頭に浮かんだ。モルスが作った装飾品に使われた、透き通った緑色の宝石。あれは、何という名前だっただろうか――。

 

 

「ねえ、大丈夫? まだぼうっとするの? 調子が悪いのかしら?」

 

「はっ!? ……べ、べつに平気だ」

 

 

 エーグルはぶっきらぼうに返事をした。が、突き放すような返答をしてしまう。しまったと思ってももう遅い。

 恐る恐る、エーグルはシキを見た。シキはエーグルの様子をしげしげと確認した後、安心したように微笑んだ。

 

 

「よかった。傷の治療が終わっても、意識が戻らないから心配してたの」

 

「……治療? お前が治したのか?」

 

「ええ。いくら決闘の相手と言えども、気絶した人を放って置けないわ」

 

「そ、そうか。……あ、ありがとな」

 

「医者の卵として当然のことをしたまでよ」

 

 

 躊躇うことなく言ってのけたシキに、なんだか居たたまれない気持ちになる。一応、礼は言えたけど、胸の奥が酷くもやもやするのだ。

 

 シキが何かやったのかと思って視線を向けても、彼女の笑顔には一切の悪意がない。エーグルが大丈夫であることを確認すると、シキは立ち上がる。

 どうやら、地上からの来訪者は外で現状を確認している様子らしい。本格的な話し合いは、自警団の団長であるエーグルも交えて行うのだという。

 

 

「意識が戻ってすぐにこんなことを頼むのは心苦しいのだけど……」

 

「分かった。すぐ行く」

 

 

 エーグルはそそくさと自室から出ようとして、足を止めた。胸の奥がもやもやする原因なんて、本当は既に理解している。改めて意識すると気が重くなった。

 決着がつく寸前まで、エーグルはシキに対して誤った認識をしていた。彼女の実力は確かに未熟だし、エーグルが油断していなければ勝ち得なかっただろう。

 しかし、シキは諦めなかった。絶対的な絶望の中でも、決して折れなかった。彼女たちの眼差しから伝わってきた想いは、エーグルたちと変わらない。

 

 ……いや、想いの強さは、エーグルたち以上だ。だから、エーグルの奥義を喰らって満身創痍になっても倒れなかった。

 実力を認めたわけではない。けれど、意志の強さなら――確かにシキたちは、竜殺剣の担い手として相応しいだろう。

 

 急に足を止めたエーグルの様子が気になったのだろう。「どうかした?」と、シキが小首を傾げた。深緑の宝玉がエーグルを映し出す。――どうしても直視できなくて、エーグルは目を逸らした。

 

 

「……あと、さ」

 

「?」

 

「さっきの決闘で言ったこと、訂正する。……今のお前等じゃ、ニアラの尻尾に触れるのが手一杯だろうな」

 

 

 これが、エーグルにできるギリギリの譲歩だ。目を丸くするシキを視界の端に映しながら、エーグルは逃げるようにして部屋から飛び出した。

 気のせいでなければ、背後の方からくすくす笑う声が聞こえてきた。振り返った先にはきっと、楽しそうに笑うシキの姿があるのだろう。そんな予感がした。

 

 

『――成程な。孫に好意的な異性を目の当たりにすると、こんな気持ちになるのか』

 

 

 不意に、どこからともなく人の声が聞こえてきた。エーグルは足を止めて周囲を見回す。突然足を止めたエーグルの様子に驚くシキが目を丸くした。

 

 

『今なら、キミが心配する理由がよく分かるよ。ミカゲ』

 

 

 今度はエーグルの背後から声がした。悲痛と悲壮に満ちた声。

 振り返った先には――やはりと言うべきか――誰も居ない。

 ただ、得体の知れない予感に、エーグルの体がぶるりと震えた。

 

 

 

■■■

 

 

 

「ねえヨツミン。お前さんの得物は短剣だろ? なんで今銃持ってんの?」

 

『ミカゲ。私は銃の扱いが不得手なだけで、ハイディングの適性はヒイナと同格だ』

 

 

 物陰に身を潜める親友の横顔が、非常に鬼気迫っている。しかも、ミカゲの問いに対する答えは質問に対応していない。

 「それがどうしたの?」と問えば、親友――那雲ヨツミは至極真面目な表情で付け加えた。

 

 

『孫に好意的な異性を発見した』

 

 

 ヨツミの視線の先には、ルシェ族の若者が2人。彼の孫であるシキと、シキと一騎打ちを繰り広げた自警団団長――エーグルが会話していた。

 

 前者は特に何も変化はない。普段通りの態度だ。劇的ビフォーアフター並みに変化があったのは後者の方である。

 戦っている最中は武人ともいえる立ち振る舞いを見せていたのに。今、シキと会話している青年は、武人とは程遠い姿を晒しているではないか。

 一言で言い表すとするなら、“思春期”という言葉がぴったりであろう。顔を赤らめ、ガチガチになっている姿はまさにそれだ。

 

 唐突だが、ミカゲとヨツミは恋愛関係においての“運命”を信じている。というのは、己自身が“運命”と言えるような相手と出会ったためだ。愛する伴侶との出会いは、己の人生を劇的に変えた。ミカゲにとってのユイ然り、ヨツミにとってのシラユキ然り。

 自分たちに“運命”があったのなら、他の誰かにだって“運命”と言えるような出会いがあるのは当然だ。リョウスケや東雲兄妹、ミカゲの娘や息子にも運命的な出会いがあったし、おそらくは孫にも――非常に認めたくないことだが――“運命”が待っていることは想像に難くない。

 

 ――分かっている。分かっているのだ。

 

 運命的な出会いと言うのは、文字通り劇的だ。導かれるようにして惹かれあい、想いあい、心を通わせていく。本来なら自分たちを阻むはずの障害すら、伴侶と結ばれるための起爆剤に過ぎない。

 渡来ミカゲも、那雲ヨツミも、そうやって伴侶と出会った。そうやって伴侶に惹かれ、想い、心を通わせたのだ。だからこそ、分かる。――分かってしまった。あのエーグルという青年が、シキにとっての“運命”であると。

 

 何も、“運命”的な出会いを果たしたのはシキだけではなかった。

 リヒトとミオ、ブンイチとナガミミ、そして――非常に認めたくないことだが――イノリとユウマにも該当する。

 特にイノリに関しては、相手がミカゲの負の遺産を受け継いでいるような存在だ。地雷以外の何物でもない。

 

 

「…………」

 

『…………』

 

「…………」

 

『…………』

 

 

 2人は無言のまま顔を見合わせる。ミカゲにはヨツミが何を考えているか分かったし、その逆も然りである。

 孫に好意的な異性の存在、孫を思う祖父の想い――自分たちは確かに通じ合った。

 

 ビシガシグッグ、と、つき合せた拳が綺麗に重なったのがその証拠だ。自分たちにはもう、言葉は必要ない。目と目で語らうだけで充分だった。

 

 

 

 

 

 

「どうしたんでしょう、あの2人」

 

「…………」

 

「……何かしら。嫌な予感しかしない」

 

 

 ミカゲとヨツミのやり取りを見たユウマが首を傾げ、ヨリトモが目を逸らし、ユマが悪寒に背中を震わせたことなど、誰も知らない。

 

 

 




構成の変化と改定前のオマケが文章になっただけで、基本的に改定前と変わりません。ただ、構成の変化で、ウィータとシキの“運命の相手”にスポットライトが当たったような形になります。
前者の出番は遥か後、後者はニアラ討伐後にわいわいがやがやが始まる予定。それ以上にキャッキャウフフしそうなのが、このお話のメイン――イノリとユウマですけど。書き手である私自身もウズウズしてますね。

世界樹の迷宮Ⅴ、やっと裏ボスと戦う条件を揃えました。Basic冒険者、只今裏ボスに挑戦中。状態異常(スタン)が発動しなかったり、敵がフルバーストしてくるターン時にイージスの盾が使えない(発動者のUnionゲージが100%未満、発動させようとしたターンに必要人数が揃わない=誰かが戦闘不能になっている)状況に陥ったりして全滅を繰り返しています。心が折れそうです。
仕方がないのでレベル99冒険者を引退させ、再び育成後、武器の強化作業とスキル振り分けに勤しんでいます。インゴットを稼ぎ、最強武器に必要なアイテムを揃えつつ、誰も殺さなくていいRPGの二次創作作品をひっそり覗く日々。刀剣乱舞の鍛刀キャンペーンにもぼちぼち挑戦してますが、新実装刀剣には会えそうもないですね。嗚呼、資材が無駄に融けていく。
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