少年は公園にいた。
普段は子供や大人の声で活気のある公園も、少年が揺らすブランコの音だけが響く。
空は赤と黒に染まり、電灯にぼんやりと灯りが燈りだす。
じきに夜になろうというのに、少年はブランコから離れようとしない。
少年は顔を下に向け、力なくブランコを揺らす。
唇はギュッと噛み締められ、目には涙が滲んでいる。
それでも、少年はブランコの鎖を握り、その場から離れない。
ふと、少年は自分が見られているような気がして顔を上げた。
すると突然、目の前に女性の顔が現れ、少年は声を上げて驚いた。
「うわぁ!」
その拍子に、少年はブランコから転げ落ち、地面に尻もちをついた。
「いたた・・・」
「少年、何してるのー?」
痛みにうめく少年にかけられたのは、力が抜けるような、間延びした声である。
ズボンに付いた土を払いながら立ち上がり、少年は女性を睨みつけた。
「なんだっていいだろ・・・!それよりあんた誰だよ」
「通りすがりですが何か?」
驚いた気恥ずかしさと、痛みの苛立ちで声を荒げるも、目の前の女性は気に留めた様子もない。
「通りすがりだか知らないけど、俺のことは放って・・・」
「少年は、もしかして家出かい?」
「!!」
その言葉に、少年はびくりと身体を振るわせた。
「なんで・・・」
「何となくそう思ったから。でも当たりの様だねー」
少し怯えた少年の言葉に、女性は気だるげに答えた。
「で、少年はどうするんだい?」
「・・・え?」
女性からの唐突な質問に、少年は少し呆けた。
「家出にしても、何も持たず、野宿するには少し厳しい服装。
食べ物はないし、お金ももってなさそう。
この寒い季節にそれは馬鹿のすることだ。家出するなら準備くらいしなさい」
「えっと・・・ごめんなさい」
傍から聞いたらおかしい説教なのだが、少年は流れで謝ってしまった。
「よしよし、失敗は誰にでもあることだ。
では、反省と教訓を得たご褒美に、今日はうちで寝ていいよ」
「は?」
唐突な提案に、少年の思考は止まった。
「せっかく一つ学んだのに、それを生かさないのは罪だ。
それに、この寒空に少年を放置するほど私は鬼でも畜生でもなく、一応人間なので」
「え?え?」
未だ混乱している少年の手を女性は握り、そのまま引っ張って歩き出す。
「あ、でも家族が来たら説明はしてね。私、捕まりたくないから」
「えっと・・・解りました」
公園から数分ほど歩き、住宅から少し離れたところで、二人は一軒の屋敷に着いた。
屋敷は年代を感じる趣きを持ち、木々がそれを囲むように茂っていた。
はっきり言って幽霊屋敷さながらである。
「どう?私のおうち」
「うわぁ・・・」
門前で、屋敷を示す笑顔の女性とは逆に、少年の顔は引き攣っていた。
「さぁさぁ、一日だけとはいえ君の家だ。存分にくつろぎたまえ」
「お、お邪魔します」
女性に促されるように、少年は屋敷へと入っていく。
ふと、女性は何かに気づいたように少年に振り返った。
「そういえば、少年の名前を聞いてなかったね。私はみやこ、如月(きさらぎ)みやこ。
気軽にみやこ姉さんと呼ぶといい」
「何か余計なものついたよね!?えっと俺・・・一夏、織斑一夏・・・です」
「オリムライチカ君・・・か。それではイチカ少年、今日一日だけだがよろしく」
一夏のツッコミを聞き流しつつ、如月は笑顔で手を差し出す。
「えっと・・・よろしくお願いします」
これまでの如月の言動に戸惑いつつも、一夏はその手をとった。