「これを渡しておこうか」
「何ですか、これは」
ある日、私は織斑姉に封筒を手渡した。もはや少年少女の託児所と化した私の家である。
いつものように一夏を迎えにきた織斑姉。中学生の制服姿に、私はかつての自分を思い出す。
そして心の中で泣いた。
閑話休題。
私は今朝方の商店街で、買い物帰りに貰った封筒を思い出し、今着ている服のポケットから取り出す。そして織斑姉に声をかけ、無造作に手渡したのだ。手渡された紙切れに織斑は首をかしげ、一夏少年はなんだろうと気になるご様子。
「なに、今朝の商店街で貰ったものだ。私には無縁のものでね、君たちなら有効に活用してくれると思っただけさ」
すでに中身を知っている私にとしては、封筒の中の品物は二人にとってはいいものだろうと思う。ゆえに二人に渡したのだからな。
そんなことを考えている私の前で、織斑姉は封筒から2枚の紙切れを取り出し、書かれている内容を目で追う。
「遊園地の入場券?」
「遊園地!?」
呟くように言葉を発する織斑姉と対照的に、一夏少年は声を上げた。
「ああそうだ、買い物にいた際、商店街でくじをやっていてね。偶然回したら遊園地の入場券が当たったのよ、しかもペアチケットがね。貰ったはいいが、これの扱いに困っていてね。一人暮らしの私からすればペアチケットなんて誘う相手もいないし、この年で遊園地もな」
別に一人で行こうと思えば行けたのだが、さすがにペアチケットで一人遊園地に行くのも寂しいものだ。あまつさえ家族連れやカップルがごった返しているであろう中、一人で遊園地を楽しむ勇気もない。
どうすればいいかと思っていた際に、一夏少年が遊びに来た。一夏少年が目に入ったことで私はひらめいたのだ。この二人にプレゼントとして渡してやればいいか、と。
なにぶん一夏少年は姉と一緒に出掛けたことも少ないらしいし、織斑姉は弟と一緒に時間を過ごせなかったご様子。ならば私が一肌脱ごうではないか、と。それに二人が楽しんでくれれば、ペアチケットも本望であろう。
「でも・・・」
私は何か言おうとする織斑姉の前に進み、彼女の頭を撫でる。
「別にお前が気を使う必要はない。これは私が好きでやったことだ。人の善意には甘えておけ」
ワシャワシャと撫でられる織斑姉は、私の言葉を黙って聞き、そして首を縦に振った。
「遊園地に行けるの!?」
私と織斑姉の言葉を聞き、一夏少年は大喜びである。
「そうだよ、これでお姉さんと遊園地に行っておいで。そして存分に楽しんできてくれ」
私は膝を曲げて一夏少年の視線と合わせ、織斑姉と同じように頭を撫でる。
「みやこさんは?」
「私は行かないよ。そもそも、そのペアチケットは君とお姉さんの分しかない。私のは無いんだ。だから、私は行かないというより、行けない」
私は一夏少年に言い聞かせるよう、頭を撫でながら言葉を続ける。
「だから君はお姉さんと一緒に私の分まで楽しんできてくれ。そして帰ってきたら、どんなことがあったかを私に話してくれないか?これは重要かつ大変な仕事だぞ、一夏少年。私を楽しませるためには、いろんなアトラクションに乗らなきゃいけないからな」
ワシャワシャと撫でながら、私は笑みを浮かべる。
「私との約束だ、良いかな?」
「うん!僕、いろんなもの乗って、いろんなお話するからね!待っててね!」
「ああ、楽しみにしているよ」
私は頭を下げる織斑姉と、手をブンブン振る一夏少年を、二人が見えなくなるまで見守った。
「ふーん?偶々当たった、ねー?」
「何やら言いたげだな」
私は後ろから聞こえた声に振り替えもせずに応える。内心、いい加減に不意打ち気味に来るのはやめてくれとため息を吐く。
「だって、十数回も回して手に入れたのに、それを偶々って言えるのはみーちゃんくらいかなって」
「当たらない時は何十回も回したって当たらないものだよ。くじなんてそんなものさ。それがたかが十数回で当たっただけ。それは紛れもなく偶々だよ」
「まあでも、二人が喜んでる姿を見たらどーでもいいって感じだね。うんうん、やっぱりみーちゃんは面白いって思っちゃうなー」
後ろで何やら面白がっている声に、再度私は心の中でため息を吐いた。
「まあいい、取りあえずいいところに来た」
「ふぇ?」
私はくるりと振り返り、呆けている兎耳の少女に顔を向ける。
「なにぶんくじを引くためにやたらと買い込んでしまってね。野菜やらなんやらがあまりそうなんだ。このままだと食べきれずに腐らせてしまうだろう。だからと言って、私一人で一気に消費するには無理がある。だからどうにか数を減らそうと困っていたんだ」
私はにんまりと口を歪める。一方、兎耳は青ざめる。
「人手は多い方が良いからな。手伝ってもらうとしよう」
「えっと、私は今から忙しくなるから無・・・」
「そうかそうか、手伝ってくれるのか!いやはややはり持つべきものは親友だなー!」
私は素早く駆け寄り、逃げようとする兎耳の少女の両肩を思いっきり掴んだ。
「手伝ってくれるな?」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃー!?」
その夜、私は野菜を詰め込んだダンボールを抱えながら、離してー離してーと愚痴る兎耳を引きずりつつ、周辺の家々におすそ分けしに回ったのだった。