『光陰矢の如し』とはよく言ったもので、私がここに引っ越してから、気が付けば数年は過ぎていた。月日が過ぎ去るのは早いことは知ってはいたものの、正直あっという間だったと思う。
まさか、引っ越しした日に家出少年を拾い、保護をした少年の姉と友人に襲われ、正当防衛で海老ぞりに縛り上げた結果、なぜか彼らに好かれてしまった訳だ。自分でも何を言っているのか解らない出来事が起るとは、一体誰が予想できるだろうか?まあ、そんなことはどうでもいいか。
不本意というか、人の縁は摩訶不思議というわけではないが、ここまでと予想できない出会いがあるからこそ、この世界は面白いのかもしれない。
その一方で、看過できない問題もあるのだがな。
何を言っているのか解らないだろうが、私はこの世界が一体何なのかという事を知っている。掻い摘んで言うなら、この世界は『私が前に生きていた世界』に発売されていたらしい小説の世界だ。正直、訳が解らないだろう?私自身もよく解っていないものだ。まあそんなことは重要ではないし、説明するのも面倒なので省略させてほしい。
結局の所、私はこの世界が紙の上に書かれた箱庭世界だというのを知っているだけの話だ。
内容に関しては大まかに知らされただけで、『男の主人公がロボットに乗って、女の子たちに好意を向けられながら戦う』らしい。正直、そんなことを教えられたところで、私には関係ない話『だった』。私自身、どう聞いても厄介事にしかない聞こえなかったからだ。だから私としては、そんなのは私から離れたところでやってくれ、といの感想『だった』
だが、運命とは残酷というか、不条理というか、理不尽なものだった。先に話した、おかしな縁で結ばれた私の友人の一人が、まさかの関係者だったのだ。その上、あろうことか、そのロボットの生みの親だというのだから、運命を呪ったものだ。おかしな友人がプレゼントしてくれた『インフィニット・ストラトスのコア』を貰ったことには発狂したが、そこから物語など知ったことかと開き直ったわけだがな。そこからは、おかしな友人を弄り倒したり、尋ねてくる子供たちにかまけたりと、随分と忙しくも楽しい生活を送らせて貰った。時折、そのおかしな友人がプレゼントを弄っていたが、気にすることはなかった。
だが、私は再び運命を殴りたくなった。何故なのかだって?忘れかけていた、いや考えないようにと目を背けていたのかもしれない。
『この世界が
『決まっている筋書』、『決まっている展開』、『決まっている物語』。かつて生きていた私の
だがこの世界は違う。この世界は『決められた筋書』がすでに出来ていて、人々はそこに向かって歩いていく。どうあろうと、どう足掻こうと、世界が決めた出来事には逆らえないのだ。
「あら、このケーキは当たりね」
茶の間でテレビを見ながら、私はフォークに刺したケーキを一口頬張る。茶の間の中心に位置するテーブルにあるのは、淹れ立てのブラック珈琲と皿に置かれた一切れのケーキ。買い物帰りに立ち寄った洋菓子店で、売られていた和栗のケーキ。季節限定という言葉に目を奪われ、せっかくだからと購入したのだ。ルンルン気分で鼻歌とスキップをしながら家路につき、ではではと苦いコーヒーを淹れて準備万端。さっそく一口頬張ったというわけだ。
刻まれた和栗クリームの甘さが心をほっこりとさせる。うーんデリシャース。珈琲を一口啜り、その甘さを珈琲の苦みですっきりさせ、またケーキを一口。
ああ、心が癒されていく。
私は心が穏やかになっていく中で、画面から動物の特集を流しているテレビに目を向ける。野生の動物たちが織りなす生と死の姿。正直、ケーキを頬張りながら見る番組ではないのかもしれん。が、そこはそこ。私は気にしない。
最後のケーキをぱくりと口に入れ、珈琲を啜っていると、急にテレビが切り替わった。何やらあわてた様子のニュースキャスターが登場。渡されたであろう紙を見ながら話す。
「た、たった今入ったニュースです!先ほど日本に向けて、ミサイルが発射されました!住民は直ちに避難してください!繰り返します、たったいま・・・」
私は無言でテレビの電源をきった。そしてしばしば考えに耽る。ふーん、ミサイルが日本に落ちるんだ、へー。
空になった珈琲を空になったケーキ皿に重ね、台所に移動。それぞれを水洗いし、布巾で丁寧に水気をきる。食器棚に戻した後、茶の間に戻って腰を下ろし、ラジオの電源を入れる。お気に入りのミュージック番組を聴こうとするが、なぜか音楽が流れない。
「まいったな、これでは読書しか暇を潰せないぞ」
頭を掻きながら書斎へ生き、読みかけの本を開く。
「さてさて、この間の続きは・・・ん?」
ふと、私は何か大切なことを忘れていないか?という違和感に襲われる。なんというか、歯と歯の間に何かが挟まったような、普段の光景なのに何かが足りないという思うような、そんな違和感。
そう言えば・・・。
「ミサイルが日本に発射されたんだっけ」
私は先ほどのニュースを思い出す。そうか、ミサイルか日本に落ちるのか。そんなことに考えを耽っていると、首飾りがピカピカと光り、「もしもしー」という声が響いた。
「一体いつから、私の首飾りは携帯になったんだ?」
「凄いでしょ、束さんのプレゼント。最新機能だよ」
「弄っていたのは見ていたが、そういうことだったのか、それで何か用か?」
「みーちゃん、随分とのんびりしてるね。ちーちゃんなんて大慌てなのに」
「そうか、織斑姉は大変なのか。若いのに苦労しているんだな。それで何だ?」
こういったときの私の勘は良く働く。初めて一夏少年を拾った時のことを思い出し、私は口元が歪むのを感じる。電話越しの兎女は沈黙したままで、若干聞こえる呼吸音が気持ち悪い。いや、「はぁ・・・はぁ・・・」って聞こえてきたら誰だってそう思うだろう?そしてなんか布がこすれる音も聞こえてくるから、更に気持ち悪い。
「・・・助けて」
「解った」
私は
「方法は?」
「起動すれば後はそれが教えてくれる」
「そうか」
首飾りを外すと手の中に握りしめて、ため息を吐く。そして私は言葉を紡いだ。
『
これにより、世界は
「それで、いつまで居候する気だお前は」
「いやー束さんお尋ね者じゃん?ずっと逃げ続けるのも大変だし、それに束さんだってずっと一人だと寂しくなるのですよ」
「だからと言って、なぜ私なんだ?」
「なんとなく、助けてくれるかなって」
「帰れ」
私は兎の首根っこを掴むと、外へ放り投げた。