IS-理外の観察者   作:SINSOU

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14話

「てめぇ、馬鹿か?」

 

目の前の女性の顔に青筋が浮かぶ。おかしい、なぜ彼女は怒っているのだろうか?もう一度言うが、私は縛られるのがご褒美だと公言する被虐趣味(マゾヒスト)ではないのだ。身体をきつく、しかも椅子に括り付けられるように縛られていると想像してほしい。硬い椅子に縛り付けられているせいで身体中が痛いのだ。しかもご丁寧に、腕と脚を椅子の脚に括り付けられているのだから酷いというのもだ。誰がここまで徹底しやがった。目の前のこいつかこん畜生め!こんな状態を好む奴がいるとすれば、ぜひ今すぐ私と代わっていただきたい。こういうのが好きな人を除けば、誰だってこんな状態は嫌だろう?その気持ちを正直に伝えたというのに、どうして睨まれなければならないんだ?

 

「?」

 

「てめぇ、なに『え、お前何言ってるの?』って顔してんだ?」

 

「それは私の台詞だが。あと、何を言ってるのではなく、正解は『え、解ってないの?』だ」

 

私の言葉に、女性の目つきがより鋭くなる。そのうえ、何かしら見えちゃいけないオーラ的ななにかも見えた気がした。たぶん、色があるとすれば燃えるような赤色だろうか。私は目の前の女性を上から下、下から上へと嘗め回すように見つめる。

茶色の髪が腰まで伸び、瞳の色は赤色。服装は私たちを拉致した時のままで、SPに扮した黒スーツのままだ。あの時は目元を隠すようにサングラスを着けていたが、今はつけていない。顔だちは・・・いかん、目つきが鋭くなっているせいか、どう見てもヤンキー姉貴という言う印象しかない。まあ、人は見た目が9割、初対面であって場合はその人の顔を10秒見つめるだけで、その人の本質を7割方察するという。だから間違っていないだろう・・・たぶん。そんなことを考えていると、いつの間にかヤンキー姉貴が目の前に立っていた。その顔は先ほどと同じように随分と怒っていらっしゃる。

 

「あのさぁ、正直ここで死ぬか?」

 

そう言うと、ヤンキー姉貴は懐から黒い塊を取り出すと私の額に押し付けた。しかも固定するように私の顔を後ろから抱えるようにして更に力強く押し付けてくる。冷たい感触と硬い物を押し付けられて痛いんですけど。

さて、こんな状況になったのはどうしてか?取りあえずおさらいをしてみようか。

 

 

事の始まりは、千冬少女が弟の一夏少年と共に私の家にやってきたことから始まる。千冬少女は、去年の第1回IS世界大会(モンド・グロッソ)の優勝し、一躍時の人状態だった。そのせいで、一時期は彼らを私の家でかくまったほどにマスメディアなどに追い回されていた。しばらくして騒ぎは収まったが、それでも彼女は周りから注目されているというのだから、人気者は辛そうではある。話を戻そう。

彼女曰く、そろそろ第二回モンド・グロッソがドイツで行われるという。もちろん、第1回優勝者である彼女が出ないわけにもいかず、選手として出場するとのこと。去年の時は、そのせいで家に一人で残る一夏少年を心配し、私のところへ預けに来たのだ。だから託児所ではないと言っているだろうに・・・。

私はそのことを思い出し、また預かるのか?と確認すると、予想外の答えが返ってきた。なんでも第1回の大会の際に、日本政府に一夏少年のことを話したとのこと。家に残すのが心配ということを覚えていたのか、今回は一夏少年を特別に招待するという。そうか、しばらく織斑姉弟はドイツに行くのか、と思うと、千冬少女の次の言葉に私は耳を疑った。

 

『一緒に来てほしい』と。

 

正直、何故私まで?とは思ったが、千冬少女曰く『私は大会の練習で一夏と一緒にいられない。今回のことは、一夏にとって初めてのことばかりで不安になってしまう。だから私たちのことを知っていて、頼りになる貴女にも来てほしい』と。うん、このブラコン馬鹿姉め、そういうことを言われたら断り辛いでしょうがぁ!!

結果、私は一緒に着いていくことになりました。まあ、本場のドイツ料理に興味があったのは確かだし、しかも旅費は日本政府が受け持つというのだから、私にとって悪い条件ではなかった。と、思っていた時の私を殴りたい。

ドイツに到着した後は、千冬少女やスタッフと共に選手が滞在するホテルに移動。ホテルに到着した後は、日本スタッフと護衛というSPとの顔合わせを行った。

そして大会に向けて準備をする千冬少女と別れ、私と一夏少年は取りあえずドイツ観光にしゃれ込んだ。その際、初めての場所で迷子になるかも?という心配ごとをを伝え、もしもの時にすぐに迎えが出来るよう、発信機を付けてもらった。これで私たちの居場所がすぐに解るという。また日本政府からのゲストいうことで、変装したSPが周りにこっそりといた。なぜ解ったかって?一応、顔は覚えておいたからね。

歴史ある建物は、古い建物が好きな私としては満足だった。まあ、一夏少年は退屈そうではあったが、そこは男の子だからだろう。先に大会会場の場所を確認に行けば、色々と準備が行われ、異様な熱量を感じたのは驚きではあった。なにぶん、スポーツに興味のない私なので、これほどまでに熱狂するものか?と思ったのが正直な感想である。

食べ物にしても、『ヴルスト』いわゆるソーセージは色々あって美味しかったし、『シュニッツェル』、日本でいうカツレツは日本を思い出させた。有名であるビールに関しては、一夏少年の面倒を見ている立場であり、子供である一夏少年の手前、飲むわけにはいかなかった。そもそも私は下戸なのでどだい飲めるわけがないのだが。そんな観光を満喫し、気付けば大会は決勝戦となった。

私はネックレスをつけ、普段よりも少し豪華な服装で、一夏少年は寒さ対策の防寒着。先に大会会場へと移動した千冬少女らに続くように、私たちは送迎車に乗り込んだ。その際、いつもの運転手と顔が違っていたことを尋ねると、どうやら体調不良で急きょ変わったという。そうか、と流して乗り込んだ結果、いつの間にか眠ってしまい、気付けば縛られていたというわけである。

 

周りを見れば、天井に小さな明かりがあり、窓がないコンクリートの壁が目に入った。そして唯一の出入り口の扉の側には、運転手であった女性、ようはヤンキー姉貴が座っていた訳だ。なんでも、千冬少女が優勝するのが面白くない人がいるらしく、それを妨害するために家族である一夏少年を誘拐したという。ちなみに私はおまけ扱いと言われ、内心ではものすごく腹が立った。すでに日本政府には連絡をしており、あとは結果待ちと言う。あと、発信機の類はすでに取り払われているとのことで、すぐに助けがくるとかねぇから諦めな、とヤンキー姉貴はニタニタと笑顔で言ってきた。

そんなこんなで後は待つしかないのだから、私は彼女に打診したのだ。『(どうせ私は何も出来ないし、するつもりもなく、ちゃんと人質をするから)縄を解いてくれ』と。別段抵抗する気のない人間を縛るのは人道に反するし、私にはそっちの趣味がなかったから。その結果が、なぜかヤンキー姉貴は怒り、私は頭に銃を突きつけられているのだから理不尽でしかない。

 

「今、何時だ?」

 

「あん?」

 

「今何時だと聞いているんだ。こんな窓も時計もない部屋にいれば、時間の感覚がなくなるのは当たりまえだろう。こんな場所に、しかも縛られたままでいるのは正直辛くてね。いつ終わるか気になって仕方がないんだ。そっちの目的は織斑姉の優勝を阻止だけの話。なら織斑姉の試合時間まであとどれくらいなのか気にするのは間違ってないだろう?それに私とは違い、一夏少年はまだ子供だ。長時間の緊張に耐えられるのか心配でね」

 

「っけ、口だけは回るぜ」

 

額の冷たい感触が離れる。どうやら興味が逸れたみたいだ。私は取りあえずため息を吐いた。今のは私自身の本音だ。正直、誰かさんのために振り回されるのは御免こうむる。それこそまだ子犬のようにじゃれついてくるどうしようもない友人()の方が可愛げがある。そんなことを考えていると、ヤンキー姉貴が再び私の前に立ち、その顔を近づけてきた。

 

「まだまだ時間はあるみたいだ。残念だったな」

 

殴りたい、その笑顔。でも答えてくれてありがとうございます。

 

「ああ、感謝するよ」

 

取りあえずは礼は言わないとね。ところで、気になったことを一つ聞いてみようか。

 

「ところで、一夏少年の方は大丈夫かね?おまけ扱いの私よりも、彼の方がそちらも大切なんだろう?ならとりあえずは丁重に扱いなさいよ」

 

「安心しな、別に何もしちゃいないよ。てめぇと同じように縛って、部屋にブチ込んだだけさ」

 

「いや、それダメじゃん。全然丁重じゃないじゃん」

 

「あ?」

 

思わぬ酷い扱いに、私は素で言葉を出してしまった。しかもそれをヤンキー姉貴が耳ざとく聞いて、また顔に青筋浮かべちゃったし。誘拐も不可抗力だし、人質扱いも理不尽だ。だが、これでは後で保護者失格と千冬少女に恨み抱かれても困る。それこそ、初めての出会い(あの時)のように、木刀を持ち出されたら身が持たない。これは困った、困ったぞ。私は内心で焦り出す。このままでは私は怒り狂った野生の獣(千冬少女)に襲われる。あの時は何とかなったが、今はどうなるか判らない。もしかしたら・・・・・・あかん!私は最悪の未来を思い浮かび、真っ青になった。

 

「おいどうした?」

 

取りあえず、私が行わなければならないのは、一夏少年の確保。ならば、私の未来のために、ヤンキー姉貴(貴様)は犠牲になれぇ!

 

「先に謝っておく。これも全て来る危機を避けるために仕方がないことなんだ。誰だってそうだろう?誰だって思うだろう?危険なことを回避できるなら、誰だって回避しようとするだろう?」

 

「あんた、急に何言ってるんだよ」

 

私は目の前のヤンキー姉貴に申し訳なさそうな顔をする。今からすっごい迷惑をかけることになるからね。私は()()()()()()()()()()から抜け出し、椅子から立ち上がる。

 

「な、てめぇいつの間に!」

 

驚くヤンキー姉貴に駆けより、私は腹に向けて拳を叩き込もう拳を振るう。動けなくしてから縄で縛りあげる。それこそ気絶させるつもりで拳を突き出すが、ガキィンとなにやら硬い物に弾かれた。驚く私の前には、なにやら黄色と黒の鉄板が目に映る。そして視界外から何かが迫る気配を感じ、私は目の前の鉄板を蹴り後方へと飛ぶと、今いた場所に何やら突き刺さっていた。視線を負えば、それは昆虫の脚のような形状であり、その中心にいたのは、装甲を纏ったヤンキー姉貴であった。

 

「舐めた真似してんじゃねぇぞクソおんなぁ!」

 

一体どこから入手していたのか、どうやらヤンキー姉貴はISを持っていらしい。一体どこの馬鹿が流出させたんだ。すでに国際法違反じゃないか!そのせいで私の奇襲は失敗したぞ!責任をとれ!結果として私は、ヤンキー姉貴をブチギレさせてしまった。しかもISまで持ち出したということは、完全にキレているということだ。

 

「取りあえず、足か腕の一本は覚悟しろよてめぇ!!」

 

私は言いわけをしようと思ったが、顔に青筋を何本も浮かべたヤンキー姉貴の顔を見て、交渉を諦めることにした。うん、自業自得とはいえ、これは理不尽である。これもすべては世の中が悪い。そんなことを思いながら、

私は首にかかっているネックレスを確認する。どうやらこれは没収されなかった辺り、ただのネックレスと思われたのだろう。そして迫るヤンキーinISに対峙し、私は兎のプレゼント(ネックレス)に指を添えて言葉を紡いだ。

 

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