「もしもし、千冬ちゃん?」
私は一夏少年の電話を受け取った後、すぐさま千冬少女に電話をかける。未だ要領が飲み込めていないが、今考えていても意味がないと結論付ける。こういった場合は、知ってそうな人に尋ねるべきだ。
『ッ・・・みやこさんですか?』
数回とならない内に、千冬少女の声が聞こえる。ひとまずは状況の説明をしてもらおうか。
「今、君の弟君から電話があってね、どうもISを動かしてしまって大混乱のようだ。落ち着くようにとは言っておいたが、あの混乱ぶりからすると相当まいっているみたいだ。おそらく、試験会場は一夏少年よりも大混乱になってそうだがな」
『私も先ほどテレビを見て知りました。私は今、試験会場の方に向かっています。みやこさんは?』
「私はまだ家の中。先に君へ電話をした方が良いと思ってね。ところで千冬ちゃんは今どこにいるの?」
千冬少女は、交通機関を使って藍越学園に向かってはいるようだが、どうにも渋滞に巻き込まれたとのこと。ふむ、これは困ったぞ。それこそこうしてテレビになっているからには、取材陣やらが押し寄せている可能性がある。織斑姉弟はいろんな意味で記事のネタになる。おそらく、あの第一回世界大会優勝の時や誘拐事件とは比べ物にならないくらいに。これではただでさえ苦手意識のある一夏少年にトラウマを刻みかねない。ここは一つ、大人として何とかしなければならないか。
「私も迎えに行くわ」
『み、みやこさん?』
「私も一夏君を迎えに行こう。こういう時は大人である私に任せなさい。なぁに、心配しないでくれ。ちゃっと行ってちゃっと拾って帰るから。あ、もしも千冬ちゃんが先に着いちゃったら電話をちょうだい。あと、試験会場の方にも連絡しておいてね」
取りあえず、先に電話をしてくれるように頼んでおこう。あとはそうだな、顔がばれると流石に問題だな。これをなんとかしないといかん。うんうんと考えていると、不意にアイディアが私の頭を駆け巡った。うん、いいことを考えた!
『みやこさん?あの、みやこさんはいったい何を・・・』
ぶつりと電話を切ると、私は家の外にある蔵にしまっている『アレ』を掘り出すために向かう。さぁて、昔取った杵柄の力が今こそ有効活用される時!私はココロオドル気持ちで歩を進めるのであった。
「あの、俺、いつまでここにいればいいんですか?」
目の前に座っている女性に俺は冷や汗を流しながら、恐る恐る尋ねた。だが、返ってくるのは無言。その度に俺は心苦しくなっていく。ここは藍越学園にある一室だ。どうも応接か何かで使われる部屋で、二つの皮の椅子と大きなソファが一つ。その間に小さなテーブルが置かれている。まあ、他にも資料が仕舞われている棚があったりと、部屋の大きさと比べて小さく感じるのは気のせいじゃないと思う。俺はソファの方に座り、俺から見て左には試験官らしい人、そして右には会場を管理していた?人が座っている。そして周りには他の部屋で監督をしていた試験官等が立っている。誰もが無言で俺を見ているのが、なんとなく分かってしまう。テーブルに置かれたお茶も、すでに湯気もたたないほどに温くなってしまった。どうぞ、と置かれたはいいが、こんな中で飲めるほど俺は無神経ではいられなかったんだ。
みやこさんなら気にせず飲んでたんだろうなぁ。
普通にお茶を飲んだ挙句、『茶うけはないのか?』と言ってしまいそうなみやこさんの姿が想像できた。くすりと声を漏らすと、一瞬にして視線を独り占め。しまった、変に警戒心を煽っちゃったぞ・・・。とりあえず、何もないです、といって黙ろう。
興味本位でISに触れてしまったことでなぜかISに乗ってしまった俺は大混乱。え、どうすればいいんだ!?と暴れる俺を止めようとした試験官を咄嗟に避けてしまい、試験官は壁に激突して昏倒。それから他の試験官らが現れ、混乱するさ中にで俺は取り押さえられ、そのままこの部屋に連れてこられたというわけだ。
当初は自分の名前や生年月日やら、家族のことを聞かれ、千冬ねぇのことを知って目の前の二人は吃驚仰天。すぐに一人が部屋を出た後、なにやら外で誰かと話している声が聞こえた。その後、千冬ねぇに連絡を入れ、迎えに来るということを知らされた後は、はこうして部屋にずっといるということだ。
正直、どうしてこうなった?という思いしかない。
そりゃISなんて初めて見たから、一体どういうものなんだろう?という興味があったことは否定しないけどさ。まさか俺が動かせるなんて思ってなかったんだよ。それを正直に話してはみても、目の前の二人は訝しげに俺を見てきたわけで。そもそも藍越学園の試験会場にどうしてISの試験会場が被るんだよ。ダジャレか!
一体全体どうなんだろ俺・・・。そんなことを考えて現実逃避をしていると、ふと何やら外が騒がしい。なんか声が聞こえる。
「何かあったの?」
「その、織斑一夏を迎えにきた、と言っている人が校門に来ているみたいで・・・」
「それは確かなの?」
「はい。先ほど織斑千冬さんから、私とは別の人が行くかもしれないとの連絡は受けているのですが、その・・・」
「なんなの?」
「実際に見てもらった方がいいかと・・・」
そんな会話が目の前で行われ、二人が外へと出ていく。そして、
「織斑一夏君、君のお迎えが来たわ。今日はもう家に帰ってください。早急にお願いします。申し訳ないけど、今回のことは君だけでなく、世界にとっても重要なことなの。だからこの件については、上と話が済み次第また連絡させてもらうわ。もしかしたら、今後のことも話し合うことになるかもしれないけど、そこは理解しれくれるかな?」
「なんか良く解りませんけど、とりあえず、今日は帰っていいってことなんですね?」
俺の言葉にうなずく監督官。そのまま俺は周りをがっちり囲まれたまま外へ歩いていく。それにしてもふと思ってしまった。
「ところでなんで急に・・・」
「えっとその、それはね・・・」
思った言葉が口に出てしまったのか、俺の言葉に目の前のいる片方の女性がこちらに振り向く。でも、なぜかその視線が右往左往と定まっていない。その表情に俺はますます不思議に思ってしまう。どうにもおかしな話だ。千冬姉が話をつけてくれたといっても、急に帰っていいってどういうことなんだ?そんなことを思っているといつの間にか学園の校門前に着いた。俺の疑問にどう答えたらいいか分からない監督官を見ていると、不意に声をかけられた。
『私が迎えに来たからだ』
その声に俺は迎えに来てくれた人を察した。そうか、みやこさんが来てくれたんだ。ああ良かった。少なくともこれで一安心。そう思い、俺は声を方を振り返ると
『今日は大変だったな一夏少年。じゃあ一緒に帰ろうか』
そこには白衣を着て自転車にまたがっている、顔だけがリアルな兎の珍妙な生物がいたのだった。
※安全性を考慮したフルフェイスのヘルメットです。