IS-理外の観察者   作:SINSOU

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3話

玄関で眩しい笑顔の一夏少年を前に、私は空腹も相まって内心げんなりしていた。

かといって、「帰れ」と言ってその笑顔を曇らせる方が、私にとっては苦痛だ。

 

「まだ私は朝食を食べていないんだが・・・とりあえず上がり給え」

「お邪魔します!」

 

多少の溜息を吐きつつも、私は一夏を家に上がらせた。

とりあえず、一夏少年にオレンジジュースを入れたコップを渡し、

私が食べ終わるまで待ってもらう。

冷めてしまった朝食を口に運びつつ、私は目の前の一夏少年に目を運ぶ。

渡されたオレンジジュースを飲みながら、彼は私を笑顔で見ていた。

家出少年一夏の出会いから、彼がこうして私の家に訪れるようになったのだ。

 

 

彼を拾った一夜に関しては、私は嫌でも記憶に残っている。

 

 

一夏少年を家に招いた後、私はすぐに織斑家への電話をした。

内容は、一夏の保護と一日の御泊り、そして翌日のお迎えだ。

出かけていたのか電話には誰も出ず、仕方がないので留守番に残す。

 

家に上がらせた一夏少年は居間に座らせ、

私は買ってきた材料で予定だった鍋の準備をした。

実家から持ってきた土鍋に、

白菜、人参、椎茸、豆腐、葱に鶏肉、鶏団子と、具材を入れて煮込む。

食器は、自分用の器に箸を用意し、彼には来客用を渡す。

大体煮込んだと思った鍋を居間に持っていき、食事にすることにした。

 

「さぁ、食べようか」

「・・・いただきます」

 

警戒か、それとも家族以外の食事に戸惑ったのか、始めは躊躇していた一夏少年だが、

食欲には勝てなかったのか、次第に箸が進みだした。

その必死な姿に私は何も言わず、自分も箸を動かした。食材が消えるの早いよ。

そんな真剣勝負の食事を終えた後、食器を片づけようとしたら、

彼が進んで洗い場に持っていき、食器を洗ってくれた。

曰く、「お世話になるのに、自分だけ何もしないのは嫌だから」だそうだ。

 

食事を終えた後、私と一夏少年は居間で時間を過ごす。

彼は何も言わずこちらを見つめ、私はそれに気づきつつも本を読む。

そんな無言の空間に耐えきれなかったか、一夏少年が口を開いた。

 

「何も、聞かないんですね」

「言いたくない事を聞く気もないからね」

「どうして俺を助けたんですか」

「見捨てたら、私が嫌になるからだ」

「変な人ですね」

「自分でもどうしようないがね」

 

そんな言葉を交わす内に、一夏少年は語りだした。

 

彼には両親がおらず、年が上の姉がいるだけで、

親のいない自分を必死に育ててくれているらしい。

その姉は何をしても優秀で、彼も誇りに思っている。

しかし、それ故にトラブルは起きるようで、

姉を信奉した人間等に、一夏少年はばれないように暴行を受けていたようだ。

そんな中でも、彼は姉を心配かけまいと耐え抜いた。また、決して負けないことを決めたようだ。

 

だが、それでも限界はやってくる。

 

彼の姉は、お金を稼ぐために終始バイトをしていたようで、家に帰るのは夜中。

当然、一夏少年は一人で夕食を食べ、姉が帰る前に寝てしまう。

会話は朝の食事だけで、それはお世辞にも会話とは言えなかったという。

そんな生活を続けた結果、彼の心に淀みが生まれる。

 

「自分のせいで姉が苦しんでいる」「姉のせいで自分は虐められる」

「自分がいるから姉は苦しむんじゃないか?」「姉がいるから自分は苦しむじゃないか?」

「俺は姉に助けられる人間じゃない」「姉は皆に言われるような人間じゃない」

「俺なんか・・・!」「姉なんて・・・!」

 

結果、一夏少年の心は爆発し、自分への情けなさと、姉への憎しみで家を飛び出したという。

その後、気がついたら公園にいて、私に拾われたということだ。

 

全てを話し終えた一夏少年は、私の言葉を待つ。

だが、私にはそれについて何も言えない。なぜなら、それは彼の答にならないからだ。

故に、私はこう言った。

 

「君はこれからどうしたいの?」

 

私の言葉に、彼は終始黙っていたが、吐くようにつぶやいた。

 

「俺、どうしたらいいか判らないんです。

 俺は千冬姉を誇りに思ってる。でも、一方で千冬姉を憎んでる!

 どうしようもないんです!

 だから俺、千冬姉と一緒にいる資格なんて無いと思う、でも、千冬姉と別れるのは嫌だ!

 本当にぐっちゃぐちゃになって、わけわからなくて・・・」

 

頭を抱えて叫ぶ一夏少年に、私はもう一つ聞いた。

 

「その思いを、君はお姉さんには言ったのか?」

「言えるわけ・・・ないじゃないですか」

「そうか、君は馬鹿だ」

「え・・・?」

 

私の言葉に彼は呆けた顔になるが、気にせず私は続けた。

 

「人間、例え家族だろうと、仲良し子良しは難しい。なぜなら相手の心なんて解らないからだ。

 もちろん、家族なんて!と否定するわけじゃない。

 だが、生きているならば、例え仲良しでも、家族でも憎しみを持つなんて普通だ。

 別に、姉をちょっと嫌いになっても仕方がない事だよ。それに、」

 

「いくら姉に心配をかけまいと耐えたところで、君の姉は気付かない。

 なぜなら、君が話さないからだ。いくら耐えても、我慢しても、君の姉はそれを知らない。

 それで君が壊れてしまったら、君の自業自得だ。

 そして君の姉は自分を責め続けるだろう。どうして気付いてやれなかったのか、と」

 

「だから、もう耐えるのは止め給え、そして君の想いを姉にぶつけたらどうだい。

 それで喧嘩になって別れても、私にとっては君が壊れるよりかはましだ。

 まぁそうなったら、私のところに来ると良い。一人増えたところで、部屋はまだある」

 

私の恥ずかしい説教まがいの言葉に、一夏少年は黙ったまま俯いた。

 

「すまん。すこし説教まがいなことをいった。一応、参考程度にしておいてくれ。

 とりあえず、隣の部屋に布団を敷いておくから、今はゆっくり休め」

 

そう言い残し、一夏少年を残し私は居間を後にした。

 

 

 

 

 

 

何を言ったんだ私はー!馬鹿かー!

 

私は部屋に戻った後、自分の行為に自己嫌悪になった。

何故、人の家庭問題に説教まがいなことをしたんだ!大きなお世話というものじゃないか!

私の行為は言うならば、家庭の事情を聞いただけで、

勝手に自分の考えを押し付けてくる奴と同じじゃないか。

ああ、彼は傷ついていないだろうか。気にしてなければ良いけど、駄目だよなー。

本当にどうしよう・・・。

 

そうして、ベッドの上で頭を抱えていると、家のチャイムが鳴った。

はて、新聞の集金は午前に来たし、牛乳配達はお昼に来た。

もしや泥棒か。いや、ならチャイムなんて鳴らさないよね。

そうした様々な思考を巡らせながら玄関に向かい、私は鍵を開けた。

 

 

 

 

 

 

すると目の前には、学校の制服を纏った女の子が木刀を携えて立っていた。

 

 

 

 

 

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