玄関を開けたら、木刀を携えた女学生がいた。
想像するとえらくシュールな光景だが、実際に自分の身に起こるとその考えは変わる。
なんと言うか、痛い。色んな意味で痛い。
目の前の女学生から放たれる殺気が痛い。
もう目なんて、私を射殺そうとするほどに鋭いのだ。
しかし、自分は目の前の少女に殺意を抱かれることは記憶にない。
なにせ、こっちに引っ越したのは少し前で、この家に住むのは今日からだ。
その間に、目の前の少女に出会ったことも、すれ違ったこともない。
なら、何でそんなに私を睨むんですか。
「おやおや、こんな夜中に珍客だ。押し入りならここにはお金はないよ」
「・・・・・・」
私の言葉に少女の目は更に細くなる。あら、冗談通じないわこの子。
「ふむ、黙ったままではこちらも困るんだが。この家に何か用かい?」
「・・・・・・弟を返せ」
少女の言葉に、私は合点がいった。
どうやらこの少女は一夏少年のお姉さんのようだ。
顔に目を移せば、なるほど、確かに顔立ちは一夏少年と似ている。
しかし、弟を返せとはどういうことだ。留守電に連絡を入れたんだが。
この様子だと、留守電を聞いていないようだ。
さて困った。私は約束を破るのは好きではない。
一夏少年に、今日はここで寝なさいと言った手前、
「お姉さんが来たから帰れ」と言いたくはない。
それに、さっきの一夏少年の話を聞いた後では、
今の一夏少年に彼女を合わせるのは非常にまずいだろう。
姉との関係に悩んでいる一夏少年に、野生の母熊の如く殺気塗れのお姉さん。
下手すれば、私の家で喧嘩を起こす。そうしたら私の家が壊れる。
「すまないが、今は君を一夏少年に会わせるわけにはいかないよ。
留守電に入れたが、彼は私の家で休むことになった。お迎えは明日にしておくれ」
ここは穏便に帰ってもらうことにしよう。
お姉さんも解ってく「一夏を、かえせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」れなかったよ。
絶叫にも似た声で、織斑姉は私に木刀を振り下ろした。
私は身体を左にずらし、振り下ろされた木刀を避ける。
風を切る音を耳にし、私は内心ビビる。当たったら痛いってレベルじゃない。折れる。
私が避けたことに織斑姉は一瞬顔を呆けるも、距離を取るためか、一気に後ろに跳ぶ。
私は、それを見ながら、ゆっくりと玄関をくぐって外に出る。
正直、どうしてこうなった、としか思えない。
家出少年を家で保護したら、少年の家族に殺されかけたのです。
明日迎えに来てって言ったのに、その対応はあんまりです。
ちょっと私は少し怒りました。
とりあえず正当防衛ってことで、おしりぺんぺんの刑にしちゃる。
とはいえ、家の中で暴れられるよりかはマシだが、外に連れ出されたことには正直辛い。
広くない家の庭だが、子供がヒット&アウェイするには十分な広さだ。
それに私は、あまり運動が得意ではない。
身体を動かすのは好きだが、運動能力はそこそこでしかない。
年齢の差にしても、運動万能らしい織斑姉と比べれば、
体力的にも、運動能力的にも、長時間の運動はきつい。それに、
「もう一人出てきなさいな。見てるんでしょ?」
感じるのだ。目の前の狼の他に、私を見ているもう一人の視線が。
「ちーちゃ~ん、この人すごいよ~。私のこと気付いちゃった~」
甘ったるい声が聞こえると、ちーちゃんと呼ばれた織斑姉の隣から、もう一人女学生が現れた。
腰までかかる程に長い、紫がかった髪を流し、
人を馬鹿にした・・・いや、そもそも私を認識してないだろう、澄んだ目をしていた。
「どういうことだ、束。お前の姿は見えないんじゃなかったのか」
「唯の馬鹿にはそうだよ~。でも、こいつは気が付いた。つまり、普通じゃないよ」
束と呼ばれた少女は、私を(モルモット的に)興味深そうに見つめてきた。
おい、普通じゃないってなんだ。私はれっきとした普通の人ですよ!
「私はこれでも普通の人間だよ、女学生さんら。
もう真夜中に差し掛かるのに、学生の夜遊びは厳禁では?」
「遊びじゃない。さっさと弟を返せ」
「じゃないと~、すっごい痛い目に合わせちゃうぞ~?」
「ほう、私に怪我をさせる気満々ね。これで正当防衛は成立かな」
私の言葉に、二人は細い目を更に細めた。あーあ、怒っちゃったよ。
そして彼女らは、私に向かって走り出した。