振り下ろされる木刀を左右に避け、薙ぎ払いを上体逸らしで躱す。
足払いは、跳躍で避けて距離を取ろうとするも、
跳躍中に一気に距離を詰められて効果なし。
うん、空気を斬る音が怖いです。あ、ちょっと髪が掠った。
先ほどから繰り出される攻撃に、私は最小限で必死に避ける。
織斑姉は怒りのせいか、殺気が駄々漏れな上、ちょっと大振りしております。
これは実戦ではダメなパターンです。
怒りで強くなるのは力だけで、故に力任せになって攻撃予測がしやすい。
だから助かっているんですけどね!
でも当たったら大けがなんで、どっちみち私は必死なんですよ!
先ほどから織斑姉の攻撃を避ける中、私はもう一人の少女を探す。
私の方に走ってきた織斑姉と束と呼ばれた少女だが、
途中で束という少女の姿が消え、今は織斑姉しか見えない。
だが、私には微かに視線を感じる。隙あらばこちらを狙う視線が。
戦いにおいて、数というのは馬鹿に出来ない。
ゲームみたいに、1000人を吹っ飛ばして真の〇〇無双だ!なんてのはそうそうありえない。
ゲームにしても、下手をすれば数に負けるのだ。
まして現実では、動けば体力は勝手に減り、回復アイテムなんて無い。
話を戻すが、1対2というのは厄介である。
なにせ、2人になれば役割分担が出来るからだ。
片方が攻め、もう片方がその隙を狙う。これだけで、相手は2人に気を配らなければならない。
故に見えているだけでもその威圧感は凄まじい。
ましてや、こっちは相手の姿が見えないのだ。いつ襲われるのか予測がつけられない。
そんな状況を、かれこれ数十分ほど繰り広げているので、
私の精神力と体力はほぼ空に近いです。
正直、今すぐお布団に入って寝たいです。多分、8時間は寝れると思う。
流石に織斑姉も体力を消耗したのか、動きに張りもなければ、キレもなくなっていた。
木刀を振る速さも遅くなり、一振りごとに肩で息をする。
それでも私を見る眼だけは、決して私を見逃さず、射殺すように輝かせている。
今この人、精神が野生に帰っているんじゃないでしょうか。
もはや私自身の体力もきついので、私は逃げるのを止め、カウンターを決めることにした。
狙うは織斑姉の右手が握っている木刀。それを手から離せば、彼女の攻撃手段はなくなる。
私は、ちょうど彼女が振り下ろしてきた木刀をギリギリで避け、
その勢いを利用し、木刀めがけて全力蹴りを放つ。
木の折れる鈍い音が聞こえ、織斑姉の右手に目を移せば、
木刀は持ち手を残して綺麗に吹き飛んでいた。
私は、呆然とする織斑姉に駈け寄り、お腹に拳をめり込ませる。
空気の塊が抜ける音を口から発しながら、織斑姉は倒れた。
やった!これで織斑姉は無力化できた!
この状態からして、この子はしばらくは動けそうにないだろう。
あとは隠れているもう一人を見つけないと。
そう思い、ふと気を許した瞬間、私は地面に崩れ落ちた。
あ・・・れ・・・身体が動か・・・な・・・い・・・?
私は急に動かない身体に戸惑い、目を動かして身体を見ると、両手足に針が刺さっていた。
「いや~すごかったよ~。まるでカンフー映画みたいな攻防戦!
怒り狂ったちーちゃんとまともに戦える人が存在していたなんてね~。
最後の蹴りなんて、束さんもびっくりしたよ~?」
耳に残る甘ったるい声が聞こえると、私の後ろから今まで姿を消していた少女が現れた。
少女の右手には、4本もの針が、月光を反射して光っていた。
「でも、気を許したのが運のつき~。束さん特製の麻酔針、威力は身を持って実証済み。
しばらくは動けないから、そこで無様に地面を這っててね~」
そう言うと束という少女は、倒れた織斑姉を抱き起し、
倒れた私を一瞥して、我が家に向かって行く。
おのれ!不意打ちとは卑怯なり!あと私の家に土足で入らないよね!?
土汚れって綺麗にするの大変なんだよ!?
そんな私の思いを知ってか知らずか、二人は私を尻目に歩き出す。
もはや興味もないという風に。
このままでは家が土足で汚れる上に、一夏少年との約束を破ってしまう。
両方とも、それは私にとって我慢ならない。
ならば私も『奥の手』を使わせてもらうからね!
私は神様から貰った特典を、一気に、全力で、稼働させる!
私は、麻酔針が刺さったまま音もなく立ち上がり、背を向けた二人に一気に走って突進。
私が動けたことに驚いたのか、少女束は目を見開いて動きを止める。
その数秒が唯一の避けられた時間を失くし、私に弾き飛ばされる少女束の右手から針を奪い、
地面に落ちた彼女に、彼女ご自慢の針を私がされたように両手足に突き刺す。
「な、なんで・・・?」
「大人って恐いのよ?お勉強になったわね」
今起こった事に理解が及ばず、ただただ混乱している少女に、私はそう呟いた。